会社を辞めるときには「辞表」を提出するもの、と考えている人は多いのではないでしょうか。しかし、会社を辞める際に一般社員が辞表を使用するのは間違いです。退職のマナーを守るためにも、退職願・退職届・辞表の違いを理解しておくようにしましょう。
この記事では、退職願・退職届・辞表のそれぞれの役割や一般的な作成方法などについて詳しく解説していきます。


目次
退職願・退職届・辞表はなにが違うのか
ドラマや映画を見ていると、会社を辞めるときに辞表を出すシーンがよく出てきます。しかし実際には、辞表を提出できるのは限られた人だけなのです。
それでは、退職する際に必要となるのは「退職願」「退職届」「辞表」のいずれなのでしょうか。この段落では、退職願・退職届・辞表のそれぞれの役割について解説します。
退職願の役割
退職願とは、労働契約の解除(会社を辞めること)を会社にお願いするための書類のことを指します。退職願を出した段階で退職が決まる訳ではありませんが、退職の意向が固まっていることを会社に伝えられるでしょう。退職願は、必ずしも書面で提出が求められている訳ではなく、口頭で伝えても構いません。会社を辞める際、退職願の提出は必須ではありません。
しかし、退職願を書面で提出しておくことによって退職の意思を強調したり、書類として証拠を残したりできます。もし、次の転職先の会社が既に決まっていて、「退職交渉をなるべく早く進めたい」という場合は、退職願を準備しておくとスムーズです。
退職届の役割
「退職願」と「退職届」は言葉が似ているため、「なにが違うのだろう」と思う方も多いのではないでしょうか。退職届とは、会社と相談した結果、退職が正式に決まった場合に提出する書類のことを指します。先述した退職願と違い、退職届は「退職が認められ、労働契約の解除を届け出ること」を意味します。書類には、退職日や退職にあたっての決定事項などを明記し、事務手続きの記録を残すのも退職届の役割です。
また、退職届が受理された場合、撤回はできません。会社によっては、退職届のフォーマットが用意されていたり、提出先が直属の上司ではなく人事部だったりする場合があります。もしくは、退職届の提出を求めない企業も見られます。企業によって規定が異なるため、事前によく確認しておくと良いでしょう。一部例外はありますが、退職の申し入れから2週間経過すれば退職できることが法律では定められています。
辞表の役割
先ほど、辞表を提出できるのは限られた人だけとご紹介しました。辞表とは、社長や取締役など、企業との雇用関係に該当しないポジションの人が、役職を辞めるときに提出する文書のことです。
退職届と役割は似ていますが、辞表の提出が必ずしも会社を辞めることを意味する訳ではありません。役職を解除するだけで会社を辞めない場合もあり、役職を外れたあとは一般社員として働き続けるケースも見受けられます。
ただ、先述した通り、一般の会社員が「辞表」を使うことはありません。「退職願」や「退職届」などと勘違いして辞表を提出しないよう気をつけなくてはいけません。
企業の経営層以外にも辞表を提出する場合があります。それは、公務員が仕事を辞めるときです。この場合は、辞表を提出し、退職届と同じように扱われます。


退職願・退職届・辞表を提出する前にやっておくべきこと
退職願・退職届・辞表、いずれの書類を提出する場合でも、まず勤めている企業の就業規則は必ず確認しておくようにしてください。就業規則には「退職希望日の◯ヶ月前までには退職願を出す」「提出先は直属の上司」など、退職についての取り決めが記載されているため内容をしっかりチェックしておきましょう。
退職の意思が固まっていない段階で退職願や辞表などを提出してしまうと、会社から面談などを設定され、引き止めに合う可能性が高くなります。
そうなると、辞めるまでに時間がかかってしまうことも考えられます。スムーズに納得してもらえない場合に備えて、具体的な退職理由を事前に考えておくとよいでしょう。
また、退職の意向は書類を提出する前に上司に相談しておくのが望ましいです。その理由は、上司以外の相手に退職のことを伝えてしまうと、不確定な情報が広まり会社を混乱させる恐れがあるためです。
上司に相談する際にはできるだけ繁忙期は避けるようにしましょう。仕事が一段落したタイミングを見計らうのが理想的です。急に会社を辞めたいと伝えても、既存の業務の引き継ぎや代わりの人材を補充できないなど、トラブルが生じるケースも見受けられます。
あるいは、「会社を辞めることをなかなか言い出せない」ということもあるかもしれません。しかし、円満退職をして、気持ちよく次のステップを踏み出すためにも、退職の意思が固まったら速やかに企業に伝えましょう。
