転職に伴って会社を辞める際は、希望すれば会社から「離職票」を交付してもらうことができます。離職票とは、その会社を辞めたことを証明するための書類です。ただ、離職票が何のために必要なのか知らず、そもそも交付を受けない人も少なくありません。
そこで今回は、離職票がどういう意味を持つ書類なのか、転職する際に必要なのかどうかを解説し、離職証明書や退職証明書との違いについても説明します。


目次
離職票とは?
離職票とは、正式名称を「雇用保険被保険者離職票」といい、雇用保険に加入していた被保険者が求職者給付(いわゆる失業手当)を受けるために発行される文書です。
では、離職票にはどのような役割があり、またどのような人に必要なのでしょうか。ここでは、離職票に記載される内容や発行の流れなどを含めて詳しく解説します。
離職票の役割
一定の要件を満たした雇用保険被保険者は、会社を退職してから一定の期間は、生活を安定させながら安心して求職活動をするために、いわゆる失業手当を受給する申請を行うことができます。失業手当は自らハローワークに申請して、受給資格を認められなければ受け取ることはできません。
失業手当を受給する資格には、所定の被保険者期間を満たしていることなど種々の条件がありますが、会社を離職して働く意思や能力があるにもかかわらず失業中であることが一番の前提条件です。
そのため、失業手当を受け取る第一の条件として、受給手続きを始める際に住所地を管轄するハローワークで求職の申し込みをしたうえで、離職票の提出が義務付けられているのです。また、失業手当の給付日額や給付日数は、離職理由や離職した日の直前6か月に支払われた通常の賃金などをもとに決定されます。離職票は失業手当の受給手続きに必要な情報を証明するための書類という役割を持っています。
退職にあたって離職票が必要な場合は、会社に交付の希望を出すことで受け取ることができます。ただし、離職票自体は会社が発行するものではありません。会社が離職証明書を管轄のハローワークに提出すると、離職理由が確認された後発行されます。会社は原則として離職証明書をハローワークに提出する義務がありますが、離職者が交付を希望しない場合は提出しなくて良いこととなっています。
ただ、会社によっては、退職者の希望の有無にかかわらず、退職する社員全員に対して離職票の発行手続きを取る場合もあります。「退職者から希望がなければ交付しない」「交付を受けたいかどうか退職者に聞く」など、離職票に関する対応は会社次第といったところです。
実際に受け取る離職票は「雇用保険被保険者離職票―1」と「雇用保険被保険者離職票―2」の2枚で1セットです。それぞれ「離職票―1」「離職票―2」と略称されます。
「離職票―1」には雇用保険の資格喪失確認を通知する旨が、一方「離職票―2」には離職理由などが記載されています。失業手当の受給手続きの際も、この2枚セットで提出するのが基本です。


離職票が必要な人
離職票は失業手当を受給する際に必要な書類です。したがって、失業手当を受け取りたい人は、離職票を発行してもらう必要があります。失業手当は、現在失業中で次の仕事が決まっていない人のみ受け取れる雇用保険の手当です。
そのため、転職に伴って前職を離職し、既に次の仕事が決まっている人は、そもそも失業手当を受け取れないので離職票も原則不要ということになります。
ただ、働く意思はあっても、病気やけが、妊娠出産などの理由ですぐには働くことができない場合があります。失業手当は原則として離職日の翌日から1年間に限り受給できますが、こうした場合は最大3年受給期間の延長を申請することができます。働くことができる状態になってから失業手当を受給するために離職票をもらっておいたほうが良いでしょう。
また、離職票には失業手当の受給手続き以外の使い道もあります。たとえば、会社を退職後に会社で加入していた健康保険から国民健康保険に切り替える場合などです。
会社を辞めてから自営業を始めるケースなどでは、家族の扶養に入ったり、会社の健康保険を任意継続しない場合は、健康保険を会社の健康保険から国民健康保険に切り替えなければなりません。会社の退職を理由に国民健康保険に加入する際は、申請に当たって「社会保険を喪失した日付がわかるもの」を用意する必要があります。
離職票には雇用保険の資格喪失に関する情報が記載されているので、国民健康保険に加入するのが離職者本人のみであれば、離職票で国民健康保険への切り替え手続きを行うことができます。ただし、扶養者がいた場合は、離職票で扶養者の加入手続きを行うことはできませんので注意が必要です。
また、退職者が59歳以上の場合は、本人の希望にかかわらず、会社は離職票の発行が必要です。60歳以上の離職者が65歳までに再就職した場合「高年齢雇用継続給付」手続きが必要になります。高年齢雇用継続給付とは、60歳から65歳までの人が再就職した場合60歳到達時の賃金と比べて75%未満に低下している場合に受給できる給付金です。
この手続きをするために離職票が必要になるので、59歳以上の人は退職時に離職票を受け取っておく必要があります。
離職票の内容
ハローワークから離職票を受け取ったら、記載内容に漏れや誤りがないかしっかり確認しましょう。離職票―1の主な記載項目は、被保険者番号や資格取得年月日、離職年月日、離職者氏名、事業所名略称などです。
また、離職票―1には「個人番号」や「求職者給付等払渡希望金融機関指定届」の記入欄があります。個人番号はマイナンバーカードに記載されている番号、金融機関指定届は基本手当を受け取る際の口座情報です。
一方、離職票―2には離職者の氏名や住所、連絡先を始め、離職した事業所名とその所在地、事業主の氏名などが記載されています。また、賃金支払状況と離職理由なども記載項目のひとつです。
離職者の基本情報や賃金支払状況は、記載内容に誤りがないかを確認するのはもちろんですが、離職者が主張する離職理由を確認するための書類でもあります。会社が記載している離職理由と、離職者本人が主張する離職理由が異なる場合もありますので、特にしっかり確認記載した上で署名しましょう。


