会社と言えば「株式会社」が一般的ですが、実はさまざまな種類があることをご存知でしょうか。その中の1つが「合資会社」です。会社の設立を予定していたり、合資会社への就職・転職を検討していたりする場合は、その仕組みを正しく理解しておく必要があります。
そこで、本記事では合資会社の概要や設立手順のほか、合資会社を設立したり、あるいは合資会社で働くことになったりした際のメリット・デメリットを詳しく解説します。


目次
合資会社とは
始めに、合資会社の基本的な仕組みについて説明していきます。また、合資会社と混同しがちな株式会社・合同会社・合名会社などとの違いをそれぞれ解説。
各形態の特徴を把握しておくことで、合資会社への理解もより深まるのでしっかり覚えておきましょう。
無限責任社員と有限責任社員で構成
合資会社の最大の特徴は、「無限責任社員」と「有限責任社員」で構成されている点です。まず、無限責任社員とは、倒産するなどして会社が負債を負った際に、負債額のすべてを債権者に返済する責任が生じる社員のこと。金額に上限がなく、負債がゼロになるまで返済し続けなければいけない義務を負うため、最悪の場合自己破産するケースもあります。
対して、有限責任社員は、同じように負債額返済の責任は負いますがその金額には上限があり、出資額以上は支払う必要がありません。そのため、一般的には責任範囲が狭い有限責任を負うほうが最悪のリスクを回避できると言えます。
また、合資会社は無限責任社員1名以上+有限責任社員1名以上=計2名以上でないと設立・経営ができません。この点が、他の会社形態との違いの1つです。
株式会社との違い
まず、合資会社と株式会社は責任範囲が最大の違いとして挙げられます。株式会社の社員は「有限責任社員」のみです。そのため、先程説明したように出資額以上の責任は負う必要がありません。
また、合資会社は最低でも2名の社員がいなければ会社を設立することができませんが、株式会社は1名からの設立が可能です。
他にも、株式会社は株主総会で意思決定を行い、その後に決算公告を行う必要があります。決算公告とは、会社の決算内容を公にすること。株主や債権者などに会社の経営状況を明らかにし、取引の安全性を保つことが目的です。
対して、合資会社は社員による総会で意思決定を行い、決算公告の義務はありません。
合同会社との違い
合同会社は、株式会社同様に有限責任社員だけで構成されています。ただし、会社設立時に出資した人が経営権限を有する点が合同会社の最大の特徴です。ちなみに、先程ご説明した株式会社は、株主と取締役が明確に区別されています。合同会社の出資者は「代表社員」と「業務執行社員」に分かれます。
「代表社員」とは、その名の通り会社の代表であり、株式会社における代表取締役社長と同等の立場です。「業務執行役員」は、株式会社における取締役のことです。合同会社においては、出資者全員が代表権及び業務執行権を行使できます。
ただ、必ずしも全員が経営に携わる必要がないように、代表権あるいは業務執行権を行使する人を定款の中で定めるようにしています。
株式会社とは異なり、定款の謄本手数料や認証料などの費用が合同会社設立時にはかからないため、低コストで会社を興せます。しかし、株式の発行はできないため資金調達の手段が限られてきます。
合資会社の利点の多くは、合同会社でも同様に享受できるもの。なおかつ合同会社は社員の責任が必ず有限であることから、あえて合資会社を選ぶメリットはほとんどないと言っていいでしょう。
老舗企業だと、中には合資会社の形態を取っている場合もありますが、合資会社の新規設立は減っているのが現状です。
合名会社との違い
合名会社は、無限責任社員のみで構成されています。合同会社と同じく、費用を抑えたうえで自由度の高い経営を行うことができ、会社設立も1名から行うことができます。
しかし、全員が無限責任であるため、合資会社よりも設立のハードルは高いです。家族経営など、すでにお互いの信頼関係が構築されているケースで利用されることが多いようです。
個人事業主との違い
「個人経営」や、近年よく耳にする「フリーランス」がいわゆる個人事業主に該当します。しかし、法人化はしていないため、社会的な信用に足らなかったり、高所得になると累進課税でより多くの税金がかかるといったデメリットがあります。そこで、個人事業主から合資会社への法人化を検討した場合、主に3つのメリットが新たに享受できます。
