社会で働くようになると必ず一度は耳にする「源泉徴収票」。この「源泉徴収票」が一体何なのか、どういうときに必要な書類なのかを把握できていますか。源泉徴収票は、特に転職するときなどに必要となる収入証明書類です。この記事では、源泉徴収票の基本情報についてくわしく解説していきます。記事を読むことで、源泉徴収票がどのような書類なのかを理解できるでしょう。


目次
源泉徴収票とは?
源泉徴収票には、従業員の1年間の収入と納付した所得税額が書かれています。企業が従業員に給料を支払うときには、給与総額から所得税の額を算出し、所得税、社会保険料、住民税等の額を引いた額を従業員に支払っています。このように企業が従業員から所得税を預かり、当人の代わりに納税する制度が源泉徴収制度です。源泉徴収制度をとることで、従業員が納税する額を計算する必要がなくなり、国も税金を確実に徴収することができます。源泉徴収票には、1年間の給与額や納税額のほか、配偶者控除や生命保険料や社会保険料といった各種保険控除の額が細かく記載されています。
源泉徴収票はいつ発行されるのか
それでは源泉徴収票はいつ発行されるのでしょうか。この段落では、企業が従業員に対して源泉徴収票を発行する時期について解説していきます。
退職したとき
1つ目は退職したときです。企業は、従業員が退職したときに、その年の1月1日から退職時までの源泉徴収票を発行する義務があります。源泉徴収票は最後の給与が確定してから1カ月ほどで従業員の手元に届くでしょう。退職時に発行された源泉徴収票は、従業員自身が確定申告をするときや転職先で年末調整を行う際に必要となります。
年末調整の計算後
2つ目が年末調整の計算後です。毎月の給料から天引きされる所得税は、その年の1年間の所得をおおまかに予測して計算したものです。年末に1年間の所得が確定した段階で正しい税率で計算し直し、多く払いすぎた分は還付、不足していた分は追納します。この作業を「年末調整」と言います。年末調整では源泉徴収票は、年末調整が終わり、その年の収入と納税額が決まった後に発行されます。12月の給与明細をもらうタイミングで源泉徴収票を受け取る人が多いでしょう。
収入証明の発行を依頼した時
3つ目が、従業員が源泉徴収票の発行を依頼したときです。源泉徴収票は、住宅を購入するときや車のローンを組むときなどの収入証明となります。収入証明が必要なのに前年の源泉徴収票を紛失してしまったときは、勤め先に再発行の申請を依頼することが可能です。なお、収入審査で必要な収入証明として、市役所などが発行する「所得証明書(課税・非課税証明書)」も有効ですが、市役所などへ発行申請に行かなければならないため、忙しい人にとっては手間がかかる場合があります。前年の源泉徴収票は、手元で保管しておくと何かあったときに便利です。


源泉徴収票はいつ必要になるのか
源泉徴収票はどのようなタイミングで必要になるのでしょうか。この段落では源泉徴収票が必要になるときを解説します。
転職時
源泉徴収票が必要になるタイミングの1つが、転職をするときです。例えば、1月から6月まで前の勤務先で働き、7月から12月まで転職先で働くようなケースでは、転職先の企業で年末調整を行います。そのため、1月から6月までの源泉徴収票を転職先の企業に提出しなければなりません。例えば1月から11月まで前の勤務先で働き、12月時点では会社に在籍していないケースでは自分で確定申告を行うことにより、所得税が還付される場合があります。その際にも、源泉徴収票は必要です。
なお、11月末で退職し12月に新しい企業で働き始める場合は、転職先で年末調整を行えないことがあります。多くの企業では、年末調整のための書類を受け取る期日を、余裕を持って11月末などに設定していますし、前の勤め先で発行する源泉徴収票がすぐに届かないこともあります。このようなケースでは、前の勤め先と転職先の両方から源泉徴収票をもらい、翌年の3月までに自分で確定申告をすることにより所得税を還付される場合があります。例外的なケースですが、年末に退職する場合には注意しておきましょう。
確定申告を行なう時
2つ目が確定申告をするときです。会社員は原則、自分で確定申告をする必要がありませんが、次のようなケースでは確定申告が必要です。確定申告をしないでいると無申告加算税を科される可能性があります。
1.副業での収入が20万円を超えるとき
2.複数の事業所から給与をもらっているとき(年末調整をされなかった給与の収入額が20万円を超える人)
3.1年間の給与収入が2000万円を超えるとき
4.不動産を売却して一定の所得を得たとき
5.満期保険や保険の解約返戻金が支払済み保険料を差引いて50万円を超えるとき
6.1年の途中で退職した後、再就職をしなかったとき
7.「特定支出控除の特例」を受けるとき
1~5のケースは、住民税の追納が必要となる場合があります。6~8のケースでは、払いすぎた所得税が還付されます。まず6のケースでは、企業は年末まで働く前提で所得税の計算をしているため、1年の途中で仕事を辞めてしまうと所得税を多く納めすぎることになるのです。7のケースは、退職金を受け取る際の所得税は低く設定されているのですが、「退職所得の受給に関する申告書」を企業に提出しないと、一時的に高い税率の所得税が引かれています。払いすぎた所得税は、確定申告の際に精算し戻ってくることになっています。8の「特定支出控除の特例」とは、給与所得者が支出する通勤費や仕事の転勤に伴う転居費など「特定支出」が給与所得控除額の2分の1を超えた場合に、所得控除を受けられる制度です。この場合も所得税の還付を受けられるでしょう。
このほか、医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税など)・雑損控除の三つは基本的に年末調整で所得控除が行われず、自分で確定申告をすることになります。また、住宅ローン控除を受ける最初の年や、自宅をバリアフリー化した場合なども、確定申告をすることで所得税の還付を受けられます。年末調整で引き切れない控除がある場合には、確定申告をしましょう。