離職票発行の流れ
離職票の発行は、手続きを行うのは会社ですが、実際に発行するのはハローワークです。希望者に対して離職票を交付している会社の場合は、まず会社に申請して発行手続きを行ってもらう必要があります。退職することが決まって、離職票が必要な場合は、すぐにも会社に発行を依頼しましょう。
依頼を受けた会社側は「離職証明書」という書類を作成して、退職者に記載内容を確認してもらいます。退職者が署名した離職証明書は、会社側が改めて受け取ってハローワークに提出します。会社側は受け取った離職証明書を速やかにハローワークに提出することを義務付けられており、その提出期限は該当社員の退職日翌日から10日以内です。
離職証明書の提出を受けたハローワークは、会社に対して「離職票―1」と「離職票―2」の2枚1セットの離職票を送付します。これを受けて、会社から退職者の手元に郵送などで離職票が届けられるというのが、基本的な離職票発行の流れです。
転職なら離職票は必要ない?
離職票は主に失業手当を受給する際に必要な書類であるため、転職して次の職場が決まっている人には基本的に不要な書類です。
ただし既に転職先から内定をもらっていても、退職してから採用が取り消しになるケースもありますし、自己都合での入社辞退や入社後の早期退職の可能性もないとはいえません。そうなれば、一時的でも失業状態となってしまいます。後から発行してもらうことも可能ではありますが、万が一に備える意味でも、離職票は退職時に受け取っておいて損はないでしょう。
離職票の書き方は?
離職票の記載事項は、大部分が印刷されているか、もしくは会社側によって既に記入されています。ただ、退職者本人が記入しなければいけない項目もあります。ハローワークに提出する離職票は、必要事項がすべて記入されていなければなりません。
そこで、この段落では退職者が離職票に記入する項目と、その書き方について解説します。
「離職票ー1」の書き方
離職票ー1の記入項目は、主に「個人番号」と「求職者給付等払渡希望金融機関指定届」です。個人番号とは、いわゆるマイナンバーのことです。マイナンバーカードを参照して記入しますが、マイナンバーカードがない場合は通知カードに記載されている番号を参照しましょう。ただし、個人番号に関しては、情報漏洩を防ぐ目的でハローワークの窓口において退職者本人が記入する決まりになっています。
一方、求職者給付等払渡希望金融機関指定届とは、失業手当を受け取る際の振込先のことです。個人番号は窓口で記載しますが、振込先の情報は自宅であらかじめ記入してから持っていっても問題ありません。また失業手当の申請時に通帳やキャッシュカードを持参すれば、金融機関確認印の押印は必要ありません。
「離職票ー2」の書き方
離職票ー2は、A3サイズの横長な書類です。ただし、電子交付なら離職票ー1と同じA4サイズで受け取れます。退職者本人が記載するのは、主に横長書類の右側部分です。そこには、まず退職理由の離職者記入欄があり、離職者本人が選択肢の中から当てはまる項目に「〇」をつける形式になっています。まずは退職理由に該当するものに「〇」をつけて回答しましょう。
退職理由の記入欄の下には、具体的事情記入欄という枠があります。ここには、離職者用と事業主用があるので、事業主用の内容に意義がなければ離職者用の記入欄に「同上」と書き入れましょう。事業主用の記載内容が事実と異なるなら、本来の離職理由を書きます。
具体的事情記入欄のさらに下には、離職者本人の判断という記入項目があります。これは、具体的事情記載欄と矛盾しないように異議「有り」か「無し」に○をつける項目です。退職理由に該当するものに「〇」をつける欄では、退職者本人だけではなく、事業主も回答しています。
離職者本人の判断では、事業主が「〇」をつけた項目に意義があるかどうかを問うものです。異議「有り」に「〇」をつけた場合は、ハローワークから会社に連絡がいき、情報の精査が行われることになります。異議がなければ「無し」のほうに「〇」をつけましょう。
最後に、これまで記入してきた内容に間違いがないことを認めるため、右下の欄に署名・捺印をします。ただし、離職証明書の段階で確認している場合は、複写で記入済みになっているので改めて書き入れる必要はありません。