1つ目は、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険などを含む社会保険への加入です。個人事業主が加入するのは国民健康保険と国民年金で、原則全額を負担しなければいけません。一方で、社会保険は半額が会社の負担となるため、個人の負担額が軽減されます。また、会社が負担した保険料については、会社の経費として計上できます。さらに、厚生年金に加入することで国民年金のみに加入していた場合よりも将来受け取れる年金額が大きくなります。
2つ目のメリットは、経費の認定範囲が広がることです。自分や家族への給料、自宅を「社宅」扱い、福利厚生など経費として計上できる範囲が個人事業主と比べると大きくなります。経費が差し引かれた利益に税金がかかってくるため、結果として節税に繋がるというメリットがあるのです。
3つ目は、前述した個人事業主のデメリットとまさに正反対。社会的信用が得られやすくなるということです。個人事業主は開業届の提出さえ済んでいれば得られる肩書きなので、言ってしまえば「誰でも名乗れる」もの。対して、複雑な手続きを経て法人登記した場合、それだけで信頼に足り得る根拠となるのです。企業との取り引きがしやすくなったり、金融機関からの融資も受けやすくなったりと、得られるメリットが多くあります。
ただし、個人事業主が新たに合資会社として登記する場合、自身も含めて2名以上の社員が必要です。また、社員が辞めた場合には補充が必要であるため、この点はよく注意しておきましょう。


合資会社を設立するメリット
ここからは、合資会社を設立するメリットを4つご紹介します。ただ、合資会社のメリットはほとんどが合同会社でカバーすることができます。さらに、先程もご説明したように合同会社の社員は有限責任であるためリスクが格段に低いです。
加えて、株式会社設立の壁でもあった資本金が1円〜に引き下げられたこともあり、合資会社は現状あまり利用されていないことを念頭に置いておきましょう。
設立費用が安い
株式会社を設立するには、登録免許税、定款印紙料、定款認証費用で合わせて約25万円がかかります。対して、合資会社は登録免許税と定款印紙料のみの計約10万円で設立することができるため、費用を抑えられる点が大きなメリットと言えます。
出資金の制度がない
株式会社や合同会社は1円以上の出資が必要ですが、合資会社には出資金の制度がありません。また、合資会社は必ずしも金銭での出資でなくてもよいため、設立のハードルが低いです。現金以外の出資方法としては以下の種類があります。
・信用出資:その人が有している信用を会社に利用させる出資方法
・労務出資:労働力を提供する出資方法
・現物出資:不動産や特許権などによる出資方法
ちなみに、株式会社は上記の信用出資・労務出資が認められていません。
資本金が不要である
出資が金銭に限られていないという前述の内容とも重複しますが、合資会社は資本金を用意する必要がありません。従来はこれが合資会社設立の大きなメリットでしたが、2006年の新会社法施行により株式会社の資本金最低金額が1円に引き下げられました。
そのため、株式会社設立のハードルがぐっと下がり、資本金不要という合資会社のメリットはあまり意味を成さなくなっています。
社会保険に加入できる
法人であるため、前述の通り個人事業主は原則加入できない厚生年金などの社会保険に加入することができます。個人としては、健康保険や年金の負担額が減るのが大きなメリットと言えます。
また、会社としては福利厚生を充実させることができ、それにより社員の採用がしやすくなり、ひいては社員の離職率を下げることにも繋がります。


合資会社を設立するデメリット
続いて、合資会社を設立するデメリットを4つご紹介します。近年の新規設立が減っているのは、合資会社独自のメリットが薄れているうえにデメリットが残っていることに要因があります。
それぞれのデメリットをよく把握し、会社設立の際の参考にしてみてください。
無限責任社員のリスクが大きい
合資会社には必ず1名以上の無限責任社員がいます。その名の通り、無限責任社員は会社の債務に対して無限の責任を負わなければいけないため、万が一を考えるとリスクが非常に大きいです。
