退職理由として「一身上の都合」は代表的なものです。実際、テンプレートとして使うことが多いですが、その意味や使い方を理解している人はどれくらいいるでしょうか。こちらの文言を使わないほうがよい場合もあります。また、転職時の面接で追及されることもあるので注意が必要です。本記事では、意外と知らない「一身上の都合」の意味や正しい使い方、使用時の注意点、転職面接で問われたときの対処法などについて解説します。


目次
「一身上の都合」とは何のこと?
勤務先企業を退職したい場合は、書面で意思表示する必要があります。その際に使われることが多く、定型文とのイメージも強いのが「一身上の都合」です。また、こちらの文言にしておくと当たり障りがないと考える人もいるでしょう。この段落では「一身上の都合」について、その意味や使われる理由について解説していきます。
「一身上の都合」の意味
「一身上の都合」には、自分や近しい家族の身の上の事情という意味があります。わかりやすく言えば「個人的な都合」です。具体的なものとして、病気やケガ、結婚といった自分自身の理由のほか、家族の介護なども含まれます。また、転職のために退職したい場合も「一身上の都合」を使います。このように「一身上の都合」にはいろいろなケースがありますが、いずれもプライベートな事情での退職が該当します。
「一身上の都合」と類似する言葉には「自己都合」「私事」があり、これらのほうが慣れているかもしれません。ほかには「個人の事情」「家庭の都合」といった文言も知られています。しかし、ビジネスの場でのフォーマルな言い方としては「一身上の都合」が一般的です。また、こちらの表現にしたほうが無難といえるでしょう。
「一身上の都合」が使われる理由
前述したように、退職理由には「個人の事情」「家庭の都合」など、プライベートに踏み込んだ表現方法もあります。いずれの理由で退職する場合も個人的な事情には変わりません。しかし、「一身上の都合」という文言にはさまざまな事情が含まれているため、汎用性が高いというメリットがあります。また、こちらの言葉を使うことで、退職理由を細かく説明しなくても済むのです。しかも「一身上の都合」はプライベートな内容を示唆しているので、スムーズな退職にもつながります。
退職の意思を伝えると、当然、勤務先から理由を問われます。そのうえで、引き留めにあうことも少なくありません。しかし「一身上の都合」の表現を貫くことで、周囲の人はそれ以上追求しにくくなります。また、プライベートな部分なので、あえて話す必要はないのです。なかには、退職理由を言いたくない人もいるでしょう。このような場合「一身上の都合」を使うことで自分の本音を隠すことにも役立ちます。
退職に際しては理由を正直に話すのも一案ですが、必ずしも得策とはいえません。人間関係に悩んで辞めたい場合は典型的な事例です。自分が話した結果、特定の人物に不快な思いをさせることもあるでしょう。また、それが原因でトラブルに発生する可能性もでてきます。退職を願い出ても、すぐに辞められるわけではないのです。本音をさらけ出したために、退職日を迎えるまで居心地の悪い環境にいなければなりません。その日まで辛抱すれば済む話かもしれませんが、人間関係がこじれることは思った以上に大変です。余計な波風を立てないためにも「一身上の都合」でぼかしたほうが良いでしょう。
このような理由で、ビジネスの場では「一身上の都合」という言い回しを使うことが一般的だと考えられます。これは大人のマナーであり、自分を守るだけでなく、まわりの人を傷つけないといったメリットもあります。勤務先を辞めても、すべてのつながりが断てるとは限りません。元の職場関係者と再会したときに笑顔で挨拶できるためにも、良好な関係のままで退職するように努めましょう。


「一身上の都合」が使えるケースは3つ!
