基本的に、内定承諾後でも辞退はできます。しかし、辞退すると損害賠償を請求される可能性や、研修費用の返還を求められる可能性などのリスクを伴うため、伝え方に気をつけなければなりません。
本記事では、内定辞退の伝え方や押さえておくべき7つのポイントを解説します。


目次
内定承諾後の辞退は可能?

内定承諾後でも、辞退できる場合があります。内定承諾書の提出前と内定承諾後の辞退の違いについて、ここから確認していきましょう。
内定承諾書の提出前は辞退可能
企業から内定の連絡(内定通知)を受けても、内定承諾書の提出前は辞退できます。内定承諾書とは、企業と内定者の間で「内定」に対する承諾を確認するための契約書です。一般的に、内定通知書(内定証明書、採用通知書)を受け取ってから1週間以内に、内定者は送付状を添えて内定承諾書を企業に提出します。内定承諾書を提出する前であれば、内定者はそもそも「内定」に承諾していないため、問題なく辞退できるでしょう。
内定承諾後の辞退も法的には問題ない
実は、内定承諾(内定承諾書提出)後の辞退でも、法的には問題ありません。
民法第627条1項には、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する」との規定があります。そのため、内定承諾書を提出して労働契約を締結していても、2週間の予告期間を設ければ契約解除が可能です。ただし、内定承諾後に内定者用の備品を企業が購入している場合、費用分の賠償を請求される可能性があります。
誠意ある対応が不可欠となる
内定承諾後でも辞退は基本的に可能ですが、誠意ある対応が不可欠です。自分が内定を受けたことで、本当にその企業に入社したいと考えていた人が不採用になっていることがあります。また、採用担当が採用活動を再開しなければならないため、企業にさらなるコスト・負担がかかるでしょう。
このように、ギリギリで内定辞退を伝えることで、多くの人に迷惑をかけます。内定辞退を当然の権利と考えずに、丁寧かつ真摯に企業に事情を伝えるようにしましょう。誠意ある対応を取るには、辞退を決断次第早めに企業へ伝える心がけも大切です。
内定承諾後に辞退する場合はいつまでに連絡をするべき?

民法第627条1項で「解約の申し入れの日から2週間経過後に雇用関係が終了する」ことが定められているため、入社予定日の2週間前までには辞退の旨を連絡するべきです。2週間を切ってから連絡すると、入社予定時点で雇用関係を解消できず、トラブルの元になるため注意しましょう。
また、正式に入社する2週間前までなら、簡単に辞退できるわけではありません。入社予定日が近づくにつれて、企業では受け入れの準備を進めています。たとえ2週間と1日前に連絡したとしても、採用担当者はいい気持ちをしないでしょう。
最終面接まで進んだとき、内定通知を受けたとき、内定承諾書を提出するときなど、辞退を伝えるタイミングはいくつもあります。入社予定日の2週間前にこだわらず、辞退を決断したら早めに伝えるようにしましょう。


内定承諾後に辞退するリスク

基本的に、内定承諾後でも辞退はできますが、さまざまなリスクを伴います。そのため、安易に辞退せずに、各リスクを考慮したうえで決断することが大切です。内定承諾後に辞退するリスクとして、以下の点が挙げられます。
- 損害賠償請求をされる可能性もある
- 研修費用の返還を求められる可能性もある
- 子会社や関連会社の選考で不利になる可能性もある
各リスクを確認していきましょう。
損害賠償請求をされる可能性もある
内定承諾書自体に法的拘束力はないですが、提出後労働契約が成立しているため、契約違反として損害賠償を請求されうる点がリスクです。
損害賠償とは、債務不履行や不法行為で他人に損害を与えた人が、被害者に対してその損害を補償することを指します。民法第415条に「債務の履行が不能であった際に、債権者が債務者に損害賠償請求が可能」と定められているため、労働契約を履行(入社)しないと、企業から損害賠償を請求されることがあるでしょう。
さらに、万が一裁判まで起こされると、精神的・身体的に負担がかかります。企業にとっても負担がかかるため、裁判になる可能性は決して高くないですが、ある程度覚悟はしておきましょう。
研修費用の返還を求められる可能性もある
状況次第で、研修費用の返還を求められる可能性がある点もリスクです。例えば、「スキルを高めるために受講したい」と内定者が自発的に研修を受け、企業で費用を負担することがあります。この際、自己都合で退職した場合に研修費用を返還する旨の契約を交わしていれば、辞退した際に受講した研修費用の返還を求められるでしょう。
一方、企業が内定者に受講義務を課する「新入社員教育」にかかる費用は、一般的に企業が負担します。内定辞退があったとしても、基本的に企業は内定者に研修費用の請求をできません。
子会社や関連会社の選考で不利になる可能性もある
内定承諾後に辞退することで、子会社や関連会社の選考で不利になる可能性がある点もデメリットです。辞退した企業とその子会社・関連会社との間で、内定辞退者に関する情報を共有していれば、選考時点で「内定辞退しうる人物」と認識されかねません。
気が変わり、数年後に内定辞退した企業を再受験する場合も、当然入社は難しいでしょう。一般的に、企業は「また内定辞退される」「入社してもすぐ辞める」と考えて、内定を出そうとしません。あとになって魅力に気づき後悔することのないように、応募した企業やその関連会社の良さも考慮したうえで内定辞退を決断しましょう。


