転職者に直接アプローチできるスカウトメール。誰にどんな内容を送れば、採用の可能性につなげられるのか、書き方・考え方のコツを組織人事コンサルタントの粟野友樹さんが解説します。


その他、働くことに関わるPodcast番組「アワノトモキの読書の時間」を運営
スカウトメールを活用すべき理由とは
そもそも、採用活動において、企業がスカウトメールを活用すべき理由とは何があるのでしょう。
スカウトメールには、システムで自動配信されるものや転職エージェントが送るものもありますが、本記事では「企業の人事担当者が送るもの」として解説していきます。
スカウトメールを送るメリットは大きく2つ、
・求める人材に自社からアプローチできる
・自社内に採用知見が蓄積される
点が挙げられます。
自社からアプローチできる良さとは
自社からのアプローチが求められる背景には、少子高齢化による労働人口減があります。採用難易度がますます高まる中、応募を待っていれば採れる時代ではなくなっている。だからこそ、必要な人材を自分たちで採りに行く“攻めの姿勢”が求められているのです。
企業認知度やブランド力で、大手や人気企業に勝てない…と考える企業にとっても、スカウトメールは有効な手段になります。これまで出会う機会のなかった人材に対し、自社の魅力を直接伝えられることで、共感の接点を増やすことができます。事業やサービスの認知度向上につなげることもできるでしょう。
求人広告や転職エージェント経由では、「ミスマッチが多く、スクリーニングやお断りの連絡をするために時間やパワーがかかる」というケースもあります。その点、スカウトメールの活用は、レジュメを見てほしい人材を選んでアプローチできるため、応募後のミスマッチが生じにくくなります。また、母集団の質向上にもつながります。
転職エージェントを利用する際は、自社の事業内容や特徴、人材要件を担当者に伝えて動いてもらうため、情報伝達が間接的になります。転職エージェントは複数企業の紹介案件を持っているため、採用担当者と同じ温度感、熱量で候補者に話してくれるかまではなかなかコントロールできません。
一方、スカウトメールであれば、採用の主導権を自社で握れるという大きなメリットがあるのです。
自社内に採用知見が蓄積される
スカウトメールを採用する場合、社内でやるべきことが多くなります。
求める人物像の整理、言語化から、データベース上のレジュメを読み込み、採用ターゲットの選定、候補者に向けたスカウト文面の送信…。
これらを内製化してしまえば、出会う前から選考、入社に至るまで全プロセスを見ることができるため、社内にリアルな知見が蓄積されていきます。求人広告や転職エージェントからの応募・紹介待ちの状況では、応募が来なかったとしてもなぜ来ないのかを詳細に検証することができません。
しかし、データベースを見て自ら探すことで、「この人材要件では、当てはまる候補者が市場に〇人ほどしかいない」「この層にはスカウトを送っても返信がほとんどない」などの現実を突きつけられる場面があります。この現実を理解することで、転職市場の動向や、自社がどう見られているかを把握でき、採用ターゲットの修正など、改善策を考えやすくなります。
また、データベースに触れることで、思いがけない出会いもあるでしょう。「ほしい要件は満たしていないけれど、この人の経歴なら当社で生きるかもしれない」という発見があるのもスカウトメールの良さ。ターゲットの幅が広がることで、自社採用力も上がっていきます。
スカウトメールの開封率・返信率を上げるには
では、スカウトメールを読んでもらい、返信してもらうにはどんな工夫をすべきなのでしょう。
まず大切なのは、利用するスカウト媒体の特性や機能を理解することです。
転職者データベースを持つスカウト媒体は複数あります。活用する上で、各媒体の登録者の特性を知ることから始めましょう。
・転職顕在層が多いのか、潜在層が多いのか
・若手が多いのか、中堅・ベテランが多いのか
・年収相場はどれくらいか
など、媒体担当者とよくコミュニケーションを取り情報を集めましょう。
自社の採用ターゲットがデータベース内にどれくらいいるか、返信率がどれくらいかなど媒体の相場数も確認します。また、採用予定人数やコスト、スカウトにかけられるマンパワー面では、機能面でのマッチも重要です。
検索性の高さや利用できる通数、カスタマーサポートをどれくらい受けられるのかも確認し、中長期的に活用できるかシミュレーションしておくことをおすすめします。その上で、スカウトメールの返信率を上げるポイントを「誰に(WHO)」「何を(WHAT)」「どのように(HOW)」の観点から見ていきましょう。
誰に送るのか ~ターゲット設定のポイント~
スカウトメールでまず考えるべきは「誰に送るのか」です。
おさえたいポイントは、以下の3つです。
・理想を求めすぎない、条件を絞りすぎない
・転職活動にアクティブな人を探す
・採用競合の少ない穴場を狙う
多くの企業が陥りがちなのは、「こんなスキルを持った人がほしい」「この実績もなくてはダメ」と求める人物の“理想”がどんどん上がっていくことです。とくに、転職市場動向や採用競合の状況を知らない現場のマネージャー層や経営層は、条件を厳しく設定しがちです。
そうしたケースでは、データベースを活用し、「その条件では〇人しかいません」などと事実を伝えながら、現場や経営層とほしい人材像のすり合わせをする必要があります。採用ターゲットを細分化し、「若手層ならこの経験があればいい」「中堅層ならリーダー経験が必要」「即戦力にはここまで求めよう」など、必要条件を整理するのもいいでしょう。