退職願・退職届・辞表を作成するときのポイント
退職願・退職届・辞表はそれぞれ役割が異なります。しかし、作成方法にはそこまで大きな違いはありません。退職願・退職届・辞表を作成するときには以下の4つのポイントを押さえましょう。
・誠意を伝えたいのであれば手書き
・指定が特になければ縦書きが基本
・記載すべき項目や内容をしっかり押さえる
・封筒の選び方や書類の折り方などのマナーを守る
それでは、それぞれについて詳しく解説していきます。
誠意を伝えたいのであれば手書き
退職願や退職届、辞表を作成する際、手書きの方が良いのかパソコンで作成しても良いのか悩んでしまうものです。もし、企業に誠意を示したいのであれば手書きの方が良いといえるでしょう。手書きで作成する場合は、黒のペンや万年筆を使用するようにしてください。色付きのボールペン、シャープペンシル、消せるボールペンなどは避けましょう。もし、書き間違えた場合には、修正テープなどで消さずに新しく書き直すのがマナーです。
捺印はスタンプ式のものではなく、認印で行ってください。手書きで作成する方が良いと考える方も見受けられますが、パソコンで作成しても問題ありません。
企業側からパソコンで作成する指示があったり、フォーマットの指定があったりする場合もその指示に従いましょう。パソコンで作成する場合も、自分の署名は手書きで行い、認印で捺印してください。
指定が特になければ縦書きが基本
退職届や辞表を作成する際、指定がなければ手書きでもパソコンでも縦書きで作成するのが基本となります。しかし、会社によってはフォーマットが横書きだという場合もあるため、企業の規則を確認してください。
もし、企業側から特に指定がない場合には、縦書きで作成するのが無難です。縦書きで記載することは、丁寧でかしこまった印象を与える効果があります。「退職届や辞表は、一般的には縦書きで書くものだ」と覚えておくと良いでしょう。


記載すべき項目や内容をしっかり押さえる
退職願や退職届、辞表を書くときの手順を説明します。はじめに、冒頭には「退職願」もしくは「退職届」と記載してください。辞表の場合は、そのまま「辞表」で問題ありませんが「辞任届(願)」と記載しても構いません。
次に、本文を書きだす前には最初の行の一番下げた場所に「私儀」とつけることを忘れないようにしましょう。また、本文では、退職理由を記載しますが、詳細を書く必要はありません。自分から退職を申し出る場合は「一身上の都合」と記載します。会社都合により会社を退職する場合は、基本的には退職届の提出が求められることはありません。
ですがもし、提出を求められた場合に一身上の都合と書くと、「自己都合の退職」として処理されてしまいトラブルが発生する可能性があるため、会社に確認や相談をして具体的な会社都合の理由を書くようにしましょう。
そして、退職届や辞表を書くときは、実際に退職する日付を記載します。退職願の場合は、退職を希望する日を記載します。また、書類を提出する日付も忘れず記載するようにしましょう。
表記の方法は、「令和◯年」のように元号でも「20◯◯年」といった西暦でもどちらでも可能です。会社規定があればそれに従ってください。つづけて、自分の所属、署名を記入し、名前の下に捺印します。そして、宛先を最後に記載します。
宛先は会社の社長や会長になるのが一般的で、敬称は「殿」です。宛名を書くときは、自分の名前より上の位置に記載するよう気をつけましょう。
封筒の選び方や書類の折り方などのマナーを守る
退職願・退職届・辞表を提出する際には、封筒の選び方や折り方などのマナーを守るのも大切です。これらの書類は、封筒に入れて相手に手渡しするのが基本です。
封筒の種類は、郵便番号の欄が記載されていない白い封筒を選択してください。茶色の封筒は、事務手続きで使用するものなので退職届などを提出する場合はふさわしくありません。
また、封筒の大きさは、書類の用紙サイズに合わせるようにしましょう。A4サイズもしくはB5サイズが適しています。書類は三つ折りにして封筒に入れます。書類の折り方などは、次の手順を参考に行ってください。
[書類を封筒に入れる手順]
1.書類を下から上に3分の1折り上げる
2.次に上から下に3分の1折り重ねて三つ折りにする
3.書類の右上が封筒の上部にくるように封筒に入れる
4.のりなどで封をしたら、封入口の真ん中あたりに〆印を入れる
また、封筒の表面には、退職願もしくは退職届と、中央に大きく書きます。裏面の左下には「所属部署」「氏名」を記載してください。
退職願・退職届・辞表を出した後に撤回はできるのか?
