現状とは異なる業界・業種へのキャリアチェンジを希望するものの、環境の変化に不安を感じる方は少なくありません。本記事ではキャリアチェンジの意味や目的、新しい分野に挑戦するメリット・デメリットなどについて解説します。記事の終わりには面接時における受け答えのポイントを紹介していますので、参考にしてください。


目次
そもそもキャリアチェンジとは?
「キャリアチェンジ」とは、従来の職業とはまったく異なる分野に挑戦する転職方法のひとつです。キャリアチェンジには「同業界・異職種への転職」や「異業界・同職種への転職」、あるいは「異業界・異業種への転職」といった複数の方向性が存在します。たとえば、Web制作会社で働くWebデザイナーが、Webコンテンツ制作会社のライターに転職する場合は同業界・異職種へのキャリアチェンジです。
別の例を挙げると、自動車メーカーで働く開発エンジニアがロボティクス企業のロボット開発エンジニアに転職した場合、これは異業界・同職種へのキャリアチェンジとなります。また、不動産業界で営業担当として働く人が、建設企業の施工管理技士に転職する場合は異業界・異業種へのキャリアチェンジです。このように従来の職業とは大きく異なる業界・業種に足を踏み入れ、新たな人生設計やキャリアプランを描く一連のプロセスをキャリアチェンジと呼びます。
キャリアチェンジと似た用語に「キャリアアップ」が挙げられますが、それぞれの概念は明確に異なります。キャリアアップとは、これまでの知識や技術、経験を生かして役職・地位・雇用条件などを高めることであり、社内での昇進や同業界・同職種の転職を意味する概念です。キャリアアップの目的は同業界・同職種での地位や収入の向上であり、キャリアチェンジは新たな分野に挑戦することで自己成長を促し、キャリアの多様性を育むことが主な目的となります。
キャリアチェンジの適切なタイミングは?
キャリアチェンジを考える上で適切なタイミングとして挙げられるのが「20代」と「30代」です。ここでは20代と30代のキャリアチェンジの方向性について解説します。
20代のキャリアチェンジについて
20代はキャリアチェンジを目指す上で、最も適したタイミングといっても過言ではありません。20代の後半に差し掛かるとさまざまな経験を経てキャリアプランについて深く考えるようになり、転職を検討する人が増加する傾向にあります。20代は新しい環境や未知の経験に対する柔軟性に優れるため伸び代があり、この時期に多様な業界・業種を経験することで見識も深まって、人間としての総合的な成長を促す糧となるでしょう。
また、企業は長期的な雇用が期待できる人材を求めるのが一般的です。新しい挑戦に年齢は関係ありませんが、やはり年齢を重ねるごとにキャリアチェンジの難易度が上がるのは否めません。その理由としては年齢が高い人材を採用する場合、勤続年数が短くなることが予想され、健康状態やキャリアプランなどの不確定要素が多くなり、企業側の採用リスクが高くなるためです。20代の若年層であれば未経験者の採用を積極的におこなっている企業も多く、キャリアチェンジに挑戦できる環境が整いやすいという利点があります。
このような理由から20代はキャリアチェンジに適した時期といえるため、将来こう在りたいと望む自己イメージを明確化し、自分の知識や技術をどのようにして社会に役立てるのかを考えることが大切です。ただし、キャリアチェンジは成長の機会を提供してくれる一方、労働環境の変化や収入面の不安といった相応のリスクを伴います。そのため、転職を望む業界で働いている知人の知恵を借りたり、転職の専門家であるキャリアアドバイザーの助言を仰いだりといったアクションも必要です。
30代のキャリアチェンジについて
30代はキャリアの分岐点ともいわれており、転職は難しいという声も少なくありません。しかし、現代は平均寿命や健康寿命が延びたことで定年退職後も働く人が増えており、30代はキャリア形成の途上であるという見方が定着しつつあります。何よりも30代の人材には20代の若年層にはない「知識」や「経験」という大きな武器があり、特有のスキルや豊富な実務経験があれば、男女を問わず未経験の分野であってもキャリアチェンジが可能です。
また、30代の人材は20代の若年層よりも社会人としての経験が長く、40代以降の人材と比較して成長の伸び代があるといえます。加えて、さまざまな人生経験を通じて精神的に成熟していく時期でもあり、これまでの業務で培った人脈という武器をもつ人材が多いのも30代の特徴です。そのため、未経験の分野でも即戦力になれる可能性が高く、業界や業種によっては20代の「若さ」よりも、30代の「経験値」に価値を感じる企業も少なくないでしょう。
しかし、それでも年齢が上がるほど企業側の採用リスクが高くなるため、キャリアチェンジは困難になっていく傾向にあります。たとえば、不動産業界や介護業界、保険業界などは慢性的な人材不足に陥っており、コミュニケーション能力に優れる人材であれば未経験であっても十分にキャリアチェンジが可能です。しかし、IT分野やハイテク産業などの技術革新が進んでいる業界の場合、柔軟性が高く適応力に優れる20代と比較すると、30代でのキャリアチェンジは難しい傾向にあります。


