仕事が終わらないストレスから体調を崩す人は少なくありません。「いつも仕事に追われている」「次にやるべきことがわからない」「仕事にミスが多い」「仕事を押しつけられやすい」など、悩んでいる社員にどう対処すべきなのか。これまでに1万人超のメンタルを救ってきた「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医、井上智介先生に教えていただきました。


仕事が終わらない原因別に対処法を解説!
産業医をやっていると、「仕事が終わらなくてつらいです」といったお悩みを聞く機会がたくさんあります。あなたの会社でも、仕事が終わらないストレスを抱える社員は少なからずいるのではないでしょうか。
ストレスや疲労から、仕事のパフォーマンスが落ち、さらに長時間労働になってしまう…。そんな悪循環を断ち切るために、ご相談をいただいた方にはセルフケアの方法をお伝えしていますが、会社側の対処も必要だと考えます。代表的な原因別に対処法をご紹介しますので、ぜひ参考にしていただけると嬉しいです。
原因1.周りに頼れなくて一人で仕事を抱えてしまう
いつも仕事に追われている人は、進め方の効率が悪かったり、優先順位のつけ方が苦手だったりする人もいると思いますが、実際は仕事ができる人がほとんど。スキルの高い人には仕事が集中することが多いからです。
仕事がその人に偏るということは、仕事をこなす能力はおそらく高いのだと思いますが、実は「誰かに仕事をお願いするスキル」を身につけてもらうことが重要です。「人に頼るスキル」と言ってもいいかもしれませんね。
「誰かに頼むくらいなら自分がやった方がいい」と言いながら全部引き受けて、先が見えなくなるなんて本末転倒ですから、「断るスキル」も身に付けた方がいいでしょう。
人に仕事をお願いするにしても、断るにしても、仕事に優先順位をつける必要が出てきます。優先すべきことが明確になれば、自分がやるべきことも取捨選択することができます。
おすすめの対処法
相談者の方には、他の人に仕事をパスすることをお勧めしています。しかし私の経験上、「いや、この仕事は自分にしかわからないから」と抱え込んだまま、誰にもパスできない人がほとんどです。
そういう方には、「例えば急にあなたが会社に来られなくなったら、会社は明日潰れますか?」と問いかけます。そんなことはないですよね。だけど、このまま仕事量がどんどん増えていったら、いつかはその方が潰れてしまいます。「代わってくれる人は、探せばちゃんといるはずですよ」と根気よくアドバイスを続けています。
仕事の進め方の効率が悪い人や優先順位のつけ方が苦手な人は、次に何をやったらいいのかがわからなくなっていると思うので、定例で上司とコミュニケーションを取ることをお勧めしています。
できれば朝会などで「今日はこれをやります」と報告することをルール化してしまうといいでしょう。報告することで、仕事の進捗状況が整理できたり、抜けているところを教えてもらえたりするメリットもあります。
原因2.マルチタスクを抱え、次にやるべきことがわからなくなっている
近年は、いつでもどこでも仕事ができる環境が整ってきたこともあり、いくつかの仕事を並行して行うマルチタスクも珍しくなくなってきました。
しかし、どの仕事から手をつけていいのか迷ったり、期日まで時間がない仕事ばかりが重なり次にやるべきことがわからなくなってしまう…というお悩みも多く寄せられます。また、上司の指示が朝令暮改で、言われた仕事がコロコロ変わるという悩みを持つ方も少なくありません。
このように、同時に複数の仕事をしていることは脳に非常に負担をかけており、ストレスや疲労を蓄積させる要因となっています。
おすすめの対処法
マルチタスク化している仕事をシングルタスクに分解し、優先順位をつけやすくしてあげることが重要です。優先順位を決めるお勧めの方法は、朝会や夕会など、定期的に仕事の状況を確認できる場を持つことです。
上司の指示が変わりやすい場合も、確認の場が設けられることで安心して進められるようになりますし、自分の意見も言いやすくなると思います。逆に、自分がやるべきことが抜けていた場合のチェックポイントにもなります。
原因3.仕事で失敗やミスを繰り返してしまう
仕事でミスを繰り返し、ミスへの対応ややり直しでなかなか仕事が終わらず悩む人もいます。チームへの責任を感じて落ち込んでしまい、前に進めなくなってしまうパターンです。
しかし、人間であれば誰でも失敗やミスをすることはあります。仕事での失敗やミスをゼロにすることは不可能に近いでしょう。
大事なことは、同じミスを繰り返さないようにしてもらうことです。仕事に抜け漏れやミスはつきものと励まし、業務フローを3段階ぐらいに分けて確認してもらうなど、チェックポイントを作ってみてはいかがでしょうか。
おすすめの対処法
リモートワークの普及によって、チャットやオンライン会議などのツールも気軽に使えるようになってきました。これらを活用し、例えば「毎週火曜と金曜の15時」などと時間を決めて、ツールで報告・連絡・相談してもらうのも一つの手です。「報連相」の日時があらかじめ決まっていれば、わからないこともそのタイミングで聞きやすいですし、業務確認の場にもなるので、お勧めです。
報連相の場を決めることは、ミス防止のチェックポイントにもなります。仕事がすべて終わってからミスが見つかるとやり直しが大変ですが、60%くらいのところで確認できればやり直しの手間も大幅に削減できます。ミスをしやすい人には、このチェックポイントの数を増やすことが重要です。
原因4.仕事を押しつけられやすい
自分では限界を感じているのに、頼まれると断れずに引き受けてしまい、仕事がどんどん増えて終わらない…。これもよくあるパターンです。こうした悩みを抱える人は、断ることが苦手であることが多いですね。相談することも苦手な人が多いようです。
断りにくい職場環境やその人の性格的な面などもあると思いますが、仕事を押しつけられやすい人も「断るスキル」を身に付けることが大事です。
おすすめの対処法
このタイプの人は、自身が他に仕事を抱えていたり、プライベートの予定があって早く帰りたいと思っていたりするときでも、頼まれた仕事をなかなか断れないようです。「できません」というネガティブな言葉で伝えることに引け目を感じてしまうのでしょう。
そこで、私はまず相談者の方に「今は余裕がないので…」というひと言が言えるように、「断るスキルをつける訓練」をしてもらっています。慣れてきたら状況に応じて、「今日は家族と約束があるので…」や「週末は友人の引っ越しの手伝いがあるので…」というように、できない理由も言えるようになってきます。
とはいえ、頼まれた仕事を断りにくい職場環境もあるでしょう。そこで私が訪問している会社で見た例を紹介します。
その職場では、ToDoリストをわざと紙に大きく書いて、自分の机の上に誰もが見えるようにバーンと置いておく人が多いのです。しかも、ToDoリストに書いてある業務の横に、(●●マネージャーより)などと、関係する上司の名前と締切の期日が書いてある。それを見せられたら、仕事を頼む側はちょっと躊躇しますよね。頼まれにくい環境をつくるのも素晴らしい「断る」スキルだと思います。なおこの方法は、逆に暇なときは「今は手が空いていますよ」というアピールにもなります。