年収に関する基本的な知識を身に付けていますか?収入といっても年収・所得・手取り額では言葉の意味も金額も異なります。たとえば転職の際に前職での収入を申告する場合には、求められた正しい金額を申告しなければなりません。そこで今回は、年収の確認方法や計算方法のほか、年収から引かれる控除にはどのようものがあるのか、配偶者控除は年収いくらになると外れるのかといったことについて詳しく解説します。


目次
年収とは?
会社から給与を得ている人の場合、年収とは、その年の1月1日から12月31日までに会社が支払った総額のことです。ただし、ここで注意するべきポイントは、年収額は給与を受け取る際にあらかじめ天引きされる社会保険料や所得税、住民税、投資をしている人の場合は積立税も含めた金額だということです。つまり、給与を受け取る人は年収を全額受け取ることができるわけではありません。
自営業・個人事業主の年収
自営業者や個人事業主の場合も、年収はその年の1月1日から12月31日で計算します。自営業者や個人事業主の人の場合、年収とは年間の売り上げから必要経費を引いて手元に残った金額のことです。そのため、たとえ事業の売り上げがあっても経費が売り上げよりも多かった場合には、年収が0円ということになります。
「所得」と「手取り」の違い
ここからは、年収と混同しやすい言葉である「所得」と「手取り」の違いについて説明します。
所得とは?
所得とは、年収から必要経費を引いた金額のことです。会社から給料をもらっている人の場合、必要経費額は一定の式に当てはめることで計算します。この式は年収によって異なるので注意が必要です。たとえば、年収が400万円の人の場合「400万×20%+44万」という式を当てはめるので、124万円が必要経費です、この必要経費が所得税の控除額(給与所得控除)となります。つまり、年収400万円の会社員の場合、所得は400万円から124万円を引いた276万円です。年収が850万1円以上になると、必要経費(給与所得控除額)は一律195万円になります。
気を付けるべきポイントは、会社員の必要経費額は実際にかかった金額ではないということです。いくらが必要経費額として所得税の計算の際に引かれるのかはあらかじめ決まっているのです。一方、自営業者や個人事業主の場合、必要経費額は実際にかかった金額が収入額から差し引かれます。
手取りとは?
手取りとは、年収から税金や社会保険料の金額を引いたものです。つまり、実際に手にする金額のことです。年収が400万円の人であれば、一般的にはおよそ300万~320万円程度が手取り額となるでしょう。手取り額が人によって異なるのは、賞与や扶養家族控除等のあるなし、加入している社会保険の種類などさまざまな条件によって変動するためです。
また、収入が増えるにつれて税金や社会保険料といった天引きされる控除額も増えていきます。そのため、収入額の増加に比べて手取り額の増加は緩やかなものとなります。たとえば、年収800万円の人の手取り額はおおよそ600万円程度です。年収400万円の人の2倍の年収だからといって手取り額も2倍になるわけではないのです。


年収を確認する方法
自分の年収額は一体どのように確認すればよいのでしょうか。分かりやすいのは、源泉徴収票を確認することです。その「支払金額」欄に記載された金額が年収です。あるいは、年間の給与明細と賞与明細を確認することでも年収を知ることができます。そこに記載された「総支給額」を合計した額が年収です。ただし、交通費や祝い金などは年収には含みません。給与明細で年収を確認する場合には「総支給額」からこれらの金額を除外して計算しましょう。
年収から手取りを計算する方法
次に、年収額から手取り額を計算する方法について解説します。一般的に手取り額は年収の75〜85%といわれています。そのため、おおまかな数字でよいのであれば、「年収×0.8」で計算するとよいでしょう。逆に手取り額から年収額を計算したいのであれば「手取り÷0.8」で知ることができます。より正確に計算したい場合には、税金や社会保険の金額を計算して年収から差し引くことで知ることができます。
年収から控除される税金と保険料の種類
実際に年収からどのような税金や保険料が控除されているのか知っていますか?ここからは税金から控除される税金や保険料の種類についてそれぞれ詳しく解説します。
税金の種類
年収から控除される税には所得税と住民税があります。所得税は国に納める税、住民税は住んでいる地方自治体に納める税です。どちらも収入額によって税額が変わってくるので注意が必要です。ここでは、仮に年収400万円の人の場合を考えてみましょう。所得税額は所得額を計算することから始めます。年収400万円から給与所得控除である「400万×20%+44万」円を引いた276万円です(課税所得額)。この課税所得額に330万円から 694万9000円までの所得税率である20%を掛け、さらに基礎控除額42万7500円を引きます。つまり「276万×20%-42万7500」となり、12万4500円です。
