会社を辞めて転職活動をする場合、必ずしもすぐに転職先が見つけられるとは限りません。そのようなときに、失業保険は当面の生活を支える心強い味方です。ただ、すべての人に支給されるものではなく、手続きなどやらなければならないこともあります。会社を辞めたのが初めてであれば戸惑う場面も多いでしょう。そこで、失業保険を受給するための条件や手続きなどについて解説するほか、失業保険の「よくある質問」も紹介します。


目次
失業保険を受け取れるのはどんな人?
失業保険(雇用保険の基本手当のこと。以下皆さんが馴染みのある「失業保険」と表現します。)の手続きを調べる前に、まずは失業保険を受給できる条件を満たしているかどうかを確認しましょう。雇用保険制度に加入しているからといって受給条件を満たしているとは限らないからです。ここでは、失業保険の受給条件について解説します。
失業状態である
失業保険の受給をするためには、失業中という条件が前提になります。失業中とは、単に仕事を辞めて無職状態になっていることではありません。あくまでも「転職をする意思と能力があるにもかかわらず、仕事が見つかっていない」「転職先を探し中である」という状態です。つまり、失業保険に入っていたとしても学業に専念したり、家業手伝いをしたりという場合は失業保険の受給対象外になります。
また、退職後に転職先がすでに決まっており、仕事を探していない人も対象外です。ほかにも、自営業や何らかの企業の役員になる予定があるケースも対象外ですので、失業保険の受給はできません。病気・怪我で働ける状況にない人も失業保険の受給対象外です。ただ、ハローワークで受給期間の延長手続きを行っておけば最大3年間、働ける環境になったときに支給申請できます。ちなみに、自分の都合で退職をするのが自己都合退職、会社の都合による退職が会社都合退職です。
雇用保険に一定期間加入している
失業保険の受給条件は「離職の日以前の2年間のうち通算12ヶ月以上被保険者期間(雇用保険の被保険者であって、離職日から1ヶ月ごとに区切った期間に賃金支払いの基礎となった日が11日以上又は賃金の支払いの基礎となった時間が80時間以上ある月)があること」です。例外として、会社都合で退職しなければならなかった人が挙げられます。会社都合とは倒産やリストラ、解雇などです。そのようなケースでは条件が緩和されて、1年間で通算6ヶ月以上の被保険者期間でよいことになっています。自己都合による退職も怪我や病気、身内の介護、出産などの正当な理由がある場合に限り、会社都合と同じように雇用保険の加入条件が半分(1年間で通算6ヶ月以上)になるので安心です。特別な事情・正当な理由については、ハローワークのホームページで「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」を確認しましょう。


失業保険の手続きで必要になる書類は?
失業保険の受給には離職票、マイナンバーカード、身元確認書類や写真2枚、本人名義のキャッシュカード(もしくは預金通帳)が必要です。離職票は「離職票-1」「離職票-2」があります。失業保険の振込をしてもらう銀行口座の指定ができるのが離職票-1、退職理由・退職前の給料支払い状況が分かるのが離職票-2です。どちらも会社から発行され、退職日から10日前後で郵送されてきます。
マイナンバーカードは個人番号の確認、身元確認書類として必要です。まだ作成していない場合は通知カードや個人番号が分かる住民票、運転免許証などを代用として持っていきましょう。写真は縦3cm×横2.4cmの証明写真、通帳やキャッシュカードは振込先として利用できない金融機関もあるため、あらかじめ確認しておくほうが安心です。郵便局の口座は振込先として指定できないため、ほかの口座を持っていない場合はあらかじめ新規で作っておきましょう。失業保険を受け取るためには求職活動をすることが条件なので求職申込書も必要ですが、こちらはハローワークで受け取れます。
失業保険を受け取るための4つの手続き
失業保険を受給するための書類を揃えた後は、実際にハローワークで手続きしましょう。ここでは、失業保険の手続きの流れを4つのステップに分けて解説します。各段階で受け取ったり、提出したりしなければならない書類についても確認をしてください。
ハローワークで求職の申し込みをする
