次世代リーダーを育てる「越境学習」。社外のアウェイで感じた葛藤が組織を進化させる

次世代リーダーを育てる「越境学習」。社外のアウェイで感じた葛藤が組織を進化させる

既存の常識にとらわれず新たな挑戦を続け、次世代のリーダーとなっていく人材を育成するには何が必要なのでしょうか。組織・人事領域における調査・コンサルティングを専門とする伊達洋駆さん(株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役)は、鍵として「越境学習」を挙げています。他社やNPO法人、PTA活動、地域活動など、さまざまな社外活動に取り組む人材(=越境人材)を増やして社内に新たな学びを取り入れる。そんな越境学習の意義と、越境人材を増やしていくための取り組みを聞きました。

伊達 洋駆氏
伊達 洋駆(だて・ようく)さん
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役。神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著:日本能率協会マネジメントセンター)など。

アウェイ環境での「葛藤」が学びにつながる

——「越境学習」とは、どんな学びを指すのでしょうか。

私は「ホームとアウェイを行き来することで得られる学び」を越境学習と定義しています。ホームは自分自身がルールや価値観をよく理解している居心地のよい場。反対にアウェイはルールや価値観がよく分からず、心がかき乱されてしまう場です。

たとえば大企業で働く人がベンチャー企業やNPO法人で仕事をすると、普段の職場とは勝手が違いアウェイ感を覚えるはず。また、小学校などのPTA活動に初めて参加し、日頃の仕事とはコミュニケーションのあり方や意思決定の方法が異なり違和感を覚えたことがある人も少なくないでしょう。これも自分自身にとってのアウェイに身を置いたことによるものなんです。

——ホームとアウェイを行き来することで生まれる学びとは。

普段のホームから慣れないアウェイへ越境すると、人はたくさんの違和感と戸惑いを抱えます。最初は勝手が分からず、葛藤もあるでしょう。その中で「この場所で求められているのは自分がホームでやってきたこととは違う」と気づき、あがいたり粘ったりしながらアウェイでの物事の進め方を知って、徐々に周囲の協力を得られるようになっていきます。

その後にホームへ戻ると、再び違和感を覚えることになります。以前は当たり前だったホームでの仕事の進め方に対して、アウェイでの経験をもとに「この会議の進め方には無駄があるのでは?」などの疑問を持つようになるのです。そうした経験を通じて、ホームとアウェイを俯瞰できるようになっていきます。

——アウェイへ越境する際の葛藤が学びにつながるのですね。越境というと他社や異業種での副業をイメージしがちですが、身近な社外活動にも意味があるのでしょうか。

はい。先ほど例示したPTAのほかにも、地域活動やマンションの管理組合など、身近な場所にさまざまなアウェイ環境があるはずです。誰しも、気づかないうちに越境をしているのかもしれませんね。

越境学習が注目されている「2つの理由」

——伊達さんは著書『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』において、越境人材を増やすことの重要性を説いています。

なぜ企業にとって越境人材を増やすことが重要なのか。その理由は大きく2つあります。

1つは「イノベーション」。閉塞感を打破したり、既存の常識にとらわれずに新しい価値を作り出したりするイノベーション人材の育成は、多くの日本企業の課題となっていますよね。そうした人材を社内だけで育成することは難しいため、近年は企業や業界を超えて連携するオープンイノベーションが注目されてきました。越境学習はその延長線上にあると考えられます。社内というホームだけでなく社外というアウェイでも経験を積むことが、イノベーション人材としての成長につながるのです。

もう1つの背景は「次世代リーダーの育成」です。振り返ってみれば日本企業は、かねてより越境学習を次世代リーダー育成に活用してきました。小規模な事業所のトップを経験したり、海外子会社勤務を経験したりといったプロセスがそれにあたります。こうした経験を経て本社へ戻るような、越境人材が経営層になっていきました。

——イノベーションや次世代リーダー育成のための人事異動は、大企業ならではの手法と言えるかもしれません。一方で身近な越境学習であれば、中堅・中小企業でも取り組みを広げられそうです。

