自分の扶養家族について正しく把握していますか。扶養家族数や配偶者の有無は履歴書や会社への申請時に必要となる大事な情報です。間違えて記載してしまうと、税金を多く納めてしまったり、受け取れるはずの手当をもらいそびれたりするため注意が必要となります。この記事では、扶養家族の対象年齢や範囲について、家族が扶養に入るメリットや配偶者欄などの書き方などとともに解説するので、申請などの際に参考にしてください。


目次
扶養家族とは?
扶養家族とは、自力での生活が難しく経済的援助を行う必要があり、扶養者となる人の収入で養っている家族を指します。就職の際に提出する履歴書や年末調整のときに用意する書類には扶養家族について記載する欄がありますが、これは、会社が社会保険や税金関係の手続きを行う際に必要となる情報だからです。会社には従業員に代わって所得税や健康保険料、年金の保険料などを国や健康保険組合、年金事務所などに納める義務があります。
そして、納める税金や保険料は扶養家族や配偶者の状況によってさまざまです。そのため、各従業員の納税額や保険料の計算を行うために、会社は従業員の扶養家族や配偶者の状況を把握しておく必要があります。また、会社によっては家族の状況に応じて家族手当や扶養手当などの手当を支給しているところもあり、そのような会社では手当を決める際に家族の情報を使う場合もあります。
家族が扶養に入るメリット
家族を扶養に入れると期待できるメリットは大きく2つあります。1つ目は扶養者の納税の負担が軽くなることです。通常、給与所得者は毎月給与から所得税が天引きされています。天引きされた所得税は会社が本人に代わって国に納付していますが、そもそも給与から引いている税額は見込額です。本来納めるべき税額は年末にならないと確定しませんが、年末に1年分をまとめて納めると納税者への負担が大きくなるため、毎月見込額で所得税を天引きし国に納めています。そして、見込額を本来納めるべき正しい税額となるよう調整するために行われるのが年末調整です。
年末調整では所得控除を反映させて正確な税額を計算します。所得控除とは一定の要件に該当する人が所得の合計から一定の金額を差し引ける制度です。扶養家族がいると「扶養控除」が、配偶者がいると「配偶者控除」が年末調整の際に適用され、徴収税額が多かった場合には所得税が還付されます。さらに、所得税のみならず、住民税も扶養控除の対象です。その年の扶養の状況によって決まる所得税に対して、住民税は前年の扶養状況によって決まるため還付はありませんが、扶養が適用されれば住民税の額も軽減されます。
2つ目のメリットは、扶養家族の健康保険料を払う必要がなくなることです。扶養家族になると扶養者が加入する健康保険組合の制度を利用できます。健康保険証も扶養者と同じく扶養者の勤務先から交付され、病院などの医療機関で診療を受けた際に窓口で支払う医療費の負担が軽くなります。


「扶養親族」と「被扶養者」の違い
家族が扶養に入るとメリットがあるため、メリットを受けたい場合には履歴書などに扶養家族がいることをしっかり記載しなければなりません。そして、記載するにあたり、まずは、扶養家族について正しく理解しておくことが必要です。そもそも扶養家族には「扶養親族」と「被扶養者」の2つの言い方があり、正確にいうと2つの言葉が指す人は異なっています。履歴書には被扶養者に該当する人を記載することが一般的であるため、間違えて扶養親族を記載しないように、ここで、扶養親族と被扶養者の違いについて正しく理解しておきましょう。
2つの違いについて一言でいうと、扶養親族とは所得税法上の扶養家族、被扶養者とは健康保険法上の扶養親族です。扶養親族と被扶養者にはそれぞれに異なった条件が設けられていて、その大事な条件の1つに年間収入の基準があります。
年間収入別のボーダーライン
実際に扶養家族の収入がいくらまでだと扶養の対象となるのでしょうか。所得税法上の扶養親族は収入が給与のみだと、会社から支払われた1年間の収入が103万円以下であれば扶養から外されません。所得の場合には48万円以下であることが扶養に入る条件です。一方、健康保険上の被扶養者の場合、収入が130万円以下だと扶養から外されません。扶養に入れるかどうかだけではなく、受けられる控除の内容も年間収入によって変わるため注意が必要です。発生する義務や受けられる控除のボーダーラインを以下で年間収入別にまとめているので参考にしてください。
・100万円を超えると住民税が発生します。(自治体によって異なる場合もあり)
・103万円を超えると所得税法上の扶養親族から外されて所得税が発生します。
・106万円以上になると、勤務状況や勤務先の従業員数など次第で、健康保険に自ら加入する義務が発生します。
・130万円以上になると勤務状況や勤務先の従業員数など次第で、健康保険法上の被扶養者から外されます。
・150万円を超えると年収額に応じて配偶者特別控除で受けられる控除額が少なくなります。
・201万円を超えると配偶者特別控除を受けられません。
履歴書に記載するのは被扶養者に当てはまる人であることが一般的です。しかし、申請などの際に扶養親族の記載を求められる場合もあるため、被扶養者と扶養親族の違いや控除などを受けられるボーダーラインなどはしっかり把握しておきましょう。


