2020年のコロナ禍以来、企業ではテレワークの導入や採用のオンライン化が進み、働く環境も採用環境も大きく変わりました。地方企業はそうした変化にどう対応したらよいのでしょうか。また、地方企業特有の採用課題とは何なのでしょうか。地方企業の採用に詳しい組織・人事コンサルタント、杉浦二郎氏に詳しく伺いました。

テレワークの流行は地方企業にマイナスに働いている面がある
――地方企業の採用環境(2022年8月現在)をどう見ていますか?
2020年や2021年と比べると、求人倍率も徐々に上がり、全体的な採用環境は少し良くなっています。ただし、コロナ禍に始まった「テレワーク」や「採用のオンライン化」の流行は、地方企業にとってマイナスに働いている面があります。なぜなら、地方都市に住みつづけながら全国、あるいは全世界に向けた転職活動を行い、そのままテレワークで働ける可能性が生まれたからです。
当然ながら、首都圏企業のほうが賃金や仕事内容が魅力的なケースが多い。どこでも働けるようになれば、地方から首都圏企業への転職を希望する方が多数派になり、地方企業で働く必然性が減るのです。特に新卒採用では、採用が全面オンライン化したことを受けて、地方大学の学生が首都圏企業に採用される「ストロー現象」が起きています。中途採用でも同様の流れが起こっていることは確かです。
行政と連携してIターン・Uターン人材を狙うのが有効
――現在各企業が抱える、地方特有の採用課題を教えてください。
3つあります。1つ目は、「県庁所在地(地方第一都市)の企業」と「地方第二以降の都市の企業」では、採用難易度が違う、ということです。地方とはいっても、県庁所在地にはやはり魅力的な募集がありますから、人材は自然と県庁所在地に集まります。実際、県庁所在地の企業はそこまで採用に苦労していません。しかも、地方ではハローワークが十分に機能しており、必要な人材をハローワークで安価に採用できることが珍しくありません。
対して、第二以降の都市の採用は、県庁所在地よりも格段に厳しいという現実があります。首都圏・大都市圏だけでなく県内でも県庁所在地に人材が流出してしまい、募集をかけても候補者がまったく集まらないことがよくあるのです。特に、土木・建築の現場監督などは著しく人材が不足しています。
そこで、第二以降の都市で私たちモザイクワークがよく仕掛けているのは、行政と連携して移住・定住促進施策を行いながら、Iターン・Uターン人材を狙う方法です。最近は、仕事だけでなく生活も充実させたいという人が増えており、地方で働く・暮らすことの再評価が始まっています。たとえば、私の会社・モザイクワークは新潟に拠点がありますが、新潟出身者は私ともう一人の2人しかいません。それ以外のメンバーがなぜ新潟に来てくれたのか。暮らしと仕事が一体となった環境に、「生きている」感覚を得ているからです。
同様の価値観を持ったIターン・Uターン希望者が増えています。この意味では、地方企業には大きなチャンスがあります。子育てや介護などのためにIターン・Uターンを希望する方は、どの地方にも一定数います。彼らのなかには優秀な方が少なくありません。多少手間はかかりますが、最近はIターン・Uターン狙いで採用成功する地方企業の事例が増えています。
地方企業が協力して「地域の人事部」を創設することをお勧めしたい
――2つ目の課題は何ですか?
2つ目はもっと根本的なもので、社内に「人事専任担当者がいない」という課題です。大半の地方企業には人事専任担当者がおらず、総務担当者や経理担当者が人事を兼任しています。この場合、採用は片手間でやるほかありません。なぜなら、総務や経理が忙しいだけでなく、人事業務も、給与計算・支払いや社会保険手続きといった労務管理や制度運用がどうしても中心になってしまうから。採用にかけるパワーがそもそも足りないのです。しかも、採用数が多いわけではありませんから、採用業務に関するノウハウも十分に溜まっていません。これでは、採用がうまくいかなくて当然です。
この課題を解決する方法として提案したいのは、「地域の人事部」の創設です。地方企業が協力し合って、一人の人事・採用スペシャリストを地域に招聘し、どの企業の採用時にも気軽に相談に乗ってもらえる仕組みをつくるというものです。地域の人事部に適任なのは、一人で幅広い人事実務を担った経験があり、採用トレンドに詳しく、地域の採用マーケットをよく知っている方です。そういうプロフェッショナルが一人いるだけで、地域の採用の成功度は格段に高まるはずです。なお、私たちモザイクワークは、まさに「地域の人事部」として多くの会社の相談に乗り、採用成功に向けたお手伝いをしてきました。
地方企業の採用には「オーナーとの相性」という壁もある
――3つ目の課題は何ですか?
多くの地方企業の採用には「オーナーとの相性」という壁があります。地方企業の大半はオーナー企業であり、能力やスキルとは別に、オーナーとの相性が良いかどうかが問われます。たとえば、事業承継の後継者候補として鳴り物入りで首都圏からやってきた優秀な方が、オーナーと合わずに数年で辞めてしまったという話を本当によく耳にします。社内の皆さんはオーナーの意向を敏感に察知しますから、採用選考においてもオーナーがNGを出したら、その時点で不採用が確定してしまう。地方企業あるあるといってもよいくらいです。
ただ私は、オーナーとの相性は、基本的には解決しなくてよい人事課題だと捉えています。なぜなら、オーナーに気に入られることで、ある程度うまくいくケースも多い。採用選考時に「オーナーとの相性の良さ」を選考項目の1つに組み入れて、オーナーとうまくやっていけると確信できる方を採用することも大切です。
一方で、「優秀な人材を採用するために、オーナーや会社のほうが変わる」という選択肢もあります。私のクライアントにも、実際にそうやって組織変革を一気に実行した会社がありました。もちろん大変な労力がかかりますが、今後のビジネスを考えて、そういう道を選ぶこともできます。どちらを選ぶかは各社の自由です。