退職するなら、上司にはできるだけ早くその旨を伝えなければと思っている人も多いことでしょう。勤務先に退職を申し出るタイミングは早ければ早いほうがよいのかというと、必ずしもそうではありません。本記事では、社員が自分から辞める場合の適切なタイミングと、伝えるのが早すぎた場合に起こり得るデメリットなどについて解説します。


退職はいつ伝えるのがいいのか?
まずは、退職を伝えるタイミングについての基礎知識を身に付けておきましょう。社員から退職を申し出る際に、押さえておくべきポイントは次の4つです。
一般的な申告時期は1~3ヶ月前
退職の意思を伝えるのは、一般的には退職希望日の1~3ヶ月前というのが常識的な範囲とされています。すなわち、3カ月前の申し出は早いほうだといえます。しかし、常識的な範囲内で退職の意思を伝えているのに、上司や会社から遅い、非常識などと非難されるケースも中にはあるようです。
この場合は、時期的に問題があって批判しているわけではないと考えられます。上司が気にしているのは、部下が退職することによって自分の評価が下がることや引き継ぎの手間、引き継ぎが完了するまでチームの仕事が回らなくなることなどです。また、会社が気にしているのは、新しい人を採用する手間や時間、コストなどです。
社員の退職のタイミングによって、上司や会社が行う手続きの内容が変わるわけではありません。退職が歓迎されていない以上、いつ退職の意思表示をしようが、多少の嫌味を言われたり、文句を言われたりすることになるでしょう。
しかし、社員から退職を申し出ることには、法的に問題があるわけでも、社会的な常識から外れているわけでもないため、あまり気にする必要はありません。会社のルールに沿って、上司とも調整しながら淡々と進めていきましょう。
就業規則に記載されている退職申し出時期を確認する
就業規則には、必ず退職についての記載があるはずです。「いつまでに退職の願い出が必要」ということが書かれているため、自社の場合には時期がいつに設定されているかを、まず確認しましょう。円満退社を望み、設定された時期で納得もできるなら、就業規則に書かれている時期を優先するのが賢明です。
しかし、仮に退職日の3ヶ月前と書かれていても、就業規則は会社全体のルールに過ぎず、法的な強制力はありません。常識の範囲を逸脱している場合は、従わなくてもよいといえます。就業規則の3ヶ月前までに退職を願い出ることを義務付け、それ以降に退職を願い出た場合は拒否、退職を認めないということを実行してしまうと、会社は労働基準法違反に問われる可能性が高いでしょう。あくまでも、従業員が自主的に3ヶ月以上前に退職を申し出るという形で認められているはずです。
退職を認めない発言や行動をすれば、会社側が違法行為とみなされる可能性があります。特に、雇用条件が入社前に伝えられていたものと違った場合は、急に辞めても問題がないと、労働基準法第15条で定められています。すなわち、タイミングについては「常識的な範囲」で退職を願い出ればなんら問題はありません。


民法上の申告時期は2週間前まで
社員から退職を申し出るタイミングについては、民法第627条に記載されています。労働基準法第20条では、使用者が労働者を解雇する場合には遅くとも30日前に予告をしなければならないと定められていますが、社員から辞める場合には労働基準法の規定がありません。そのため、民法が適用されます。民法は私法の一般法、労働法は特別法です。民法と労働基準法に同一の規定がある場合は、労働基準法が優先されますが、労働基準法に記載のないことは、民法が適用されることを覚えておきましょう。
民法第627条には、期間の定めのない雇用契約について、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」と記載されています。すなわち、民法上の申告時期は2週間前までとなります。どのような業種や職種であっても、申し入れから2週間で退職できるのが労働者の権利として認められているのです。
ただし、現実的には、退職まで2週間という短さでは、仕事の引き継ぎを完了できない可能性が高いでしょう。民法上の規定では退職は可能ですが、円満退社は難しい場合があります。ポイントは、「常識的な範囲」を守ることです。「退職を希望する場合は、その旨を1カ月前までに申し出ること」などと、就業規則に書かれているのであれば、よほどの事情がない限りはそれに従うのが無難です。
繁忙期は可能な限り避ける
一般的には、退職が会社の繁忙期と重ならないようにするのが望ましいとされています。例えば、決算期や所属部署やチームで大きなプロジェクトが進行している最中は、退職を伝えるタイミングに適しているとはいえません。通常よりも忙しい時期では、上司に相談したくても多忙を理由になかなか時間を取ってもらえない可能性があるほか、業務を引き継ぐ同僚の負担が増すことは目に見えています。
たとえ、就業規則の申し出期限を守っていたとしても、繁忙期の退職となると、「自分勝手」とみなされてしまうかもしれません。円満退職したいなら、繁忙期は可能な限り避けることをおすすめします。転職先から「早く来てほしい」と言われたなど、どうしても繁忙期に退職せざるを得ない場合には、早めに退職の意思を伝えましょう。その上で、計画的に引き継ぎを行う、残業もして余計な業務を残さないなど、今の職場に対して協力的な姿勢を見せることが大事です。