退職理由として「一身上の都合」は大変便利な文言であり、いろいろな場面で使えることも分かりました。そのうえで、具体的なケースを知ることが大切です。こちらの段落では「一身上の都合」の正しい使い方3つを解説していきます。
退職届を作成する場合
まずは「退職届」を作成する場合です。「一身上の都合」という文言は、勤務先を退職する際に提出する「退職届」に含まれています。退職届には定型文があるので「このたび、一身上の都合により、来たる令和〇年〇月〇日をもって退職いたします」のように書きましょう。
「一身上の都合」と書くことで、自己都合による退職だと表現できます。そうすることでネガティブな理由で退職したい場合や、退職理由を公表したくない場合でも無難に切り抜けることができます。実際、退職届には退職理由を細かく記載する義務はありません。そのため、自分や家庭の事情により退職する場合「一身上の都合」で一括りにしても問題はないのです。
なお、職場によっては「退職届」に先立ち「退職願」の提出が必要なところもあります。また、定型文が用意されている職場や、文書に署名だけすればよい職場もあるので、勤務先でどのような形を取っているのか事前に確認しておきましょう。
履歴書・職務経歴書に退職理由を記載する場合
「一身上の都合」を使う場面として、転職活動のシーンが挙げられます。転職にともない必要な「履歴書」には「職歴」を時系列で記載する項目があるからです。過去に自己都合で退職した経験を持つ人は、「一身上の都合により退職」と書くのが一般的です。もちろん、退職理由の詳細については記載する必要はありません。これらは「退職届」とも共通する点なので、しっかり押さえておきましょう。
転職活動に際しては「職務経歴書」も重要な役割があります。また、「履歴書」で書ききれなかった内容をカバーするためにも重宝されています。職務経歴書の形式は自由で、しかも退職理由を記載する項目はありません。そのため、退職理由をあえて書く必要はないのです。しかし、転職回数が多い場合や前職を辞めてからのブランクが長い場合は、転職活動で不利になる可能性もでてきます。応募先企業の人事担当者に警戒されないためには、履歴書だけでなく職務経歴書にも納得感のある理由を書いたほうが良いでしょう。
「一身上の都合により退職」と書いた場合、応募先企業との面接時には詳細を聞かれる可能性がでてきます。転職活動に際しては、人事担当者からの質問にきちんと答えられるようにしておきましょう。出産や介護などは身近な事例です。また、病気やケガが原因で仕事を辞めた人もいるでしょう。これらの理由で退職した場合、現在は仕事に支障がないことをアピールすることが重要です。
内定を辞退する場合
「一身上の都合」を使う3つめのシーンとして、内定を辞退する場面が挙げられます。こちらも転職活動に際して起こりうるだけに、その使い方を正しく把握することが大切です。
転職活動をスムーズにするためには、一社ずつ応募して結果を待つのではなく、同時進行で複数の企業に応募することはよくあります。そうすることで、内定をもらえる可能性が高まるからです。その結果、複数の企業から内定の連絡が来ることもあるでしょう。その際、入社したい企業には少しでも早く入社の意思を伝える必要があります。また、入社しない企業への内定辞退も忘れないように行いましょう。内定辞退を申し出るのは気後れしがちですが、連絡を後まわしにしたり放置したりするのは絶対に避けなければいけません。
内定辞退の気持ちが固まったら、できるだけ早く先方に連絡しましょう。その際、内定をもらったお礼の言葉とともに「一身上の都合により辞退します」と伝えることがポイントです。もし、他の企業への就職をきめたことを正直に伝えてしまうと、相手を不快な気持ちにさせるので慎む必要があります。しかし、曖昧な言い方をした結果、相手に迷惑をかけることにもなりかねません。「一身上の都合」という表現を使って内定辞退の思いをきちんと伝えることで、新たな人材採用に向けて動き出せるなど、相手にとってのメリットも大きいのです。


本当の退職理由を話す義務はある?
自己都合で辞めたい場合「一身上の都合」は当たり障りのない文言であり、こちらが一般的なものとの認識が広まってきました。ところが、「一身上の都合」では納得してもらえない企業も存在します。また、詳細を深堀されたり、理由を話さない限り退職できなかったりするところもあるのです。そのため、本来なら話したくない内容まで口にしてしまう人もいるかもしれません。しかし、従業員が勤務先に退職理由を伝える義務はないのです。こちらは法律で定められているので、言いにくいのなら無理に話す必要はありません。
もし、勤務先が退職を認めない場合は「労働基準監督署」などの公的相談窓口や、弁護士に相談するのも良いでしょう。「退職届」を「内容証明郵便」で送り出社しない方法もあります。あえて「内容証明郵便」にすることで、郵便物の中身と配達記録を残すことができます。特に、ブラック体質のある企業を辞めたいときは、こちらの方法を検討するのは一つの手です。
ただし、辞め方によっては企業との関係が悪化する可能性があります。退職手続きがスムーズにできないほか、有給消化などが難しくなる恐れもでてきます。また、有給が残っていない場合は退職日まで勤め上げることになるので、険悪な雰囲気のなかで仕事をしなければなりません。このような事態を避けるためにも、無難な退職理由を伝えたうえで円満退社を目指すことが重要です。
要注意!「一身上の都合」を使わないほうが良いケース
「一身上の都合」は詳細をぼかして伝えられる便利な言葉ですが、すべての退職理由に使えるものではありません。この段落では「一身上の都合」を使わないほうが良いケースについて解説していきます。
会社都合退職の場合
まず、考えられるのは「会社都合退職」の場合です。こちらは、文字どおり自己都合ではなく「会社の都合で退職する場合」です。具体的な事例として倒産やリストラのほか、早期退職の募集などがあります。また、ハラスメントが会社都合になる点も見逃せません。
