残業をした場合、その時間に応じて残業代が支払われるのが基本となっています。しかし、従業員のなかには残業代の計算はきちんとされているのかと疑問を感じたり、残業代自体が支払われずに不安を感じたりする人もいるようです。
そこで、本記事では残業代の対象となるケースと残業の種類別の正しい計算方法、残業したにもかかわらず、残業代が支払われないケースの対処法などについて幅広く解説します。


目次
残業代が支払われるのはどんな場合?
残業について理解するには、まずは所定労働時間と法定労働時間を正しく理解することが重要です。所定労働時間とは会社が独自に定める就業時間、法定労働時間は労働基準法で定められている「1日8時間」「週40時間」という労働時間の上限を指します。残業は大きく分けて「法定外残業」「法定内残業」の2種類です。
法定外残業は、法定労働時間を超えて働いた場合の残業を指し、労働基準法によって残業代を支払うことが義務づけられています。一方、法定内残業は所定労働時間を超えているものの、法定労働時間は超えていない残業です。例えば所定労働時間が6時間のアルバイトの方の場合、法定労働時間の8時間までの2時間は法定内残業になります。通常の時給相当を2時間分支給する必要は当然ありますが、125%の割増は不要になります。そのため法定内残業の場合、「割増した残業代を支払うかどうか」「どの程度の割増率にするのか」といったことは各企業が就業規則で定めています。多くは割増をせず通常の時間給を支払うケースが多いと考えます。
残業代計算の基礎知識
残業代は1時間あたりの基礎賃金(時給)に対して、労働基準法で定められている所定の割増率をのせて計算します。具体的な計算式は「残業時間×時給×割増率」です。ただ、月給制はまず時給に換算する必要があり、多くの場合「月給÷月の平均所定労働時間」で時給を算出することが一般的です。また、月の平均所定労働時間数は「(365日-年間休日数)×1日あたりの所定労働時間÷12ヶ月」で計算できます。残業代を計算する場合の基礎となる月給には、一定の場合、固定残業代、家族手当、通勤手当、住宅手当などの手当は除外することが可能となっています。
一例を挙げてみます。基本給25万円、所定労働時間1日8時間、年間休日120日だとします。この場合は「(365-120)×8÷12=163.3」となりますので、月平均所定労働時間は約163時間です。そこで、残業代の基礎となる1時間あたりの基礎賃金(時給)を計算すると「25万÷163=1533.74」で、端数は四捨五入か切り上げることが一般的ですので1534円であることがわかります。この単価に時間外労働であれば125%を乗じた1918円になるという考え方になります。


残業代の種類と計算方法
残業代の割増率は残業の種類によって異なるため、それぞれについて紹介します。
時間外労働
法定労働時間である1日8時間(週40時間)以上働いていた場合、超えた時間に対して25%以上の割増率で残業代を支払わなければなりません。たとえば、時給1000円の従業員が3時間残業した場合の残業代は「3時間×1000円×1.25(割増率)=3750円」です。また、法定労働時間を超えた残業時間が60時間以上になった場合、大企業であれば超えた部分の割増率が50%アップとなります。そのため、この例でいえば60時間を超えたら、1時間あたりの残業代は1500円になることになります。
時間外労働時間の上限や割増率アップについては現状として大企業のみとなっていますが、2023年4月1日からは中小企業も適用される予定です。
休日労働
労働基準法で法定休日を与えなければならないという義務があります。法定休日は、労働者に少なくとも週1日もしくは4週間に4日以上の休日を与えなければならないというものです。法定休日に働いた場合も、35%以上の割増率で残業代が発生します。もし、法定休日に働く代わりにほかの勤務日が休日になる場合、事前にその労働日の振替を行っている場合には振替休日となり、法定休日の135%の残業代は原則発生しません。ただ同じ週に振り替えられない場合週40時間を超えることも多く、この場合には125%の残業代自体は発生する可能性があります。
休日労働で法定労働時間以上働いた場合、別途時間外労働の割増賃金が加算されるわけではないので注意しましょう。たとえば、時給1000円の従業員が休日労働として9時間働いたとします。この場合は「9時間×1000円×1.35(割増率)」で計算され、残業代は1万2150円です。注意点として、休日労働の残業代の対象となるのはあくまでも法定休日となっています。会社で定めている公休日に出勤したとしても、休日残業代の発生はありません。(ただし週40時間を超えている場合には125%の残業代は発生します。)
深夜労働
労働基準法では原則22時~5時までの労働は「深夜労働」と定められています。この時間帯に労働した場合は25%以上の割増率で残業代を支払わなければならない決まりです。時間外労働や休日労働が深夜労働の時間帯と重複している場合、重複部分は各割増率で合算することになります。法定労働時間に深夜労働をした場合は25%+25%になるので50%以上、法定休日に深夜労働をした場合は35%+25%となるので60%以上の割増率です。
9時~24時まで働き、休憩1時間をとった場合を例に挙げてみましょう。この場合、18~22時までが時間外労働で割増率25%、22~24時までは時間外労働であり、深夜労働にもあたるので25%+25%で割増率が50%になります。法定休日に18~24時まで働いた場合、18~22時までが休日労働になるので割増率が35%、22~24時までは休日労働35%+深夜労働25%で計算されるので、割増率は60%です。


