一定の評価基準、質問項目を設けて面接を進める「構造化面接法」。導入にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょう。実施手順や活用のポイントを、組織人事コンサルタントの粟野友樹さんが解説します。


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構造化面接法とは
構造化面接(Structured Interview)とは、「自社の採用基準にそって評価基準や質問項目を決めておき、マニュアルに従って行う面接手法」を指します。どの応募者に対しても「同じ質問を同じ順序で行う」ことで、誰が面接官になっても同じ情報を引き出せ、面接評価にブレが生じにくくなります。
この手法はもともと、臨床心理学で用いられていたデータ集積アプローチの一つ。被験者の回答を定量的に分析・検証できるよう進められてきたものです。
面接手法として注目されるようになったきっかけには、Google社による導入がありますが、決まった質問をするだけではうまくいかない難しさもあり、導入には工夫が必要です。
構造化面接法を導入する目的・メリット
まず、構造化面接法の導入目的やメリットから整理していきましょう。
メリット①面接官による評価のばらつきを減らす
統一した面接の質問内容と評価基準を用いるため、面接官の経験やスキル差による評価のばらつきをなくすことができます。これは、合否をどうするかなどの議論が減り、選考に要する時間や労力の削減にもなります。結果として評価基準にブレがなくなり、入社後のミスマッチや離職率を減らすことにもつながるでしょう。
メリット②求める人物像を明確にすることで、人材採用の質が上がる
構造化面接法を取り入れるには、社内で評価基準や質問内容を精査する必要があります。その際には議論が生まれ、必要とする人物像が明確になることで、採用の質が向上します。
メリット③多く社員が選考に関与し、エンゲージメント向上につながる
構造化面接では、質問内容のトークスクリプトが決まっています。面接経験の豊富さに左右されないため、特定の人物以外でも面接を担当できます。
結果、より多くの社員が選考に関与でき、社員の自社理解が深まっていきます。
自分が関わった人が入社してくることで、人材育成への意識も高まるでしょう。そこから自社への貢献度や愛着が生まれ、エンゲージメント向上などの効果が期待できます。
構造化面接法のデメリット
一方で、構造化面接法にはどのようなデメリットがあるのか。導入前に知っておきたいポイントをまとめていきます。
デメリット①応募者に負荷がかかる場合がある
構造化面接法では質問項目が決まっているため、面接の場がマニュアル的なやりとりになりがちです。面接での対話が深まったり自然に展開したりしづらく、話がぶつぎれになってしまうことも…。
応募者にとっては、「毎回同じ質問をされる」「次々と機械的に質問されるように感じる」「自分が話したいことを深く話せなかった」などと負担に思ったり、不完全燃焼になったりする可能性があります。
その結果、応募者の志望度が下がってしまうリスクも考えられます。
デメリット②面接対策も“マニュアル化”できてしまう
構造化面接法では、複数回の面接で同じ質問項目を繰り返すこともあります。そのため、応募者側も回答をマニュアル化し、対策を講じることができます。
そのため、応募者の“その場に応じた柔軟性や対応力”などの見極めがしづらくなる可能性があります。
デメリット③面接官への理解促進に労力がかかる
面接官によっては、質問項目が決まっている構造化面接の導入に難色を示す方もいます。面接経験が豊富な方の中には、「自分なりのやり方で質問したい」と考え、構造化面接を実行しきれない、というケースも見られます。
構造化面接法の実施手順と活用ポイント
では、これらのデメリットを理解した上で構造化面接法を導入・活用するには、どんな点に注意すればいいのでしょう。
構造化面接法の実施手順
導入の仕方や、実施手順は主に次のようになります。
- 自社の求める人物像・採用基準を明確にする
- 面接での評価項目(仕事の質、チームワークなど)と評価基準を決める。シートなどに書き込み言語化していく
- 具体的な個別の質問内容(行動に関する質問、状況に関する質問など)もすべてトークスクリプト化する
- 社内でロールプレイングを行う。面接の導入説明、各質問内容、それに要する時間を確認し、内容を精査する
- 実際の面接を複数回行い、内容を定期的に見直していく
- 1次→2次→最終での面接評価や応募者の回答内容を共有できるよう、スプレッドシートやATS運用などの体制を構築する。面接が進む中で、質問自体は同じでも、どこを追加として質問するか、どこを深掘りして確認するかをあらかじめ準備しておく
活用ポイント①基準の設定
手順を踏みながら、構造化面接法のメリットを引き出し活用するには、「基準の設定」が重要です。
最初に設定した採用基準がずれていると、その後の質問項目設定にもずれが生じます。それを避けるためには、各部門や経営陣、人事などがディスカッションして、時間と労力をかけて言語化、可視化していく作業が必要です。
活用ポイント②定期的な微修正
一度設定したものでも、定期的な微修正は欠かせません。事業環境や事業、組織が変化したときにも、それに応じて作り替える必要があるでしょう。
活用ポイント③時間配分の工夫
また、応募者への負担を軽減するために、面接時間を「構造化面接法に使う時間」と「出てきた内容を深掘りする時間」に分けるなどの工夫も大切です。
活用ポイント④面接時の必須フレーズ
面接時には、最初に導入説明も丁寧に行いましょう。
「当社ではこのような意図で、前半40分は決まった質問をさせていただきます。後半20分は、お話いただいた内容をより深めていければと思っています」など、時間配分も伝えると応募者の安心感につながります。
構造化面接法では、評価のしやすさから定型の質問を繰り返します。応募者は「前の面接と同じ質問をされた」と感じやすいので、面接官の間での情報共有が大事です。質問の前に「改めて聞きますが…」と前置きを入れ、同じ質問をしているという共通認識を伝えるだけでも、印象は変わるでしょう。
まとめ
構造化面接法の導入にあたっては、評価基準の策定に十分な議論と準備が必要です。
企業によっては、ミッション・ビジョン・バリュー、クレド(行動指針)の明確化と併せて進める必要も出てきます。労力はかかりますが、しっかりと言語化ができれば、面接官が誰であっても同じ目線・基準で応募者を見ることができるようになるでしょう。