源泉徴収票の見方
源泉徴収票を見るときに確認するポイントは支払い金額、給与所得控除後の金額、所得控除の額の合計額、源泉徴収額の4つです。この段落では源泉徴収票の見方を解説します。
支払い金額
支払い金額とは月々の給料や残業代、ボーナス、手当などを含んだ税引き前の給料総額です。ここには通勤費や出張費など所得税が非課税になる手当は含まれていません。この支払い金額をもとに年末調整を行います。1年の途中で転職する場合、転職先の企業が支払い金額を確認して年末調整をすることになります。転職先の企業に源泉徴収票を提出しないと、転職先の企業は1年の支払い金額を確定できないので年末調整ができません。転職する際には必ず源泉徴収票を発行してもらい、転職先の企業に提出する必要があるのです。
給与所得控除後の金額
給与所得控除後の金額は支払い金額から給与所得控除額を引いた金額です。給与所得控除とは、従業員が勤務するにあたって支払う必要経費があるという考えのもと、支払い金額から一定額を控除することで税金を安くする制度です。
2020年以降、給与所得控除の計算式は次のとおりです。
(収入金額)162万5000円以下:55万円
(収入金額)162万5000円超180万円以下:収入金額×40%-10万円
(収入金額)180万円超360万円以下:収入金額×30%+8万円
(収入金額)360万円超660万円以下:収入金額×20%+44万円
(収入金額)660万円超850万円以下:収入金額×10%+110万円
(収入金額)850万円超:195万円
所得控除の額の合計額
所得控除の額の合計額とは、給与所得控除以外の所得控除の合計額です。所得控除には次のようなものがあります。
・雑損控除(災害や盗難被害などに遭った場合に受けられる控除)
・社会保険料控除(国民健康保険料や厚生年金保険料を支払った分、受けられる控除)
・小規模企業共済等掛金控除(小規模企業共済に加入している人が受けられる控除)
・生命保険料控除(生命保険料を支払ったときに受けられる控除)
・地震保険料控除(地震保険料を支払ったときに受けられる控除)
・寄附金控除(ふるさと納税のワンストップ特例制度を利用した際などに受けられる控除)
・障害者控除(自身や控除対象配偶者、扶養親族に障害があるときに受けられる控除)
・寡婦(夫)控除(配偶者と離婚・死別した人で、その後婚姻していない場合の一定の要件を満たす場合の控除)
・ひとり親控除(配偶者と離婚・死別した人で、合計所得が500万円以下、子どもを育てている人が受けられる控除)
・勤労学生控除(納税者が学校へ通っている場合に受けられる控除)
・配偶者控除(納税者の合計所得が1000万円以下、配偶者の合計所得が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)の場合に受けられる控除)
・配偶者特別控除(納税者の合計所得が1000万円以下、配偶者の合計所得が48万円超133万円以下の場合に受けられる控除)
・扶養控除(合計所得が48万円以下の16歳以上の子どもや老親を扶養するときに受けられる控除)
・基礎控除(1年間の合計所得が2500万円以下の場合に受けられる控除)
源泉徴収額
源泉徴収額とは、1年間で徴収した所得税の合計額です。支払い金額から給与所得控除後の金額と所得控除の額の合計額を引いた課税所得金額をもとに計算します。計算式は次のとおりです。
課税所得金額=支払額-(給与所得控除額+所得控除の額の合計額)
源泉徴収税額=(課税所得金額×税率-控除額)×1.021(復興特別所得税の税率)
税率と控除額は課税所得金額に応じて、次のように決められています。なお、課税所得金額の1000円未満の額は切り捨てます。
1000円~194万9000円:税率5%/控除額0円
195万円~329万9000円:税率10%/控除額9万7500円
330万円~694万9000円:税率20%/控除額42万7500円
695万円~899万9000円まで:税率23%/控除額63万6000円
900万円~1799万9000円まで:税率33%/控除額153万6000円
1800万円~3999万9000円まで:税率40%/控除額279万6000円
4000万円~:税率45%/控除額479万6000円