離職票のトラブル|こんなときはどうする?
離職票は通常であれば退職してから10日以内には手元に届きます。ただ、何かの手違いでなかなか届かないこともありますし、届いた後に紛失してしまうこともあります。離職票はきちんと発行してもらっていても、使いたいときに手元になければ意味がありません。離職の証明をしたいときや失業手当の手続きをする際に困ることになるでしょう。
では、必要な手続きをしたいときに離職票が手元にない場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか。ここでは、離職票が届かないときや紛失してしまった場合の対応について解説します。
離職票が届かない
会社からハローワークに提出される離職証明書は、社員の退職日翌日から10日を期限として提出する決まりになっています。そのため、ハローワークから発行される離職票も、退職日からおおむね2週間程度を目安に届くことが多いでしょう。
離職した日の翌々日から10日経っても届かない場合は、会社側に連絡を入れて問い合わせてみたほうが良いでしょう。会社側が手続きを忘れていたり、ハローワークから送られてきた離職票を離職者に郵送していなかったりする場合があります。
離職後、請求しても会社が手続きをしない場合や督促しても届かない場合は、身元確認書類及び退職したことがわかる書類(退職証明書等)をもってハローワークに相談してみましょう。
離職票をなくした
離職票を紛失したり破損したりした際は、交付をうけたハローワークで再発行の手続きを行いましょう。
ハローワークに出向く際は、運転免許証または住民票の写し等本人確認のできる書類などを持参しましょう。再発行の手続きに必要です。「雇用保険被保険者離職票再交付申請書」に必要事項を記入して提出すれば再発行を受けることができます。


離職証明書との違い
これまでの説明でも何度か出てきましたが、離職票に似た名前の書類に「離職証明書」があります。離職票と混同されがちですが、離職票と離職証明書は異なる書類です。
離職証明書は、正式名称を「雇用保険被保険者離職証明書」といい、離職票の発行に必要な書類です。離職票は退職者自身が記入する項目がありますが、離職証明書は会社側が記入・発行を行うので、退職者は内容を確認し署名します。
離職証明書は3枚綴りになった複写式の書類で、離職票ー2も同時に作成されます。退職者本人が記入する項目はありませんが、人事担当者から受け取ったら勤続年数や離職日、賃金、退職理由などに誤りがないかどうかチェックして、署名・捺印する必要はあります。内容を確認して署名・捺印します。
退職証明書との違い
離職票は退職証明書とも間違われやすい書類です。離職票がハローワークより発行される公的な書類なのに対して、退職証明書は会社が発行する書類です。転職先の企業に求められた場合や、失業手当の手続きをする際に離職票が手元にない場合などに使用することができるのが退職証明書です。
会社がそれぞれ発行する文書なので、決まった書式もないのが退職証明書の特徴です。ただ、通常は退職年月日、使用期間や業務の種類、地位または役職、賃金、退職理由などが記載されることが多いでしょう。公的な文書としては扱われないものの、基本的に離職票が届いていない場合の代替書類として活用され、被保険者資格を喪失しているか、履歴書の記載内容に虚偽はないかなどを確認するために使われます。
離職票の役割と必要性を理解して転職時の不安をなくそう
離職票は転職時に必須の書類ではありませんが、失業手当の手続きには必ずなくてはならない公的な証明書です。転職先が既に決まった状態で退職する場合は、離職届を申請しない人も多いですが、不測の事態に備えて受け取っておいたほうが安心です。特に退職してから転職活動に専念する場合は、失業手当が生活の大きな助けになります。必ず離職票を発行してもらって、生活資金の不安を少しでもなくしておきましょう。

この記事の監修者
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士。1987年生まれ、一橋大学商学部卒業。ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行なっている。
