年収から手取りの計算をしたくても、複雑に感じる方も多いのではないでしょうか。会社員の給与は、額面から「税金」や「社会保険料」などが引かれて支給されます。そのため、手取り額を見て、ショックを受けた経験もあるでしょう。そこで、今回は「年収から手取りを計算する方法」と「収入アップの手段3選」を紹介します。自身の手取りを把握することで、今後の貯蓄や計画に役立てられるでしょう。


目次
年収の額面から手取りを計算する方法
まずは、手取りを計算する前に「年収」「額面」「手取り」の意味を確認しておきましょう。これらの意味を理解しておくことで、給与明細を確認するときや手取り計算をするときに役立ちます。それぞれの意味は以下のとおりです。
・年収:税金や保険料が引かれる前の「総支給額」
・額面:「総支給額」と同じ意味で、会社から支払われる合計金額。給与明細の「総支給合計」に記載されている。
・手取り:税金や保険料などが引かれた後に、実際に手元に入ってくる金額。給与明細では「差引支給額」に記載されている。
以上の意味を理解したうえで、手取り計算をしていきましょう。
「年収額面×75~85%」が手取りの目安
手取り金額を正確に計算するには、個人それぞれの状況を把握する必要があります。年齢や家族構成、居住地域などによって税金や社会保険料の金額が異なるからです。ここでは、おおよその年収額の計算方法について説明します。
手取りは、年収額面の75〜85%程度に収まることが多いと一般的にいわれています。例えば年収400万円なら、手取りは300〜340万円が目安です。ざっくりと手取りを知りたいときは「年収額面×75〜85%」の計算方法を覚えておくとよいでしょう。
【額面別】年収と手取りの目安一覧
ここでは、年収額面の75〜85%を手取りの目安とした「手取り早見表」を紹介します。表記は、年収200〜年収2000万円までです。1000万円までを50万円刻み、1100万円からは100万円刻みで紹介します。
【年収の早見表】
・額面年収200万円=手取り150万円~170万円
・額面年収250万円=手取り187万5000円~212万5000円
・額面年収300万円=手取り225万円~255万円
・額面年収350万円=手取り262万5000円~297万5000円
・額面年収400万円=手取り300万円~340万円
・額面年収450万円=手取り337万5000円~382万5000円
・額面年収500万円=手取り375万円~425万円
・額面年収550万円=手取り412万5000円~467万5000円
・額面年収600万円=手取り450万円~510万円
・額面年収650万円=手取り487万5000円~552万5000円
・額面年収700万円=手取り525万円~595万円
・額面年収750万円=手取り562万5000円~637万5000円
・額面年収800万円=手取り600万円~680万円
・額面年収850万円=手取り637万5000円~722万5000円
・額面年収900万円=手取り675万円~765万円
・額面年収950万円=手取り712万5000円~807万5000円
・額面年収1000万円=手取り750万円~850万円
・額面年収1100万円=手取り825万円~935万円
・額面年収1200万円=手取り900万円~1020万円
・額面年収1300万円=手取り975万円~1105万円
・額面年収1400万円=手取り1050万円~1190万円
・額面年収1500万円=手取り1125万円~1275万円
・額面年収1600万円=手取り1200万円~1360万円
・額面年収1700万円=手取り1275万円~1445万円
・額面年収1800万円=手取り1350万円~1530万円
・額面年収1900万円=手取り1425万円~1615万円
・額面年収2000万円=手取り1500万円~1700万円


