雇用保険被保険者証は転職して再度雇用保険の被保険者となる際に必要になる書類です。しかし、以前は会社がハローワークで被保険者資格取得の手続きを行った後、氏名変更の手続きの際に添付するためや紛失を防ぐため会社が保管することも多く退職時に返却されて初めて目にする方もいるかもしれません。スムーズに転職活動を進めたいのであれば、雇用保険被保険者証の正しい知識を身につけておくことが大切です。そこで、この記事では、雇用保険被保険者証の概要をはじめ、必要になる状況や紛失時の対応などについて解説します。


目次
加入できない人もいる?雇用保険被保険者証の基本
まずは雇用保険被保険者証の概要・記載内容・加入条件など基本的なことについて学びましょう。ここでは、雇用保険被保険者証とはどういったものなのかについて解説します。
概要
「雇用保険被保険者証」とは、雇用保険に加入している労働者に対して発行される証明書のことです。通常、雇用保険被保険者証は「雇用保険被保険者資格等確認通知書(被保険者通知用)」という書類とセットで扱われます。
記載内容
雇用保険被保険者証に記載されているのは「被保険者番号」「氏名」「生年月日」です。加えて「資格取得日」「事業所名」「資格取得時種別」が記載されています。被保険者番号とは雇用保険加入者のそれぞれに割り振られる11桁の数字のことをいいます。労働者本人と紐づけられた番号であるため、原則として転職して新しい会社に入っても被保険者番号が変わることはありません。ただし、7年以上雇用保険適用下で労働していない場合、被保険者番号は消失します。氏名や生年月日は被保険者が労働者本人であることを証明するために記載されているものです。
資格取得日とは雇用保険に加入した日のことです。一般的には労働者が会社に入社した当日の日付が記載されます。事業所名には雇用保険加入の手続きを行った会社名が記載されます。
発行条件
誰もが雇用保険に加入できるわけではありません。雇用保険被保険者としての加入要件があります。1つ目は1週間の所定労働時間が20時間以上あることです。所定労働は拘束時間ではなく実際に働いた時間のことです。たとえば、1日6時間・週に3日勤務働いている場合、週の所定労働時間は18時間になります。この場合、20時間以上に当てはまらないため、雇用保険の加入対象外です。2つ目は31日以上連続して雇用されることです。例えば、雇用期間30日で必ず雇用が終了する短期バイトの場合、31日に満たないため対象外になります。また、上記の要件を満たす場合であっても昼間学生は原則加入することができません。
以上の条件から考えると、企業で正社員として働く場合、雇用保険被保険者証の発行条件は満たされています。しかし、アルバイトやパートの場合、発行の条件を満たしていないケースがあるのです。ちなみに、企業の社長や役員の場合、原則的に雇用保険に加入できません。なぜなら、企業に雇用されて働いているわけではないからです。また、公務員も雇用保険の適用除外になります。ただし、雇用保険による基本手当(いわゆる失業手当)の代わりに国家公務員であれば国家公務員退職手当法による退職手当、地方公務員であれば地方自治法に基づく各地方公共団体の条例に定めがあります。
有効期限
雇用保険番号には有効期限があります。原則的に雇用保険被保険者証の被保険者番号は退職して新しい企業に勤めることになっても、同じ11桁の番号を使うことになります。ただし、7年以上雇用保険に加入していない状態になった場合、被保険者番号はハローワークのデータから抹消されてしまうのです。例えば、「会社を辞めた後にフリーランスや自営業として独立する」「出産や育児で離職する」「親の介護で離職する」といったケースでは7年以上雇用保険の被保険者ではなくなることになり、有効期限が切れる可能性があるのです。
被保険者番号が抹消された後、新たに会社で働くことになった場合、再就職先の会社が雇用保険被保険者証の発行手続きを行います。


混乱しがち?雇用保険被保険者証と離職票の相違点
