テレワーク導入で見えてきた課題と、上手に運用するためのポイント【社労士監修】

新型コロナウイルスの登場により、一気に導入が進んだテレワーク。導入が進んだことにより、様々な課題も見えてきました。そこで、社会保険労務士の岡さんに、労働時間制度ごとのテレワークの課題や上手な運用のポイントについて解説いただきました。

岡 佳伸(おか・よしのぶ)さんの画像
岡 佳伸(おか・よしのぶ)さん
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 代表。大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

はじめに

2021年3月に、厚生労働省は「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(新テレワークガイドライン)」を発表しました。新型コロナウイルスの登場により、テレワークの重要性や企業や働く人の意識が一気に変わったことで、2018年2月に策定された「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(旧ガイドライン)」から内容が大幅に刷新されています。旧ガイドラインは「長時間労働対策について」という項目があり、テレワークに伴うデメリットへの対策が記載されていましたが、新テレワークガイドラインはデメリットよりもメリットに関する記載が増えています。また、新テレワークガイドラインの「推進」という言葉が使われていることからも、積極的にテレワークの導入を促そうとする姿勢が伺えます。

毎日の通勤から解放されることや、オンラインミーティングによる効率化が図れるため、テレワークの制度をポジティブに捉える働き手が増えた一方で、企業としては従業員の働きが可視化しにくくなり、「勤怠管理が難しい」という課題も生じています。新テレワークガイドラインのポイントをピックアップし、現時点で見えてきた課題を解説していきます。

3つの労働時間制度と問題点

テレワークの課題で一番大きいのは勤怠管理です。特に在宅勤務の場合、住居と職場の切り替えがしにくいため、「朝起きてすぐにメールチェックをした」「業務終了の打刻後に、顧客から電話がかかってきたので応対した」など、時間外の業務が管理しにくいという問題があります。また、業務時間内に子供の相手をしたり、宅急便が届いたりした場合も、すべてを禁止するのは現実的ではありません。3つの労働時間制度別に、問題点を解説します。

通常の労働時間制

「9時出社、5時退社」など、所定の労働時間中は働いているものとする勤怠制度の場合、テレワークでは勤務実態の把握が重要になります。勤務状況を確認し声をかけやすくするために、業務時間中はずっとオンラインにしている企業もありますが、モニターが見えるわけではないので、本当に仕事をしているのかどうかは分かりません。パソコンの動きをチェックする監視システムを導入する企業もありますが、ログ上の作業時間と勤怠の打刻時間を比較した結果、かなり乖離するケースも多いようです。5~10分程度であれば誤差の範囲内ですが、その乖離が30分、1時間と大きくなると、不信感が生じてしまいます。とはいえ、ログ上の作業時間で集計すると、手を止めて考えている時間などがカウントされません。ツールでの勤務管理には限界があるため、どこまでチェックし、どこまで許容するかが重要になるでしょう。

フレックスタイム制

フレックスタイム制は、勤務時間が個人の自由に任せられているので、どこまで細かく勤怠管理・報告するかが焦点になります。例えば朝9時から始業したとして、10時に30分の休憩をとって、10時半からまた作業を開始して、11時に荷物の受け取りで10分休んで…と、ストップウォッチのような勤怠管理になります。細かい勤怠をどのようなアプリケーションで管理するのかも課題になりますし、毎度細かく記録する従業員も大変です。こうした問題に対して、「テレワークの場合は1時間中10分を休むものとして考える」という企業もありますが、出社している従業員との均衡が取れなくなります。通常の労働時間制のように、終日オンラインにする勤怠管理もマッチしないため、フレックスタイム制のテレワーク導入の場合も、やはりこまでチェックし、どこまで許容するかが重要になります。