3ヶ月よりも前に退職を伝えるメリットは?
退職を伝えるタイミングとして常識的な範囲とされているのは、退職の1~3ヶ月前とされていますが、それより先に転職先から内定が出る場合もあるでしょう。今の職場に3ヶ月よりも前に退職を伝えた場合の4つのメリットについて解説します。
業務引き継ぎをしっかり行える
退職までに余裕があると、業務の引き継ぎをしっかりと行えます。業務の引き継ぎに必要な期間は、職種や担当業務の範囲、後任者の状況などによっても異なります。一般的には、遅くとも退職の1カ月前あたりから、残務整理と併せて新しい担当者への引き継ぎを進めていくことになるでしょう。しかし、担当業務と並行して引き継ぎも行うことになるため、かなりバタバタしてしまうケースも少なくありません。
3ヶ月もあれば、完璧に近い形で引き継ぎを行えます。お世話になった取引先などにも、メールや電話ではなく、直接会いに行ってあいさつする余裕も持てるでしょう。また、退職時に新しい担当者が独り立ちできている可能性が高まるため、退職後にクライアントや顧客から不満が出るリスクも軽減できます。加えて、仮に退職を申し出た時点では後任者が決まっていなくても、引き継ぎの準備には着手できます。例えば、業務のマニュアルを作っておく、担当業務の資料やデータを整理しておくなど、下準備をしておくことで、引き継ぎをスムーズに進められるでしょう。
有給休暇取得のスケジュールが立てやすい
退職する際には、多くの人が残っている有給休暇をまとめて消化して、最終出社日を早めたいと思うものではないでしょうか。退職を伝えるタイミングに余裕があると、有給の取得スケジュールも立てやすくなります。ただし、有休消化に入るためには、業務の引き継ぎが完了していることが前提です。早めに退職の意思を伝えて受理されていれば、引き継ぎのスケジュールに余裕を持たせられます。その分だけ有休を取りやすくなりますし、最終出社日の交渉もしやすくなるでしょう。
また、転職する前にまとめて有休を取ることで、心身ともリフレッシュできます。新生活に向けて、気持ちを切り替える期間にもできるでしょう。次の仕事のためにスキルアップする時間にも充てられます。
後任の採用がしやすい
早めに退職を申し出ることで、所属企業において自分の後任を採用する期間にも余裕を持たせられます。退職した社員の穴を既存社員だけでは埋められない少人数の職場などでは、新たに後任者を採用しなくてはならないでしょう。新規採用で補充するケースでは、後任を採用する期間と業務の引き継ぎをする期間の両方が必要です。職種や役職にもよりますが、一般的に転職先企業の内定が出てから入社までの期間は2~3ヶ月程度、業務の引き継ぎ期間は1ヶ月程度です。
つまり、3ヶ月前の申し出でも、実際にはそこまで余裕のないスケジュールになってしまうと想定されます。3ヶ月よりも前に伝えることで、採用に十分なリソースを割くことができ、条件にマッチする後任者を見つけられる可能性も高まります。
円満な退職につながりやすい
退職期間に余裕があると、引き継ぎを含め、退職までの一連の手続きをスムーズに進められるため、結果的に円満退社につながりやすくなります。円満退社には、辞める本人にも多くのメリットがあります。まず、退職後の人間関係を良好に保てるでしょう。同じ業界内に転職する場合には、今後も縁があって仕事で関わる機会があるかもしれません。元職場のメンバーとも良好な関係が保てていれば、これまで築いてきた人脈をこれからの仕事に生かすことができます。
また、退職理由は応募先の企業の面接では、聞かれる可能性が高い質問です。円満退職であることが面接官に伝われば、「誠実・計画性がある人」と、好印象を与えられるでしょう。将来のキャリアのことを見据えるなら、円満退職を目指したいところです。


