人材採用、定着、育成などに関する、人事担当者のさまざまなお悩み。人事歴20年以上、人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所社長の曽和利光さんがお答えします。

(相談内容)
VUCAの時代、企業には「変化に臨機応変に対応する力」が求められていると感じます。一方で社内には、イノベーションを起こせるような人材が不足していると感じます。イノベーションを起こせる人材を採用するには、そして既存社員をイノベーション人材に育てるには、どうすればいいのでしょうか?
個人ではなく、チームという視点で考えよう
多くの企業が起こしたいと考えている「イノベーション」とは、今の事業を根底からひっくり返して全く新しいものを生み出す「破壊的イノベーション」ではなく、現状を見直して価値をさらに向上させる「持続的イノベーション」を指していると思われます。したがって、ここでは「持続的イノベーションを起こすには?」という視点で解説していきます。
「イノベーション人材」というと、スティーブ・ジョブズのように1人の天才が起こすものという印象を持つ人が少なくないようですが、多くのイノベーションはチーム単位で行われています。例えばホンダの「ワイガヤ」、トヨタの「カイゼン」のように、社内の衆知を集めて改善を行い、イノベーションにつなげてきた例は多数あります。
そもそも、「1人の天才」を採用するのはあまりに難易度が高いし、たとえ優れた実績を持つ人材であっても、自社の土壌で同じようなイノベーションを再現してくれるとは限りません。それよりも、チームでのイノベーションに目を向けたほうが、実現可能性が高まると思われます。
イノベーションの4つのプロセスのうち、手薄な部分を洗い出す

イノベーションを起こすには、アイデアを出せる人がいればいい、というわけではありません。イノベーションには、大きく分けて次の4つのプロセスが必要であり、それぞれにおいて強みを持つ人材が集まりチームを組むことが重要です。
<イノベーションの4つのプロセス>
- 自社が持っているコアコンピタンス(中核となる強み)を洗い出し、分析する
- コアコンピタンスをもとに、アイデアを考える
- アイデアを実現するための方法論を考える
- 方法論に基づいて、アイデアを実行する
この4つのプロセスの人材バランスが悪いと、イノベーションは起きにくくなります。例えば、プロセス2のアイデア人材が多いと、イノベーションを起こせそうな雰囲気を醸し出すことはできますが、「みんなアイデアを出しっぱなしで全然先に進めないので、1つも実にならない」なんて話はよく聞きます。
「イノベーション人材が足りないから新規採用したい」という企業は多いですが、「イノベーションを起こせそうな人材」を探しても、見当違いの採用をしてしまう可能性があるので注意が必要。採用に踏み切る前に、これらのプロセスのどこが手薄なのか現状を洗い出してみることが重要です。そして、手薄なプロセスにおいて強みを持つ人材をピンポイントで採用しましょう。
イノベーション人材の育成は「適材適所」が効果的

「イノベーション人材の不足に悩んでいる」という企業においても、実は社内にイノベーション人材が存在する可能性は大いにあります。
「イノベーションを起こしてくれそうな人材」という視点で社内を見渡すとピンと来ないかもしれませんが、前述の4つのプロセスのうちの1つであれば、強みを持っている人材は社内にたくさんいるはず。どこが手薄なのかを洗い出す過程で、いずれかに当てはまる人が多いことに、きっと気づかされると思います。
そういう人材をプロセスごとに抽出し、育成するのは非常に有効。新規採用するよりも手っ取り早いし、イノベーションを起こせる確度も高まると思われます。
ただ、「育成」というと、まずイノベーション研修などを受けさせようとする企業が少なくありませんが、人材育成の基本は「適材適所」。その人が持っている能力を発揮できる仕事をアサインして機会を与え、任せるのがベストな育成方法です。
適材適所を実行し、各プロセスでのスキルを磨いた人材を集めて、「1:分析人材」「2:アイデア人材」「3:ダンドリ人材」「4:実行人材」でチームを組めば、最強のスター集団が生まれます。そのスター集団が互いに強みを発揮し、協力し合うことで、イノベーション創出の可能性はぐんと高まるでしょう。
そもそも、縦割りの組織で効率的に業務を進め成長してきた日本企業は、分業が得意であるはず。1人の力に頼るよりも、チームで成果を上げることを考えたほうが、より高い効果が見込めるでしょう。まずは「個」から「チーム」へと視点を変えることから始めてみてください。