2021年度の男性の育児休業取得率は、「令和3年度雇用均等基本調査」では13.97%と、9年連続で上昇し過去最高となっています。厚生労働省では、男性の育児休業取得の更なる推進を図るため、2022年10月1日から「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度を施行しました。また、産後パパ育休制度の申し出を円滑に行うようにするために、雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化を推奨しています。そこで今回は、寺島戦略社会保険労務士事務所代表の寺島有紀先生に、産後パパ育休の背景や企業側が講じなければならないポイントについて解説いただきました。


「産後パパ育休」制度の概要
2022年10月1日から「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が施行されましたが、実は育児休業法はここ数年で改正が頻繁に続いている、動きが早い法律です。産後パパ育休の前に、まず女性の育児休業制度をご紹介すると、女性は出産後8週間の産休の後に、お子さんが1歳の誕生日前日まで休業することができます。また、保育所に入所できないなどの場合は最長で2歳まで延長することができます。
一方、新たに設けられた産後パパ育休は、出産後8週間のうちに4週間まで育児休業を「2週間ずつ」2回に分けて分割して取得できる育児休業の仕組みです。産後パパ育休が施行される前も「パパ休暇」という女性の産後休業中に取得できる育児休業の仕組みはありましたが、分割取得などは認められておらず、今回の制度はより柔軟な取得が可能となった形です。なお産後パパ育休と称されているところからも、原則は男性が対象となりますが、女性であっても養子縁組を行うなど、産後休業を取得していない場合も対象になります。
産後パパ育休の大きな特徴として、労使協定の締結がある場合、産後パパ育休期間であっても定期的な就業が可能となります。つまり、産後パパ育休を取得しながら、月・水3時間ずつ働く…といったことも可能になります。通常の育児休業の場合、あくまで臨時的な事由に限りスポット的に可能という立て付けだったので、ここは大きな違いです。
仕事に大きなブランクを空けることなく、育児休業が取りやすい仕組みが産後パパ育休には用意されていることが分かります。
「産後パパ育休」が施行された背景
年々増加している男性の育児休業ですが、「令和3年度雇用均等基本調査」では、育児休業取得者が女性では85.1%に対して、男性は13.97%ととても低い数値となっています。また、データが少し古くなりますが、男女共同参画局が発表した「平成15年版男女共同参画白書(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h15/summary/danjo/html/honpen/chap01_00_03.html)」でも、当時の調査で日本の男性の取得率が0.42%に対し,ドイツ:2.4%、イギリス:約12%、アメリカ:13.9%と、欧米諸国と比べて日本の男性育児取得率は低い数値となっています。
男性の育児取得率が低いことに加え、内閣府男女共同参画局が2018年に発表した資料(https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_45/pdf/s1.pdf)によると、第1子出産を機に離職する割合は46.9%、第2子・第3子の出産で離職する割合も約2割となっています。労働人口の減少が日本の課題である以上、男性の育児参加率を高め、女性が育児のために離職することを防ぐ必要があります。諸外国と比較しても男性の育児休業の取得率が低いことが分かっているため、今後も育児休業法の改正は続いていくのではないでしょうか。
男性の育児休業取得に対する企業側の注意点
政府が法改正を行い積極的に男性の育児休業を推進しているため、これまで以上に男性従業員が育児休業を申し出るようになります。そのために、企業側としては受け入れ態勢を整えておく必要があるでしょう。また、制度を確実に利用できる環境整備や、従業員に対する制度の周知はもちろんですが、何よりも管理職の意識のアップデートが重要になります。若手世代では共働きや男性の育児休業は当たり前の認識ですが、若手の頃は男性が働き女性は専業主婦になるのが一般的だった50~60代の管理職にとっては、いまだ男性の育児休業に違和感を抱く方も少なくありません。企業としては制度として男性の育児休業を推進していても、現場レベルで意識のアップデートが不十分で、育児休業の取得を阻害されてしまっては本末転倒です。
2022年4月の育児介護休業法の法改正で、従業員または従業員の配偶者が妊娠・出産したことを知った場合、企業側は育休取得の意向確認を行うことが義務付けられました。そのため、以前よりも育児休業が取得しやすい法整備が進んではいますが、企業によっては、さらなる推進のために男性が育児休業を取得できる制度があることを研修などで徹底しているケースもあります。制度を利用できない場合、労務のトラブルに発展する可能性もあるので、マネジメント層の意識改革をしっかりと行っておくことが重要です。
育児休業制度を活用し、採用でのPRにする企業も
大手企業のみならず、若いスタートアップ・ベンチャー企業においても、育児と仕事の両立のしやすさをPRしているケースが多く見られます。中には、経営層が育児休業を取得して、従業員にも積極的に育児休業の取得を推進している企業もあります。中小企業やスタートアップ・ベンチャー企業にとって、従業員の賃金をアップするということは、ダイレクトに経営に響くため「なかなか実行しにくい」といった場合もあるかと思いますが、育児休業制度を取得しやすい環境に整えたり、より良い制度に拡充したりすることは、中小企業であっても実行しやすい人事施策です。
特に、知名度がなく採用に苦戦する企業では、育児休業制度の利用率や職場の受け入れ態勢などをPRすることで、ワークライフバランスを整えたい求職者に響くのではないでしょうか。ぜひ、育児休業制度をポジティブに活用していただければと思います。
最後に
男性の取得率が低い育児介護休業法ですが、制度自体はとても手厚いのが特徴です。状況によってはお子さんが2歳まで育児休業を取得することができて、その間は5割から6割程度になってしまいますが所得補償もあります。ただ、産後パパ育休に比べると、通常の育児休業は、休業中に定期的な就労を行うということは制度としてスタンダードにはなっていません。2歳まで育児休業が取得できる半面で、産休もプラスすると仕事の面では長期間のブランクが生じることになります。ブランクが長すぎると、復帰する気力が失われたり、「復帰できるのだろうか」と不安を抱えたりする可能性が高くなります。また、ITによる就労環境の変化が早くなっていることもあり、長期的なブランクは即戦力として活躍する機会が失われるリスクもあるでしょう。
そのため、個人的な見解になりますが、従業員・企業にとって、「長期で育児休業を取得した後にいきなり復帰する」というよりも、「育児休業中に週1度など、定期的に就労できる機会」があると、従業員にとっても職場にとっても復帰しやすい環境になりますし、即戦力としてすぐに活躍しやすい状態を作れると考えています。現在の育児介護休業法の通常の育児休業はそのような柔軟性はありませんが、今後、育児介護休業法の改正が重ねられる過程で、より企業で働く方が仕事にスムーズに復帰しやすいような制度が整備されていくことを期待しています。