応募者が選考離脱・内定辞退してしまう、その原因はどこにあるのでしょうか。最小限に留めるための事前対策について、組織人事コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。


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選考離脱・内定辞退は増えている?
選考離脱・内定辞退は、転職市況にかかわらず、どんな企業においても一定数、発生するものです。
ただし、オンライン面接が増加したことで、面接を設定しやすくなり、複数社の選考を同時に進めやすくなった結果、選考離脱・内定辞退が増えているという声もあります。
一方の対面面接の場合は、スケジュールの都合上や応募意欲の変化から「面接自体に行けなくなった」という人も一定数います。
採用手法が多様化しても、各選考フェーズで離脱が生じてしまうのは仕方ないと言えるでしょう。
“辞退”が起こり得るタイミング
辞退は、面接進捗中・内定後・内定承諾後と、あらゆる選考フェーズで生じ得ます。
書類選考前、初回面接前の辞退も、数は少ないものの発生することがあります。
「勢いで応募したものの、よく調べたら懸念点があった/求める条件と合わなかった」
「面接が始まる前に他社で内定が出た」
「現職での異動希望が叶ったので、転職するのを辞める」
「複数の企業に応募し、面接のスケジュール調整が難しくなった」
など、応募者の理由はさまざま。企業側としては、より選考が進んでいる段階での辞退のほうが、ダメージが大きいと言えます。
選考離脱・内定辞退はネガティブな面ばかりではない
採用計画の達成という点で、企業は選考離脱や内定辞退はできるだけ避けたいかもしれません。ただ、辞退はミスマッチを未然に防ぐことでもあり、ネガティブな面ばかりではありません。
採用の目的は、あくまでも「自社に合った人材を採用し、入社後の活躍につなげる」こと。選考離脱・内定辞退の数を減らすことを目的化せず、「今は採用に至らなくても、数年後に再び候補者になるかもしれない」「採用面では縁がなくても、自社を好きになってもらおう」など、将来を見据えて候補者体験を高めることが大切です。
なぜ辞退されてしまうのか
そもそも、なぜ選考離脱・内定辞退は起こるのでしょうか。ある程度防ぎようがない辞退理由のほか、企業側、応募求職者側それぞれに要因があります。
企業・応募者双方が防ぐことが難しい辞退理由
転職活動で自然に発生する辞退理由には次のような点が挙げられます。
・条件の不一致
事業内容、仕事内容、就くポジション(役職)、社風、年収条件などで不一致があれば辞退につながります。不一致に目をつぶって入社しても、ミスマッチにより離職する可能性もあるため、辞退という選択は企業にとっても応募者にとっても仕方のない結論と言えます。
・比較検討の上で、他社に決める
入社後の納得感を鑑みるという点で、複数社を比較検討して選ぶプロセスは重要です。ただ、選考段階のコミュニケーションなどが影響して他社に決めた可能性もあるので、その場合は改善が必要です。
・比較検討の上で、現職に残る
希望していた社内異動が叶った、転勤が決まった、昇進・昇格したなどの理由で、転職自体を辞めて現職に残るケースもあります。
・転職活動の停止
「現職が多忙過ぎて転職活動の時間が取れなくなる」「介護・子育てなど家庭の事情」「健康上の理由」などにより、転職活動をやめるケースもあります。
企業側の要因
企業側の要因としては大きく2つに分けられます。
・選考での印象が良くない
選考でのコミュニケーションの取り方で、企業の印象は大きく変わります。
例えば面接の際、面接官が上から目線で“選ぶ”ような対応をしたり、圧迫面接のように一方的な質問を繰り返したりすれば、応募者の志望度が下がってしまうでしょう。
また、企業のいい面しか言わない、具体的な条件について不明瞭…など応募者が求める情報をきちんと提供できなければ、企業への不信感につながります。
・選考フローの設計に問題がある
辞退を防ぐ上で、的確な選考フローの設計は欠かせません。選考スピードが早い、というだけでも「予定を合わせて動いてくれた」「自分が求められていると感じた」という応募者が多くいます。
選考離脱が多い場合は、
- 面接回数が多い
- 面接日程の調整が遅い
