人材採用、定着、育成などに関する、人事担当者のさまざまなお悩み。人事歴20年以上、人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所社長の曽和利光さんがお答えします。

(相談内容)
企業口コミサイトに悪い口コミを投稿されて困っています。根も葉もないブラックな口コミもあり、求職者に悪いイメージを持たれてしまわないか心配です。どのように対処すればいいのでしょうか?
まずは口コミの全容を把握することから始めよう
口コミサイトの多くは、すでに退職した元社員など、「その会社に対してひとこと言ってやりたい人」が投稿しています。その会社が好きな人、商品やサービスに満足している人はまず書き込みません。したがって、悪い口コミばかりが書き込まれるのは当然のこと。しかも、必要以上に誇張されて書かれるのも、ある意味仕方のないことです。
悪い口コミを減らしたいのであれば、根本的な策は「会社そのものを良くする」しかありません。最近悪い口コミが増えたという企業は、ぜひ自社の問題点を顧みたうえで社内改革に取り組んでもらいたいものですが、ある程度の時間が必要であり、いま現在書かれている悪い口コミに対して即効性はありません。
目の前の口コミになるべく早く対応したい場合、まず行うべきは「悪い口コミを全て確認し、内容を把握する」こと。内容がわかれば、それに応じて対策を練ることができるからです。
悪い口コミは、「全くの誤解であり事実無根の口コミ」か「誇張はあるが言われても仕方のない(=身に覚えはある)口コミ」に二分されます。それぞれに対して、どのように対応すればいいのかご説明したいと思います。
事実無根の口コミであれば、ファクト情報をベースに否定する

人間関係のトラブルや仕事に対する不満を抱えて退職した元社員など、自社に対していいイメージを持っていない人の中には、残念ながら根も葉もないフェイクニュースを書いて留飲を下げる人もいます。
この場合は対応は簡単。ファクト情報を提示して、真っ向から反論すればいいだけのことです。もちろん、口コミサイトに書き込むのは悪手なので、自社の採用ホームページや求人広告などでファクトをアピールしましょう。
たとえば、「夜中まで残業させられ、皆疲れ切っている」と書かれたら、「平均残業時間は〇時間で、繁忙期でも△時間以内に収まっています」など、できれば数字を示しながら否定するといいでしょう。
悪い口コミを逆手に取るのも一つの方法です。例えば、採用ホームページにQ&A欄を作って「忙しくて残業も多いと聞いたのですが本当ですか?」など口コミを受けた質問を設け、それに対する回答として「当社は急成長中にあるのでそのように思われがちですが、実は平均残業時間は〇時間と比較的少なく、有給取得率も〇%と高水準です」などと実態を示せば、誤解は徐々に消えていくでしょう。
身に覚えがある口コミの場合は、改善しようとする姿勢を示す

誇張はされているものの、身に覚えはある口コミの場合は、問題意識を持って対処しようとしている姿勢を示すことが大切です。例えば、「夜中まで残業させられる」という口コミ。夜中まではいかないけれど残業時間はまだ多いので、反論し切れない…というケースもあるでしょう。
その場合は、2パターンの方法があります。
1つ目は、事実を受け止め、改善しようという姿勢を示すこと。よく「問題は、問題であると認識した時点で半分は解決している」などと言いますが、これは真理で、問題を認識し改善に動いているという事実は明るい未来を想像させます。自社ホームページなどで、「残業の多さを会社として問題であると認識していて、解消すべくこのような手を打っている」と発信することで、マイナスイメージを軽減することが可能です。
もう1つは、今すぐ改善するのは難しい場合、「そのネガティブな情報は事実である」と真っ向から受け止めること。そして、なぜこのような状態になっているのか、正当な理由を発信することです。
例えば、「この会社は給料が安い」という口コミを投稿され、実際に同業他社に比べて自社の給与水準が低いという事実があったとします。正当な理由があり今すぐ改善できない(するつもりはない)のであれば、背景とともに理由を説明しましょう。
例えば、「当社は社員が全員定時で帰れるよう、社員を多めに配置して適切な業務量になるように調整している。人件費がかさみ、かつ残業代があまり入らない分、同業他社に比べるとやや給与水準が低くなっているのは事実」など。
その際、事実を伝えるだけでなく、トレードオフになるような情報も併せて伝えるといいでしょう。例えば、スキルアップのための研修制度が充実している、最新鋭の情報機器を取り入れている、さまざまなITツールを導入しリモートワークの体制が整備されている…など。このように発信すれば、「給与水準は多少低くても、環境が整備されていて快適に働けそうだからこの会社がいい」と応募してくる人も出てくる可能性があります。
いずれも、ホームページや求人広告などで発信するほか、求人に応募してきた求職者にも別途説明する時間を設けるといいでしょう。自社の問題点を把握し、対応しようとする姿は好印象を与えますし、事実を伝えるだけでも入社後のリアリティ・ショック(理想と現実との間にギャップを覚え、モチベーションが低下する状態)を軽減することができます。そして、会社の現状を理解したうえで入社してくれる人は、組織へのコミットメントが高くなる傾向にもあります。ぜひ、悪い口コミに対して必要以上に腹を立てたり、ネガティブに捉えすぎたりせず、プラスに活かす方法を考えてみてほしいですね。