内定承諾後の辞退する際の伝え方と例文

内定承諾後に辞退する際、できるだけ相手に不快感を与えないように、伝え方を理解しておくことが大切です。伝える手段として、以下の3つが考えられます。
- 電話
- メール
- 手紙
電話の場合、声のトーンなどから相手に誠意を伝えられます。ただし、気まずさがあるため、ややハードルが高いでしょう。その点、メールであれば電話よりも心理的負担がなく相手に伝えられます。一方、採用担当者にメールを見落とされる可能性がある点に注意が必要です。手紙は手間がかかる分、誠実な印象を与えられます。しかし、届くまでに日数がかかるため、入社まで日数が残されていない場合は避けた方がよいでしょう。
いずれの手段も一定の手間や心理的負担はかかります。だからといって、「連絡しない」という選択だけはしないようにしましょう。ここから、内定承諾後に「電話」「メール」「手紙」で辞退する際の伝え方や例文を紹介します。
電話
内定承諾後に、電話で辞退を伝える際の流れは以下のとおりです。
- 自分の名前を名乗り、用件を伝える
- 内定を辞退すること、それに対する謝罪の意を伝える
- 先方から質問があれば、回答する
- 内定に関するお礼を述べ、再度謝罪する
- (終了)電話を切る
電話での伝え方の流れを踏まえ、例文を紹介します。
お世話になっております。〇〇と申します(1)。 採用担当の××様はいらっしゃいますでしょうか。 (先方の担当者が電話に出る) 内定承諾書を提出したあとで、大変申し訳ございません。御社からの内定を辞退したく、ご連絡を差し上げました(2)。 (理由を尋ねられた場合) 他社からも内定をいただき、自分の適性などを考慮した結果、そちらへの入社を決意しました(3)。 この度は、内定をいただき誠にありがとうございました。 また、貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、このような形になってしまい大変申し訳ございません。 本来であれば直接伺い謝罪するべきところ、電話でのご連絡となり恐縮です(4)。 それでは、失礼いたします(5)。 |
メール
内定承諾後に、メールで辞退を伝える際の流れは以下のとおりです。
- 件名に用件と氏名を入力する
- 宛先を入力する
- 挨拶文や用件を入力する
- 辞退の意向を伝える
- 謝罪と感謝を伝える
- 締めの挨拶を入力する
メールでの伝え方の流れを踏まえ、例文を紹介します。
(件名) 内定辞退のご連絡/〇〇(氏名)(1) (本文) 株式会社×× 採用担当 ××様(2) お世話になっております。〇〇です。 内定辞退のご連絡で、メールいたしました(3)。 先日、内定承諾書を提出いたしましたが、事情が変わり内定の辞退をさせていただきたくご連絡を差し上げました(4)。 貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、このような形となり申し訳ございません。選考過程でお時間いただき、内定を出していただいたこと、改めてお礼申し上げます(5)。 本来であれば貴社にお伺いし、直接お詫びすべきところ、メールにて失礼いたします(6)。 署名 |
手紙
内定承諾後に、手紙で辞退を伝える際の流れは以下のとおりです。
- 前文を書く
- 主文(内定辞退の旨)を書く
- 末文を書く
- 後付け(日付・署名・宛名)を書く
- 便箋を三つ折りにして、白無地長形封筒に入れる
手紙での伝え方の流れを踏まえ、例文を紹介します。
拝啓 〇〇の候、貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます(1)。 先日は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。 電話でお話をさせていただきましたが、誠に勝手ながら内定を辞退させていただきたくご連絡いたしました。 最後まで悩みましたが、自分の適性などを考慮した結果、内定いただいた別の会社への入社を決意いたしました。 選考で貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、このような結果となりましたことを深くお詫び申し上げます(2)。 末筆ではございますが、貴社ますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。 敬具(3) 令和◯年◯月◯日 (自分の氏名) 株式会社×× 採用担当××様(4) |
手書きで縦書きにすると、より誠意を伝えられるでしょう。また、できるだけ早く伝えるために、速達で送ることが大切です。