住民税額には所得割と均等割があります。所得割額の標準税率は課税所得額の10%です。年収400万円の人の場合、27万6000円です。そこから配当控除や寄附金税額控除などを差し引いた金額が所得割額になります。これらの控除がなかったとすると、この所得割額に均等割額5000円を足した28万1000円が住民税となります。
ただし、実際には所得税にも住民税にも税率を掛ける前に配偶者控除や社会保険料控除といったさまざまな控除があることを知っておきましょう。この計算はあくまでもそういった控除がなかったものと仮定した場合のものです。また、市区町村によっては住民税において標準税率ではない税率を使用しているところもあります。詳しく知りたい人は自分の住んでいる自治体の住民税の計算方法を確認しましょう。
保険料の種類
年収から引かれる保険料は4つあります。これらの保険料はすべて会社と折半で負担します。それぞれ解説します。まずは健康保険です。健康保険は医療費が約3割負担となる医療保険制度です。健康保険料がいくらになるのかは、月当たりの報酬月額と賞与額、会社が加入している健康組合、住んでいる自治体によって異なります。40歳以上になると介護保険に加入しなければなりません。介護保険は自己負担1~3割程度で国の介護サービスを受けられる医療制度です。介護保険料は健康保険料とともに納めることになります。雇用保険は一定期間加入することで失業時に失業保険を受けられる制度です。雇用保険料がいくらになるのかは、雇用されている会社の事業の種類によって異なります。
最後に、厚生年金は日本政府が運営している公的年金です。厚生年金の保険料も健康保険と同じように、月当たりの報酬月額と賞与額によって定められた等級によって決まります。さて、ここでは仮に年収が400万円でボーナスはなし、東京都在住、42歳の人の保険料を計算してみましょう。年度は令和4年度、全国健康保険協会に加入しているものとします。年収400万円の人の場合、月収である報酬月額は33万3000円になります。健康保険の等級は24級、40歳以上なので介護保険料が上乗せされるため、保険料率は11.64%です。
そうすると健康保険、介護保険の額は全額で3万9576円、折半額は1万9788円になります。厚生年金の保険料率は18.3%なので、全額だと6万2220円、折半額で3万1110円になります。また、雇用されている会社が一般の事業を行っていた場合、令和4年度の雇用保険料率は0.3%です。そうすると雇用保険料は999円になります。合計すると5万1897円が毎月納めるべき保険料です。


税金が高くなってしまう年収の壁とは?【配偶者控除】
学生時代、アルバイトの給料が年間で103万円以内になるようにしてほしいと親から頼まれたことがある人もいるでしょう。納税する世帯主に配偶者がいる場合や子どもなどの扶養家族がいる場合、所得税や住民税において配偶者控除や扶養控除を受けることができます。しかし、配偶者や扶養家族の年収がある程度の額になると、配偶者控除や扶養控除といった所得税と住民税におけるさまざまな控除がなくなってしまうのです。そこで、ここからは一体年収がいくらになるとそうした控除がなくなってしまうのか、いくつかある年収の壁について解説します。
年収103万円
扶養家族であっても、働いて収入があれば所得税を納税する義務が生じます。しかし、実際には所得税には基礎控除48万円と給与所得控除55万円があります。つまり、所得税の場合、たとえ収入があっても103万円以下であれば収入がないのと同じになるのです。また、住民税の場合は基礎控除額が45万円、給与所得控除額が55万です。そのため、住民税は年収が100万円以内であれば非課税となります。
では、扶養家族の年収が103万円を超えてしまうとどうなるのでしょうか。まず、103万円を超えた被扶養者本人に所得税や住民税の納税義務が生じます。仮に年収が120万円だった場合、所得税は120万円から控除額の103万円を引いた17万円が課税対象額となります。課税対象額が195万円以下であれば所得税率は5%なので、約8500円を所得税として納めなければなりません。住民税の場合、120万円から100万円を引いた20万円が課税対象額となります。住民税率を10%として計算すると、2万円の納税義務が生じます。
負担が大きくなるのは被扶養者本人だけではありません。世帯主である親の負担はさらに大きなものとなります。というのは、被扶養者である世帯主の子どもが年収103万円を超えてしまうと、世帯主の所得から引かれていた扶養控除額がなくなってしまうからです。世帯主の年収が900万円以下の場合、扶養控除額は原則38万円、被扶養者が19歳以上23歳未満であれば63万円です。つまり、被扶養者である子どもの年収が103万円を超えてしまうことは、世帯主の課税所得額が38万円もしくは63万円増えてしまうということと同じなのです。その結果、世帯主の年収が700万だった場合には、所得税と住民税で10万円以上の税負担が増加することになります。
