産業医が明かす「会社を辞めたい」と相談される理由トップ5

これまでに1万人超のメンタルを救ってきた精神科医&メンタル産業医、井上智介先生。「会社を辞めたい」と悩みを相談されることも少なくないのだとか。どのような理由で相談されることが多いのか、また、その相談に対してどのようにアドバイスしているのか、ランキング形式でご紹介します。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)さん
メンタル産業医・精神科医。兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。著書には「職場のめんどくさい人から自分を守る心理学」「職場での自己肯定感がグーンと上がる大全」「子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本」など多数。

相談理由1位:職場の人間関係が良くない

もっとも多く相談を受けるのは、「職場の人間関係が良くない」ということですね。パワハラとはいかないまでも、上司からの高圧的な叱責がこわくて「会社に行きたくない」と悩む人は驚くほど多いです。

上司以外にも先輩や同僚、部下とのコミュニケーションがうまくとれずに悩む方もいます。会議や会社で顔を合わせるのが本当につらいと吐露する方、ストレスから体調を崩す方も少なくありません。

おすすめの対策:物理的な距離をとる

「まずは、その人とできるだけ物理的な距離をとることを心がけましょう」と伝えています。週1回でもいいから、在宅勤務を取り入れるようにするだけでも、全然違います。そして、できるだけ対面を避けて、接点を持たないようにすること。やりとりはメールやチャットだけにして、直接顔を合わせる機会を減らすようにアドバイスしています。

もし上司が原因であれば、その上司と相談者の間に誰かをはさんでクッションになってもらうなど、指示系統を変えてもらうこともよく提案しています。それすら難しい場合は、人事部門に部署を変更したいと、相談を入れることもあります。

実際にストレスから心身に症状が出ているようであれば、早めに病院に行って診断書をもらうことをお勧めしています。診断書があれば、人事部門も動きやすいからです。

相談理由2位:仕事が自分に合っていない

自分が考えていた仕事と実際の仕事にギャップがあり、この仕事は自分に合っていないと悩むケースも多いです。特にIT業界のビジネスパーソンに多いという印象を持っています。

例えば、プログラミングが好きで、IT企業でシステムエンジニアとして働くAさんは、自分のペースでコツコツと好きなプログラミングに向き合える仕事だと思って入社しました。しかし実際は、そのシステムを構築するために顧客や上司・チームメンバーと意見交換する必要がありました。

特にクライアント企業相手には、システムの仕様に加えて開発費用の交渉まで行わなくてはならず、高いコミュニケーションスキルが求められます。ものづくりの仕事だと思っていたのに、交渉や調整業務が想像以上に多く、自分に合っていないと感じたようです。

ほかにもIT業界では、「自分は開発の仕事に没頭したいのに、マネジメントの仕事を任される」といった悩みが寄せられることも少なくありません。

おすすめの対策:自分が我慢できるレベルの業務にしてもらう

Aさんのような相談者に対しては、すぐに転職を検討するのではなく、自分には合わないと感じている業務内容について、上司や人事に相談してもらうことを提案しています。

その結果、現在のポジションや待遇が変わってしまうなど、100%希望通りにいかないこともあるかもしれませんが、「自分がどこまで我慢できるのかを考える機会とするのも悪くないのでは?」という話をします。

新しいポジションや役割、待遇などをいったん受け入れた上で、自分が我慢できないレベルなのであれば、それ以上は無理せず転職を考えてみてはどうかとお勧めしています。

相談理由3位:仕事にやりがいが感じられない

「仕事にやりがいが感じられないから、そろそろ辞めたい」という相談も結構あります。もっとやりがいのある仕事ができる会社に転職したいから、辞めたいという人は意外と多いですね。

与えられた仕事はこなしているけれど、仕事の工夫や面白みなんて考える暇もなく、ただ言われたことをやっているだけ。自分が歯車の一つのように感じ、やりがいを感じられないというのです。