最初に行うことは住民票がある地域の管轄をしているハローワークで、求職の申し込み、離職票など必要書類の提出です。失業保険は働く意思があることが条件の1つになっているため、求職の申し込みをすることが必須になります。ほかには、失業状態の確認と雇用保険の加入期間の確認です。受給条件をクリアしていれば受給資格を得られ、失業保険の受給説明会について伝えられます。その際、雇用保険受給者のしおりを受け取ります。失業保険の受給資格を得てから通算7日間の待機期間があり、その後に受給できるようになります。
ただし、待機期間中にアルバイト・パートで収入を得ていると、その期間分だけ待機期間が延長されるので注意しましょう。できるだけ早く待機期間を終えるためには、通算7日間を過ぎるまでアルバイトやパートをしないでおくのも1つの方法です。
失業保険の受給説明会へ参加する
ハローワークで指示された日時に行われる失業保険の受給説明会に参加しましょう。説明会には受給資格者のしおり、筆記用具などを持っていきます。説明会で失業保険の受給について詳しい話を聞き、制度について理解を深めるのが目的です。また、一回目の失業認定日も知らされます。受給説明会終了後に、ハローワークから「雇用保険受給者証」「失業認定申告書」の2つを受け取ります。
説明会に参加する際の服装は基本的には自由です。ただ、カジュアルすぎる服装は避けたほうがよいでしょう。再就職にもつながるものであると考え、オフィスカジュアルのような服装をイメージすると分かりやすいかもしれません。セミフォーマルなパンツ・スカート、上はYシャツ・ブラウス、季節によってはジャケットをプラスするとより良いです。どのようなものがよいかわからないときは、ハローワークの職員に具体的にどのような服装がよいのかを質問すると教えてくれます。
失業認定を行う
失業認定日になると再度ハローワークで失業認定を受ける必要があります。基本的に、1回目の失業認定日は説明会から3~4週間後です。失業認定の条件として、認定日が来る前に原則2回以上の求職活動をしなければなりません。求職活動として認められるのは求人に応募する以外にも、ハローワークでの職業相談、求職活動セミナーへの参加などが挙げられます。インターネット上でも求人情報の閲覧ができますが、求職活動としては認められません。失業認定をされるには求職活動が必須ですが、公共職業訓練の受講期間中、採用結果待ち期間は求職活動が不要となるケースもあります。
失業認定日には、失業認定申告書を記入して提出しなければなりません。その際に、失業認定をしてほしいからと、虚偽の申告をするのは避けましょう。失業保険を受け取りたいからと虚偽の申告をすると、それが原因で受給自体ができなくなる可能性があるからです。例えば、アルバイトをしていた期間や収入を隠す、本人と偽って他人に受けてもらう、怪我や病気の証明書を偽造するなどが挙げられます。アルバイトをしていた場合は収入や働いていた期間が分かる給与明細を持っていくのがおすすめです。
失業保険を受け取る
祝日・年末年始が間に挟まっていなければ、失業認定から1週間程度で失業保険が指定口座に振り込まれます。ただ、自己都合退職などの場合は給付制限があるため、振込は2~3ヶ月後です。失業保険は原則として4週間に1回のペースで認定日があるため、その都度、失業認定と受給の繰り返しになります。その合間には転職先を探さなければなりません。認定日と面接日が重なった場合などのように外せない用事があるときは、ハローワークに事前連絡をしたうえで状況に合った書類の提出をしましょう。
失業保険を受給中も条件をクリアしていればアルバイトをすることは可能です。条件とは、雇用契約期間が7日以上の場合であって、1週間の所定労働時間は20時間未満かつ週の就労日が4日未満、失業認定日にアルバイトをした勤務時間と収入額を報告するという3つです。報告の際には1日の勤務時間が4時間以上の場合は「就職または就労」として、4時間未満であっても収入を得た場合は内職や手伝いとして報告が必要です。収入額によって失業保険の受給額を減らされてしまう可能性があります。アルバイトをした日は報告した内容に応じて差し引かれた金額が給付され、差し引かれた分の支給は繰り越しになってしまうため、毎月の受給額に影響するので注意が必要です。
また、「雇用期間が31日以上」1週間で20時間以上の労働をすると雇用保険の加入条件を満たしていることになり、就職したという判断になりかねません。そのため、1日4時間以上の労働として、1週間で20時間以下になるように調整する必要があります。


失業保険でよくあるQ&A
失業保険の受給条件や手続きなどについて解説してきましたが、具体的な支給の金額・期間を知りたい人もいるのではないでしょうか。ここでは、失業保険でよくある質問について紹介します。
金額は一日いくら支給されるの?
