「公務員が懲戒免職になった」というニュースが時折流れることがありますが、懲戒免職とはどのような処分を指すのか気になっている人もいるのではないでしょうか。懲戒免職は非常に重い処分のため、自分の人生が変わってしまう可能性があるといっても過言ではありません。本記事では、懲戒免職という言葉の意味のほか、懲戒免職として処分される4つのケースや、懲戒免職になってしまったときの対策などについて解説します。


目次
懲戒免職とはどういう処分か
懲戒免職とは公務員に対する懲罰のひとつで「強制的な解雇(いわゆるクビ)」を指す言葉です。公務員に対する懲罰は戒告(口頭・文書で将来への戒めを施す処分)、減給(一定期間職員の給料を減らす処分)、停職(一定期間、仕事をさせずに無給とする処分)などがありますが、そのなかでも懲戒免職は最も重たいものです。
懲戒免職が行われる際の流れは、まず該当事案の関係者に対する事実確認から始まります。根拠が曖昧だと不当解雇と見なされる場合もあるので、客観的な事実に基づいたうえで徹底的に調査を進めます。次に行われるのが、職員本人が弁明をする場の設定です。職員に弁明の機会を与えなかった場合には、手続上の相当性を欠くとして懲戒処分が取り消される可能性があります。また、調査のなかでは過去に同様の事案があったかどうかも確認し、処分を下す際の参考材料とします。具体的な懲戒処分の程度の決定は、国や地方公共団体等の懲戒権者が懲戒審査委員会等で審議が行ったうえで決定されます。
懲戒免職が決定されれば、懲戒処分の内容や発令日、処分の事由等を記載した懲戒処分書や処分説明書を作成します。
以上が公務員の懲戒免職の大まかな流れですが、民間企業ではこの懲戒免職は懲戒解雇として呼ばれることが多くなっています。
弁明の機会を設けたり、懲戒委員会等での決定を行うといったプロセスは同じように踏む必要があります。


懲戒免職になってしまうケース
懲戒免職に該当する行為は国家公務員の場合には、人事院が指針を出していて、大きく分けると4つのケースがあります。ここからは、それぞれのケースについて詳しく解説します。
一般服務関係
一般服務関係の懲戒免職とは、正当な理由なく21日以上欠勤したり、職務上知った機密情報を故意に漏洩して公務の運営に損害を来したりする行為を対象にします。また、公文書を改ざんしたり、入札談合などの違法行為に関与する行動も一般服務関係の懲戒免職にあたります。入札談合とは、公共に関わる物品調達や工事の入札において、入札に参加する企業同士が事前に協議をして価格や受注順序を決め、競争をやめてしまう行為のことです。本来入札というものは公正な競争を行うことを目的としているため、不当な取引は禁止されています。そのほか、強制わいせつや執拗なセクシャルハラスメントをして他者を不快にさせたり、パワハラで相手にストレスを与えて精神疾患に罹患させたりした場合も懲戒免職になる可能性があります。
公金官物取扱い関係
公金官物に関して、横領、窃取、詐取を行うと、公金官物取扱い関係の懲戒免職となります。また、公金官物ではなくても、他人の所有物を横領したり金銭を恐喝して奪ったりした場合も懲戒免職、または停職処分の対象になります。過失による公金官物の紛失・損壊は戒告や減給で済むこともありますが、悪質性があると判断されれば懲戒免職になるでしょう。
公務外非行関係
公務外非行関係の懲戒免職とは、犯罪行為全般を指します。例えば、放火、殺人、横領、窃盗・強盗、詐欺・恐喝などの深刻な犯罪は懲戒免職の対象です。そのほかにも、危険ドラッグ(麻薬や覚せい剤など)の所持、18歳未満者に対する淫行などの違法行為も公務外非行関係として懲戒免職になる可能性が高いです。
飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係
酒気帯び運転で交通事故を起こしたり、事故後に、措置義務に反して被害者を救助しなかったりした場合も懲戒免職の対象となっています。飲酒運転をしていなくても、交通事故によって人が死亡したり重傷を負ったりしたときは懲戒免職になる恐れがあります。事故によって現場がどの程度被害を負ったか、被害者(負傷者)をどの程度救助したかによって、懲戒免職になるかどうかが左右されます。また、車の運転をする職員にお酒を勧めたり、運転者がお酒を飲んだことを知っていながらその車に乗った職員も飲酒運転への関与度を考慮したうえで同罪として懲戒免職になる可能性があります。


