官僚は昔から小説やテレビドラマでもよく描かれてきた職業の1つです。また、国会中継にも登場することがあるため、本物の官僚を目にすることも少なくありません。ところが、その実態については意外と知られていないのが実情です。ここでは、官僚を目指す人が知っておきたい仕事内容や年収、採用されるまでの流れといった基礎知識を徹底解説します。


目次
官僚とは
官僚とは?
官僚とは、国家公務員の中でも中央行政機関で各省庁に勤務する国家公務員を指して使われる用語です。中央行政機関とは、内閣府、総務省、外務省、法務省、国家公安委員会、警察庁、金融庁といった国家中枢を担う各省庁のことです。中央省庁は、国の政策や法律の策定などにも関わります。国家の行末を左右しかねない重大な役割であるため、官僚は高度な専門性を有する知識と強い責任感がないと務まりません。そのため、官僚になるには国家公務員の中でも最上位の試験に合格する必要があります。
官僚とキャリアは同じ?ノンキャリアとの違いについて
官僚のことを「キャリア」と呼ぶことがあります。官僚という用語を定義している法律などはないため、厳密な定義は存在しません。そのため、一般的な認識として「官僚=キャリア」と呼ばれることが多いようです。キャリアとは、「国家公務員採用総合職試験」に合格して中央省庁に採用された人を指す用語です。ほとんどの人が東大や京大などの国立大学か有名私大といった難関大学の出身者です。キャリアの対義語としてノンキャリアという用語を使うことがあります。略して「ノンキャリ」とも呼ばれるノンキャリアは、「国家公務員採用一般職試験」に合格して中央省庁に採用された人たちです。こちらは、より幅広い大学の卒業者や高卒者も含まれます。
キャリア・ノンキャリアともに、新人時代に与えられる役割に大きな違いはありません。ただし、その後の役割に関しては、大きな差が生じることになります。キャリアは幹部候補のため国の政策に関する役割が与えられ、経験を積むに従って大きなプロジェクトの中心的なメンバーに抜擢されたり、政策や法律の策定などにも関与したりします。また、政府に近いポジションに起用されることも少なくありません。一方のノンキャリアの多くは法律の執行やルーティンワークが主な仕事で、政策や法律の策定に直接関与することはほぼありません。そのため、一般的にキャリアのほうが出世しやすくなっています。


官僚の仕事内容
次に、官僚の仕事内容について解説します。意外と知られていない官僚の仕事内容ですが、主な業務は国の予算案や法案の作成と国家公務員の人事です。ここでご紹介する官僚が作成した予算案や法案に基づいて国会で議論が行われ、国のさまざまな政策や法律が決定され、施行されます。そのため、政府を舞台裏で支える裏方としての役割が官僚の仕事であるともいえます。
予算案の作成
1年間における国の歳入と歳出のことを国家予算と呼びます。官僚の仕事内容の1つが、この国家予算の原案の作成です。国家予算の原案は、次のような流れで作成されます。まず、内閣が予算編成の基本方針を決定したうえで、(1)財務省が各省庁に予算の上限を設定して伝達し、(2)各省庁が示された上限額に基づいて概算要求書(見積もり)を作成して提出、(3)財務省が各省庁の提出した概算要求書の金額や内容を審査したうえで、国家予算の原案を決定し内閣に報告。つまり、(1)と(3)が財務官僚の主な仕事内容で、(2)が各省庁の官僚の主な仕事内容となります。
法案の作成
各省庁では、新しい法律の制定や既存の法律の改正・廃止の方針が決定されると法案の作成に入ります。法律を制定するのは立法機関である国会の仕事ですが、そのベースとなる法案の作成を主に担うのは各省庁の官僚です。法案の作成では、まず各省庁の官僚がその元になる原案を作成することから始まります。当原案を基に関係省庁との意見調整を行ったうえで、審議会への諮問や公聴会の意見聴取が必要な場合は、その手続きを行います。その後、法案提出の見通しをつけたうえで法文化の作業を終えれば、法案の原案作成は完了です。
完成した原案は、内閣法制局に提出して審査を受けます。審査内容は、「憲法や他の現行法制との関係」「立法内容の法的な妥当性」「法文に記された立案の意図の正確性」「条文の表現や配列などの構成」「用字・用語の誤りの有無」の5点です。審査をパスすれば内閣で閣議決定が行われ、法案として国会に提出されます。両議院に提出された法案は議長によって適当な委員会に付託され、国会による審査に入ります。審査といっても、行われるのは委員会による質疑と討論です。その後、本会議での審議へと移行し、両議院で議決されると法律として成立します。
このように、法案の作成には多くの手間といくつもの段階を経る必要がありますが、その根幹を担っているのが各省庁の官僚ということになります。なお、例外的に国会議員が法案を作成することがありますが、この場合は上記のプロセスを経る必要はありません。
国家公務員の人事
官僚のもう1つの重要な仕事内容が人事です。各省庁の官僚は、事務次官や官房長、秘書課長といった国家公務員の人事も担います。また、官僚を退職後の天下り先の確保も担っているとされています。天下りとは、官僚を退職後に勤務していた省庁と関係の深い企業や団体などに就職したうえで、高いポストに就くことです。天下りに関しては、国家公務員法によって「離職後2年間、離職前5年間に在職していた国の機関と密接な関係のある営利企業の地位への再就職」が原則禁止されています。また、「他の職員や職員OBの情報提供や再就職依頼」「在職中の利害関係企業などへの求職」「離職後2年間の職員OBによる口利き」も禁止です。


