ここ数年で注目が集まるダイレクトリクルーティング。採用競争が激化する今、攻めの採用はますます重要になっています。ダイレクトリクルーティングにはどんなメリット・デメリットがあり、導入にあたりどんな準備を始めるべきなのか。組織人事コンサルタントの粟野友樹さんが解説します。


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ダイレクトリクルーティングとは
ダイレクトリクルーティングとは、「企業が欲しい人材に直接アプローチをして採用をしていく手法」のことです。日本における従来の採用手法は、転職サイトや広告媒体に掲載して応募を待つ、あるいは転職エージェントに依頼をして紹介を待つといった“待ち”のスタイルでした。ダイレクトリクルーティングは、企業が自分たちから採用活動を仕掛けていくという意味で「攻めの採用」と言われています。
ダイレクトリクルーティングの種類
求職者に直接コンタクトを取るダイレクトリクルーティングには、以下の4種類が挙げられます。
- 外部の人材データベースの活用、スカウトメールの送信
- SNSの活用(TwitterやLinkedInなど)
- 社員による紹介(リファラル採用)
- 自社採用イベントや勉強会などの開催
ダイレクトリクルーティングのメリットとは
労働人口の減少により採用競争が激化する今、ダイレクトリクルーティングは企業の新たな採用手法として注目されています。では、どのようなメリットがあるのか具体的に見ていきましょう。
メリット①自社が採用したい人材に対して効率的にアプローチできる
自分たちが採用したい人材を、あらかじめ絞ってアプローチできるため、採用活動の効率化につながります。媒体に掲載して応募を待つ手法では、ニーズに合致しない応募者対応に追われることも少なくありません。
また、転職エージェントからの紹介では、自社の魅力を間接的にしか伝えられないためニーズと合わないケースもあります。自社理解を深めるための説明に時間をとられ、なかなか求職者に巡り会えないこともあるでしょう。
メリット②転職潜在層にもアプローチできる
ダイレクトリクルーティングでは、転職サイトや転職エージェントに登録する前の転職潜在層にアプローチでき、採用競合とのバッティングを避けられます。また、想定外のハイクラス人材や希少人材の採用につながることもあります。
メリット③転職市場での認知度がない企業でも、採用可能性が高まる
知名度の高くない企業、採用ブランド力のない企業は、待ちの採用ではなかなか応募者が集まりません。しかしダイレクトリクルーティングでは、ピンポイントにアプローチできるため、企業理解、認知につなげられます。
例えば給与や条件面などで採用競合に劣ってしまう企業でも、事業内容や将来性などアピール内容を絞り、求職者ニーズに合わせて伝えることで、採用可能性を高めることができるでしょう。
メリット④自社の採用ノウハウが蓄積され、採用力が高まる
転職サイトや転職エージェント経由だと、どうしてもそのサービス機能の特性や提供会社、担当者の影響を受ける割合が大きくなります。採用成功をしてもそのプロセスや要因が分からないというデメリットもあります。
一方のダイレクトリクルーティングでは、企業が直接アプローチし、選考、入社までを一貫して見ることができます。スカウト送信の場合、どのような経歴の求職者に何を伝えると返信率が高まるのか、どのような情報が動機づけにつながるのかなどの検証もしやすくなります。
求職者とコミュニケーションをとることで、志望理由、(途中辞退した場合は)辞退理由、内定承諾への懸念点、採用競合との比較ポイントなど、さまざまな情報が集まり、採用ノウハウにつながります。
メリット⑤社員の採用意識向上が期待できる
ダイレクトリクルーティングは、自社イベントへの部門責任者・経営陣の登壇や、リファラル採用の協力依頼など、全社を巻き込んだ採用活動になります。自社の魅力、業務内容を求職者にどう伝えるべきか、人事・採用担当者と部門間のコミュニケーションがより必要になるため、社員の採用意識向上が期待できます。
メリット⑥採用コストの削減につながる
広告媒体の掲載費、転職エージェントへの紹介料と比較した場合、採用コストの削減につながります。SNS活用やリファラル採用では、採用費用を大幅に減らせる可能性があります。
ダイレクトリクルーティングに向いている企業とは?