もし、会社都合退職を自己都合退職にした場合、いろいろな弊害がでてきます。そのひとつとして「失業手当」の受給条件が挙げられます。会社都合で退職した場合、待機期間(7日間)後から90~330日間受給できます。一方、自己都合で退職すると、待機期間終了後3ヶ月(2ヶ月の場合も)待たなければなりません。しかも、90~150日間しか受給できないことや、雇用保険の加入期間によっては受給対象にならない場合もあります。このように、自己都合で退職した場合は、失業手当受給開始までの空白期間だけでなく、受給日数などが大きく変わる可能性もでてきます。つまり、会社都合なのに「一身上の都合」にすると損することが多いのです。
失業手当は「失業給付金」や「雇用保険の基本手当」としても知られています。こちらを受けることで、転職活動中の生活費確保に役立つなどのメリットが期待されます。失業手当の受給をスムーズにするためには、退職後すぐにハローワークへ出向くことが重要です。そのうえで、金融機関口座へ振り込まれるまでの日数も見ておきましょう。
自己都合退職扱いされると不利な点が多いですが、退職後、ハローワークで会社都合退職だと認められるケースもあります。前述したハラスメントは典型的な事例です。こちらのケースでは即日退職も可能です。退職を申し出た場合、退職できるまでには少なくとも2週間かかります。しかし、ハラスメントのように雇用側に非がある場合は、すぐに辞めても問題ないことを知っておきましょう。そのためには、会社都合退職にできるための証拠が必要です。ハラスメントが原因で辞めるときは、ボイスレコーダーなどにハラスメントの証拠を残しておくことをおすすめします。
会社都合での退職を自己都合にした場合の弊害は、失業手当だけではありません。どちらの理由で退職するかによって、転職活動に影響が及ぶ可能性がでてきます。応募先企業の心証をよくするのは、やはり会社都合退職のケースが多いでしょう。もし、勤務先企業から会社都合退職なのに自己都合退職を求められたときは、きっぱりと断る勇気を持ちましょう。企業が自己都合退職にこだわるのは、厚生労働省からの助成金が関係しています。もちろん、こちらは企業側の都合なので、退職する側は気にしなくても良いのです。
有期雇用契約が終了して退職する場合
「一身上の都合」を使わないケースとして、有期雇用契約が終了した場合も挙げられます。契約社員のように、あらかじめ雇用期間が決められている場合、契約期間満了にともなう退職は「自己都合退職」でも「会社都合退職」でもありません。そのような場合「一身上の都合」という文言は使わずに「契約期間満了により退職」という表現にします。もちろん、履歴書などに退職理由を記載する場合も同じです。
ただし、有期雇用契約の場合でも契約期間途中で退職するときは事情が異なってきます。自分から申し出て退職した場合は「自己都合退職」、会社からの通知で退職した場合は「会社都合退職」になることを知っておきましょう。


転職面接で「一身上の都合」を追及された場合の対処法
転職先を見つけるためには、応募先企業との面接試験を避けることができません。その際、人事担当者から履歴書などに記載した「一身上の都合」の詳細について聞かれることがあります。この段落では、面接に臨む適切な対処法について解説していきます。
はぐらかさず誠実に答える
まず、大事なポイントは、はぐらかさず誠実に答えることです。特に、ネガティブな転職理由の多い人は注意が必要です。ネガティブな内容が良くないとはいえ、曖昧に答えたりウソをついたりするのはお勧めできません。人事担当者は、わざと答えにくい質問を投げかけることで、応募者の人間性や対応力などを見ているのです。もし、その場をごまかせたとしても、応募書類の内容やその他の受け答えから矛盾点を指摘されかねません。そうならないためにも、最初から誠実に答えるようにしましょう。
ポジティブな理由に言い換える
ネガティブな理由で退職した場合、無意識のうちに前職の批判や愚痴を口にすることもあり得ます。しかし、面接の場では控えたほうが良いのです。ネガティブな理由をそのままを伝えるのは得策ではないからです。むしろ、「仕事への考えが甘いのでは」「採用してもまた不平不満を溜め込むのでは」など、人事担当者に悪い印象を与えてしまいます。たとえば、自分がやりたい仕事ができなくて退職した場合でも、希望をかなえるためにそれまで自分が対処した方法を伝えることが重要です。そうすることで、なにもしないで辞めたのではないことが伝えられます。このように、ネガティブな転職理由をポジティブなものに変換しましょう。面接に臨むためには、志望動機や入社意欲にうまくつなげることも大事なポイントです。
長く働くつもりだとアピールする
募集に際しては、できるだけ長く働ける人を求める企業が少なくありません。もし、採用しても短期間で辞められてしまうと、採用や人材育成などに要したコストが無駄になってしまうからです。そうならないためにも面接が大きな鍵を握ります。人事担当者が面接で退職理由を聞くのは、過去と同じ理由で早期退職するリスクがどの程度あるかを確認したいからです。
退職理由は人それぞれです。また、それほど深刻な理由でない人もいるかもしれません。しかし、面接では「退職もやむをえない」と人事担当者を納得させられることが重要です。そのためには、退職に至った当時の出来事や状況などについて、具体的に説明する必要があります。そのうえで、同じ理由で退職しないこと、長く働く心構えがあることをアピールすると良いでしょう。
「一身上の都合」の意味を理解して正しく使いこなそう!
「一身上の都合」は、退職理由の定型文として使われることも多い文言です。しかし、使用が適切なケースとそうでないケースがあります。使用に際しては、「一身上の都合」が持つ意味を正しく理解しておくことが大切です。また、転職時の面接では「一身上の都合」の詳細を聞かれることもあるので、回答をしっかり準備してから臨みましょう。