官僚の勤務先とは?
多くの官僚は東京都千代田区にある「霞が関」で働いています。その理由は、官僚の勤務先のほとんどが中央行政機関だからです。当機関の本省と本庁の建物のほとんどが霞が関に集結しているため、多くの官僚は自ずと当地域で働くことになります。なお、「霞が関=官僚」というイメージを抱く人は少なくありませんが、日本の官僚界を「霞が関」と呼ぶこともあることから、あながち間違ったイメージではないでしょう。
官僚の年収
気になる官僚の年収は役職によって大きく異なります。官僚の主な役職は、「一般職員」「課長補佐」「課長」「審議官」「局長」「事務次官」の6つです。「局長」以上は高級官僚とも呼ばれます。年収は「一般職員」が400万〜500万円、「課長補佐」が750万円程度、「課長」になると1100万〜1400万円に跳ね上がり、「審議官」が1500万〜1800万円、「局長」が1800万〜2000万円、最高位の「事務次官」になると2500万円程度が保証されます。このように列記すると高給取りのように見えますが、官僚の年収は同程度の学歴を持つ大手企業の社員と比べて決して高くありません。しかも、多くの官僚から聞こえてくるのは「激務である」「残業代がつきにくい」「ノンキャリアは出世しにくい」といった声です。
官僚が激務である主な原因はその忙しさにあります。例えば、国会での大臣の答弁書は各省庁の官僚が作成しています。官僚は能力が高いので答弁書の作成自体は難しい仕事ではありません。問題なのは、答弁の質問が官僚に届くのが前日であるケースが少なくないことです。いくら能力が高くても、わずか1日程度で正確な答弁書を作成するのは簡単ではありません。しかも、官僚は他にも多くの仕事を抱えています。普段から忙しいうえに、国会会期中はさらなる激務を求められるのが官僚の世界なのです。このように激務でありながら、残業代がつきにくいのも官僚の特徴です。
その理由は、国家公務員の残業に対する特殊な解釈にあります。各省庁には部署ごとに設定された残業代の上限があり、それを超えると「残業命令がなかった」ことにされ、残業代がつかないことがあります。国家公務員は、意外にもサービス残業が横行している世界なのです。また、ノンキャリアはキャリアと比べて出世がしにくい傾向にあります。ノンキャリアから事務次官級のポストに出世した例もありますが、そういった人はまれです。学歴社会の霞が関では、ノンキャリアがキャリア並みの出世を果たすのは簡単なことではありません。一般的には「ノンキャリは課長までが限界」とも言われています。激務で残業代がつきにくくてノンキャリアは出世も難しいため、官僚は「割に合わない職業である」という意見も少なくないのが現状です。


