働き方改革の一環として、政府は副業・兼業を推進するために、2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しました。また、ワークスタイルの多様化に伴い、副業・兼業を認める企業も増加しています。企業と雇用契約を結ばずに、単発の仕事を請け負う「ギグワーク」を始める方も多く、副業・兼業を取り巻く環境は変化し続けています。社会的に注目されている副業・兼業ですが、導入されている企業はどのくらいあるのでしょうか。そこで今回は、企業の人事担当者にアンケート調査を行い、副業制度の有無や懸念している副業・兼業の課題について聞いてみました。
【調査概要】
調査名:「中途採用の人事担当者に関する調査」
調査機関:マクロミル
調査対象者: 人事担当者336名
調査期間:2022年6月20~6月30日

副業・兼業の実態
厚生労働省が作成した「副業・兼業の現状①(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01614.html)」によると、副業を希望している人や、実際に副業をしている人は年々増加しており、1992年には雇用者に占める副業を希望している人の割合は4.5%ほどだったのに対して、2017年には6.5%と2ポイント上昇しています。実際に副業を行っている人の割合についても、1992年は1.4%ほどだったのに対して2.2%まで増加するなど、副業を希望する人も、実際に副業をする人も増えていることが分かります。

副業・兼業制度の有無
企業の人事担当者に副業・兼業制度の有無を聞いてみたところ、14%が「全面的に認めている」と回答。「条件付きで一部認めている(36%)」を含めると、何らかの形で副業・兼業を認めている企業が半数にのぼることが分かりました。また、15%は「現時点では認めていないが、認めることを検討している」と回答しており、今後も副業・兼業を認める企業はより一層増えていくと見られます。

企業規模別に見ると、10人未満の小規模企業では副業・兼業を認める割合がとても高くなっていますが、10~99人、100~299人の中小規模の企業では、「副業・兼業を認めておらず、今後も認める予定はない」と回答した割合が増加する傾向に。その後は、企業規模が大きくなるごとに、おおむね副業・兼業に対して前向きに捉えていることが分かります。特に5000人以上の大手企業では、「全面的に認めている」と回答した割合は少ないものの、「現時点では認めていないが、認めることを検討している」まで含めると76%に達し、大手企業を中心に副業・兼業の導入が着実に図られていることが分かります。

2022年7月には、「副業・兼業の促進に関するガイドライン(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf)」がさらに改訂され、労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、企業が副業・兼業を認めているかどうか、また、条件付きで認めている場合はその条件について公表することを推奨しています。こうした副業・兼業の動きは、少子高齢化に伴う労働者不足を背景として、今後も活発化していくでしょう。
副業・兼業を認めている理由
では、企業が副業・兼業を認めている理由はどこにあるのでしょうか。アンケート調査によると、「従業員の収入アップのため(38%)」が圧倒的にトップになりました。次に多かったのは「知識・経験・スキルの向上のため(28%)」という回答でした。他企業で働いて、これまでとは異なる仕事の進め方や人との関わり方を経験し、その経験を自社に活かすという「越境学習」が注目されています。ホームとアウェイを行き来することで得られた学びや気づきは、イノベーションの源泉になります。また、大手企業の従業員が中小・ベンチャー企業で働く、またはその逆の体験をすることによって次世代リーダーを育成しようとする試みは、「企業間留学」「他社留学」などと呼ばれて、仲介する企業もあります。従業員の収入アップだけでなく、副業・兼業による越境体験をして、そこで得た気づきを自社に還元してほしいと考える企業も一定数あるようです。

なお、実際に副業・兼業を行っている人に「副業・兼業をする理由」を聞いたアンケート調査でも、トップは「収入を増やすため」でしたが、「新しいことに挑戦するため」「専門スキル・知識を身につけるため」という回答も上位に並びました。副業・兼業に対する企業と従業員のニーズがマッチすることで、収入やキャリア形成にプラスの効果が期待できそうです。

副業・兼業を認めるうえでの課題
メリットの多い副業・兼業ですが、企業が懸念しているのはどのようなことなのでしょうか。アンケート調査で圧倒的に多かった回答は、「本業への支障が出る懸念(51%)」です。特に、テレワークを導入している企業の場合、勤務時間中に従業員が副業をしていたとしても、上司は気づくことができません。他にも、「長時間労働を助長する懸念(38%)」や、「労働時間の管理ができない懸念(34%)」「ワークライフバランスをとれなくなる懸念(34%)」など、副業・兼業によって全体の労働時間が長くなり、結果的に従業員の心身が休まる時間が少なくなることを懸念していることが分かります。

実際に、厚生労働省が発行している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも、労働者の留意点として「就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要である」としています。そこで、厚生労働省では、雇用契約を結んでいる正社員やパート・アルバイトが、他の企業でも雇用契約を結んで副業・兼業を行った場合は、労働時間を通算して管理する必要があると定めています。ただしあくまで雇用契約を結んでいる場合に限るため、副業・兼業が業務委託契約だった場合は、通算管理する必要はありません。
副業・兼業に興味を持つ求職者が一定数いるため、副業・兼業を認めていることは、採用活動でも有効に働きます。また、外部で得た経験・スキル、知識を自社に還元してもらえるメリットもあります。そのため、積極的に副業・兼業を認めたいものですが、一方で、本業に支障が出るリスクも考慮しなければなりません。企業側としては、従業員が副業・兼業を始めることによって本業に支障が発生したり、働き過ぎて健康を害したりすることを防ぐために、届け出制・許可制のどちらかの形式で申告する仕組みを設け、実態を把握できる状態にしておくことが重要です。また、副業・兼業を行っている従業員に対しては、定期的にコミュニケーションを図り、健康確保に必要な措置を講じましょう。