内定承諾後に辞退する際の押さえておくべき7つのポイント

内定承諾後の辞退にはリスクがつきまとうため、いくつかのポイントを押さえておかなければなりません。主なポイントは以下の7つです。
- 辞退する前によく考える
- 他社と迷っている間は研修などは受けない
- 辞退が決まったらなるべく早く連絡する
- 辞退する理由を正直に伝える
- 営業時間内に連絡する
- 引き止められた場合は曖昧な返答をしない
- 会社に呼び出されたときは基本的には応じる必要はない
それぞれ、確認していきましょう。
1.辞退する前によく考える
トラブルになったり、後悔したりすることがないように、辞退する際は事前によく考えることがポイントです。辞退前に、その企業が本当に自分の希望にあっていないのか考えてみましょう。
すべてが自分の希望に合う企業で働くことは、簡単ではありません。妥協点を探りつつ、本当に辞退すべきかどうかを検討してください。また、辞退の可能性がある場合は、内定承諾書の提出段階から熟考を重ねておくことも大切です。ただし、あまり待たせるのはよくないため、あらかじめ提出期限を確認しておきましょう。
2.他社と迷っている間は研修などは受けない
ほかの企業から内定をもらっても、今後辞退する可能性があるのならできる限り研修を受けない方がよいでしょう。特に、自発的に研修を受けると、内定辞退した際にかかった費用を企業から請求されるおそれがあります。内定通知後に研修などで費用が発生しそうになったら、参加する前にどの企業に入社するか決断するようにしましょう。
3.辞退が決まったらなるべく早く連絡する
内定辞退を決断したら、早めに企業へ連絡することもポイントです。集合研修やオンライン研修といった「内定者研修」のスケジュール調整、入社後の配属部署決めなど、企業は内定者が入社する前提でさまざまな準備を進めています。内定辞退を告げるのがギリギリになればなるほど、企業は研修内容の変更や配属部署の決め直しなどの対応に追われるでしょう。関係者に迷惑をかけないために、辞退を決断次第速やかに連絡することが大切です。
4.辞退する理由を正直に伝える
辞退する理由を包み隠さずに正直に伝えることも、大切です。労働者は基本的に理由を問わず退職できるため、内定辞退の場合も理由は必要ありません。しかし、自分が内定辞退することで相手に一定の迷惑がかかるのも事実です。企業から辞退理由について回答を求められた場合には、理由を正直に伝えるようにしましょう。
また、相手が納得できる理由でなければ、いくら正直に伝えても納得してもらえないことがあります。内定辞退を説明する前に自分の中で理由を整理し、理路整然と相手に説明しましょう。
5.営業時間内に連絡する
電話で内定辞退を伝える際、営業時間内に連絡しましょう。また、メールで伝える際も、一般的に時間外は避けた方がよいとされています。就業時間外(始業時間前・昼休憩・終業時間後)の連絡はビジネスマナーに反します。。営業時間内であっても、始業開始直後や終業時間間際は先方が忙しくしている可能性があるため、連絡は控えるようにしましょう。ただし、連絡を先延ばしにし、内定辞退を伝えるタイミングを逃すことだけは避けてください。
6.引き止められた場合は曖昧な返答をしない
採用担当者から引き止められた際に、曖昧な返答を控えることも重要です。内定辞退の理由を説明しても理解してもらえず、採用担当者から引き止められることもあるでしょう。また、採用担当者の苦労や気持ちを考えると、はっきりと断ることは難しいかもしれません。
しかし、曖昧な返答をして最終的に辞退すれば、内定者が入社するかもしれないと期待して準備を進めていた企業に迷惑がかかります。入社する気がないのなら、しっかりと意思を通して相手に伝えなければなりません。
7.会社に呼び出されたときは基本的には応じる必要はない
万が一、採用担当者から会社に呼び出された際は、基本的に応じる必要はありません。憲法第22条第1項に「職業選択の自由」が定められているため、企業は内定者の意思に反して労働を強制することはできないでしょう。
採用に費用がかかっている場合や、内定者の評価が高い場合も、会社に呼び出して説得を試み用途する場合があります。。呼び出しに応じると、辞退しにくい雰囲気の中で採用担当者から説得される可能性があります。
曖昧な返答をしているとそのうち断れなくなるため、入社する意思がないのにもかかわらず呼び出されたら、電話やメールではっきりと「拒絶」の意思を示すことが大切です。