よくある質問
この段落では、源泉徴収票にまつわるよくある質問について解説します。
Q.源泉徴収票の再発行は可能か
ローンを組むときの収入証明として源泉徴収票を使いたいけれど、前年の源泉徴収票がどこにあるか分からなくなってしまったという人も少なくありません。その場合、源泉徴収票の再発行は可能です。本人が何らかの事情で源泉徴収票を受け取れない場合には、家族などの代理人を通して、再発行を依頼することもできます。企業ごとにルールが異なりますので、勤め先に確認してください。源泉徴収票の再発行をしてもらうときは、会社の経理担当部門に連絡をとるのが一般的です。源泉徴収票を使用する目的を問われる場合はありますが、紛失したことで罰を受けることはないでしょう。
逆に従業員が再発行を依頼しているにもかかわらず、企業が再発行を拒否する場合,税務署等による行政指導が入る場合があります。なお、源泉徴収票をコピー機などに忘れてしまった場合、個人情報が他の人に知られる可能性はあります。大事な書類なので、紛失や置き忘れがないよう注意しましょう。
Q.源泉徴収票はアルバイトでも発行可能か?
アルバイトやパートで働く場合も原則源泉徴収の対象です。年間収入103万円以下の人は所得税の課税対象外であるため、所得税は課税されませんが、源泉徴収票は発行されます。なお、アルバイト等を掛け持ちしているケースでは、確定申告が必要になる場合があります。
Q.個人事業主に源泉徴収票は発行されるのか?
源泉徴収票は給与所得や退職所得、公的年金の支払いを受ける人に対して発行されるもので、個人事業主や自営業者には発行されません。しかし、原稿料や講演料、士業の人に支払う報酬、芸能人やスポーツ選手の出演料・出場料など一部の仕事については、源泉徴収票の代わりに支払調書が発行されます。個人事業主や自営業者が受け取る支払調書には、源泉徴収額が書かれています。
個人事業主や自営業者が確定申告をする際には、源泉徴収額が記載された支払調書をもとに計算するか、各自で所得を計算することになります。個人事業主や自営業者が受け取る支払調書は、確定申告の際に源泉徴収された税額を証明する大事な書類となるため、大事に保管しておきましょう。


源泉徴収票で必要な時に備えて、しっかり保管しておこう
源泉徴収票は会社から給与所得を得ている人などに発行される書類で、1年間の収入と納付した所得税額などを証明するものです。源泉徴収票で大事なのは、支払い金額、給与所得控除後の金額、所得控除の額の合計額、源泉徴収額の4項目です。源泉徴収票は転職先で年末調整を行う場合やローンなどを組む際の収入証明として使うものです。再発行は可能ですが、発行された源泉徴収票をきちんと保管しておけば困ることがないでしょう。

この記事の監修者
公認会計士・税理士 坂本 和則
2007年4月にあずさ監査法人を退職し、靱会計事務所を立上げ、代表として誠心誠意業務に邁進中。監査法人では、新規株式上場支援(IPO)業務、上場企業の法定監査(金融商品取引法、会社法)に従事しており、ベンチャー企業から上場企業まで幅広く関連する会計、税務に精通している。また、近年は中小企業の企業再生に力を入れており、事業再生ADR、民事再生等の種々の会社再建業務に従事している。
