母集団形成だけでは意味がない─自社が求める 人材と出会うには

採用につながる母集団が集まらない―。そんな悩みを抱える人事・採用担当者は多いのでは。ほしい人材に合った、質の高い母集団形成の工夫ポイントを、組織人事コンサルタントの粟野友樹氏に聞きました。

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粟野 友樹(あわの・ともき)さん
組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタント。筑波大学・大学院にて人材教育ファシリテーション等の経験を積み、大学院を修了後に、GMOインターネットグループにて求人広告営業とマネジメントを経験。外資系金融機関を経て、パーソルキャリア株式会社にて主にキャリアアドバイザー業務に従事。2018年9月にSeguros(組織人事コンサルティング)を開業。延べ約3000名のキャリア面談、500名以上の転職支援等といった求職者向けの実績と、20数社の企業採用担当として、採用の上流工程から担当する。保有資格:国家資格キャリアコンサルタント。

その他、働くことに関わるPodcast番組「アワノトモキの読書の時間」を運営

母集団形成がうまくいかない理由とは

「採用したくても、そもそもの応募数(母集団の量)が集まらない」
「一定数の応募や紹介はあるが、現場のニーズと合わず、採用に至らない」

このような声が、採用担当者からはよく聞かれます。

母集団形成は、数が集まればいいというものではありません。たくさん集まっても、その中に採用したい人がいないのならば、“母集団形成がうまくいっていない”といえるでしょう。

質と量それぞれの点で母集団形成に課題がある場合、次の要因があると考えられます。

  1. 転職市場を把握しきれていない
  2. 採用手法の理解不足で、適切な選択ができていない
  3. 自社の採用ターゲットが不明確

具体的にどのような採用活動が母集団形成を妨げているのかを見ていきましょう。

自社の認知にズレがある

大企業や有名企業で見られがちなのが、「当社の知名度があれば応募が来るだろう」と、漫然と募集を出してしまうことです。

求人広告や転職エージェント、スカウトメールを送るダイレクトリクルーティングにおいても、「知名度が高いから、詳しい情報がなくても大丈夫」と考え、企業名や印象だけを押し出してしまうケースも少なくありません。

採用チャネルの選び方が合っていない

知名度がない中小企業やスタートアップ・ベンチャー企業では、求人広告や転職エージェントで応募や紹介を待っていても、なかなか応募や返信が来ないこともあるでしょう。

企業から求職者に直接アプローチするダイレクトリクルーティングを取り入れるなど、“待つ”以外のアクションが必要ですが、人手不足、予算不足などで適切に動けていない企業も多くあります。

転職市場の相場や採用競合の状況を把握していない

自社が求める人材は、転職市場にどれくらいいるのか。採用競合はどんな条件で募集しているのか。そうした現状理解がないまま、求職者目線に欠けた条件を提示しているケースもあります。

非常にハイスペックな理想の人材像をそのまま求人情報に掲載しても、転職市場に該当する人が数名しかいなければ、応募につながりません。また、採用競合より明らかに低い条件で提示していても、応募はなかなかこないでしょう。

中小企業やスタートアップ・ベンチャー企業では、給与など条件で大企業を上回れないこともあるため、その場合は、ほかの要素で魅力を伝えたり、将来性をアピールしたりと、情報提供に工夫が必要です。

情報が少なく、抽象的

求職者は、企業が自分に合っているかを判断するために、事業内容や仕事内容、任されるポジション、組織風土、条件面などさまざまな情報を比較検討しています。

情報に具体性がなければ検討ができず、応募というアクションにつながりません。

自社に合った母集団形成をするために

「母集団形成」の目的は、ただ数を集めるだけではなく、自分たちが必要とする人材に出会うことです。そのためにできる取り組みを考えていきましょう。

情報収集と分析で現実を見る

まずは、転職市場の動向や相場観を知ることです。

同じ職種を募集している採用競合は、どのような条件・どのような採用手法で求職者にアプローチしているのか、複数社をリサーチし、自社のやり方と比較検討していきます。

採用ターゲットを明確にする

現実的な採用ターゲットを設定するために、例えば、下記のようなリサーチを行う、という方法があります。

  • 同じ職種を募集している採用競合の社名をいくつか挙げ、採用ページの要素を調べる
  • 転職サイトや転職エージェント、SNSなどで条件に結びつくキーワードを検索する