そうですね。最近では世の中の大きな流れとして、会社主導で転居を伴う異動を命じるのは簡単ではなくなってきています。中堅・中小企業ではそもそも、社内で多様な職場環境を提供できないというケースも多いでしょう。越境体験をしてもらうための手段が不足していることも、越境学習への注目につながっているのだと思います。

伊達 洋駆氏

越境人材を増やし、その提案を生かすために必要なことは

——越境人材を増やすために、人事はどんなことに取り組むべきでしょうか。

この質問はよくいただきます。「うちの社員はなかなか越境しようとしないんです」と話す人事担当者さんも少なくありません。そうした場合に、私は「まず人事から越境学習に取り組んでみてください」とお伝えしています。

人事に携わる方の中には「現場」という言葉を使い、ご自身と従業員を切り離して考えている方もいます。もし越境学習が重要だと思うのであれば、まずは人事から始めてみるべき。先述したように身近なアウェイに飛び込んでみる活動で構いません。実際にやってみることで社内にも体験談を話せるようになりますし、「有効なのでみなさんもやってみませんか?」と言えるようになるはずです。ロジックだけで伝えるのと、実体験を伴って伝えるのとでは、後者のほうがよほど強いですよね。

また、「隠れ越境学習者を見つける」という方法もあります。社内には案外、社外の勉強会や地域活動などに参加している人がいるもの。でも、こうした経験が職場に役立つと認識しておらず、自らアウトプットしない人も多いのです。そうした人を発掘し、積極的にアウトプットしてもらえば、事例を通じて越境学習の重要性を伝えていけるはずです。

——越境人材が社外で直面した葛藤を、組織や業務に生かすためには何が必要でしょうか。ホームで感じる違和感を指摘することで、他のメンバーからの反発につながることもあるのでは?

まずは越境人材の葛藤や違和感を肯定するだけでも大きな意味があると思います。ホームでの成果にはすぐにつながらなくても、越境して感じた葛藤や違和感をどんどんアウトプットしてもらえばよいのではないでしょうか。

ただ、ご指摘のようにアウトプットによって社内の反発を招くことも少なからずあるでしょう。組織で運用されてきた従来のやり方は、思いつきで生まれたものではなく、顧客とのやり取りや成果などを通じて積み重ねられてきた知恵です。本来であれば効率的に仕事を進めるためのものである知恵が、悪さをしてしまうということですね。合理的・効率的な組織を作れば作るほど、越境人材への迫害のリスクが高いともいえます。

とはいえ、組織で積み上げてきた知恵やルーティン、価値観の中には、もはや時代に合わなくなってしまっているものもあるはず。社内だけでは気づけない部分を指摘してもらえることにこそ、越境人材の価値があります。葛藤や違和感によってもたらされる「こんなやり方がいいかも」という提案を受け入れないのは、非常にもったいないことなのです。

そのために本質的に必要なのは、越境者を増やすことでしょう。上司が越境学習者、周囲も越境学習者という環境なら、互いの指摘を受け入れやすくなり、相互理解も進むはずです。

「アウェイに行かせない」ことは大きなリスク

——越境人材を増やすことの重要性は理解できたのですが、もう一つ懸念があります。社内で越境を推進すると、結果的にホームから離れていってしまう、つまり離職してしまう人材を増やすことにつながりませんか?

私たちが越境学習者を対象に調査を行った結果、「アウェイを経験したことでホームの良さを再認識している」人が多いことが分かりました。アウェイに行ったからといってホームのダメなところばかりを感じるわけではなく、むしろホームの良い部分が見えてくるという効果が大きいのです。

そもそも、若手人材を議論の対象として考えると、ホームの中に閉じ込めて育成の支援をしていくこと自体が限界を迎えています。働き方改革が進み、個人が自律的にキャリア形成に取り組んでいかなければならない中で、ホームに閉じ込められている若手は成長感が頭打ちになってしまいがち。その結果、新たな成長環境を求めて他社へ転職する人が増えています。

そうした意味では、今や「アウェイに行かせない」ことのほうが、組織にとっては大きなリスクだといえるでしょう。若手の成長意欲に応えるためにも、ぜひ越境学習が進む環境作りに取り組んでいただけたらと考えています。

ライター:多田 慎介
カメラマン:刑部 友康
記事を書いた人
kaneko-eri
金子絵里

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