自分に自信が持てない「若手社員の自己肯定感」を上げる処方箋

「最近の若手社員は、自己肯定感が低い」。そんな声をよく聞くようになりました。なぜ、今どきの若手世代は自己肯定感が持てないのか。その理由や特徴、人事として対処法など、これまでに1万人超のメンタルを救ってきた「金髪アフロと赤メガネ」がトレードマークの精神科医&メンタル産業医、井上智介先生に教えていただきました。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)さん
メンタル産業医・精神科医。兵庫県出身。島根大学を卒業後、大阪を中心に精神科医・産業医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、一般的な労働の安全衛生の指導に加えて、社内の人間関係のトラブルやハラスメントなどで苦しむ従業員にカウンセリング要素を取り入れた対話を重視した精神的なケアを行う。さらに、すべての人に「大ざっぱ(rough)」に、「笑って(laugh)」人生を楽しんでもらいたいという思いから、SNSや講演会などで心をラクにするコツや働く人へのメッセージを積極的に発信中。著書には「職場のめんどくさい人から自分を守る心理学」「職場での自己肯定感がグーンと上がる大全」「子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本」など多数。

なぜ、自己肯定感が低い若手社員が増えているのか

私は産業医や精神科医として、日々職場でのストレスや悩みを抱える多くの人の相談を受けてきました。最近では特に、自己肯定感が低いことで悩む若手世代が増えてきたと感じています。

皆さんの職場でも、自己肯定感が低い若手社員や、そのマネジメントに悩むことが増えているのではないでしょうか。例えば、以下のようなタイプです。

  • 自分に自信が持てない
  • 自分の強みがわからない
  • 周りの意見に振り回されがち
  • 仕事ができないから、上司に評価されないと悩む
  • 上司の指示がないと行動できない …etc.

自己肯定感が低い人は、自分に自信が持てず、職場では常に周りを気にした発言や行動をしてしまう傾向があります。そのためモチベーションも上がらず、ストレスも積み重なり、パフォーマンスも上がらないという、負の連鎖に陥ってしまいがちです。

ただし、こうした自己肯定感が低いことに悩む人たちは、仕事ができないわけではありません。むしろ素晴らしい実績を出していたり、高いスキルを持つ人が多いのです。では、なぜそうした優秀な人材の自己肯定感が低くなってしまうのでしょうか。

自己肯定感とは、ありのままの自分をポジティブに受け入れることです。自己肯定感が低い人は、褒められたときでも「自分なんか…」と過度な謙遜をする特徴があります。自分に対する評価が低く、理想とする価値観が高いため、そのギャップから自身を卑下してしまうのです。

自己肯定感が低い若手が増えてきたのは、自分の決断や存在価値に自信を持てる経験をしないまま、社会人になっていることが考えられます。つまり、親や学校の先生が「これがいいよ」と敷いてくれたレールの上を、何も考えずにそのまま進んでいる人が少なくないのです。

例えば「難関大学に合格して一流企業に就職する」というレールは、世間的には正しく、幸せな人生のステレオタイプです。ですが、大事な節目を「自分で決める」という経験ができていないまま、社会に出てしまうことにもなります。

社会人になると、自分で決めていかなければならないことはたくさんあります。仕事の優先順位一つとっても、どの仕事から進めていくべきかなど、誰もレールを敷いてくれないので、自分自身で決めなくてはなりません。しかし、これまで自分で決めたことに結果を出すという経験や、自分でやればできるんだという感覚を身につけていないので、自分の存在価値に自信が持てなくなるのです。

さらに最近は、リモートワークの浸透により職場内の対面によるコミュニケーションが減り、自分で考えて決める自立心が求められるようになってきました。自己肯定感の低さから「本当にこれでいいのか」「このまま進めて大丈夫か」という不安にかられたり、ストレスを抱えたりする人が増加しているようです。

自己肯定感を上げるためにはどうしたらいい?

自己肯定感は常に一定なわけではなく、高くなるときもあれば、低くなることもあります。

普段は自己肯定感が高くても、体調不良やストレスを溜めたことでモチベーションが下がり、低くなってしまうこともあるのです。

自己肯定感が落ちないようにするには、まずは普段から心身ともにコンディションを保つこと。例えば、寝不足にならないように「規則正しい生活」を送ることはとても大事です。

そのうえで、たとえちょっと強引だったとしても、「自分を励ます考え方」を持っておくことは、自己肯定が落ちない一つの武器だと考えています。自己肯定感を高く保てるようになれば、何か心が傷つくようなことが起きたとしても、自分がダメなところに目を向けるのではなく、また別のところで頑張ればいいと割り切れるようになります。

自分を励ます考え方を持つためには、自分で決めたことを「他人を巻き込む」かたちで主張してみる経験が重要です。いきなりそれはハードルが高いという人には、まずは誰かに何かを聞いたり、教えを乞うところから始めることをお勧めしています。

例えば、社内のプロジェクト会議で「そのプロジェクトの進行は順調に進んでいるんでしょうか」と質問して進行状況を教えてもらう。相手の言うことを聞いた上で、自分が気になっていることや考えていることを主張してみる。こうした経験はとても大切です。

自己肯定感が低い人は「こんなことを質問したら馬鹿にされるんだろうな」と思い込んでいることが多いので、他人に聞くことができない。そして自分で調べるので時間がかかり、さらに遅くなる傾向があります。でも、実際に職場で相談されたり、何かをやってほしいとお願いされたりしたときに、怒られ、馬鹿にされることなんてありません。経験を積むことで、それを学んでほしいと思います。

さらに、一歩踏み込んだ提案をしてみることも大事な経験です。仮に服装規定に関する会議だったとしたら、「クールビズを導入しませんか」「マスクの着用について明文化しませんか」というように、普段ちょっと気になっていることを問題提起してみることは、自分に自信をつける経験になります。

仕事と関係ないところでも、例えば「今日のランチはここに行きませんか」「今度チームの懇親会を兼ねてカラオケに行きましょう」というように、自分の意見を主張するといいでしょう。こうした経験を積んでいくことが、自己肯定感を上げるためには必要だと思います。「他人を巻き込む」経験を積むことで、ネガティブな感情と付き合っていけるようになるのです。

自己肯定感が低い若手社員に対する処方箋

もしあなたの職場に自己肯定感が低い社員がいたとしたら、対処法としてお勧めしたいのは「あなたはどうしたいのか」と意見を聞くことです。自己肯定感が低い人は、上司や周りの考えを先に言ってしまうと、それに追従する人が多いので先に聞いてあげることがポイントです。

さらに、自分がどうしたいかを主張できるように、パスを出せる環境をつくることも大切です。前述のとおり、敷いてもらったレールがないと不安になり、前に進めない若手社員には、自分の意見が言いやすい環境があることは重要です。そしてその主張が、人を巻き込む行動へと繋がっていくでしょう。

また、自己肯定感が低い人は何かあったら自分のせいだと思い込んでしまうことが多いので、上司や周りの人が「こちらが責任を取るから気にせずやってみて」というように、背中を押してあげることも大事なアクションの一つです。

ライター:馬場 美由紀

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