事業が失敗して倒産に追い込まれた場合、返済のためにすべての私財を投げ打つ可能性も出てきます。このことからも、合資会社と設立のメリットがほぼ同じでありながら社員の責任が有限である合同会社のほうが設立事例は多いです。
設立・経営に2名以上必要
株式会社・合同会社・合名会社は社員1名でも設立できますが、合資会社だけは2名以上必要です。無限責任社員1名、有限責任社員1名を最低でも確保しなければいけません。
そのため、他の会社形態よりも設立のハードルが高いです。また、2名で合資会社を立ち上げられたとしても、後になってどちらかが離脱した場合、新たに社員を採用しなければいけません。自分以外にもう1人、常に雇用し続けなければいけないという難しさがあります。
出資者のリスクが不平等
無限責任社員と有限責任社員の両方が合資会社には存在しているため、出資者間のリスクが不平等になり、経営を難しくする恐れがあります。株式会社と合同会社は全員が有限責任社員、合名会社は全員が無限責任社員であるため、合資会社のような不平等が生まれにくいです。
経営の事例が少ない
合資会社は、他の会社形態と比べた時のメリットが失われつつあります。最低資本金額のルールが大幅に変更されたこともあり、近年は株式会社を設立する人が急増しています。
対して合資会社を新しく立ち上げる人はほぼいないため、仮に合資会社を設立したとしても同業者(同形態の法人)を見つけにくく、経営のノウハウを学びにくいというデメリットがあるでしょう。経営事例が非常に少ないのが現状です。


合資会社の設立手順
合資会社の設立は、株式会社と比べると手続きが簡単です。具体的な設立手順を、内容とともにご紹介します。
1.共同で会社を設立する社員を見つける:前述したように、合資会社は必ず2名以上でなければ立ち上げることができません。自分以外に最低でももう1人社員を迎え、協議して事業計画を作っていきます。
2.社名(商号)や住所などの基本情報を定める:会社を設立するのに必要な基本情報を決めていきます。また、商号を決める際は一般的に司法書士や行政書士に依頼して商号調査を行ってもらいます。規定上、すでに登記されている他の会社と同じ商号かつ同じ本店所在地である場合には、新規の登記ができません。そのため、登記を申請する前には「同一商号・同一本店」を調べる必要があります。この調査のことを「商号調査」と言います。
3.定款などの必要書類を作成する:会社設立に必要な定款などの書類を作成します。会社の定款は、インターネットなどで雛形や作成例が掲載されている場合が多いですが、あくまでこれらは一例です。後々のリスクを回避するためにも、専門家に依頼し自社の事業に即した内容で監修してもらったほうがよいでしょう。
4.法務局に登記申請をする:登記申請についても、司法書士や行政書士に依頼するのが一般的です。また、法人登記は申請後直ちに完了するわけではありません。通常、申請後1〜2週間で登記完了となります。
合資会社で働くメリット
合資会社は小規模経営であることが多いため、アットホームな雰囲気が魅力の1つと言えます。和やかな人間関係であればあるほど、業務をよりスムーズに行うことができるでしょう。スタッフ間の情報共有もしやすいです。
合資会社で働くデメリット
前述した合資会社で働くメリットは、逆手に取ればデメリットになることも。まるで家族のような近しい雰囲気は、中途入社した人にとっては馴染みにくい場合もあります。どのような社風なのか、事前に確認しておくとよいでしょう。
また、自身が有限責任社員となった場合、経営状況が悪化した際は少なからず負債を負うリスクがあります。合資会社の無限責任社員は経営者であることがほとんどなので責任を負うのは免れないとしても、経営の都合で自身が有限責任社員になることがあれば思わぬ事態です。こういった背景も、合資会社の新規設立が大きく減少している理由の1つと言えます。
合資会社の概要まとめ
経営事例が少なく、設立のメリットも薄らぎつつある合資会社。そんな合資会社への就職・転職にはリスクも伴うため、慎重に検討するようにしましょう。
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