雇用保険被保険者証と混同されがちなものが「離職票」です。会社を退職すると、失業手当を受け取るために離職票を発行してもらいます。離職票の正式な名称は「雇用保険被保険者離職票」です。その名称から雇用保険被保険者証と同じようなものと考えてしまいがちなのですが、両者は違います。離職票は会社を辞めたことを証明するもので、ハローワークで失業保険給付を受け取るときに必要なものです。また、雇用保険被保険者証は新たな転職先に提出する必要がありますが、離職票は転職先に提出しないことがほとんどです。ちなみに、離職票は必要があれば自分から会社に頼んで発行してもらうものです。ただし、再就職までスムーズに進んで離職期間がなければ発行しなくても問題ありません。
通常、離職票は会社を辞めて10日前後で会社から郵送されます。離職票には「離職票1」と「離職票2」があります。離職票1には「氏名」「マイナンバー」「退職した会社の名称」「失業保険給付を受け取る際の金融機関」などが記載されています。一方、離職票2には「氏名」「退職した会社の名称と住所」「退職前の賃金の支払状況」「退職の理由」などが書かれています。失業保険給付の金額は離職票2の「退職前の賃金の支払状況」「退職の理由」などから決定されます。
失業のときだけではない!雇用保険被保険者証が必要になる状況
雇用保険被保険者証が必要になる状況は3つあります。「失業したとき」「教育訓練給付金を受け取るとき」「転職したとき」です。ここでは、それぞれの状況について詳しく解説します。
失業したとき
雇用保険被保険者証は失業したときに必要になるものです。失業中は会社からの定期的な収入がなくなってしまいます。そのため、金銭的な面で思うように転職活動ができないケースもあります。しかし、ハローワークに出向き必要な書類を提出することで、雇用保険の基本手当を受け取ることができるのです。離職票に記載された雇用保険被保険者番号や資格取得年月日に記載誤りがないか雇用保険被保険者証で確認しましょう。
雇用保険に加入手続きが完了後会社から手渡されるものですが、場合によっては退職時に、離職票と一緒に郵送されることもあります。なかなか返却してもらえないようであれば、会社に電話をし、早く雇用保険被保険者証を郵送してもらうようにしましょう。ちなみに、雇用保険の給付開始時期や総支給額は、退職理由が自己都合退職と会社都合退職によって異なります。会社都合の方が給付開始時期は早く、総支給額も多くなります。
教育訓練給付金を受け取るとき
教育訓練給付金を受け取るときにも、雇用保険被保険者証は必要です。教育訓練給付金とは、労働者が主体的にスキルアップを目的として厚生労働大臣指定の教育訓練を受講・修了した際に受講費用の一部を給付してもらえるというものです。原則雇用保険の被保険者であれば、雇用保険に1年以上加入していれば、教育訓練給付金の対象になりますが、離職して1年以内であれば、現在雇用保険の被保険者でなくても受給の対象となる可能性があります。受給要件を満たすかどうかわからない場合はハローワークに問い合わせてみましょう。
どのような教育訓練が教育訓練給付金の対象となるかについては、厚生労働省のWebサイトで検索すればわかります。教育訓練給付金の手続きは離職者の住所を管轄するハローワークで、離職者本人が行わなくてはなりません。手続きを行う際は雇用保険被保険者証のほか、教育訓練を受けたスクールなどから交付される「教育訓練給付金支給申請書」と「教育訓練修了証明書」のほか、「スクールに支払った費用の領収書」「マイナンバーがわかる書類」などが必要になります。
転職や再就職したとき
転職や再就職したとき、入社手続きで雇用保険被保険者証が必要になります。なぜなら、転職して雇用保険の加入要件を満たした場合、入社先で雇用保険の加入手続きをしなくてはならないからです。新しい会社には、前の会社で手渡された雇用保険被保険者証の提出が求められるでしょう。新しい転職先には雇用保険被保険者証のコピーではなく原本を渡しましょう。雇用保険被保険者証と一体になっている雇用保険被保険者資格等確認通知書は切り離しても大丈夫です。