キャリアチェンジで得られるメリット
人間は本能的に変化を恐れる生き物であり、未知のものを避ける「現状維持バイアス」という心理作用が備わっています。そのため、キャリアチェンジを望みながらも不安や恐怖心にとらわれ、最初の一歩を踏み出せないという人が少なくありません。この心理的な障壁を打ち破るためには、キャリアチェンジの具体的なメリットを認識することが大切です。キャリアチェンジの代表的なメリットとして以下の2つが挙げられます。
メリット1.希望する職種で働けるためやりがいを感じられる
キャリアチェンジを目指す人は基本的に向上心が高く、自己実現に人生の意義を見いだす人が多い傾向にあります。物事への探究心や知的好奇心が旺盛で、現在の職業や立場にとらわれることなく見聞を広めたいと思っている人も少なくありません。このような人が仕事に求める重要事項のひとつが「やりがい」です。「人はパンのみにて生くるものに非ず」という言葉があるように、人間は金銭的報酬のみを目的に働いているわけではありません。
人間には「1.生理的欲求」「2.安全欲求」「3.社会的欲求」「4.承認欲求」「5.自己実現欲求」という5段階の欲求があり、低次の欲求が満たされると高次の欲求を求めるようになります。これが、いわゆる「マズローの欲求5段階説」です。現代日本に生きる人々の多くが社会的欲求までは満たされており、承認欲求と自己実現欲求を求めます。とくにキャリアチェンジを望む人にとって重要事項となるのが自己実現欲求です。
成長意欲や向上心の高い人は自己実現欲求の優先度が高いため、自分が望む業界・業種に従事できれば人生に対する充実度の大幅な向上につながります。また、希望の職種に就くことで労働意欲や探究心が高まり、さらなるスキルの向上が見込めて、自分自身の成長と長期的なキャリアアップに貢献する点も大きなメリットです。このようにキャリアチェンジは自己実現欲求の充足に寄与し、人生そのものに対する満足度の向上が期待できます。
メリット2.新たなスキルを身に付けたり、視野を広げることができる
キャリアチェンジで得られるメリットのひとつは、これまでの経験で培ったスキルに加えて新たな技術や知識を身につけられる点です。未経験の業界・業種に身を置くことで、現在の職種では経験できない業務に携わることになり、新たな体験やスキルを獲得する機会が大幅に増加します。また、興味や関心の高い分野にキャリアチェンジできれば、内発的動機に基づくモチベーションが生まれ、資格取得やスキルアップに向けて意欲的に行動できる点も大きなメリットです。
さらに、未知の業務に挑戦する機会は人間としての精神的な成長を促し、新しい体験を得ることで物事の見方や捉え方に大きな広がりが生まれます。新たな知識や技術の獲得は内なる自信を育み、現在とは異なる職種に就くことで人脈の広がりが期待できるため、仕事の幅も大きく広がるはずです。このようにキャリアチェンジによって新たなスキルを身につけたり、視野を広げたりできれば人間的な成長が促進され、将来的なキャリアアップの幅も広がります。


キャリアチェンジする際の注意点
キャリアチェンジはメリットばかりではなく、いくつかの不安や懸念事項が存在します。なかでも注意すべきポイントとして挙げられるのが以下の2点です。
労働条件の悪化や収入が下がる可能性がある
キャリアチェンジによる懸念事項のひとつが雇用条件や収入面の悪化です。未経験の分野ではこれまでの知識や経験を活かすことが難しく、入社時の条件として労働条件や収入が悪化するケースが少なくありません。また基本的に異業界・異業種へのキャリアチェンジは未経験扱いになります。そのため、多くの場合は試用期間や研修期間があり、特殊な技能や資格の保有者でない限りキャリアチェンジによる年収アップは期待できません。転職時にすべての希望を満たすのは困難であるため、「やりがい」や「収入」、「人間関係」「将来性」などの優先順位を明確化することが大切です。
スキルや知識の習得が負担になってしまう可能性がある
異業界・異業種へのキャリアチェンジは多くの学びをもたらす一方、新たな知識や技術の習得が必須となります。未経験の仕事に慣れるには相応の時間を要し、周りからのプレッシャーによってストレスが蓄積されてしまう可能性もあるでしょう。とくに人間関係は非常に重要な要素であり、希望の業界・業種に転職できたとしても、上司や同僚との関係性によってはキャリアチェンジが後悔につながる可能性があります。そのため、自分自身が積極的にコミュニケーションを図り、周囲の人々に助けてもらいながら学んでいく姿勢が大切です。具体的な仕事内容や社内の雰囲気などを面接時に聞いておくのも有効な方法といえます。
キャリアチェンジを目指すなら資格取得もおすすめ!