年収130万円
会社で働いている場合、ある程度の年収を超えると世帯主の社会保険扶養控除から外れ、自身で社会保険(国民年金や国民健康保険など)に加入しなければならなくなります。自身で社会保険に加入した場合、毎月3万円程度(年間で36万円程度)の負担が生じます。つまり、それだけ手取り額が減ってしまうのです。この年収のボーダーラインは130万円とされています。どのような規模の会社でどれくらいの期間働いているとしても、年収が130万円以上の場合には自身で社会保険に加入しなければなりません。
ただし、令和2年の税改正によって、いくつかの要件を満たしている場合には年収106万円を超えた段階で加入義務が発生するようになりました。その要件とは、正社員が501人以上の会社で働いていること、月収が8万8000円以上であること、雇用期間が1年以上であること、所定労働時間が週20時間であること、学生ではないことです。これらの要件に当てはまる場合は年収106万円以上で社会保険への加入義務が発生するので注意しましょう。
年収150万円
かつて配偶者控除の上限額は扶養控除と同じ103万円(基礎控除48万円と給与所得控除55万円)でした。しかし、令和2年の税改正によって「48万円超133万円以下」であれば配偶者特別控除を受けることができるようになりました。たとえば、48万円以上95万円以下の場合、納税者の所得が900万円以下であれば控除額は38万円です。つまり、納税者の所得が900万円以下の場合、配偶者の年収150万円までは、これまでの配偶者控除と実質的に同じ控除を受けられるようになったのです。
ただし、この配偶者特別控除は配偶者の所得金額と納税者である世帯主の所得金額によって控除額が変わるので注意が必要です。たとえば、納税者の年収が600万円の場合を考えてみましょう。もしも配偶者特別控除がなければ、この納税者の納めるべき所得税額は77万2500円です。配偶者の年収が130万円だった場合、配偶者特別控除として38万円を受けられます。そうすると、所得税額は69万6500円に減額されます。一方、配偶者の年収が165万円だった場合、配偶者特別控除額は26万円になります。その結果、所得税額は72万500円となります。納税額が2万4000円増えてしまうのです。ただし、多くの場合は所得税額の増加額よりも、配偶者の収入が増えたことによる世帯年収増加額の方がより多くなるでしょう。


年収のよくある質問
最後に、年収についてのよくある質問について詳しく解説します。
年収に交通費は含まれますか?
年収に関してよくある誤解の一つが、交通費の扱いです。年収は源泉徴収票の「支払金額」であり、給与明細の「総支給額」ではありません。給与明細の「総支給額」には交通費も含まれますが、源泉徴収票の「支払金額」は保険料や税金を引く前の金額に賞与や交通費以外の手当てを足した額です。もしも転職の際などに年収を聞かれた場合、この「支払金額」を答えましょう。交通費が年収に含まれない理由は、交通費が経費とみなされるためです。そのため、交通費は一定額までは非課税となっています。前述したように、年収から必要経費額を差し引いた額が所得です。もしも年収に交通費を含めてしまうと、差し引くべき必要経費額が実際よりも多くなってしまうというわけです。
年収に年金を含んでもいいのですか?
年収とは、年間に得た収入のことです。その際、どこからお金を得たのかということは関係ありません。将来にわたって継続的に得られるすべての収入のことを指します。そのため、年金による収入はもちろんのこと、事業所得や不動産収入、投資による利子や配当、保険の給付金なども年収に含まれます。
年収と年商はどう違うのですか?
年収とは、収入から保険料や税金を引く前の金額のことです。会社員の場合、給与と賞与、さらに交通費以外の手当を足した合計額が年収です。自営業者や個人事業主の場合、年間の売り上げから必要経費を差し引いた額が年収です。一方、年商はこの自営業者や個人事業主の年間の売り上げのことを指します。会社員の人が年収を全額受け取るわけではないように、自営業者や個人事業主は年商の全額が収入になるわけではありません。
年収に対して正しい理解を身につけよう!
年収は会社が支払った総額であり、所得はそこから必要経費を引いた額です。手取りは年収から税金や保険料を引いた、実際に受け取る金額のことです。この三者の違いを理解しておけば、税金の納め間違い防止や転職の際の年収交渉など、将来のさまざまな場面で役に立ちます。お金の知識は生活していくうえでとても大切です。間違えることのないようしっかり把握しておきましょう。