- 連絡漏れがある
などの要因がないか、見直しが必要でしょう。
応募者側の要因
「転職活動を始めてみたものの、面接に行くのが面倒くさくなった」
「あまり志望していなかったが、転職エージェントに勧められて応募してしまった」
「現職が多忙で、面接スケジュール調整ができなくなった」
といった応募者は少なからずいます。応募者都合の辞退では、企業側がなかなかフォローすることはできませんが、こうしたケースもあると知っておきましょう。
選考離脱を防ぐためには
選考離脱を防ぐために企業側ができる工夫にはどのようなことがあるのでしょう。
対策①面接官の選定、トレーニングを行う
採用市況を知らない面接官の中には、「面接とは、企業が応募者をジャッジして選ぶもの」と思っている人もいます。
そういった面接官に対して、「応募者とは対等で相互に理解し合うことが大事である」など、面接の捉え方から、研修や社内マニュアルなどを通じて伝えていく必要があります。
また、応募者の年代や経歴、タイプによって、合いそうな面接官を選定したり、適性のない人は外れてもらうといった工夫も大切です。
面接官によって評価にバラつきが出ないよう「構造化面接」を導入するなど、面接手法の改善も考えていきましょう。
対策②選考フローを見直す
内定出しまでのプロセスの見直しも必要です。
面接日程調整に時間がかかったり、面接後の評価がなかなか上がってこなかったりと選考プロセスに時間がかかっている場合は、ATS(採用管理システム)の導入検討も一つの方法です。採用担当者の業務負担を減らすことで、応募者への連絡漏れといったヒューマンエラーも減っていきます。
面接回数は適正か、選考内容で応募者に負荷の高い課題を出していないかを振り返り、適性試験やカジュアル面談、内定後のフォロー面談の導入なども検討するといいでしょう。
また、そもそも採用のターゲット設定がずれている場合もあります。
人事・採用担当者側と、現場の採用責任者の間で選考基準にばらつきがあれば、応募者は「前回の面接と、聞かれることが違う」「社内できちんと情報共有ができているのだろうか」と不安になります。これを防ぐには、社内で協議・修正を重ねることが重要です。
対策③懸念点払しょくのための情報を提供する
応募者の懸念点が払しょくされないまま志望度が下がることがないよう、丁寧な情報提供は欠かせません。
選考前にカジュアル面談を実施し、企業理解を深める場を設けてもいいでしょう。
ほかにも、面接時に質問を受ける時間を設け、必要に応じて現場社員や入社後の上司にあたる人、年次の近い社員との面談を設けて、リアルな情報を伝えるのも一つ。動画やブログなどで発信を続けることも大切です。
面接後の辞退を防ぐためには
企業にとって、よりダメージの大きい「内定辞退」「内定承諾後辞退」は、できるだけ避けたいものです。辞退防止の施策は、基本的には選考離脱と同じですが、追加で考えられる対策を整理していきます。
対策①オファー面談を設ける
経営陣や上長との面談や会食の場を設け、選考でどのような点を評価したのか、入社後に何を期待しているのかなどを伝えます。
「ぜひうちに来てほしい」という思いを改めて伝えることで、求職者の意向を上げることができます。
対策②応募者の希望・状況を考慮する
応募者の希望をできるだけ考慮し、寄り添う姿勢で接します。
例えば、内定承諾の回答期限を、企業都合だけではなく応募者の状況を鑑みて妥協点を示したり、年収や役職などの希望条件に対して検討あるいは代替案を提示したりと工夫が必要です。
対策③選考途中から情報収集を強化する
そもそも内定後から希望条件を検討し始めるのではなく、選考途中の段階から、希望年収、入社日、懸念点などの情報を収集し、対策をとっておくべきです。
途中で、「辞退の可能性がありそう」と分かれば、現場の上司や経営陣などと話す機会を早めに設けて情報提供を手厚くしたり、選考スピードを上げたりなどリスクヘッジができます。
優秀な「人財」を諦めない
せっかく出会えた応募者に選考離脱・内定辞退をされてしまうのは心苦しいものです。
しかし、そのときは辞退となっても、時を経て再び応募があり入社につながるケースもあります。自社の力になってくれそうな人財に出会えたのであれば、将来的な候補者としてタレントプールに入れて、半年後、1年後など定期的に連絡をとるのも、辞退後にできる工夫です。