失業保険に加入し、かつ一定の条件を満たしていれば、仕事を辞めたときに失業手当が受け取れます。生活費の足しにしながら転職活動に臨めるため、失業手当があるとないとでは大違いです。とはいえ、受給するにはいくつかの条件を満たすことが必要です。どのくらいもらえるのか、どのような手続きが必要なのかなどを知りたい人も多いでしょう。本記事では、失業手当が給付される条件や金額、手続きの内容などについて解説します。


目次
正式名称は雇用保険?失業保険とは
日本においては、国民が強制的に加入を義務付けられている社会保障制度があります。社会保障制度には医療保険(健康保険)や年金保険などがあり、失業保険もそのうちの一つです。これら保険は、国民の生活を守るセーフティネットの役割を果たします。当然ながら保険の種類によって保障の内容はさまざまで、失業保険は労働者のリスクに備えるものです。また、失業保険の名で広く知られていますが、正式名称は雇用保険といいます。
失業保険の名称が広く浸透しているのは、加入者が離職や失業した際に、再就職を補助するために一定の給付金(基本手当)が支給されるためでしょう。ただし、失業保険は失業手当を給付するだけの保険ではありません。就労支援や職業訓練などもカバーしています。
離職の事情によって変わる!失業保険を受け取れる条件
失業手当を受け取るためには、離職前の会社で一定の被保険者期間があり、そのうえで特定の条件を満たす必要があります。ここでは、離職者を「一般離職者」「特定理由離職者」「特定受給資格者」の3パターンに分け、それぞれの定義や失業手当を受給できる条件についてみていきましょう。
一般離職者の場合
一般離職者とは、「もっと良い条件の会社で働きたい」「したい仕事がある」「独立起業する」など、離職者自身の意思で辞めた人のことです。労働者自身の都合による退職のため、自己都合退職ともいわれます。自己都合退職の場合、失業手当を受け取るためには、離職日までの2年間に失業保険の加入期間(算定基礎期間)が通算で12カ月以上必要です。
算定基礎期間は「通算して12カ月以上」のため、たとえば「8カ月加入したあとに退職し、1カ月後のブランクののち再就職して4カ月加入した」といったケースでも問題ありません。ただし、ブランク期間が1年以上ある場合や過去の退職時に給付を受けていた場合は、それまでの加入期間は算定基礎期間にカウントされませんので注意しましょう。
特定理由離職者の場合
特定理由離職者とは、自身の意思に反して辞めざるを得なかった退職者のことです。以下のようなケースが該当します。
・体力の不足や心身の障害、病気や怪我などにより離職した
・妊娠や出産、育児などで辞め、受給期間延長措置を受けた
・有期雇用で働き、満了時に更新を希望したが認められなかった
・親の介護など家庭事情の急変により働けなくなった
・人員整理などにより実施された希望退職者の募集に応じた
失業手当を受け取るためには、離職日までの1年間で被保険者期間が通算して6カ月以上あることが必要です。
特定受給資格者の場合
特定受給資格者は、企業の倒産やリストラなどにより急に失職した人のことです。労働者の意思ではなく、会社の事情によって辞めているため、会社都合退職ともいいます。特定受給資格者が失業手当を受け取るためには、離職日までの1年間に雇用保険の被保険者期間が6カ月以上あることが必要です。再就職の準備期間もなく急に職を失った状態のため、一般離職者よりも手当支給の条件が緩和されています。