失業保険で1日あたりに支給される金額は、基本手当日額といいます。基本手当日額は「賃金日額(退職6ヶ月前の給料の総額÷180)×給付率(0.5~0.8*ただし60歳~64歳は0.45~0.8)」で計算可能です。計算時には残業代は含めますが、ボーナスは含めません。給付率は、支給されていた給料の額が低いほど高くなります。また、基本手当日額の下限は2125円です。上限は年齢区分によって異なり、離職時の年齢が29歳以下は6835円、30~44歳までが7595円、45~59歳が8355円、60~64歳までが7177円です。失業保険で支給される1回あたりの金額は、退職前の月給の4.5~8割程度と考えておきましょう。
何日分もらえるの?
失業保険はあくまでも日数限定で受給できるものであり、給付を受けられる日数は決められています。受給できる日数を「所定給付日数」といい、退職理由や失業保険の加入期間、退職時の年齢によって異なるものです。例えば、自己都合での退職、10年以上20年未満の加入期間という条件の場合では所定給付日数は120日となっています。自己都合退職の場合は年齢による違いはなく、失業保険の加入期間次第です。加入期間が1年以上10年未満では90日、20年以上では150日受給できます。
倒産・解雇といった会社都合での退職のほうが、自己都合による退職よりも所定給付日数が長い傾向にあります。例えば、年齢が30歳未満、会社都合で失業保険の加入期間が10年以上20年未満だった場合は180日間の受給が可能です。会社都合での退職では加入期間によって90~330日間と幅広い所定給付日数となっています。障がい者など就職するのが困難な場合は雇用保険の加入期間1年未満で150日、1年以上では45歳未満が300日、45歳以上が360日です。
総額いくらもらえるの?
たとえば、月収28万円の27歳の人が雇用保険に5~10年加入していた場合、「168万(28万×6)÷180×0.5~0.8=4666~7466」で基本手当日額が約4666~7466円であることがわかります。29歳以下の基本手当日額の上限は6835円なので、約4666~6835円であると考えましょう。自己都合によって退職した場合で、雇用保険の加入期間が10年未満の場合は90日間支給されます。つまり、「4666~6835×90=41万9940~61万5150」となり、支給される失業保険の総額は41万9940~61万5150円です。1カ月を30日間で計算すると、毎月13万9980~20万5050円であることがわかります。
就職したら祝い金がもらえるの?
失業保険の給付残日数が一定以上残っている状態で就職できれば、特定条件をクリアしている人に再就職手当が支給されます。条件とは「就職できた時点での支給残日数が所定給付日数の3分の1以上」「再就職先が前職関連の会社ではない」「過去3年以内に再就職手当又は常用就職支度手当を受給していない」などです。支給できる期間が3分の1以上も残っているのは、短期間で就職できた証拠になります。失業保険の受給中に再就職が決まった時点でハローワークに報告、再就職手当が支給されるかどうかを確認しましょう。再就職手当を受給できるようであれば、再就職手当支給申請書に必要事項を記入し、手続きをします。
再就職手当で受給できる金額は、残っている失業保険の給付日数によって異なります。3分の2以上残っている場合で「基本手当日額×所定給付日数の残日数×0.7」、3分の1以上で「基本手当日額×所定給付日数の残日数×0.6」です。再就職手当は提出書類に何も問題がなければ、申請から約1ヶ月で振り込まれます。転職先で忙しい日々を送っているとつい手続きを忘れてしまいがちなので、早めにすませておくほうがおすすめです。
失業保険の正しい手続きを知り就職活動の金銭的負担を軽減しよう
失業保険は転職活動を進めるうえでの金銭的サポートになりますが、申請遅れや書類不備があると支給が遅くなる一方です。受給するためには、求職活動をきちんと行ったうえで失業認定を得ることも重要になります。手続きの際にはさまざまな書類や写真などが必要になるので、早めに用意しておくと無難です。今回は失業保険について詳しくまとめましたので、この記事を参考にしてスムーズに手続きをすませましょう。

この記事の監修者
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士。1987年生まれ、一橋大学商学部卒業。ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行なっている。