おすすめの対策:1年後の自分を想像する

やりがいを感じながら仕事ができている人は、世の中にそれほど多くないと思います。ある程度妥協しながら仕事をしている人のほうが多いのではないでしょうか。

やりたい仕事が別にあるならば、もちろん転職する選択肢もありだと思います。ただ、明確にやりたい仕事がないのであれば、「1年後、自分はどうなっていたいのか」を想像してもらうようにしています。

1年後の自分を考えるだけでも、今の仕事との向き合い方が変わってきます。「こうなっていたい」と目指す姿を設定することで、今やっておくべきことに気づけ、ひとつのモチベーションになるでしょう。

仕事以外の好きなことに没頭したり、家族との時間を楽しんだりするのも有効です。仕事はそこそこにして、それ以外のところを充実させるのも素敵な人生じゃないか、というアドバイスをすることもありますね。

相談理由4位:残業や休日出勤が多い

毎日終電まで残業している、休日出勤が多いなど、時間外労働が多いことも会社を辞めたくなる理由の上位に挙がります。

テレワークの浸透によって、自宅やカフェなど社外でも仕事ができる環境が整ってきたことで、いつでもどこでも仕事ができてしまう。一方で、働き方改革による残業時間上限や時間外労働に厳しく対応する企業が増えてきました。ただ仕事はあるので、ばれないようにサービス残業してしまうケースも増加しています。

時間外労働が増えているのに残業代は請求できない、労働時間が長いことで体調を崩したりストレスがたまってつらい、などの理由で、辞めたいと考える人が増えているのです。

おすすめの対策:「時間外労働はしない」社風をつくる

解決法としてお勧めなのは、管理職やマネージャー的な立場の人が定時以降は仕事をしないこと。「残業時間が長い=仕事ができる人」と見なすひと昔の風潮をなくし、時間外労働をしない社風をつくることですね。

メールの署名欄に「18時以降の依頼は翌営業日対応になります」とか「社内連絡への対応は20時までとさせていただいています」と書かれている人を時折見ますが、最初から明文化するというのは、とてもいい対策だと思います。

繁忙期や人手不足でどうしても残業続きになってしまう場合は、ノー残業デーを無理やりにでも作ることをお勧めしています。「ノー残業デーがあるから頑張れる」というモチベーションに繋がるからです。例えば誕生日休暇など、ご褒美的な休みを作ることも、モチベーションに繋がると思います。

相談理由5位:正当な評価をされない

正当な評価をされないことで、辞めたいと考える人も多いですね。例えば、コールセンターの電話オペレータの方から相談されたのは、ほかの人よりも問い合わせの電話を取る回数が多いのに全く評価されないということでした。

上司からのフィードバックは「もっと自分の問題点や課題を見つけて、積極的に取り組んでください」といった、仕事の態度のことばかり。業務への向き合い方や成果については、正当に評価されることはなかったといいます。

さらに話を聞いてみると、相談者の上司に対する挨拶がそっけなかったことなど、上司の主観で相談者の評価が下がっていたそうです。もちろん、相談者側にも何らかの落ち度があったかもしれませんが、評価基準が明確ではなかったことで不平不満が生まれてしまっていました。

この例のように、評価基準が明確でない、主観による評価体制であるなど、成果に対して正当な評価が行われていないケースは少なくないようです。

おすすめの対策:評価基準を明確にするおすすめの対処法

評価する側・される側ともに、評価基準を明確にしておくことが重要です。頑張っているから、気に入っているからといった主観が評価に影響を与えるのは良くないことだと思います。

例えば、仕事で達成する目標に対してKPIを設定する、数値化が可能な業務成果は数値化することで評価を明確にする、上司とメンバーのコミュニケーションの質を高めどれだけキャリアやスキルに成長があったのかを評価する、評価の結果をきちんとフィードバックする…などの取り組みが重要だと考えます。

ライター:馬場 美由紀

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