年収から引かれるのは「税金」と「社会保険料」
手取りを正確に把握するためには、年収から引かれる「税金」と「社会保険料」を理解する必要があります。また、税金や社会保険料の仕組みを知ることで、上手に控除を利用でき、負担額を減らせるようになるでしょう。税金は2種類、社会保険料は4種類あるため、それぞれひとつずつ解説していきます。
税金
会社員が給与・賞与から引かれる税金には所得税と住民税の2種類があります。どちらの税金も年収によって負担する額が変わってきます。下記でそれぞれ詳しく説明していますので、確認していきましょう。
所得税
所得税は所得に対してかかる税金です。所得とは「収入」から「必要経費」を引いて残った額です。所得は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」の欄で確認できます。なお、所得税は次のとおりに計算されます。
所得税=(収入-給与所得控除-所得控除)×税率-税額控除
会社員は、事業主のように必要経費が特にない代わりに「給与所得控除」や「所得控除」を収入から控除できます。給与所得控除額は、年収に応じて決められています。まずは、給与所得控除額の速算表を確認していきましょう。
【給与所得控除額の速算表(令和4年分)】
・給与収入162万5000円以下…55万円
・給与収入162万5000円超180万円以下…収入金額×40%-10万円
・給与収入180万円超360万円以下…収入金額×30%+8万円
・給与収入360万円超660万円以下…収入金額×20%+44万円
・給与収入660万円超850万円以下…収入金額×10%+110万円
・給与収入850万円超…195万円(上限)
上記の速算表を元に給与所得控除額を算出し、「収入-給与所得控除額」の計算をします。さらにここから所得控除が適用されます。所得控除は15種類ありますが、比較的耳にするのは「基礎控除」「医療費控除」「生命保険控除」「配偶者控除」「扶養控除」などではないでしょうか。
こうして、収入からさまざまな控除がされた後に、「課税所得金額(1000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)」が算出されます。さいごに、課税所得金額に対して決められた税が課されて所得税が決定します。所得税の速算表は以下のとおりです。
【所得税の速算表(令和4年分)】
・課税所得金額1000円以上194万9000円以下…課税所得金額×5%
・課税所得金額195万円以上329万9000円以下…課税所得金額×10%-9万7500円
・課税所得金額330万円以上694万9000円以下…課税所得金額×20%-42万7500円
・課税所得金額695万円以上899万9000円以下…課税所得金額×23%-63万6000円
・課税所得金額900万円以上1799万9000円以下…課税所得金額×33%-153万6000円
・課税所得金額1800万円以上3999万9000円以下…課税所得金額×40%-279万6000円
・課税所得金額4000万円以上…課税所得金額×45%-479万6000円
このように計算した所得税から「税額控除(住宅借入金等特別控除など)」があれば、差し引いて最終的な所得税が決定します。所得税は毎月の給与から「概算で天引き」され、年末調整で過不足額が清算される仕組みです。その他に「復興特別所得税」というものがあり、所得税と同じく給与から天引きされます。復興特別所得税は「所得税×2.1%」で求められます。
住民税
住民税は都道府県・市区町村に対して支払う税金です。1月1日時点で住民票がある自治体に納めるものとなっています。住民税は「前年中に一定以上の所得がある人」が納める税金のため、新卒1年目に住民税が発生する場合はほとんどありません。入社2年目の6月〜翌年5月にわたって、分割された住民税が毎月の給与から天引きされる仕組みとなっています。そのため、2年目になって年収の額面が増えたにもかかわらず、手取りが減るという現象がよく起きます。
また、新卒は4月入社が多く、4月〜12月分までの所得を元に計算されます。したがって、2年目に引かれる住民税は、9ヶ月分です。3年目になると、前年1月~12月の1年分の住民税を納めるようになるため、給与がアップしない限り、さらに手取り額が減ってしまいます。このような住民税の仕組みを理解したうえで、次の年の手取り額を計算できるとよいでしょう。


社会保険料
社会保険は病気やケガ、出産や労働災害などの理由により休職、もしくは失業し生活に困難をもたらす状況が生じた場合に利用できる国の保険制度です。社会保険料は収入によって支払う金額が異なります。計算方法には「標準報酬月額」を利用します。標準報酬月額とは、給与などの平均額を等級別に分けたものです。毎年4月〜6月の給与平均額を元に決定し、その年の9月から翌年8月まで適用されます。
会社員の年収から引かれる主な社会保険料は以下の4つです。
・厚生年金保険料
・健康保険料
・介護保険料
・雇用保険料
それぞれ、ひとつずつ詳しく説明していきます。
厚生年金保険料
厚生年金保険料は、将来受け取る「公的年金」のために会社員が支払う保険料です。日本の年金制度は、2階建ての構造です。1階部分は全ての国民が加入する国民年金、2階にあたる部分が厚生年金になります。会社員は基本的に厚生年金に加入しているため、国民年金に上乗せされた年金額を受け取れる仕組みとなっています。厚生年金保険料は、会社が半分負担してくれる制度です。そのため、計算方法は次のとおりになります。
【厚生年金保険料】
毎月の保険料額=標準報酬月額×18.3%
賞与の保険料額=標準賞与額×18.3%
(2022年時点での保険料率は18.3%で固定されています)
このように計算された毎月の保険料額・賞与の保険料額ともに2で割った額が自己負担分となります。
自己負担分=毎月の保険料額÷2
自己負担分=賞与の保険料額÷2
さらに具体的な例を挙げて見ていきましょう。標準報酬月額が20万円(報酬月額19万5000円以上21万円未満)の方が負担する厚生年金保険料は次のとおりになります。
・標準報酬月額20万円×18.3%=3万6000円
・3万6000円÷2=1万8000円
標準報酬月額は給与明細に記載されている「報酬月額」によってそれぞれ異なります。計算する前に加入している健康保険組合の「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」で確認しましょう。また、厚生年金保険料は給与の他にボーナスなどの賞与に対しても課せられます。標準賞与額の計算方法「賞与の額から千円未満の端数を切り捨てた額」に保険料率を掛けて算出します。具体的な例は次のとおりです。
・賞与20万4500円(千円未満を切り捨てる)→標準賞与額20万4000円
・標準賞与額20万4000円×18.3%=3万7332円
・3万7515円÷2=1万8666円
このように、給与と賞与では計算方法が異なるので計算する際にはご注意ください。
健康保険料
健康保険料は、公的医療保険に加入するための保険料です。健康保険に加入していることで、医療費の自己負担額が1〜3割で済みます。また、子どもが生まれたときの「出産手当金」や、病気やケガで働けない期間がある場合には「傷病手当金」などが受けられます。健康保険料の計算方法は以下のとおりです。
・健康保険料=標準報酬月額×保険料率
・自己負担分=上記で計算された健康保険料÷2
健康保険料も会社と折半になります。しかし、保険料率は「収入」と「加入している健康保険組合」によって異なります。保険組合は「健康保険組合」と「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の2種類です。協会けんぽの保険料率は、都道府県ごとに設定されています。具体的な計算方法は次のとおりです。
【例:標準報酬月額20万円・「東京都で協会けんぽ」に加入しているケース】
(※介護保険第2号被保険者(40 歳〜 64 歳の保険加入者)に該当しない人)
・標準報酬月額20万円×保険料率9.81%=1万9620円
・1万9620円÷2=9810円
それぞれの保険組合では「保険料額表」を公表しています。ご自身で計算するときの参考にしてください。