3ヶ月よりも前に退職を伝えるのは早すぎる?デメリットは?
3ヶ月よりも前に退職を伝えることには、企業側と辞める本人の双方にとってメリットがあります。しかしその一方で、早すぎる申し出には、デメリットも存在します。しかも、これらは主に辞める人にとってのデメリットとなる可能性が高いため、十分注意しましょう。
引き止めにあう可能性が高くなる
まず、退職までに期間があると、引き止めにあう可能性が高くなります。退職の意思を早く伝えすぎると、上司などに退職の意思を覆せると思われやすくなるでしょう。退職を急ぐ様子が見えないため、交渉すれば覆ると思われてしまうのです。
今の職場に引き止められるのは、悪い気はしないものです。しかし、引き止められるのは、優秀で職場に必要だからというケースだけではありません。部下に辞められると、上司は自分の評価が下がる恐れがあります。上司には、「部下のフォローや育成」という大事な役割があるためです。部下に辞められると、上司はその管理能力に問題があるのではと人事や上役に疑われてしまいかねません。引き止めの理由が、自分の評価が下がることを回避したい上司の保身である可能性も、残念ながらあり得ます。
引き止めの説得に折れて残っても、いったん退職を言い出している以上、職場での扱いが悪くなってしまうかもしれません。今後、やはり退職したくなっても退職を言い出しにくくなってしまいます。また、退職までの期間が長い分だけ、引き止め交渉にあう期間も長くなります。毎日のように説得が続くのはストレスでしょう。理由について尋ねられた場合にも、会社や上司への不満であれば、本音を打ち明けにくいものです。
人によっては会社にいづらい期間が長くなる
会社に居づらい期間が長くなる可能性も、3ヶ月よりも前に退職を伝えるデメリットに挙げられます。まず、そもそも職場環境や人間関係に問題があって退職する場合には、退職までの期間が長くなればなるほど、「早く辞めたい」と思って、つらい日々を過ごすことになります。退職することが職場内に知れ渡ると、ますます居づらくなるでしょう。
職場環境や人間関係に問題がなかった場合でも、「退職する人」というレッテルが貼られると、冷遇されやすくなります。ある意味、仕方のないことかもしれませんが、大事な仕事は任されなくなり、重要な会議からも外される可能性が高いでしょう。特に、上司からの引き止めを断ったケースでは、手のひらを返したような態度を取られることもあります。場合によっては、予定よりも早く引き継ぎを始めるように指示され、退職までは雑務がメインになってしまうかもしれません。
そうなれば、キャリアにもマイナスです。辞める身とはいえ、冷遇される期間が長くなると、「仲間外れ」にあっているような感覚になり、出勤することがストレスになってしまう場合もあります。
退職を伝えるタイミングに関するよくある質問
退職を伝えるのは退職の1~3ヶ月前で、繁忙期は避けるとして、具体的にどのタイミングで伝えれば良いのか知りたい人も多いことでしょう。最後に、退職を伝えるタイミングに関してよくある疑問にお答えします。各職場のその時の状況によっても異なるため、退職を伝えるタイミングに「これが正解」というものはありませんが、判断に迷ったときには次の考え方を参考にしてください。
退職を伝えるのに適している曜日はありますか?
退職を伝えるのにおすすめの曜日は、穏やかに話したいなら「金曜日」です。土日が休日の場合、翌日が休みとあって、金曜日は上司も少しゆったりとした気持ちで仕事をしていることも多いものです。落ち着いた状態で話を聞いてもらえる可能性が高く、また土日を挟むことで冷静になってもらえます。自分自身も、「退職の意思を伝えられた」とホッとした気持ちで週末を過ごせます。ただし、金曜日に伝えた場合は、退職の手続きは週明けになるでしょう。


退職を伝えるのに適した時間帯はありますか?
退職を伝えるのに適した時間帯は、定時後です。勤務時間中には上司も何かと忙しいため、定時になり仕事がいったん落ち着いたタイミングを見計らって、「ご相談があるのですが」と、もちかけましょう。同僚の前で相談をもちかけにくい場合には、先にメールなどで時間だけ押さえておくとよいでしょう。もし上司が、その日に割とヒマそうにしているならば、勤務時間中に声をかけて、会議室などで話をしてもかまいません。
一方で、避けたほうが良い時間帯は、朝一番のタイミングです。出勤直後はメールのチェックなど忙しいことが多く、上司に気持ちのゆとりがないこともあります。また、朝から退職の申し出をしたことで、その日は一日中、気まずい空気になってしまうかもしれません。
退職はまず誰に相談すべきですか?
退職の相談は、まず直属の上司にするのが一般的です。直属の上司としてマネージャーがいるのに、それを飛び越してその上の部長に申し出たり、直接人事に退職願を出したりするのはやめましょう。直属の上司の顔をつぶすことになり、関係が悪化してしまいかねません。退職すべきかどうか、自分の心の中に迷いが残っている場合には、まずは社内の友人などにプライベートで相談することも選択肢としてはありです。同じ職場の同僚や先輩であれば、抱えている人間関係や仕事の悩みも理解してくれる可能性が高く、的確な助言をくれるかもしれません。
ただし、周囲から転職の意思が漏れ、直属の上司の耳に入ると、上司の心証を悪くする恐れがあります。周囲から情報が漏れるのを確実に避けたいならば、まず上司に相談して、正式に職場で公表されるまでは、誰にも話さないことです。
退職の困りごとはキャリアアドバイザーに相談しよう
退職はセンシティブな問題であるため、タイミングや伝え方については細心の注意を払うことが大事です。また、円満に退職できるかどうかは、自分の今後のキャリアにも少なからず影響します。キャリアアドバイザーのいるPaceBoxに登録すれば、退職に関する困りごとも相談できます。ご希望の方には、オンラインでの面談も可能ですので、お気軽にご相談ください。