これらのさまざまなメリットから、ダイレクトリクルーティングには次のような企業が向いていると言えるでしょう。
- 採用ブランド力や一般的な知名度があまり高くはない企業
- 転職サービスなどに登録していない潜在層にもアプローチをしたい企業
- 特定の専門性を持つ人材、転職市場に出てこない希少性の高い人材など、採用ターゲットが明確かつ限定的な企業
- 少人数採用をする企業
- 採用活動を内製化していきたい企業、採用ノウハウを蓄積したい企業
- 採用コストを下げたい、コントロールしたい企業
ダイレクトリクルーティングのデメリット
一方、ダイレクトリクルーティングにはどんなデメリットがあるのかも整理していきましょう。
デメリット①採用活動の工数が増える
採用“費用”は削減できたとしても、採用活動に必要な工数やかかるパワーは増えます。データベースのサーチやスカウト文面の作成、選考前の動機づけ面談(カジュアル面談)の設定、リファラル採用促進に向けた採用資料の作成、イベントの企画運営など、すべて自分たちで行う必要があります。
デメリット②転職市場の相場観を理解せず、失敗するリスクも
求人要件を多く設け、理想を追うあまり、採用活動が進まないケースもあります。求める人材はいま転職市場にどれくらいいるのか相場観を理解し、対象人数が少ない場合は条件を広げて考え直す必要があります。
また、採用競合の動向を把握していないと、相場より年収が低かったり、面接回数が多く選考に時間がかかったりするなどして、辞退につながってしまうこともあります。
デメリット③採用まで時間がかかる
転職潜在層にもアプローチするため、求職者がすぐに転職を検討するとは限りません。数週間や数か月等の短期ゴールがある採用活動では、計画を立てづらいというデメリットも あります。
ダイレクトリクルーティング導入の注意点・活用ポイント
ダイレクトリクルーティングの導入に向け、何から始めればいいか分からない採用担当者も多いのでは。うまく活用するためのポイントを整理していきましょう。
中長期的視点で段階的な目標を立てる
導入にあたっては、なぜダイレクトリクルーティングを始めるのか「目的」を明確にし、段階的な目標を設定しましょう。
採用は、成果が見えるまでに時間がかかるもの。そのような状況でも、転職潜在層へのアプローチはとくに、継続的にやっていくことが大事です。また、成果が出ない場合に手法を変えても、1~3か月の短期間では大きな変化が起こらない可能性があります。
例えば、「6か月間で、△△のターゲット層を〇名スカウトして〇名面談する」「SNS経由で〇名アプローチして〇名面談する」など、一通り実施してから振り返ること。また、改善点を洗い出して再アプローチし、中長期的視点で計画を立てることが大切です。
プロジェクトオーナーを立てる
採用手法がコロコロ変わることがないように、ダイレクトリクルーティング推進のプロジェクトオーナーを決めましょう。権限を持たせ、オーナーに任せて動ける体制づくりが大切です。
経営陣や現場を巻き込む体制を作る
ダイレクトリクルーティングは、先述の通り、他の採用方法と比べ採用活動の労力が増えます。スカウト配信、面談・面接、リファラル、イベントやセミナー登壇など、自社からの発信機会も同時に増えるため、人事・採用担当者だけではなく、経営陣や現場が一緒に採用を進められるような体制づくりが必要です。
そのために、下記についても見直しや新規導入の検討をしておきましょう。
- 採用に関するフローの確認
- ATS(採用管理ツール)などのシステム整備
- 定期ミーティングの実施
- 採用ピッチ資料の作成など
まとめ
待ちの採用では、ほしい人材になかなか出会えない――。そんな危機感を現場や経営陣と共有しながら全社で取り組むことが、ダイレクトリクルーティングの成功を左右すると言えるでしょう。