内定承諾後に辞退してトラブルになった際の対処法

十分に気をつけていても、内定承諾後に辞退してトラブルになることはあるでしょう。そこで、以下のケースに分けて、トラブルの対処法を解説します。
- 内定辞退を認めないと言われた場合
- 損害賠償を請求された場合
万が一トラブルになった際の参考にしてください。
内定辞退を認めないと言われた場合
内定承諾後に、誠意をもって辞退の旨を伝えたにもかかわらず、企業に認めてもらえないことがあります。しかし、さまざまな点を考慮すると、基本的に企業の承諾がなくても内定辞退が可能なため、最初から最後まで自分の意思を通すことが大切です。
まず、民法第627条第1項で、「当事者はいつでも解約の申し入れをできる」と規定されていることが、企業が内定辞退を拒否できない理由として挙げられます。解約は一方的な意思表示で可能なため、企業の承諾がなくても辞退できるでしょう。
また、憲法第22条第1項の「職業選択の自由」も、企業の承諾なしに内定辞退が可能な理由として考えられます。企業は、内定者の「辞退」の意向を拒否し、強引に自社で働かせることはできません。
損害賠償を請求された場合
内定を辞退できても、採用にかかった費用を企業から損害賠償請求される可能性はあります。しかし、損害賠償を請求されても、内定辞退が著しく信義に反する態様でない限り、基本的に支払いは拒否できるでしょう。自分から積極的に研修を受講しながら、入社直前に正当な理由もなく内定辞退した場合が、「内定辞退が著しく信義に反する態様」の一例です。また、訴訟には手間や費用がかかるため、支払いを拒否したとしても実際に企業が裁判にまで持ち込む可能性は高くありません。
さらに、労働基準法第16条では、企業が労働者に対して「一定額の違約金の支払いを定めることや、損害賠償額をあらかじめ決めておくこと」などを禁じています。
内定を辞退しないためにも事前に聞いておくべき4つのこと

そもそも、自分が入社を希望する企業から内定をもらい、辞退しなければトラブルを未然に防げます。内定を辞退しないために、事前に聞いておくべき点が以下の4つです。
- 業務内容
- 待遇
- 配属先
- 社風
事前に聞いておくべき4つのことを、それぞれ詳しく解説します。
1.業務内容
業務内容とは、企業がおこなう仕事の内容です。面接などで、「仕事について、詳しく教えてください」と具体的な業務内容を尋ね、自分のやりたい仕事とマッチしているか確認しましょう。
業務内容の確認を怠ると、「業務量の多さに驚く」「自分がしたい業務をおこなえないことに気づく」「いきなりマネジメントを任されるようで負担に感じる」などの理由で、内定を辞退したくなる可能性があります。
2.待遇
待遇とは、職場での給料や地位などに関する内容です。直接聞きにくい事柄ですが、内定後・入社後に後悔しないように、「私の年齢の場合、平均年収はどれくらいですか?」などと尋ねておきましょう。
あらかじめ待遇を確認することで、「転職して給与が下がることに気づく」「思っていた役職ではなく後悔する」などの事態を防げます。ただし、早い段階で「給与」「年収」などの言葉を直接尋ねると、「お金」にだけ関心があると思われかねません。最初から金銭面の質問をすることは避けた方がよいでしょう。
3.配属先
転職の場合、配属先は応募時点である程度明確になっていることが一般的です。ただし、企業によって明確にしないところもあるため、不明な場合は「採用していただいた場合、配属先はどの部署になりますか」などと確認しておくとよいでしょう。
また、同じ企業でも各部署によって業務内容は異なります。配属部署がすでに決まっている場合は、「配属先の仕事について、詳しく教えてください」と希望している部署の具体的な業務内容を確認することも大切です。配属先をあらかじめ尋ねておくことで、「希望していた企業に入社したけれど、考えていた部署に配属されなかった」といった後悔を防げます。
4.社風
社風とは、企業独自の価値観や雰囲気、スタイルなどのことです。自分の価値観にあった企業に応募して内定をもらえば、辞退する可能性は低いでしょう。
まず、企業の公式ホームページなどで社風をチェックします。そのうえで、面接時に「社風を維持するために、具体的にどのような取り組みをされていますか」などと尋ねれば、本当にアピールしているとおりの社風なのかある程度把握できるでしょう。なお、社風についての質問は漠然としていると相手が答えにくいため、抽象的でなくより具体的に質問することが大切です。
内定承諾後に辞退する場合は誠心誠意対応しよう

内定承諾後でも、基本的に辞退はできます。しかし、損害賠償請求される可能性や、辞退した企業の子会社や関連会社の選考で不利になることがあるため、熟考したうえでの決断が必要です。
また、内定辞退は相手の企業に迷惑をかけることも理解しておかなければなりません。内定承諾後に辞退する場合は、誠心誠意対応しましょう。