被扶養者とみなされる対象条件
被扶養者として履歴書などに記載するためには年収以外にも一定の条件を満たしている必要があります。ここでは、被扶養者について、あらためて収入に関する条件を紹介するとともに、被扶養者の対象となる範囲や年齢の条件についても解説します。ちなみに、一部の例外を除いては、原則、日本国内に住所を置いていることも被扶養者となる条件です。
対象となる範囲
被扶養者の対象となる親族は、被保険者の収入で生計を立てている配偶者、子ども、孫、兄弟姉妹、直系尊属です。これらの親族であれば、同居しているか別居しているかの条件は求められません。ちなみに、配偶者には法律上で婚姻関係のない事実婚の相手も含まれます。また、直系尊属とは直接つながっている系統の親族のうち、本人よりも世代が上の人です。たとえば、父母や祖父母、曽祖父母、高祖父母などが該当します。
一方、先の条件に該当しない三親等以内の親族、事実婚の相手の父母やその相手の以前の結婚のときの子どもは、被保険者と同居していなければ被扶養者の対象となりません。同居については、住居が一緒であると同時に家計もともにしていることが必要です。さらに、これらの条件に該当していても、後期高齢者医療制度の被保険者だと被扶養者になれません。後期高齢者医療制度とは原則75歳以上(政令で指定された一定の障害を持つ人は65歳以上)の人が加入する医療制度です。
年齢と収入基準
被扶養者となる条件の1つが被保険者の収入で生計を立てていることですが、被保険者に養われているかどうかを判断する被扶養者の収入基準は、被保険者と同居しているかどうかによって変わります。被保険者と同居している場合、被扶養者の年間収入が「130万円未満」なおかつ「被保険者の年間収入の2分の1未満」でなければなりません。ただし、被扶養者が60歳以上あるいは障害年金の受給対象となるような障害を持つ人の場合には、年間収入の条件が130万円未満ではなく180万未満となります。つまり、この場合、「180万円未満」で「被保険者の年間収入の2分の1未満」であれば被扶養者の対象です。
一方、被保険者と別居している場合には、被扶養者の年間収入が被保険者から受けている援助よりも少ないことが条件とされています。「被扶養者の年間収入が130万円未満」あるいは「被扶養者が60歳以上または障害年金の受給対象となるような障害を持つ被扶養者の年間収入が180万円未満」という条件は同居のケースと変わりません。


扶養親族とみなされる対象条件
ここまで被扶養者となる条件について紹介してきましたが、ここからは扶養親族の条件となる親族の範囲、年齢と収入基準について解説します。履歴書ではは被扶養者について記載を求められることが一般的ですが、例外もあるため、この後解説する扶養親族についても知っておくとよいでしょう。
対象となる範囲
扶養親族の対象となる範囲は、「配偶者以外の親族」「都道府県知事から養育を委託された児童」「市町村長から養護を委託された老人」です。配偶者以外の親族とは6親等内の血族と3親等内の姻族を指します。血族とは血縁関係のある親族で、姻族とは配偶者の両親や兄弟姉妹、自分の兄弟姉妹の配偶者など結婚によって親族になった人たちです。また、「都道府県知事から養育を委託された児童」とはいわゆる里子を指します。そして、「市町村長から養護を委託された老人」とは身寄りがなく、各自治体が実施している養護委託制度により個人の家庭で養護されている原則65歳の高齢者です。
さらに、上記に加えて、納税者と同じ財布で生活をしている、青色申告者の事業専従者として給与をもらっていないあるいは白色申告者の事業専従者ではないことも扶養親族になる条件として挙げられています。事業専従者とはいわゆる家族従業員のことで、納税者と生計をともにし、納税者の事業に1年のうち6カ月以上従事している配偶者や15歳以上の親族です。
年齢と収入基準
扶養親族の対象となる年齢は、その年の12月31日の時点で16歳以上です。16歳未満の子どもでも養っていれば扶養している親族ではありますが、所得税法上で控除を受けられる扶養親族にはなりません。一方、扶養親族の収入については、先でも解説したとおり、収入が給与のみだと会社からの1年間の収入が103万円以下、所得の場合には1年間の合計が48万円以下(2019年以前は38万円以下)であることが条件となっています。収入だと所得より基準となる金額が55万円高い理由は、給与をもらっている人は給与所得控除が適用されて55万円の控除を受けられるからです。