介護保険料
介護保険料の納付義務が発生するのは、40歳からです。加入することで、介護サービス利用料や介護用品の購入費に保険が適用されます。介護保険料は次の計算方法で求められます。
・介護保険料=標準報酬月額×保険料率
・自己負担分=上記で計算された介護保険料÷2
介護保険料も会社と折半できる仕組みとなっています。
雇用保険料
雇用保険は、会社を退職して失業している期間に必要な給付を受けられる制度です。雇用保険料の計算方法は次のとおりです。
・雇用保険料 =額面給与(賞与) × 雇用保険料率
雇用保険料率は、業種によって異なります。また、毎年見直しがされており、変更がある場合は、4月1日から施行されます。各保険料率は、厚生労働省「雇用保険料率のご案内」で確認できます。雇用保険料は、会社と折半ではなく、分割負担です。次に具体的な例を挙げて、雇用保険料の計算を紹介します。
【業種:一般事業・2022年10月1日~2023年3月31日までの雇用保険料率(労働者負担分)】
・額面給与20万円×雇用保険料率(5÷1000)=1000円
・額面賞与30万円×雇用保険料率(5÷1000)=1500円
このように、給与と賞与の額面収入に雇用保険料率を掛けて算出します。雇用保険は、正社員でなくても加入対象条件を満たしていれば、契約社員、派遣社員、アルバイトでも加入が義務づけられています。
年収・手取りアップの方法3選
もし、現状が理想の年収・手取りに届いていないなら、早めに行動を起こしておくとよいでしょう。ここでは「年収をアップする方法」や「税金の支払いを抑える方法」を紹介します。
・各種控除を利用する
・昇給・昇格を勝ち取る
・転職する
以上の3つをそれぞれ詳しく説明します。
1.各種控除を利用する
控除を利用することで、毎月の給与から天引きされる税金を抑えられます。税金が抑えられた分、手取り額も増えるため控除は積極的に利用していきましょう。控除には所得から差し引く所得控除と、税金から直接差し引く税額控除があります。わたしたちの生活に身近な所得・税額控除の一部をまとめました。
【主な所得・税額控除一覧】
・社会保険料控除
・小規模企業共済等掛金控除
・生命保険料控除
・地震保険料控除
・寡婦・寡夫控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・障害者控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
・基礎控除
・雑損控除
・医療費控除
・寄付金控除(ふるさと納税など)
・住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
これらの控除が受けられるのであれば、年末調整の際に申請しましょう。ただし、自分で確定申告が必要な控除もあります。「雑損控除」「医療費控除」「寄付金控除(ふるさと納税など)」「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」は確定申告が必要です。住宅ローン控除は初年度のみで、2年目以降は会社の年末調整で手続きできます。


2.昇給・昇格を勝ち取る
社内でコツコツと昇給・昇格を目指して所得を増やしていくには、リサーチと計画が必要です。上司や先輩などから給与水準を聞き、それが自分の理想と比較して、十分な金額ならそのままの会社で将来の計画を立てるとよいでしょう。また、実績を評価してくれる組織体制であるかも確認しておく必要があります。
年功序列で昇格していく体制では、努力して結果を出しても、正当に評価されないため意味がありません。あなたより先に入社した上司・先輩が理想の収入を得ているかをチェックし、達していないようであれば、転職も視野にいれてみるとよいでしょう。
3.転職する
転職は、大きく早急に年収アップするための手段です。近年、少子高齢化による人手不足は続いており、転職によって収入が上がる可能性は十分にあります。今すぐ転職するつもりがなくても、リサーチをしておくとよいでしょう。自身の市場価値を知るためには、どの「業界・職種」であれば経験を活かせるか探る必要があります。また、活かせそうな業界・職種を見て、年収相場も確認してみましょう。将来の理想的な生活のために、今から準備をしておくことをおすすめします。
年収から手取りを計算する方法まとめ
今回は「年収から手取りを計算する方法」と「収入アップの手段3選」を紹介しました。もし、あなたが現状の手取りに満足しておらず、昇給・昇格も期待できないようなら、転職を検討してみるのもおすすめです。