残業代の計算でよくある疑問
残業代を計算する際に疑問が出る場合もあるかもしれません。こちらでは残業代の計算についてよくある疑問について紹介します。
管理職には残業代が支払われない?
労働基準法では、管理監督者に対しては深夜労働の割増賃金以外の残業代を支払う義務はないと定められています。管理監督者は管理職であると考え、肩書のみ管理職として残業代の支払いを免れようとする企業もありますが、管理職が必ず管理監督者と認められるわけではないのでその点は注意が必要です。管理監督者は職務内容、責任や権限が経営者と同じような立場の社員のことをいいます。
その会社で管理監督者=管理職と考えていたとしても、実際には通常の従業員と変わらない仕事内容であれば管理監督者とは異なります。そのため、管理職でも残業代が支払われなければなりません。管理監督者かどうかの判断基準は3つ、「事業主の経営の決定に関与し、労務管理に関する指揮・監督権がある」「労働時間についての決定権がある」「一般の従業員と比較して、地位・権限に見合った賃金の待遇を受けている」です。これらに当てはまっていなければ、労働基準法に定める管理監督者とはいえません。
みなし残業の残業代はどうなる?
企業の中にはみなし残業制度を導入しているところもあります。みなし残業は実際の労働時間を問わず、一定の残業をしたと考えてあらかじめ固定の残業代を支払う制度です。実残業をまったくしなかった月であってもみなし残業代として受け取っている分が減らされてしまうことはありません。また、固定の残業代を超える残業がある場合には企業には追加で残業代を支払う必要があります。
みなし残業について時間の上限は明確に定められていませんが、36協定の原則の1ヶ月の時間外労働の上限は45時間となっていることから実務上は最大でも45時間程度となっています。
労働時間の端数は切り捨てられる?
残業代は基本的に労働時間1時間あたりで計算します。なお1時間未満の端数について切り捨てて計算している会社もありますが、法律的にはそれは違法行為です。1日の労働時間の集計をする際に端数を切り上げることは可能ですが、切り捨てはできません。残業をしているのがたとえ10分であろうと15分であろうと、残業代を支払う義務があります。残業代の未払いは上司や会社自体が罰金もしくは懲役に科せられる可能性がある法律違反です。
ただ、1ヶ月単位で労働時間を計算する際には、端数が30分未満であれば切り捨て、30分以上であれば切り上げて1時間としてカウントすることができます。たとえば、1ヶ月間の残業時間が8時間15分だった場合、端数が15分となっているので切り捨てて、残業代を8時間で計算することが可能です。また、8時間45分だった場合は端数が30分以上なので、残業代は9時間で計算できます。ただ昨今はあまり1ヵ月単位で切り上げ、切り捨てをする企業は少なくなっている印象です。


残業代が支払われない場合の対処法
残業代がまったく支払われない場合や、残業代を計算したときに金額が合わず、正しく支払われていなかったときの対処法について解説します。
会社に未払いの残業代を請求する
残業代の支払いは労働基準法による義務なので、従業員は会社に残業代の請求をする権利があります。請求時には残業をしたという証拠が必要なので、正確な出退勤時刻がわかる記録など証拠を準備する必要があります。残業代の請求をするためには自分で会社に申し出たり、弁護士に依頼したりという方法で会社側と交渉する必要があります。この段階では示談交渉であり、示談の金額にお互いに合意できれば裁判にまで発展することはありません。
示談交渉で解決しなかった場合は、裁判所で労働審判あるいは訴訟をすることになります。労働審判は示談交渉と訴訟の間にある段階で、お互いの合意もしくは裁判所の判断によって残業代が支払われます。訴訟は労働審判まで行っても結論が出なかった場合に行われる裁判です。訴訟にまで進むと完全に裁判所の判断によって結論が出されます。残業代を請求するとしても時効があるので注意が必要です。時効は現時点では3年間となっているため、できるだけ早く行動に移しましょう。
労働基準監督署に相談する
残業代の未払い分について会社に請求をしても応じない場合は、労働基準監督署に相談するという方法もあります。労働基準監督署とは、労働基準法などを守らない会社を取り締まる、厚生労働省の出先機関のひとつです。残業代の未払いは違法行為であり、労働基準監督署に申告することで立ち入り調査が行われます。その結果、未払いの残業代を精算するように指導してもらうことが可能です。あらかじめ伝えておく必要がありますが、相談者の氏名や相談内容については伏せた状態で立ち入り調査してもらうこともできます。
労働基準監督署に相談をする際には、できるだけ残業代の未払いの証拠や資料などを用意しておきましょう。たとえば、給与明細書や労働条件通知書、出退勤の記録などです。残業代の支払いをしない場合、労働基準法上6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。この場合、刑事罰の対象となるのは違法残業をさせた人物、たとえば上司などに加え、会社自体も対象になります。
転職する
未払いの残業代を請求した結果、会社側の対応が不誠実であったり、証拠がないことから労働基準監督署が動いてくれなかったりするケースがあります。そのような場合、別途未払いについて民事的な請求を起こすにしても、そもそもの労働環境を変えることも一案です。転職活動では、求人票に応募する前にその会社に残業代未払いなどの問題がないかを確認しておくことをお勧めします。具体的には、ネットの口コミサイトで残業代の未払いがないかどうかを調べたり、厚生労働省の「労働基準関係法令違反に係る公表事案」を確認したりする方法が挙げられます。昨今、労働法全般が厳しくなっていることや、企業の労働法違反については世間の目も厳しくなっていることもあり、多くの企業で、適切に労働基準法を守り従業員が安心して働ける環境を整えていますので環境を変えるということも一つの選択肢にはなります。


残業代の支払いは企業の義務!泣き寝入りせず対処しよう
残業代の支払いは会社の義務であり、未払いの場合は法律違反となります。そのため、会社は法律で定められた基準で残業代の計算をきちんと行わなければなりません。本記事では残業代の計算方法を挙げましたが、もし自分の残業代に疑問を感じた場合は泣き寝入りせずに対処することが重要です。まずは会社に対応していただけるよう働きかけ、場合によっては労働基準監督署に相談したり、専門家に相談することを検討しましょう。

この記事の監修者
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士。1987年生まれ、一橋大学商学部卒業。ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行なっている。