返信率を上げるのであれば、「転職顕在層へのアプローチ」も欠かせません。
ログイン日が直近の人、登録内容を更新した人、登録内容がしっかり書き込まれている人、離職中の人などは、転職活動にアクティブな可能性があります。
中長期的なタレントプールの観点では、潜在層と接点を持つことも大切です。ただ、返信率はなかなか上がらないので、採用期間が限られる中では顕在層へのアプローチを優先するなど、動き方を考えていきましょう。
採用競合の少ない候補者を見つけるのも、返信率を上げる工夫の一つです。
媒体によっては、候補者ごとのスカウト受信数を見ることができます。あまり受信していない人(企業からスカウトが来ていない人)の中から、自社の採用ターゲットになりうる人を探してみるのもいいでしょう。
何を送るのか ~スカウト文面のポイント~
送る相手が決まったら、次に考えるのは「何を送るのか」です。実践したいポイントを一つひとつご紹介します。
【特別感・個別感を演出する】
スカウトメールでは、「こんな人からスカウトが来た!」という特別感、「ほかの誰でもなく自分に来た!」という個別感を醸成しましょう。そのためには、送信者は経営者や役員、部門の責任者など、できるだけ役職についている人がいいでしょう。送信者の経歴を入れ、文面からどんな人かが分かるような情報開示も大切です。
エンジニアなど専門職の方には、同じ職種の役職者など、仕事内容をよく知る人から送ると、信頼性が高まります。メール内容には、レジュメの内容の「どの経歴・実績に注目したか」を具体的に入れ、「なぜあなたに送ったのか」が伝わるようにしましょう。
【返信へのハードルを下げる】
メール文面では、「まずは一度お会いしませんか」と気楽にコンタクトをとってもらえるようなアプローチがあるといいでしょう。返信へのハードル下げられるよう、以下の工夫も大切です。
・カジュアル面談からスタートする
・面接確約で会える
・オンライン可能
・時間や場所は応相談
【不安・懸念材料を少なくする】
事業内容やミッション、仕事の進め方、職場環境、待遇面などは、できるだけ数字や固有名詞を出して具体的に記します。自社に対して抱かれがちな懸念点があるのなら、それを払拭する情報を入れてもいいでしょう。
【スマートフォンでの読みやすさを考える】
スマホで読むことを想定し、1000~1500文字程度の簡潔な文章を心がけます。
自社の事業内容などは要点のみにして、求人票やリンク先で代替しましょう。
どのように継続するのか ~運営体制づくりのポイント~
スカウトメールの活用で見落としがちなのは、持続可能な運用体制づくりです。
候補者の状況は日々変わります。転職意向度の高い人、転職活動が進行中の人に「今日アプローチできなければ、明日にはチャンスを逃してしまう」ことが常に起こっています。
短期決戦ではなく中長期戦で考え、毎日安定性の高い質を保ってスカウトをしながら柔軟に対応できる体制が欠かせません。注意したいのは、採用担当者のキャパシティに対して、
・ターゲット設定が複雑すぎて、選定に時間がかかる
・文面のカスタマイズ要素が多すぎる
・送信数が多すぎる
という状況です。採用チームメンバーを増やしたり、現場と連携して業務分担をしたり、アウトソーシングに頼るのも一つの方法です。
スカウトメール活用は、すぐに成果が出るものではありません。1~2か月は継続しなければ、良し悪しの振り返りと改善策につなげることはできません。上司にその時間軸を共有し、「効果が出ていないから辞めよう」と尚早な判断にならないような事前調整も大切です。
スカウトメールの例文とポイント
スカウトメールでは、候補者に合わせた、最適な送信者を設定した上で、以下の情報を伝えていきます。
・スカウトを送った理由
・自社概要や魅力
・任せたいポジション、募集背景
・会社の方向性や思い
・一度会いたい、という意向
事例とワンポイントを掲載しますので、参考にしてください。
【エンジニア職のスカウトメール例】
職務経歴書にて、これまでの実績を拝見し、〇〇様の技術をぜひ当社で生かしていただきたいと考え、ご連絡いたしました。
当社は、医療×AI領域を手掛ける創業7年のスタートアップです。「AIの力で疾患予測を手がける」をミッションに、創業以来、前年対比〇%アップの成長を続けてきました。
よろしければ当社のホームページもご覧ください。
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お任せしたいのは、自社サービス「△△」の機能拡張を担うプロダクトマネージャーです。昨年資金調達も終え、事業成長に向けたコンテンツ強化を進めており、〇〇様のように、プロダクト責任者を担った経験のある方を求めております。
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営業の場合、いかに営業活動を進めやすいかが重要となります。商品サービスの特徴(競合優位性など)や、事業の成長性・将来性の見込みなどを伝えるといいでしょう。
さいごに
実際にメールを作成する際は、採用担当者が経営者や役職者の代筆をする場合も多いと思います。送信者のキャラクターによって文面は大きく変わってくることを踏まえ、
「この人だったら自社の何をアピールするだろう」
「どんな文体の、どんな言葉を選ぶだろう」
と考えて作成すると、よりリアルに思いが伝わるでしょう。
返信が来たあと、選考に進んでから、文面の様子とちぐはぐさが出ないよう、送信者とコミュニケーションをよくとった上で文面を作っていくことをおすすめします。