リファラル採用の問題点と注意するポイントとは?【社労士監修】

人材不足やマッチング精度の高さから、従業員から一緒に働く仲間を紹介してもらう「リファラル採用」が盛んになっています。そこで、社会保険労務士の岡さんに、リファラル採用のメリットや注意点、成功するためのポイントをお伺いしました。

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岡 佳伸(おか・よしのぶ)さん
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 代表。大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

リファラル採用とは

近年目にする機会が増えた「リファラル採用」という言葉。従業員から知人を紹介してもらう採用制度を指します。古くからある「縁故採用」との違いは、縁故採用がほぼ採用が確定しているのに対して、リファラル採用は書類選考が免除されるケースもありますが、基本的には通常の採用と同様の選考が行われる点です。また、縁故採用は限られた従業員が対象になるのに対して、リファラル採用は全ての従業員が紹介の対象になります。

リファラル採用のメリット

一般的に、企業側が感じているリファラル採用のメリットを3つご紹介します。

採用コストを削減できる

リファラル採用で紹介報酬や経費などを支払ったとしても、求人広告や転職エージェントの利用と比べると、コストは安く抑えられます。紹介した従業員が知人に待遇や社風などを伝えているケースが多いため、話が早く人事採用側の説明コストも抑えられます。

マッチングの精度が高い

自社で働いている従業員が「合っている」「一緒に働きたい」と感じて紹介しているため、社風やポジションにマッチしている可能性が高くなります。紹介者が自社の魅力や働き心地、社風などを伝えているため、求人や転職エージェントから応募した求職者と比べると、イメージとのギャップを抱えるケースは少ないと言えます。

転職市場にいない人材に会える

通常の採用活動は、求人を見たり転職エージェントに申し込んだりするといった、転職市場で顕在化した人材が対象です。一方、リファラル採用の場合は、転職活動を始めていないケースもあるので、通常の採用活動で会えない人材にアプローチできる可能性があります。特に人手が不足している職種の場合は、転職市場で顕在化した人材は引っ張りだこになるので、競合の少ない人材に会える機会は貴重です。

リファラル採用の注意点

メリットがある一方で、リファラル採用には気をつけておきたいこともあります。人事が知っておきたい注意点を解説します。

職安法に抵触していないか

自社の求人を見た従業員が、自主的に知人を紹介して採用になるのであれば何ら問題はありません。注意したいのは、リファラル採用を従業員に呼び掛けて、見返りとして報酬を支払うケースです。職業安定法では、第四条で「『労働者の募集』とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘すること」と定義しています。さらに第三十六条で、「その被用者以外の者をして報酬を与えて労働者の募集に従事させようとするときは、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」としています。また、報酬を与えない場合も、厚生労働大臣に届け出なければなりません。

許可や届け出をせずに報酬を支払うのであれば、業務の一環として紹介してもらうことになります。紹介の報酬は、基本給や福利厚生のように継続的に支払うものではないので、明細としては賞与に該当します。また、業務時間外に活動しているのであれば残業代も必要です。リファラル採用にかかる費用の扱いが曖昧になっている企業を目にしますが、税務調査などが入った時に指摘される可能性があるので、きちんと決めておきましょう。

人事情報をどこまで開示するか

業務の一環としてリファラル採用を従業員に依頼するのであれば、給与や仕事内容などの人材要件を渡す必要があります。適正に行うのであれば、労働条件や採用条件の明示が必要になりますが、ポジションや経験・スキルによって待遇は異なるため、全社にオープンにするのが難しくなる可能性があります。例えば「自分より給与が高いポジションなのでモチベーションが沸かない」といった問題が発生するかもしれないからです。

だからと言って条件を曖昧にしておくことは、「聞いてない」「話が違う」など入社後のトラブルに発展するリスクもあります。できれば、事前に人事がリファラル採用の研修を行って、会社の顔として伝えていいことと、人事に確認が必要なことをきちんと周知しておくことが大切です。

紹介者は従業員のみに限定しているか

多くのパートナー企業や業務委託を抱える企業に多いのが、「誰かいい人いない?」「いい人いたら紹介して」などと取引先や業務委託などに話して、報酬を支払って人材を紹介してもらうケースです。これは職業安定法違反になってしまうため、やってはいけない行為です。また、紹介する人物は従業員ではないので、その企業の労働条件を正確に把握しているわけではありません。入社後トラブルになる可能性が高いので、従業員ではない人から紹介を受けて、報酬を支払うのはやめましょう。

リファラル採用を成功させるためのポイント

リファラル採用を成功させるためのポイントをご紹介します。

制度設計をしっかりと行う

従業員すべてが人事・採用経験を持っているわけではないので、評価や判断の観点が不十分で、入社後にミスマッチが発生するケースが増えています。紹介する従業員が、一定の人事知識や待遇などを理解しておく必要があります。採用業務を任せるくらいのつもりで、事前に明確なリファラル規定を設けておくことが重要です。

資料や研修を設ける

リファラル採用を行う際は、明確なリファラル規定とともに、情報を共有する機会を設けましょう。簡単に分かる資料をイントラネットなどで掲示したり、従業員向けの研修を行ったりして、定期的にリファラル採用を知る機会を提供します。また、理念やビジョンなどの企業姿勢を明確にして、紹介される人材に理解・共感してもらえる土台作りも重要です。

従業員に周知する

リファラル規定を設けたら、従業員への周知が必要です。紹介する側にも人事への接続や紹介者へのフォローなど負担がかかるため、メリットがないとなかなか紹介してもらえません。報酬額や発生のタイミング、交通費や飲食費といった経費など、メリットを感じてもらえるように周知しましょう。中には、リファラル採用に貢献したかどうかを評価基準の一つに組み込んでいる企業もあるようです。

報酬を支払うタイミングを検討する

高額な報酬を設定し、入社後にすぐ支払う形だと、短期的なメリットだけを考えて紹介するケースが発生する可能性があります。「入社後6カ月経過したら報酬が発生する」など一定期間を設けることで、紹介した人材に対して従業員からの入社後のフォローが期待できるでしょう。

ライター:只野 志帆子

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