長期で働けばOK?アルバイトが失業保険を受け取れる条件
失業手当というと、正社員のみが受け取れるものとのイメージを持つ人もいるのではないでしょうか。実は、アルバイトであっても条件を満たせば失業保険に加入でき、失職時に失業手当が受け取れます。ただし、失業保険に加入するには、以下の2つの条件を満たすことが必要です。
・所定労働時間が週20時間以上である
・31日以上雇用される見込みがある
上記の条件に当てはまり、離職日までの2年間で12カ月以上失業保険に加入している場合は、たとえアルバイトであっても辞めたときに失業手当が受け取れます。
契約期間が30日以下であったり、長期間の契約であっても労働時間が週に20時間未満だったりする場合は、失業保険の加入対象とはなりません。また、繁忙期などで一時的に忙しくなり、週に20時間を超える労働を行った場合でも、日ごろの労働時間が20時間未満の場合は加入対象外です。なお、上記の条件を満たしている労働者は、失業保険への加入義務が発生します。「保険料を払いたくないから加入しない」は通りません。
自分で計算してみよう!失業保険で受け取れる給付額
失業手当の1日あたりの金額(基本手当日額)は、賃金日額に給付率をかけることで算出できます。賃金日額は、辞める前の6カ月間に受け取っていた賃金を合算して180日で割った数値です。給付率は50~80%の間で変動し、賃金日額が低いほど高い割合が適用されます。ただし、基本手当日額も賃金日額も、辞めたときの年齢に応じて上限額と下限額が設定されている点に注意しましょう。
たとえば、離職時の年齢が29歳以下の退職者の場合、適用される給付率は基本手当日額によって以下のように変動します。
・2,500円以上5,010円未満:給付率80%
・5,010円以上1万2,330円未満:給付率50~80%
・1万2,330円以上1万3,630円未満:給付率50%
基本手当日額が1万3,630円を超える場合は、29歳以下の上限額となる6,815円が適用されます。
失業手当の総支給額は、上記の計算で算出した基本手当日額に給付日数を乗算すれば算出可能です。給付日数は、会社都合退職か自己都合退職かで異なります。会社都合であれば90~330日、自己都合であれば90~150日の範囲で、失業保険の加入期間によって日数が決定される仕組みです。ただし、失業手当の受給期間は離職日の翌日から1年間しかありません。給付日数が残っていても、1年経ってしまえば以降の給付分は受け取れないので注意しましょう。
なお、紹介した計算方法はあくまで概算です。正確な数値を出すには複雑な計算が必要となるため、正しい金額を知りたいときはハローワークに相談しましょう。


退職理由で支給開始日が違う?失業保険はいつからもらえるのか?
失業手当は、申請すればすぐに受け取れるものではありません。離職者の種類によって給付開始日が異なり、特定理由離職者や特定受給資格者で1カ月ほど、一般離職者で2カ月ほどかかります。辞めてから失業認定を受けるまでの流れは、およそ以下のとおりです。
1.辞めた職場から離職票を受け取る
2.ハローワークで求職の申し込みを行い、離職票を提出する(受給資格が決定する)
3.7日間の待機期間を過ごす
4.雇用保険受給説明会に参加して雇用保険受給資格者証を受け取る
5.受給資格決定から約4週間後に第1回目の失業認定を受ける
6.(特定理由離職者や特定受給資格者)第1回目の失業認定から5営業日ほどで失業手当が振り込まれる
(一般離職者)7日間の待機期間後、さらに2~3カ月の給付制限期間がある。給付制限期間が明けてから第2回目の失業認定を受け、失業手当が振り込まれる
受給資格決定後は7日間の待機期間が設けられており、この期間はどのような退職理由であっても失業手当を受け取れません。特定理由離職者や特定受給資格者の場合は、第1回目の失業認定が終われば失業手当が支給されます。手続きの都合上、受給資格決定から振込までに1カ月程度かかかるでしょう。
一般離職者は、7日間の待機期間を過ごしたのち、さらに2~3カ月間の給付制限期間があります。給付制限期間中に、雇用保険受給説明会に参加して雇用保険受給資格者証を受け取り、第1回目の失業認定を受けることが必要です。給付制限期間が明けると2回目の失業認定があり、失業手当が振り込まれます。