事業場外みなし労働時間制

労働基準法第38条の2による「事業場外労働のみなし労働時間制」とは、出張や外回りなど、会社以外で業務を行うため労働時間の算定が困難な場合に、労働時間の算定義務を免除し、会社外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度です。所定労働時間を働いたとみなすので、細かい勤怠管理が不要になるため、テレワークに向いている制度と言えるでしょう。ただし勤怠管理が不要になる一方で、「仕事が気になって早朝にメールチェックをした」「顧客対応をしていたら深夜になってしまった」など、場合によっては過重労働になってしまう恐れがあります。働き過ぎを防ぐためには、勤怠管理をある程度管理・報告する環境を用意しておく必要があるでしょう。

テレワークに共通する課題と現時点での解決策

新テレワークガイドラインが挙げる3つの形態と、その課題、テレワークの課題を解決する事例をご紹介します。

テレワークの3つの形態と共通する課題

新テレワークガイドラインでは、テレワークの形態を3つ挙げています。

  1. 在宅勤務
  2. サテライトオフィス勤務
  3. モバイル勤務

プリンターやネットワークの観点から、在宅勤務は不十分な従業員のために、サテライトオフィスを提供する企業が増えました。コロナ禍では「密を防ぐ」という目的もあって、出社するオフィスを分散する動きもありましたが、1~3のいずれの形態も「勤怠管理が難しい」という根本的な課題を解決することができませんでした。ブース型のシェアオフィスを目にする機会は増えましたが、あくまで外回り向けの一時的なオフィス機能。そのため、一時期は増加した在宅勤務やサテライトオフィス勤務ですが、勤怠管理の難しさから、出社に戻した企業も増えています。

テレワークの課題における解決策

テレワークの課題である勤怠管理を解決するために、多くの企業が取り入れているのが「定期的なミーティングの開催」です。朝礼をオンラインのミーティングツールで開催することで、仕事への切り替えを図り、当日のタスク確認や進捗をチェックすることができます。また、スケジューラーやタスク管理ツールを共有することで、お互いの予定や業務の見える化を図っているケースもあります。自分の業務に空きがある場合は、チームメンバーの仕事を積極的に手伝うことを推奨し、評価にも組み込む。そうすると、チームワークも強化されるし、仕事をしていない時間が発生することもありません。いずれにしても、完璧に管理ができるわけではないので、週の半分くらいは出社を義務付けるという“折衷案”を採用する企業も多いです。

テレワークを上手に運用するために

もともとテレワークとの相性が良かったシステムエンジニアやWebデザイナー、企画やマーケティング、バックオフィスなどの専門職種は、求められる評価基準や納期が決まっているので、勤怠管理の問題は少ないと言えます。また、成果が数値で可視化される営業職や、管理職などもテレワークとの相性は良さそうです。一方で、派遣やパート・アルバイトのように時給制で働く仕事は、作業時間で勤怠を判断する傾向があったため、新型コロナウイルス登場時にテレワークがなかなか進みませんでした。

テレワークを今後どのように運用していくのかは、まず自社がテレワークに合っている業種なのかを見極めなければなりません。さらにテレワークに向いている業種だとしても、勤怠管理の問題があるため、「どこまで仕事をしないことを許容できるのか」を決めなくてはなりません。在宅勤務をしている以上、勤怠の全てを管理することはできないため、完璧に勤怠管理したいのであれば、それはもうテレワークではなく出社が適しています。

経営層が「ある程度仕事をしないことを許容できる」という考えであれば、許容できる範囲で勤怠管理制度を設定し、フレックス制や事業場外みなし労働時間制、専門型裁量労働制を活用して評価と連携することで、ストレスのないテレワークを実現することができるでしょう。

ライター:只野 志帆子

SHARE ENTRY

この記事を読んだ方におすすめ

メンタル不調の従業員への対処法、休職中の適切な人事評価とは?|の画像
労務問題

メンタル不調の従業員への対処法、休職中の適切な人事評価とは?

ストレスケアメンタルヘルス
人事必見!「仕事が終わらない」ストレスを抱える社員への対処法|の画像
労務問題

人事必見!「仕事が終わらない」ストレスを抱える社員への対処法

メンタルケアストレスケア
人事が知っておきたい副業・兼業の注意点【社労士監修】|の画像
労務問題

人事が知っておきたい副業・兼業の注意点【社労士監修】

副業兼業