キャリアチェンジを目指す場合は未経験の業界・業種への転職であることから、実務経験のない分野で業務に携わるのが一般的です。そのため、基本的に専門性の高い分野になるほど転職が困難になります。しかし、資格を取得すればその分野の知識や技術を有する証明となり、転職活動において有利に働く可能性が高まります。企業によっては未経験の分野に飛び込み、資格取得に向けて努力する姿勢が評価されるケースも少なくありません。ただし、資格の保有が必ずしも有利に働くとは限らないため、資格取得ばかりに気を取られないよう注意する必要があります。


キャリアチェンジを成功へと導くポイント
キャリアチェンジを成功へと導くためには、以下に挙げる6つのポイントを意識することが大切です。
どのような仕事をしたいか明確にする
キャリアチェンジの第一歩は、どのような業務に従事したいのかというビジョンの明確化です。興味のある分野や充実感を得られる業務を把握することで、スキルセットを向上させるためにすべき努力や、必要な資格を取得するための計画が明確化されます。そして目指すべき方向性を具体的な言語・数値に落とし込むことで、中長期的な視点に基づくキャリアプランの策定に寄与します。また、転職後のミスマッチを防ぐためには、入社を希望する企業を調査するプロセスも非常に重要です。企業分析に関するリサーチが不足していると、仕事内容や職場環境が自分の想像とかけ離れている可能性があるため、組織規模や財務状況、年収レベル、転職サイトでの評価などを多角的に分析する必要があります。
自分のスキルを棚卸しする
スキルの棚卸しによって自分の長所や特性を客観的に把握できれば、それを活かせる職種を選べるため、転職における成功確率が高くなります。たとえば、ITエンジニアから営業パーソンへキャリアチェンジするとしても、プログラミング分野で培った論理的な思考力や、仕様書通りに設計を組み立てる構築力は異業種でも役立つはずです。そのため、自分の内面としっかりと向き合い、自身が保有するスキルを正確に把握しなくてはなりません。また、保有するスキルを具体的な言語と数値に落とし込めれば、転職活動時に自己アピールをしやすくなり、自身が求めているポジションに就ける可能性が高まる点も大きなメリットです。
魅力を感じ取ってもらえる企業へ応募する
市場経済は需要と供給のバランスによって成り立っており、転職市場においても需給のバランスは採用活動に大きな影響を与える重要な要素です。つまりキャリアチェンジを成功させるためには、企業が求めている人材の条件と、自分の経験値や能力などが一致しなくてはなりません。たとえ専門性の高い知識や技術を有していても、そのスキルを企業が求めていなければマッチングは困難です。とくに未経験の分野ではこれまでの知見を活かせるとは限らないことから、仕事の意義や自己実現を追求する一方で、自分の人的資源としての価値を理解してもらえる企業を見極める必要があります。そのためにはスキルの棚卸しを経て、自分自身のアピールポイントを理解しておくことが大切です。
求人内容をよく確認する
求人内容の「未経験可」という表記は、細分化すると「業界未経験可」「職種未経験可」「業界・職種未経験可」の3パターンに分類されます。先述したように、転職市場は需要と供給のバランスによって成り立っているため、自分がどのパターンに分類されるのかを理解するプロセスが必要です。たとえば、Web制作会社の求人内容に「職種未経験可」と記載されている場合、システムエンジニアがWebディレクターへのキャリアチェンジはできても、保険業界の営業パーソンが転職するのは難しいかもしれません。転職の成功率を高めるためには希望する企業の求人内容をよく確認し、自分自身の経験やスキルを考慮するとともに、未経験者の入社実績や活躍実績がある企業を選択することが重要です。
応募書類で自分の魅力をアピールする