必ずハローワークへ!失業保険を受け取るための手順
失業手当を受け取るためには、ハローワークで手続きして失業認定を受けることが必要です。この段落では、失業手当を受け取る手順について解説します。
ハローワークで求職手続きを行う
失業手当を受け取るために、まずは以下の必要書類を準備しましょう。
・雇用保険被保険者離職票(-1、2)
・個人番号の確認書類(マイナンバーカード、通知カード、個人番号記載の住民票のうち、いずれか1つ)
・身元確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、官公署発行の写真付き資格証明書などのうち、いずれか1つ。なければ公的医療保険の被保険者証や児童扶養手当証書、年金手帳などのうちから2つ)
・写真(正面上半身、近影、3.0×2.4cm)2枚
・印鑑
・本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
雇用保険被保険者離職票は、離職後に前の職場から自宅に届きます。失業手当を振り込んでもらう口座のキャッシュカードや通帳も用意しましょう。
必要な書類がそろったら住所地を管轄するハローワークに持参し、登録や求職の申し込み、書類の提出などを行います。ハローワークに行く前に、スマホやパソコンから「ハローワークインターネットサービス」のサイトにアクセスして仮登録しておくと、スムーズに進むでしょう。なお、失業手当は「就職したいという明確な意思があり、働ける状態であるにもかかわらず職に就けない」人に対して支給されるものです。仮にハローワークを通して再就職するつもりがなくても、働く意思があることを示すために求職の申し込みを行わなければなりません。
求職の手続きをする際、ハローワークの職員が退職理由を確認します。言いづらい内容であっても、必ず正直に答えましょう。離職票に書かれた退職理由と異なっている場合、ハローワークから前の職場に確認の電話が入ります。
求職活動をして失業認定を受ける
ハローワークで登録を行い、求職の申し込みや必要書類の提出などの手続きを行ったあとは、雇用保険説明会の日時の案内があります。これで受給資格決定です。その後は、7日間の待機期間を経て、指定された日に雇用保険説明会に参加します。登録の際に受け取った「雇用保険受給資格のしおり」と筆記用具、印鑑も忘れず持参しましょう。雇用保険説明会では、失業手当を受給するための説明が行われ、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」が配布されます。第1回目の失業認定日も案内されるので、忘れないようにしましょう。
第1回目の失業認定日は、受給資格決定から約4週間後に設定されます。なお、失業認定日とは、転職活動をしているものの失業状態にあることをハローワークが確認する日のことです。失業認定日には、「失業認定申告書」に求職状況を記入し、雇用保険受給資格証とともに提出します。失業認定を受けるためには、受給資格決定後から失業認定日までの間に求職活動を2回以上行っていることが必要です。認定されれば、申告した口座に失業手当の振込があります。会社都合退職の場合は、失業認定日から5営業日ほどで振り込まれるでしょう。自己都合退職の場合は給付制限が2~3カ月あるため、それだけ振り込まれる日も遅くなります。
失業手当が振り込まれたあとも、4週間に1回のペースで失業認定を受けることが必要です。面倒だからと行かなければ失業手当の支給が止まってしまうので、必ず行くようにしましょう。面接などの大切な用事が入って失業認定日に行けなくなった場合は、速やかにハローワークに連絡を入れることが大切です。事前に申し出れば、認定日の変更が認められる可能性があります。ただし、面接証明書など変更理由を証明できる書類を後日提出する必要があるので、用意しておきましょう。


アルバイトはしても大丈夫?失業保険でよくある疑問
失業手当給付中によくある質問に、「アルバイトをしても問題はないか」というものがあります。離職して収入がなくなるため、少しでも稼ぎたいと思う人も多いでしょう。失業手当の受給中でも、アルバイトをすること自体は禁止されていません。とはいえ、アルバイトのタイミングや収入額、労働時間によっては失業手当の支給が遅くなったり減額されたりすることがあるため、注意しましょう。たとえば、失業手当を申請すると7日間の待機期間が生じますが、このときアルバイトをするとその分期間が延長されてしまいます。アルバイトをするなら、初回の失業認定を終えたあとにしたほうが良いでしょう。
失業認定後にアルバイトする場合、1日4時間未満だと「内職または手伝い」とみなされてしまい、収入額によって失業手当が減らされることがあります。アルバイトをするなら、1日4時間以上働くほうが良いでしょう。なぜなら、1日4時間以上働いた日は支給対象外となりますが、その分がなくなるわけではなく、繰り越されて最終支給日のあとで支給されるからです。ただし、1週間に20時間以上働くと「就職した」とみなされて失業手当が受けられなくなる可能性があります。アルバイトをするなら、1日4時間以上かつ1週間に20時間未満になるよう調整するのがもっともおすすめです。なお、アルバイトをした場合は、4週間に1度の失業認定日に正しく申告しましょう。隠すと不正受給とみなされ、受け取った失業手当の3倍の金額の返還を求められることがあります。
失業手当を受給している間、健康保険や年金をどうするべきか悩む人も多いでしょう。健康保険は「任意継続制度を利用して前職の健康保険組合や協会けんぽに引き続き加入する」「国民健康保険に加入する」などの選択肢があります。支払う金額が違うので、よく比較検討して決めましょう。年金は、自治体によっては支払いが免除されたり納付を延期したりしてもらえるので、窓口で相談するのがおすすめです。
失業手当の受給中に再就職すると、それ以上受け取れず損した気分になる人もいるかもしれません。しかしながら、一定の条件を満たしていれば再就職手当を受け取ることが可能です。仕事が決まったらハローワークに連絡して、再就職手当の手続きを取りましょう。
失業保険の要件を十分に理解し転職活動に最大限活用しよう
給与収入がなくなった離職者にとって、失業保険の給付は心強い制度です。確実に受け取るためにも、条件や手続きの内容を十分に理解し、最大限に利用するようにしましょう。面倒だからと必要な手続きを怠ったり支給開始時期を見誤ったりすると、本来受け取れるはずの手当をもらい損ねる可能性があります。くれぐれも気を付けましょう。
