HRテックとは?導入することで人事の仕事はどう変わるのか

近年、労務や採用管理、人材育成、人事評価など、デジタル化で人事業務を効率化する「HRテック」が注目されています。そもそもHRテックとはどのようなものなのか。利用するメリットや市場予測、効果的に活用するポイントについて、野村総合研究所の人事戦略コンサルタントである内藤琢磨氏に解説していただきました。

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内藤 琢磨(ないとう・たくま)さん
株式会社野村総合研究所 グローバル経営研究室 プリンシパル。2002年、野村総合研究所入社。国内大手グローバル企業の組織・人事領域に関する数多くのコンサルティング活動に従事。専門領域は人事・人材戦略、人事制度設計、グループ再編人事、タレントマネジメント、コーポレートガバナンス。主な著書・論文に『NRI流 変革実現力』(共著、中央経済社、2014年)、『「強くて小さい」グローバル本社のつくり方』(共著、野村総合研究所、2014年)、『デジタル時代の人材マネジメント』(編著、東洋経済新報社、2020年)、『ジョブ型人事で人を育てる』(編著、中央経済社、2022年)などがある。

HRテックとは何か

HRテック(Human Resources Technology)とは、デジタルを中心とするテクノロジーの活用によって人事業務の改善や効率化を図るソリューションを意味します。もしくは、そうした人事業務のIT化に関するサービスを提供するスタートアップ企業を、HRテックと表現することもあります。

HRテックの4つの領域と導入例

IT化の対象となる人事業務の領域としては、大きく分けて「人事労務」「採用活動」「人材育成」「人事評価」という4つが挙げられます。それぞれの領域別に、デジタル化によって人事業務が効率化された例を紹介します。

1.人事労務の効率化例

新型コロナウイルス感染防止対策による在宅勤務が浸透し、通勤定期を廃止して出社時の交通費を実費精算に切り替える企業が増えてきました。しかし、社員は出社時の交通費を精算する申請業務、人事は申請された交通費を仕分けして支給する処理業務が発生します。

そこで登場したのが、事前に登録した通勤経路であれば、通勤費として交通費を経費処理する機能を持つ会社専用のモバイルアプリです。乗車履歴データから通勤費とそれ以外の交通費を自動判別して経費システムに取り込んでくれるので、社員が都度申請する必要もなく、精算業務も効率化することができます。本人だけではなく経費承認者や事務担当者のチェックといった業務も省力化につながります。

その他にも、社員が結婚したり、子どもが生まれた際の届け出などの家族手当についても、スマートフォンやパソコンから会社の人事システムにアクセスして申請ができるなど、人事労務管理のデジタル化も進んでいます。

2.採用活動の効率化例

応募書類の一次選考はこれまで人事部や採用担当者が行うのが一般的でした。その選考作業の一部をAIに任せるというのも、HRテックの1つです。

あらかじめAIシステムに選考基準を機械学習させて、応募書類の一次スクリーニングをした上で、その後の書類選考は人が行うといった取り組みです。人手不足の解消や、なるべく多くの書類選考を行いたいといったニーズにも応えられるようになります。

3.人材育成の効率化例

ここまで紹介してきたデジタル化はわりと初期的な内容なので、すでに導入が進んでいる企業も多いと思います。少し難易度が高くなりますが、タレントマネジメントという概念を人材育成や人事配属に活用するHRテックもあります。

例えば社員が入社する場合、その配属先については、人事が本人の希望を聞いたり、人手が足りない部署の人材要件と照らし合わせたりして決めるのが一般的です。そのマッチングには、履歴書や採用面接における選考者の評価、あるいはSPIのような適性検査を活用する企業が多いと思います。

HRテックにおけるタレントマネジメント機能では社員のスキルや経験などの情報をデータとして一元管理して、戦略的に人事配属や人材育成に活かす仕組みが搭載されているケースがあります。例えば、ある部署で活躍している社員の入社時の行動特性や選考評価をAIに機械学習させて、新たに入社する人材の行動特性や選考評価との比較を行うことで、配属先の参考材料とするといった利用方法です。