配偶者・扶養家族欄の書き方
扶養家族とはどのような人が該当するかを理解したら、実際の履歴書などへの書き方も覚えておきましょう。ここでは、配偶者と扶養家族を記入する欄の書き方について、内縁関係や事実婚のケースの注意点などにも触れながら解説します。
配偶者欄の書き方
配偶者の有無や扶養する配偶者がいるかどうかを問う配偶者欄があった場合、婚姻関係にある夫または妻について記入することが一般的です。夫や妻がいる人は「有」を、独身者や離婚している人は「無」を選択します。法律上は結婚が認められていない事実婚や内縁関係にある場合には、夫婦のような関係を持っている相手がいても「無」を選択しなければなりません。ただし、事実婚の相手を扶養している人は、扶養家族の欄に「事実婚」と記載しておきましょう。税法上では配偶者として扱われなくても、社会保険法上や会社の手当などの規定では法律婚と同じ扱いを受けられる可能性もあるからです。また、配偶者の扶養義務の有無について選択する欄があった場合は、扶養に入れている配偶者がいれば「有」を、いなければ「無」を選びます。
扶養家族欄の書き方
扶養家族欄では扶養している家族の人数を問われることが通常です。扶養家族の人数を問われた場合、扶養家族数をそのまま記入しますが、「配偶者を除く」という但し書きがあったら、実際の扶養家族数から1人分を差し引いた数を書かなければなりません。たとえば、配偶者と2人の子どもを扶養している場合は「3人」と書きますが、「配偶者を除く」という但し書きがあった場合には「2人」と記入します。また、子どもがいても、その子どもが配偶者の扶養に入っている場合には扶養家族数にのなかにカウントしません。さらに、年齢が75歳以上の人も扶養者の数に入れないため注意しましょう。ちなみに、事実婚の相手は扶養家族数に含めることが一般的ですが、念のため事実婚である旨も記載しておくとよいでしょう。
よくある質問
最後に、扶養家族に関してよくある2つの質問について解説します。
年金をもらっている親は扶養に入りますか?
結論からいうと、年金をもらっている親でも扶養に入れることは可能です。所得税法上の扶養親族には年齢の条件に下限はあるものの上限はありません。ただし、所得条件を満たしていることは必要です。所得条件を満たしているかどうかを確認する際には、受給額イコール所得金額ではないことに注意しましょう。受給している公的年金から控除額を差し引いた所得金額が48万円以下になれば所得税法上の扶養に入れられます。また、健康保険法上でも条件さえクリアしていれば扶養に入れることはできますが、後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上は扶養に入れられないため気を付けましょう。
別居している親を扶養にできますか?
別居している親は、先で紹介した一定の要件を満たし、なおかつ生活費の援助を継続的に行っている事実があれば、所得税法上でも健康保険法上でも扶養に入れることは可能です。ただし、別居する親に生活費の仕送りを行っているなど、住まいは別でも生計をともにしている事実がなければ扶養に入れられません。また、実際に仕送りをしている金額より親の収入が少ないことも条件です。


扶養家族数は正しく申告しよう
扶養家族についてあらためて知識を整理し正しく理解しておけば、いざ履歴書に記入したり会社に申請を行ったりしなければならなくなったときに困りません。扶養家族の知識は税金や保険料が軽減されるかどうかにも関わる大事なことです。親の扶養や事実婚などについての知識がないばかりに扶養家族数を誤って申告し、税金などを多く払ってしまう場合もあるため、この記事で解説した話を頭に入れながら正しく申告を行いましょう。

この記事の監修者
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士。1987年生まれ、一橋大学商学部卒業。ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行なっている。
