なぜ良い人材ほど辞めてしまう?中途採用したリーダー候補が定着する「成長実感を得られる組織」の作り方

どんな企業でも、せっかく採用した人材には長く働き続けてほしいと考えるはず。しかし現実には、将来のリーダー候補である若手人材が次々と離職していってしまう組織も珍しくありません。離職防止といえば、給与や休日などの労働条件改善に目が行きがち。もちろん労働条件が整っていることは、従業員に長く働き続けてもらうための大前提となります。
一方、組織・人事領域における調査・データ分析・コンサルティングを専門とする伊達洋駆さん(株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役)は、「従業員の“学習への不満”を解消して成長実感を得られる環境を作ることも不可欠」だと指摘します。若手人材が成長実感を得て、満足し続けられる組織にしていくためには何が必要なのでしょうか。人事に求められる取り組みを聞きました。

伊達 洋駆氏
伊達 洋駆(だて・ようく)さん
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役。神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著:日本能率協会マネジメントセンター)など。

転職の傾向は「成長追求型」と「疲弊離脱型」

——将来を担う20〜30代の若手層の離職に悩んでいる企業が少なくありません。伊達さんは最近の若手層の転職トレンドをどのように捉えていますか。

現在の転職には、大きく分けて2つの種類があると見ています。

1つは「成長追求型」。自分自身の成長を望み、より挑戦的な仕事や環境を求めて転職するパターンです。本人にとってはポジティブな理由による転職であり、転職後の企業でも活躍し得るでしょう。裏を返せば、現在の環境に成長実感を得られていないということでもあります。

もう1つは「疲弊離脱型」です。さまざまなストレスや仕事の厳しさなどによって、身体的にも精神的にも摩耗し、離職せざるを得なくなってしまうケースですね。ただ、疲弊離脱型の人の能力が低いとは限りません。離職に至ってしまった原因を転職後の会社でカバーできれば、活躍できる可能性は大いにあります。

——リーダー候補としての採用を考える場合、多くの企業は前者の成長追求型の人材を求めるかもしれません。中堅・中小企業でもこうした人材を採用することはできるのでしょうか。

このタイプの人材は企業規模にかかわらず、さまざまな職場に存在しています。採用力の強い大手企業や有名企業に入った人でも、思っていたよりも裁量を与えられず、大きな仕事に挑戦できないまま成長実感を得られずにいることもあるでしょう。

そうした人は自身のキャリアに対して焦りが芽生え、成長できる環境を目指して転職しようとします。中堅・中小企業であっても、こうした人材を採用するチャンスは大いにあると思います。

成長実感が頭打ちになってしまう理由とは?

——成長追求型の人材が早期離職しやすい企業・職場には、どのような傾向がありますか?

概して、成長し続けることを求めているのに、成長実感を得られない。そのような傾向があると思います。

言葉にするとシンプルですが、「成長」って難しいんですよね。成長のための機会を提供している会社は多いと思いますが、働く人たちそれぞれが毎日コンスタントに成長を実感できるわけではありません。成長機会と成長実感は分けて考えるべきです。

——評価制度や人事考課制度が機能していないということでしょうか。

評価にはそもそも絶対評価と相対評価があります。会社の中でよく行われるのは相対評価です。原資が決まっているため、誰にどれくらい配分するかを決めるために相対評価を行い、給与や賞与などに反映していきます。

一方、働く人が成長実感を得るために必要なのは絶対評価です。他人と比較するではなく、「以前の自分自身と比較してどれくらい伸びているのか」を振り返ることが大切なのです。昨今では日常業務から離れて自分自身のことを省察する「リフレクション」が注目されており、これはまさに個人が成長実感を得るための取り組みだと言えるでしょう。

しかし、一人ひとりが自分の絶対評価を得る仕組みがある会社は少ないと思います。そのため成長実感の頭打ちにつながっています。

内省のために、評価と切り離した「成長面談」を

——絶対評価を得るためには、何を行うべきでしょうか。

一定期間、たとえば半年間でどれくらい成長できたのかを可視化するような機会を作ることが必要だと思います。

そのために有効なのが1on1です。ここで肝になるのは「誰と面談するか」。1on1といえば通常は上司と部下で行うことが一般的ですが、他にもナナメの関係にあたる他部署のメンターと面談したり、社外のキャリアカウンセラーと話したりするのも、リフレクションのためには効果的です。いろいろな人と話して、次の成長に向けて何が必要なのかを考える「成長面談」を実施するべきではないでしょうか。

伊達 洋駆氏

——たしかに普段の業務で関わる上司との1on1だけでは、自分の将来について思うままに話せないかもしれません。

大切なのは成長面談で話す内容を相対評価に用いないことです。評価するためではなく、あくまでも「成長のための面談」なのだと位置づけるべき。その定義付けが行われないままだと、部下はどうしても上司の評価が気になってしまうでしょう。上司からしても、面談の目的が曖昧だと関わり方を考えるのが難しいですよね。

ここで言う成長とは「過去と現在を比較して何かが高まっている状態」を指します。過去と比較して何が変わったのか。どんなところにポジティブな変化が見られるのか。メンター役を務める人には、こうしたポイントについて一緒に考えていくことが望まれます。

——他にマネジメント側が留意すべきことはありますか?