企業が懲戒解雇を判定するための7原則
以上のように公務員に対する懲戒免職となりうる事象や懲戒処分の種類等は法律・指針によって定められているものです。しかし、企業が懲戒免職にあたる懲戒解雇を行う際、労働契約法という法律の第15条で「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」という定めはありますが、具体的な懲戒基準等の法律は作られていません。そのため、企業に対しては慎重な判断が求められることになります。
具体的な法律はありませんが、多くの裁判判例を積み上げてできた判例法理という懲戒処分が有効となるにあたって必要な原則があります。そこで今回は、企業が懲戒解雇を含む懲戒処分を行うときの判断に用いられるこの7原則についてそれぞれ解説します。
1.適正手続きの原則
適正手続きの原則とは、事実関係を入念に調査し、弁明の機会を与えるなど適正なプロセスを踏んで処分するべきという内容です。第三者の証言やイメージだけに影響されないよう、客観的な情報を収集して懲戒の手続きを行う必要があります。前述のとおり、曖昧な根拠や先入観だけで判断してしまうと、不当な処分となってしまうことがあるからです。また、会社の就業規則・懲戒規程や労働協約に懲戒に関する定めがあれば、それに準じて手続きを踏むことも求められます。
2.個人責任の原則
個人責任の原則とは、個人の起こした問題行動に対して連帯で責任を負わせてはいけないという内容です。問題を起こした人物を特定し、個人単位で処分するのが正当だとされています。ただ、就業規則などで別途規定がある場合、部下の違反行為に対する管理職の責任問題を追及し、処分対象と見なされることもあります。
3.相当性の原則
相当性の原則とは、懲戒を行うからには事由がそれ相応でなければならないという内容です。事案の背景や経緯、情状酌量の余地などを調べた結果、処分が重すぎるようであれば懲戒は無効となります。懲戒は、誰が見ても妥当なものであると言えるものでないといけないのです。
また、問題が発覚してから長年処分の対象とならなかった事由を突然処分するといったケースも処分が相当ではないと判断されるケースがあります。


4.平等取り扱いの原則
平等取り扱いの原則とは、以前に同様の事案が起こっていた場合、そのときと同じ処分をしなくてはならないという内容です。同じ問題に対して別の処分を下すと平等性を欠くことになるので、企業は懲戒の対象となる人によって対応を変えることなく公平な処分を行う必要があります。例えばもし仮に、優秀だからと職員の違反行為を見逃した経緯が過去にあった場合、その後ほかの職員が同様の問題行動を起こした際に平等取り扱いの原則により処分を下した際に無効となるリスクがありますのでくれぐれも注意しましょう。能力や業績にかかわらず、日頃から平等な視点をもっておくことが重要といえます。
5.効力不遡及の原則
効力不遡及の原則とは、問題が発生した後に処分規定を定めても、その問題に対して効力は発揮しないという内容です。新規定が有効となるのは、制定後に新たな問題が起こったときからとなります。そのため、処分に関するルールや規定は定期的に見直し、社会情勢なども考慮しながら、懲戒事由を早めに決めておく必要があります。昨今は懲戒事由も多様化しているため、規定を整える際はあらゆるケースを想定して柔軟に対応するようにしましょう。
6.二重処分禁止の原則
二重処分禁止の原則とは、ひとつの事案に対して2回以上の処分を禁止するという内容です。すでに何らかの処分を行っていた場合、蒸し返してさらに処分を受けさせることは基本的にできません。例えば事案調査のために当該従業員を無給で自宅待機させた場合、無給であることそれ自体が懲戒処分にあたるとみなされる可能性があります。そうなると、その後免職の処分を下そうと思ってもできない可能性があるのです。
7.刑罰法定主義の原則
刑罰法定主義の原則とは、懲戒処分するのであれば事前に処分の対象になる行為や内容などを明確にしておかなくてはならないという内容です。労働基準法第89条においても、解雇に関する事由を就業規則に明記して周知させておくことが定められています。企業の経営者が主観だけで就業規則に定められていない事案で処分を下すことはできません。