もし雇用保険被保険者証を紛失してしまい、入社日までに用意できないときは被保険者番号を伝えるようにしましょう。被保険者番号は離職票の左上にも記載されています。実は、会社側は雇用保険被保険者証そのものではなく被保険者番号を必要としています。雇用保険被保険者証がなくても被保険者番号さえわかれば、雇用保険被保険者の手続きを行うことはできるのです。もし被保険者番号がわからなければ、前職の会社名と雇用期間を伝えるようにします。


再発行はできる?雇用保険被保険者証が見つからないときの対処法
雇用保険被保険者証はサイズが小さいものです。そのため、退職してから再就職に時間がかかる場合、紛失してしまう人もいるのです。さらに、退職から数年が経ってしまった場合、会社から雇用保険被保険者証を返してもらったかどうか記憶が曖昧だという人もいるでしょう。そこで、雇用保険被保険者証が見つからないときの対処法について解説します。
以前の職場に連絡する
退職してから次の転職先からなかなか決まらないと、会社から雇用保険被保険者証を返却してもらったかどうか思い出せないこともあるのではないでしょうか。通常、会社は退職時に本人に雇用保険被保険者証を返却することになっています。しかし、何かの手違いで雇用保険被保険者証を返却し忘れていたなどということもあり得るのです。もし返却してもらったかどうかわからないようであれば、以前勤めていた会社に連絡をして確かめてみましょう。そして、会社側が返却し忘れていたのであれば郵送で送ってもらうようにします。
場合によっては、会社が雇用保険被保険者証を紛失していることもあるでしょう。そのようなときは雇用保険被保険者証を再発行する必要があります。ただし、会社に依頼するのではなく、自分自身で再発行の手続きを行うようにしましょう。
ハローワークで再発行する
雇用保険被保険者証を紛失した場合は、ハローワークに行って手続きをすれば再発行してもらえます。自分の住居地を管轄しているハローワークに行きましょう。どこのハローワークにいけばよいかは、厚生労働省のWebサイトの全国ハローワークの所在案内にアクセスすればわかります。手続きがスムーズに進めば、その日のうちに雇用保険被保険者証を発行してもらえるでしょう。
再発行の際は「顔写真つきの本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード・パスポート・写真付き住民基本台帳カードなど)」「印鑑(自身で署名した場合は不要)」などが必要になります。また、「雇用保険被保険者証再交付申請書」には「最後に被保険者として雇用されていた事業所の名称・所在地・電話番号」を記入する必要があるので、あらかじめメモして持っていくようにしましょう。ちなみに、ハローワークは土日祝日が休みです。平日しか受け付けていないため、注意が必要です。
インターネットで電子申請する
最寄りのハローワークが平日しかやっておらず、なかなか時間がとれない場合もあります。そのようなときは、インターネットによる電子申請で雇用保険被保険者証の再発行を行うことができます。総務省が運営しているWebサイト「e-Govポータル」にアクセスして申請しましょう。電子申請のメリットは24時間受け付けていることです。ただし、電子申請を行う際にはICカード型電子証明書を事前に発行したり、アプリをインストールしたりする必要があります。さらに、ICカード型電子証明書を読み取るためのカードリーダーが必要な場合もあります。そのため、意外と手間がかかってしまうのです。また、即日再発行が難しいというデメリットもあります。
雇用保険被保険者証をよく理解して円滑な転職を目指そう
雇用保険被保険者証はハローワークで給付金を受け取ったり、転職先の会社で雇用保険の手続きをしてもらったりするために必要な大切なものです。そのため、紛失してしまうと焦ってしまう人もいるのではないでしょうか。しかし、適切な手続きを取れば再発行できます。スムーズに転職活動を行うためにも、雇用保険被保険者証に対する基本的な知識を学んでおくようにしましょう。

この記事の監修者
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士。1987年生まれ、一橋大学商学部卒業。ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行なっている。