人事・採用担当者と、現場や経営陣との間に、相場観の理解に差があることも少なくありません。その際、現場から出てきた求人ニーズが「そんな人材はどこにもいない」「いたとしても、自社が提示できる条件では採用できない」と思うような理想像になっていることもあります。

現場と連携して採用活動を進める上では、転職市場の理解を深める時間を作るなど、認識合わせも大切です。

また採用活動を進めながら、「募集をかけてみたけれど、いい母集団につながらなかった」など振り返りを重ね、ターゲット条件を随時修正していくことをおすすめします。

採用ターゲットに合致した採用手法を選択する

採用ターゲットが明確になれば、それに合った採用手法の選択が重要です。

転職サイトや転職エージェントには、総合型のものから、業界・職種に特化したものまでさまざまあります。サービスの特徴をよく理解し、自社のターゲットはどのサイトを活用する傾向にあるか、どのエージェントが合っているかを比較検討した上で選びましょう。

待つだけではなく、企業側から求職者を直接スカウトするダイレクトリクルーティングも広まっており、その一環としてリファラル(社員紹介)採用を導入している企業もあります。

情報発信、採用ブランディングに力を入れる

情報の伝え方にも工夫が必要です。

自社サイトやSNS、ブログ、オウンドメディアなどを活用して求人情報を発信すると、求職者にも広く伝わりやすくなります。

採用ターゲットにマッチしたメディアに露出したり、クチコミサイトの活用やセミナーへの登壇を増やしたりと、採用ブランディングにつながる積極的な活動も効果的です。

転職エージェントとWin-Winの関係を構築する

転職エージェントを活用する場合は、自社への紹介の優先順位を高める工夫が欠かせません。

定期的なミーティングを設定し、ターゲット要件のすり合わせ、紹介された人材の評価フィードバックを丁寧に行うのもいいでしょう。「一緒に採用成功を実現するパートナー」として採用セミナーを開いてもらうなど、Win-Winの関係になれるような情報共有が大切です。

応募のハードルを下げる

求職者が応募しやすくなるように、採用プロセスも随時検討していきます。

  • 転職フェアやセミナーなどで求職者との接点を増やす
  • 会社説明会や社内イベント、オフィス見学などに招待する
  • 選考の前に「カジュアル面談」を設ける

など、「まずはお互いに理解する場」を作ることで、求職者との信頼関係を築くことができます。

母集団形成には、採用にかける人員・予算・経営陣のコミットが欠かせない

これまで紹介した採用活動のさまざまな工夫には “投資”が必要です。人や予算がなければ、採用活動を広げることも、情報提供の創意工夫も継続できません。人員の確保がすぐには難しいのであれば、RPOなどの外部専門家の活用も必要になるため、会社に対して予算確保を提案する必要があるでしょう。

また、人事だけではなく各部門の協力体制も重要です。現場のリアルな情報を得るからこそ、求職者に訴求する情報の量と質を担保できるからです。ターゲットの見直しやダイレクトリクルーティングの導入、SNSなどを通じた情報発信、社内イベントやカジュアル面談の実施など、さまざまな採用活動フェーズで、人事と部門との連携が必要になります。

これらの推進において、もっとも大切なのが経営陣のコミットです。

経営陣が「採用は全社で取り組もう」などとメッセージを発信できるかどうかが、その企業の採用カルチャーに大きく影響します。採用につながる母集団形成に向けて、社内の意識醸成も、人事の大切な役割だと言えるでしょう。

ライター:田中 瑠子

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