官僚になるまでの流れ
官僚になるには、国家公務員試験に合格したうえで省庁に採用される必要があります。ここでは、キャリアになるための試験を受けて採用されるまでの流れを解説します。
1.国家公務員試験に合格する
キャリアになるためには「国家公務員採用総合職試験」に合格する必要があります。一般的な「大卒程度試験」は「政策の企画、立案、調査、研究に関する事務を職務とする係員」の採用試験です。なお、「大卒程度試験」は、(1)「政治・国際、法律、経済、人間科学、工学、数理科学・物理・地球科学、化学・生物・薬学、農業科学・水産、農業農村工学、森林・自然環境」と、(2)「教養」に分かれています。また、当試験は1次試験と2次試験の2段階で行われます。(1)の1次試験で行われるのは、多肢選択式の基礎能力試験と専門試験です。基礎能力試験は国家公務員に必要な基礎的な能力を問う試験で、専門試験は各試験の区分ごとの専門知識が問われます。2次試験では各試験の区分ごとの専門知識を問う記述式試験のほか、政策論文試験と個別面談方式の人物試験が行われます。
一方の(2)の1次試験で行われるのは多肢選択式の基礎能力試験と記述式の総合論文試験です。2次試験では小論文、口述式の企画提案試験、政策課題討議試験、個別面談方式の人物試験が行われます。なお、「国家公務員採用総合職試験」は四年制大学の卒業者か卒業見込みの者であれば受験できるため、大学名を問われることはありません。ただし、前項目でも記したように、キャリアとして省庁に採用されている人のほとんどは、東大や京大などの国立大学か有名私大といった難関校と呼ばれる大学の出身者です。そのため、公務員試験の中でも最も合格が困難な試験であることを覚悟しておく必要があります。
2.希望省庁へ訪問し、採用される
「国家公務員採用総合職試験」に合格した人は、希望する省庁への「官庁訪問」を経て採用されるのが一般的な流れです。官庁訪問というのはいわゆる面接のことで、指定の時間に当該省庁に出向いて担当者の質問に答えます。そこで官僚としての適性や人間性などの見極めが行われ、合格基準に達していれば採用が決定します。


官僚と政治家の違いについて
予算案や法案を作成したり大臣の答弁書を作成したりしていることから、官僚と政治家(国会議員)の違いについては分かりにくい部分が少なくありません。誰もが理解しやすいのは、官僚は国家公務員試験や官庁訪問での面接に合格して採用されているのに対して、政治家は国政選挙に当選しているという違いです。両者ともに日本という国の骨組みに直接関与する役割を担いながら、その関わり方には大きな違いがあります。政治家が表舞台に立つ役割を担うのに対して、官僚は縁の下の力持ち的な立ち位置で、裏方に徹する職業です。また、官僚は国家公務員法が適用される公務員ですが、特別公務員の政治家には国家公務員法が適用されません。
さらに、官僚は政治に関する専門知識を活かして実務的な役割を担いますが、政治家は選挙などを通じて国民に政策を提示し、評価を受けたうえで議論を重ねて実行するのが主な役割です。政治家には任期がある点も官僚とはまったく違います。政治家の任期は衆議院が4年で、参議院が6年と日本国憲法で規定されています。そのため、4年後や6年後に落選したり、内閣が代わって大臣を辞めたりする可能性がある政治家よりも、官僚は国家的な仕事に継続的・長期的に関わることができます。定年まで勤めるとしたら、60〜62歳まで官僚として働けます。このようなことから見ても、官僚は政治家よりも安定した仕事であるといえます。
官僚とは国家公務員のエリート。条件を正しく見極めることが大事
官僚は、国家公務員の中でも最高位にあるエリートです。地方公務員よりも高い年収は得られますが、その分だけ激務であることを覚悟しておく必要があります。また、ノンキャリアはキャリアよりも採用基準が低い分だけ出世が難しいのが実情です。なお、官僚は他の職業と比べて年収が突出して高いわけではありません。そのため、官僚になることを考えているのなら、自分が何を求めているのかを吟味したうえで挑戦することが大切です。