キャリアチェンジを成功させる上では、人材募集中の企業に自分の実績や経験といった魅力をアピールしなくてはなりません。そのためには自分が大切にしている価値観や理想とする在り方、得意領域や苦手分野などを整理し、客観的な視点から自己理解を深めるプロセスが必要です。このプロセスを経ることで自分でも気付いていない強みを発見し、転職時に役立てられる可能性があります。たとえば、「コミュニケーションが苦手」という性格は短所に見えるものの、一人で物事を追求する能力に長けている場合が多く、研究者やプログラマ、ライターなどの適性があると考えられます。自己分析を通して自己理解を深め、応募先が求める人物像を意識しながら職務経歴書や履歴書を作成することで、転職の成功率が高まるはずです。
転職支援サービスを活用する
キャリアプランの明確化やスキルの棚卸し、職務経歴書の作成などに自信がもてない方は転職支援サービスの活用がおすすめです。キャリアアドバイザーは転職市場の動向やトレンドに精通しており、スキルの客観的評価や自己PRの作成、自己分析の掘り下げといった転職に関する一連の施策を総合的にサポートしてくれます。キャリアアドバイザーのサポートを求めるのであれば、求職者と企業をつなぐ転職プラットフォーム「PaceBox(ペースボックス)」の活用がおすすめです。PaceBoxは求職者と企業のそれぞれにアドバイザーを配置し、個人のキャリア開発を支援します。キャリアチェンジによる自己実現を目指す方は、PaceBoxの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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面接でキャリアチェンジの理由や入社後について聞かれた時の答え方
キャリアチェンジの実現における難関のひとつは面接です。当然ながら新しい職場に転職するためには、面接を通過しなくてはなりません。面接時に聞かれる可能性の高い質問として挙げられるのが以下の2点です。
なぜ経験のある職種を続けようと思わなかったのか
企業側は長期的に雇用できる優秀な人材を求めており、自社の事業活動に貢献できる人材かどうかを見極めようとします。そのため、求職者が現在のキャリアを放棄して異なる業界・業種に転職する理由について納得のいく回答を求めます。このとき劣悪な労働環境や人間関係の複雑さなどが本当の退職理由であったとしても、そうしたネガティブな側面を伝えるのは推奨できません。自己実現やスキルアップのためなど、ポジティブな姿勢を伝えることで面接官の心証が良くなります。ただし、上辺だけを取り繕っても見透かされる可能性が高いため、自己分析を通して本心に基づくキャリアチェンジの前向きな理由を伝えつつ、前職の経験を活かせるというアピールをすることが大切です。
希望しない部署への異動は問題ないか
企業が求める人材像のひとつとして挙げられるのが、環境の変化に対する柔軟性です。自己実現や自己成長を目的としてキャリアチェンジを希望する場合、特定の職種に対するこだわりが強く、融通のきかない人材ではないかと懸念される可能性があります。企業を取り巻く環境は常に変化しているため、自己実現を目的として転職に成功しても、その先で望むキャリアプランを歩めるとは限りません。この質問を受けた場合、属する部署や労働環境の変化に対する柔軟性を問われていると考えられます。雇用される立場である以上、すべてを自分の思い通りにすることはできません。しかし労働者にも職業選択の自由があるため、先方の意向を加味しつつ、異動の辞令や可能性について質問をしても問題はないといえます。
キャリアチェンジを成功させるためのポイントを押さえましょう
キャリアチェンジは異なる業界・業種に挑戦する転職方法のひとつです。この方法は成長機会を提供してくれる一方、環境の変化による不安やリスクも伴います。キャリアチェンジを成功させるためには将来のビジョンを明確化し、自分の魅力をアピールするスキルを学ぶとともに、転職支援サービスを活用するといった工夫が必要です。