懲戒免職になった際に発生するリスク
懲戒免職で職を失うと、転職活動や退職などに大きな影響が出てきます。ここからは、公務員が懲戒免職になった際に発生するリスクについて解説していきます。
再就職がしにくくなる
民間の一般企業で懲戒解雇になっても名前が公開されることはありませんが、公務員が懲戒免職になる場合、懲戒の中でも一番重大な事案であるため、その事案の社会的影響が大きいようであれば名前や職名が公表されるケースがあります。そのため、必然的に再就職が難しくなる可能性があります。また、国家公務員は、懲戒免職処分を受けた日付から2年が経たないと国家公務員の仕事に就けません。これは国家公務員法第38条で定められている内容です。地方公務員も、懲戒免職処分を受けた日付から2年間は同じ地方公共団体の地方公務員の職に就くことができなくなります。こちらも国家公務員同様に、地方公務員法第16条で規定があります。万が一経歴を偽って公務員に再就職した場合、規定に違反していたことが発覚すれば採用を取り消されるので虚偽行為はしないようにしましょう。
公務員から民間企業に転職するのであれば、応募期間に制限はありません。しかし、懲戒免職で前職を失ったことが発覚すれば、不採用になる確率が高くなるでしょう。また、前職での賞罰の履歴があるかを面接で聞かれた場合に、正直に懲戒免職の事実を告げないで採用された場合でそれが発覚した場合、虚偽による雇い入れとなり採用が取り消される事案となります。
また、一概には言えませんが、公務員と民間企業では業務の性質や求められているスキルはやや異なると考えられるため、民間企業から民間企業への転職よりは公務員から民間企業への転職はややハードルが高く感じられるかもしれません。
懲戒免職になった場合には、上述のとおり公務員への転職制限があることもあり、次の仕事を探すことのハードルは高くなると考えていたほうがいいかもしれません。
退職金は基本的にはもらえない
懲戒免職の処分が下されると、原則として退職金はもらえなくなります。国家公務員の場合、懲戒免職の際に退職金の全額、あるいは一部が支給されないことは、国家公務員退職手当法第12条で定められています。地方公務員についても、多くは国家公務員に準じた仕組みを採用していることもあり、地方公務員の場合も、懲戒免職処分の際には退職金の全部または一部は不支給となるのが原則となるでしょう。公務員は一般企業とは異なり、賃金支給額は法律や地方条例によって変わってきます。退職金も同じく、法令に基づいて支給額が決まるため、懲戒免職ともなるとたとえ退職金が支給されたとしても少額になってしまうのは避けられません。懲戒免職で失職し、生活に困窮しないようくれぐれも日頃から正しい行いをすることを心がけましょう。ただし、退職金の減額や不支給が決定しても、失業手当に相当する額を退職時に支払われるケースはあります。
公務員は、ルール上雇用保険に入ることができません。失業手当は雇用保険加入者しか受け取れないため、代替措置としてこの相当額が勤め先から支給される場合があります。
また、懲戒免職が想定される際は、先回りして自ら依願退職を申し出るケースがあります。これは、依願退職の場合は原則退職金が支給されるためです。ただし、依願退職が必ずしも認められるとは限りません。刑事手続きなどがすでに確定している場合は、本人がどのタイミングで申し出をしたとしても懲戒免職として処分される可能性は高いでしょう。


懲戒免職に万が一なってしまったときの対策
懲戒免職を受けた公務員は、要件を満たせば人事院や人事委員会に対して「審査請求」を行って異議申し立てをすることができます。懲戒免職に納得ができなければ、弁護士などの専門家に相談してみてもいいでしょう。ただし、審査請求は期限が決まっているので、決心したら早めに動くことが重要です。審査請求後の判定結果にも納得がいかない場合は、裁判所に処分の取り消しを訴えることも可能ではあります。
また、懲戒免職には納得していても、その後なかなか仕事が見つからずに困っている人も多いことでしょう。公務員として復帰するのが難しく、民間への転職も厳しい状況であれば、フリーランスや起業など、組織に属さない働き方を検討するのもひとつの手段ではあります。ただし、自分の力で生計を立てていくには分野を問わず相当のスキルや知識が必要になってくるでしょう。そのほかにも、民間企業への転職を検討する際は転職エージェントを利用してみるのもおすすめです。就職のプロに相談しながら転職活動を進めることができるので、懲戒免職になって先行きが不安な状態のときには大変心強いでしょう。
懲戒免職のリスクを知り該当する行動は絶対に取らないことが大切
懲戒免職を受けると職を失うだけでなく、退職金がもらえなかったり、再就職が難しかったりと、深刻なリスクが多く発生します。懲戒免職に該当する行動は取らないように日々注意することが大切です。万が一懲戒免職になってしまい、処分に納得ができないときは、できるだけ早めに異議申し立てをして処分の取り消しに動くようにしましょう。