大切なことはAIをはじめとしたテクノロジーに全てを依存するのではなく、人が行う判断や意思決定の科学的な裏付けとして活用するということです。

4.人事評価の効率化例

人事評価については、人によって評価ポイントがバラバラであったり、公平に評価できていなかったりといった課題が、どんな企業・組織でも一定程度存在します。評価基準を明確にし、評価に関するデータを同一組織内や同一ランク内で相対化して見える化し、評価結果を伝える時にどのようなフィードバックをしたらよいかのサンプルを自動表示するといった機能です。

また、今後のスキルアップのために受講すべき社内外研修のリコメンド機能などが搭載される評価システムなども登場しています。評価者の主観によるバラツキを極小化することと、評価を通じた上司部下間のコミュニケーションの質を向上させることで、タレントマネジメントや離職率低下などにもつながっていきます。

HRテックの市場規模は約500億円

コロナ禍などの社会変化やDX推進の影響により、国内のHRテック市場は急速に拡大してきました。矢野経済研究所の調査によると、現在のHRテック市場規模は約500億円、近年は年率で約10%の成長を続けています。

特に、人材情報管理や採用管理、目標管理、要員計画、報酬管理などの機能を提供するタレントマネジメントシステムについては、前年比22.1%増の約180億円を売り上げる成長を見せています。

現在もコロナ禍の影響でリモートワークの拡大が続くと見られており、デジタル化による人事の業務効率化やオンライン上での人事評価や人事育成、健康状態を把握する

タレントマネジメントシステムを導入する企業は増加すると見られています。

国内HCM(Human Capital Management:人材管理)ライセンス市場規模推移・予測

出典:株式会社矢野経済研究所「HCM市場動向に関する調査(2021年)」2021年5月26日発表注1.ライセンス売上高(エンドユーザー渡し価格ベース)とクラウドサービス売上高を合算して算出。ただし、コンサルティング・SI・保守サポートなどの関連売上高は含まない
注2.2021年度以降は予測値

HRテックを導入するメリットとは

採用系のHRテックで最も多く導入されているのは、採用候補者のエントリーシートや面談記録、選考日程などの採用プロセスを1つのアプリの中でできるシステムです。

採用は複数の採用担当者が面接をすることが一般的ですが、これまでは合否やその理由をEXCELや紙で管理していました。それが1つのアプリの中で完結することで、人事担当者は採用選考のコメントを面接終了後すぐに関係者間で共有化し、その結果採用候補者への連絡も迅速に行うことができるようになります。

定型業務や高度な選考の一部をAIに任せることで、人事担当者は競合他社に負けない採用戦略に取り組むことができるようになるわけです。こうした効率化がHRテックを活用する最大のメリットと言えるのではないでしょうか。

ピープルアナリティクスの発展が期待されるHRテックの未来

最初に紹介した4つのHRテック領域の中で、最も注目されているのは人材を育成して評価するタレントマネジメントです。そのタレントマネジメントの中でも一番発展する可能性を秘めているのが、ピープルアナリティクスという領域になります。

ピープルアナリティクスとは、社員の属性や行動データ等を収集・分析して組織が抱える課題を可視化し、人事施策の実行や意思決定に活かす手法です。人が人を評価することは非常に複雑で難しい領域なので、データとAIを活用することで課題を解決することが有望視されているのです。

一方で、課題もあります。例えば、「こういうスキルを持っている社員がこの仕事を担当すると上手くいった」というデータが蓄積されていったとします。しかし、その「上手くいった」基準や定義は、人や組織によって異なります。言い換えれば人が持っている倫理感や価値観なども含めて、「上手くいった」データには様々なバイアスも含まれていると言えます。そうしたデータをAIが機械学習していることを深く理解しておくことが必要となります。

ピープルアナリティクスが今後発展していく上においても、我々人間が様々なデータに対して倫理的にも良識的にも正しい判断をしていく必要があるということです。

AIやデータを有効活用しながらも、最終的には人材の適性や評価については人事部門や組織が良識的かつ慎重に行っていく。そうしたHRテックの活用が、人材管理や人材育成を成功させる鍵となるでしょう。

ライター:馬場 美由紀

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