退職願・退職届・辞表を出した後に撤回はできるのでしょうか?会社に一度退職を申し出てしまうと、基本的に撤回はできないと考えておくのが無難です。「退職願」は、先述した通り会社に退職を申し出るものです。そのため、上司に提出した後、人事責任者の承認が下りるまでの間であれば、退職を撤回できる可能性はあります。
しかし、もし仮に撤回できたとしても既に人員配置が行われた後であれば、配属が想定外のところへ変わってしまうリスクがあります。よほどの理由がないかぎり、退職願を出した後の撤回はできるだけ避けるようにしてください。
一方「退職届」は、退職の最終確認的な意味合いをもつ書類であり、労働契約解除の効力が発生するため、一度提出すると撤回はできません。さらに、「辞表」も退職届と同様に取り消しはできません。社長や執行役員に提出した段階で役職の解除が実行されるため、提出後の撤回は不可能です。
これらの理由から、会社を辞めたいという気持ちがまだ明確に固まっていないのであれば、退職願などの書類は作成せずに、まずは上司に相談してみることをおすすめします。現在抱えている問題を正直に上司と話し合うことで、「給料がアップする」「業務量が減る」「希望の部署への異動が叶う」「役職が上がる」など状況が改善する可能性もあります。
もし状況が変わらないとしても、「やはり転職先を探した方が良い」と退職するかどうかの判断もしやすいといえます。会社を辞める意向がはっきりと固まったときに退職願や退職届、辞表などの適切な書類を提出しましょう。


退職願・退職届・辞表でよくあるトラブルとその対処法
退職願・退職届・辞表でよくあるトラブルといえば、上司が受け取りを拒否し、手続きが進まないケースがあげられます。このようなときには人事部に直接かけあったり、可能であれば直属の上司のさらに上のポジションの方に直接伝えたりといった対処法があります。このときのポイントは、「係長」の次は「部長」のように、順を追って話をすることです。
直属の上司が話を聞き入れてくれないからといって、他の役職を飛び越えて社長に相談することはマナー違反にあたります。このような場合には、退職がスムーズに進まないなどのトラブルが起こることもあるため気をつけましょう。
もし企業側が退職を取り合ってくれない場合でも慌てる必要はありません。民法では労働者に退職の自由が保証されており、2週間前に退職の意思を示せば、雇用契約は終了できると定められています。
ですので、退職の意向を伝えた日や、退職届を提出した日などを冷静に記録しておくことが大切です。会社に何度相談しても退職届を受理してもらえないようであれば、労働基準監督署など外部機関に相談することになるでしょう。
円満退社が理想ですが、万が一退職願や辞表が受理されなかったとしても、退職はできるということを覚えておいてください。
一般社員が退職する際は辞表ではなく退職願や退職届を提出しよう
まず基本として、会社を辞めるときに一般社員が「辞表」を出すのは間違いです。勘違いしないよう気をつけましょう。また、退職願と退職届もそれぞれ役割が異なるため、注意が必要です。
企業に退職を申し出る際は、退職願・退職届・辞表の違い、書き方、マナーをしっかり押さえて、できるだけトラブルがない円満退社を目指しましょう。
