多くのベンチャー企業が抱える採用の悩み。安定を優先する大手志向の人が多いため、優れた人材を採用できることはとても難しい状況です。しかし、企業の成長戦略にとって人材は欠かせない要素になるため、採用の上手い企業こそが、成長する可能性も高いと言えます。
では、採用の上手な会社では、採用担当社や経営者がどのようなポイントを重視し、具体的にどのようなことを実践しているのでしょうか。そこで今回は、数多くのベンチャー・スタートアップへの転職のサポートをしている株式会社キープレイヤーズ代表取締役の高野さんに、採用のチェックリストを教えていただきました。

ベンチャー、スタートアップ企業の採用支援を行うキープレイヤーズ
最重要チェックポイントは、経営者が採用にコミットしているか
スタートアップから100名規模のベンチャー企業では、経営者自身がどれだけ採用にコミットしているかということが重要になります。どれだけいい人材を採用できるかが、企業の成長に大きく影響するからです。経営者自身がコミットするのが難しい場合も、No.2やCxOがコミットし、もし社内のメンバーでは専門知識が足りないのであれば、採用のプロと言えるアドバイザーを社外から入れる方法もあります。
ベンチャー企業の採用において経営者が重要な理由の一つとして、「採用力が高まる」という効果があります。例えば、勢いがあるスタートアップの社長は、たいてい“オーラ”があり、普段は物静かでも、仕事の話になると突然スイッチが入ります。「この人やっぱり違うな」と思う何かが滲み出てくるので、経営者が自ら動き、自ら語ることが採用力につながります。自社の認知度を高めるために、経営者自身でSNSや自社ブログで情報を発信する活動は今や当たり前となっていますし、勉強会やイベントに積極的に登壇するといった活動をしている経営者もいます。
もちろん選考フェーズにおいても経営者自ら採用現場に出ることが大切です。面接官はビジネスパーソンとして魅力的な人が務めることが有効で、ぜひ欲しいと思う候補者の場合は、できればトップ自身が一回目の面接から登場するのが理想です。よくある失敗パターンは、求める人物像の設定も、面接も、全て現場に権限移譲し、経営者は確認もしていないケース。これでは候補者に会社の魅力が十分に伝わらず、入社への意欲を上げることもできず、結果的に辞退されてしまうということもよくあります。ただし、「現場に任せるな」という意味ではなく、採用の緊急度と重要度が高いタイミングでは、社長自ら採用の指揮を執ると非常に効果的ということです。
選考・面接フェーズにおけるチェックポイント
採用成功しているベンチャー企業が、選考・面接フェーズで意識していることはどのようなことでしょうか。ポイントをご紹介します。
面接の回数や納期設定に工夫をしていますか?
よくある失敗パターンは、面接の回数が多すぎることです。これまでの経験上、スタートアップやベンチャー企業の面接は、3回が限度だと感じています。逆に勢いで簡単に内定を出してしまうと、候補者がありがたみを感じず内定辞退につながるという側面もあるので、回数はバランスが重要です。また、候補者は忙しい方も多いため、土日、深夜、早朝などを含め、融通の利く面接スケジュールを用意しておくことも採用成功につなげる秘訣です。さらに、納期設定(候補者に返答をもらう期限)も見落としがちなポイント。「この人をどうしても採用したい」という気持ちから、長く設定してしまうケースもありますが、内定を出してから1週間以内がリミットでしょう。
面接官がしっかりとヒアリングを行い、現場目線で語れますか?
面接で一番重要なことは、ヒアリングです。熱心にヒアリングして、候補者が何をしたいのか、何ができるのかが掴めれば、「うちの会社に来ればそれが叶うよ」という落とし文句につなげることができます。要は営業と同じです。しかし、意外とこれができていない企業が多くあります。面接官がつい熱く語ってしまうことがありますが、大切なのは話すよりも聞くことです。また、時に今後の会社の戦略など、面接官が自分でははっきりと答えられない質問を受けることもあるでしょう。その際は、「わからない」と答えて大丈夫です。その上で、「ただ、私としてはこう思います」という現場感を伝えましょう。
面接がスクリーニングだけでなく魅力づけになっていますか?
面接はスクリーニングの場であると同時に、候補者の入社モチベーションを上げる場でもあります。ヒアリングを通して、転職におけるネガティブな側面を含めて、候補者の本音を引き出し、心の底で期待していることを掴むことが重要なポイントになります。面接の段階で「本音」が引き出せなかった結果、ボタンのかけ違いとなって入社後すぐに退職といったことにつながるケースもよくあります。
面接官同士が情報を共有していますか?
採用力の高い会社の多くが「面接の詳細をきちんと記録している」という特徴があります。「面接で良かった点・懸念点・志向性」を面接官同士でしっかり共有しておくことで、次の面接官は事前情報を元に、より踏み込んだ質問や相手の心に届く情報提供をしやすくなります。例えば、「将来新規事業に携わりたい」という希望を持っている候補者に対して、新規事業のチャンスがあることを伝えられれば、入社モチベーションを上げることにもつながります。
内定・オファーフェーズにおけるチェックポイント
続いて内定・オファーのフェーズにおける重要なポイントを紹介します。
内定を出すタイミングを考えていますか?
内定を出すタイミングは非常に大切なポイントで、ここでひとつ間違いを犯してしまうと、それまでの苦労が水の泡になってしまいます。そこで重要になるのは、状況把握です。例えば、自社の選考過程が他社に先んじていて内定を早く出す場合は、回答期限を1週間に決めておくなどの工夫が必要です。タイミングを見誤ると、他社がこちらの提示した給与条件よりも、わずかに上回る金額でオファーを出してくる可能性もあります。転職エージェントなどに相談をしながら、内定出しの適切な時期をきちんと見極めておきましょう。
他社の選考状況を意識していますか?
候補者にとって自社の志望順位がどれくらいか、正確な情報を引き出すことはとても難しいものです。「御社は第二志望なんです」と正直に言ってくれる関係性を構築することができれば、原因を探って、そのギャップを埋めることで自社を第一志望にできる可能性もありますが、これはとてもハードルが高いと言えます。しかし、転職エージェントを活用している場合は、転職エージェントからその情報をもらえることもあります。そのためにも、転職エージェントと本音でコミュニケーションを取り合える関係性を築いておくことが重要になってきます。
候補者を口説くための用意は万全ですか?
候補者を口説くために重要な要素は、給与やストックオプション(SO)などの条件になると思います。候補者も年収に1割の差があれば悩むもの。この点においては先に内定を出した企業がやや不利になるケースが多く、ここでも内定出しのタイミングが重要になってきます。給与面の条件にほとんど差がない場合に判断基準となるのが、仕事の中身や一緒に働く人、仕事の裁量権、ポジション、労働時間といった勤務条件です。候補者が何を重視しているのか、面接を通してヒアリングしておくことが内定時のクロージングトークに役に立ちます。
採用に成功している企業も、過去を振り返れば、失敗の一つや二つあるものです。大切なのは、採用力を上げるために地道な努力を継続していくことです。ご紹介したポイントを参考に、できることから取り組んでみてください。