部下をどんな仕事にアサインするかも重要です。どんなにやりがいのある内容でも、同じ仕事を何年間も続けていれば成長実感を得られなくなっていきます。部下本人が成長を感じられるよう、新しい仕事をきちんと提供していくことが必要なのです。

ここでも成長面談が効果を発揮してくれるはず。上司は忙しい日々の中で、とりあえず目の前の納期を乗り越えるために部下へ仕事を振っていくこともあるでしょう。はたして自分は部下の成長につながる仕事を与えられているのか、誰にどんな仕事を任せてどんな結果が出たのか、しっかりと振り返ってみてください。高い能力を持つ人に成長のための資源を充分に与えられていないとなれば、会社にとって大きな損失です。成長資源と能力のバランスをうまく保ち続けることはマネジメントの重要な役割だと言えます。

部下側に「セルフマネジメントの方法」を知ってもらうことも重要

——部下が成長実感を得られるように、また上司がその成長を後押しできるように、人事が支援すべきことは何でしょうか。

マネジメント層に対する教育が一つのポイントになると思います。部下の成長実感を可視化していくことの重要性を知ってもらわなければ、上司の行動はなかなか変わらないでしょう。

ただ、マネジメント層ばかりに負荷をかけることには心配もあります。そもそもマネジャーは忙しい立場であり、会社によってはプレイング・マネジャーが中心というケースも多いでしょう。マネジャーのタスクを増やす一方では、いつしか仕事を実行できなくなっていくかもしれません。

そこで重要になるのが部下側への教育です。上司に成長支援のためのマネジメントを学んでもらうのと同時に、部下には成長のためのセルフマネジメントの方法を知ってもらうことが必要なのです。

——セルフマネジメントのために必要な力とは。

一つはリフレクションのための力です。繰り返しになりますが、成長とは過去と現在を比べてポジティブな変化が生まれていること。成長実感を得るためには、正しく過去を振り返り、ポジティブな変化が生まれている事実を見つけなければいけません。そうしたリフレクションのやり方そのものを学ぶことが必要だと考えます。

もう一つは展望を描く力。部下が未来に向けた目標を描く際には、できる限り自律的に考えてほしいと思うかもしれません。しかし誰もが自律的にキャリアを設計できるわけではありませんし、部下にとっては必要な情報が不足しているかもしれません。まずは人事が教育的な介入を行い、一人ひとりがどんな未来でどんな変化を生み出したいのか、そのために上司とどのように関わりたいのか、一緒に考えていくことも大切です。

成果と学習は別物。人材定着に必要なのは「学習重視」の施策

——過去を振り返って内省し、未来への展望を描く。こうした機会を持つことは大切だと感じますが、数字やタスクに追われている現場ではどうしても目の前の業務を優先しがちで、成長実感を得るための場が後回しになってしまうかもしれません。

実際に私が調査やデータ分析を行っている企業でも、そうした問題が多く見られます。

ここで考えていただきたいのは、本来「成果」と「学習」は別物であるということです。現場は基本的に成果を求めて仕事を進めるもの。そのため、「成果は上がっているけど、ほとんど何も学習していない」という職場も生まれてしまいます。言い方を変えれば、高い成果を上げることと豊かな学びを得ることは別次元の話なのです。

たとえば、経営層に対して新規事業や社内改善に関する提案を行う取り組みを導入している企業は多いと思います。私はそうした場にコメンテーターとしてゲスト参加する機会もよくあるのですが、参加者からは「こんな成果を出しました」というプレゼンテーションが行われるばかりで、「今回のプロセスを通じてこんなことを学びました」と発表する人はほとんどいません。これは、多くの職場で成果中心の話題ばかりが繰り広げられ、学習が忘れられてしまっていることの証左ではないでしょうか。

こうした現状を変えるために、人事や経営層は「学習を強く意識する」ことを社内へ呼びかけるべきだと思っています。

冒頭で紹介した成長追求型の人材は、成果が出ないからではなく、成長できないから会社を辞めてしまうのです。人事や経営層は「良い人材ほど辞めてしまう」と感じているかもしれません。高い成果を出しているにもかかわらず会社を去っていってしまうのは、学習に不満があるから。良い人材を集め、活躍し続けてもらうためには、成果と切り分けた学習の次元を重視して施策を打つべきだと考えています。

ライター:多田 慎介
カメラマン:刑部 友康

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