派遣社員の雇用ルールと、派遣先企業が派遣社員を直接雇用するメリットとは?【社労士監修】

労働者派遣法の改正によって、派遣社員は派遣先企業の同じ部署で3年を超えて働くことができなくなりました。また、派遣社員の有期労働契約が通算で5年を超えた場合は、無期雇用契約に転換することができます。法改正に伴い、派遣社員は3年や5年で働き方の選択を迫られることになります。もし自社に優秀な派遣社員がいる場合は、こうした契約の切り替えのタイミングで、直接雇用を検討してもいいのではないでしょうか。そこで、派遣社員の基本的なルールと、直接雇用するメリットや注意点をご紹介します。

派遣社員の雇用ルールと、派遣先企業が派遣社員を直接雇用するメリットとは?
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岡 佳伸(おか・よしのぶ)さん
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 代表。大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

派遣社員の「3年ルール」とは

平成27年の労働者派遣法の改正によって、派遣社員は派遣先企業の同一部署で3年を超えて働くことは基本的にできなくなりました。一定の手続きを取れば3年を超えて働くことができますが、他の部署に異動する必要があります。

派遣社員には、派遣会社に登録して、派遣先が決まったら雇用契約を結ぶ「登録型派遣」と、派遣会社の社員として雇用され、派遣先で働く「常用型派遣」の2つの種類があります。登録型派遣は、派遣期間が終了したら雇用契約も終了となりますが、常用型派遣は派遣期間が終了しても雇用契約は継続しているので、給与などが支払われます。常用型派遣はエンジニアやWebデザイナーなど専門性が高い職種に多く見られる傾向があり、この2つの形態のうち、3年ルールが該当するのは登録型派遣になります。

厚生労働省は、同じ職場に継続して3年間派遣される見込みがある派遣社員に対して、雇用の安定を図るための措置を講じる必要があるとしています。

雇用安定措置の内容(義務/努力義務)

  1. 派遣先への直接雇用の依頼(派遣先が同意すれば、派遣先の社員になる)
  2. 新たな派遣先の提供
  3. 派遣元での派遣社員以外としての無期雇用
  4. その他雇用の安定を図るための措置(紹介予定派遣の対象になる等)

1.の、派遣先への直接雇用の依頼は、あくまで依頼なので派遣先が必ず正社員にしなければならないわけではありません。そのため、派遣先に打診して、受け入れてもらえない場合は2.の新たな派遣先を提供するケースが一番多いでしょう。

無期転換ルールとは

無期転換ルールとは、有期労働契約が通算で5年を超えた場合、無期雇用契約に転換できるというルールです。このルールは、派遣社員だけでなく、契約社員やアルバイトなど、雇用期間が定められている労働者が該当します。

このルールによって、派遣社員は派遣会社に対して、無期雇用契約を申し入れることができるようになりました。ただし、この無期雇用契約は、「派遣会社の正社員として働く」という意味ではありません。「定年まで雇う」という無期の雇用契約なので、派遣先との契約が終了した場合も給与が支払われるというメリットがある一方で、働き方は派遣社員と同じです。そのため、正社員のように自社でキャリアを磨いたり、賞与や昇給などの待遇がアップしたりするとは限りません。また、働く時間や仕事内容を選べる自由さが派遣社員の魅力ですが、無期雇用契約になると基本的にフルタイムになるケースが多く、派遣先も希望通りに選べなくなる可能性があります。

雇用が安定するというメリットがある一方で、こうしたデメリットもあるため、無期転換できる条件を備えていたとしても、無期雇用契約を結ぶケースばかりとも言えないようです。

有望な派遣社員を直接雇用するという採用方法もある

ご紹介した通り、派遣社員が3年以上同じ職場で勤務し続けることは、基本的にできなくなっています。また、派遣会社と無期雇用契約を結べることができるようになっても、派遣社員にとって必ずしも良い条件になるとは限りません。

少子化が進む我が国において、優秀な働き手の確保は今後も一層難しくなってくるでしょう。そこで、中途採用の一つの手段として、「派遣社員の直接雇用」を検討してみてもいいのではないでしょうか。派遣先企業が派遣社員を直接雇用することは義務ではありませんが、もし「ずっと自社で働いてほしい」「ポテンシャルがあるので成長が期待できそう」という派遣社員がいる場合には、3年を迎える前に直接雇用の検討をすることをお勧めします。3年近く働いていれば、経験・スキルや人柄も理解できているはずです。また、派遣社員を直接雇用する場合に、必ずしも正社員でなければならないという法令はありません。例えば、契約社員などから初めて、活躍次第で正社員に抜擢するという方法もあります。ポジションによっては、中途採用を行うよりも、有望な派遣社員と直接雇用を結んだ方が、リスクが少ない人材確保の方法と言えるのではないでしょうか。

派遣社員を直接雇用する場合の助成金制度

派遣社員のキャリアアップを促進するために、厚生労働省では事業主に対して「キャリアアップ助成金」を支給しています。助成金という面でも、派遣社員の直接雇用は企業にメリットがあります。< >内は生産性の向上が認められる場合の額、( )内は大企業の額になります。いずれも支給要件が定められているので、最寄りの都道府県労働局、ハローワークに確認してみてください。

キャリアアップ助成金(正社員化コース)

派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者(※)として直接雇用した場合、以下の助成金が支給されます。

  • 有期雇用→ 正規雇用:1人当たり85.5万円<108万円>( 71.25万円<90万円>)
  • 無期雇用→ 正規雇用:1人当たり57万円< 72万円>(49.875万円<63万円>)

※ 正規雇用労働者には、「多様な正社員(勤務地・職務限定正社員、短時間正社員)」を含みます。
※ 勤務地・職務限定正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換または直接雇用した場合に助成額を加算します。

人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)

派遣先企業が紹介予定派遣で受け入れる派遣社員に、派遣会社と派遣先企業が共同して訓練実施計画を作成し、OJT(実習)とOFF-JT(座学など)を組み合わせた訓練(有期実習型訓練)を実施すると、人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)が支給されます。

1. 派遣先企業への助成額(1人当たり)

  • OFF-JT 賃金助成:1H当たり760円<960円>(475円<600円>)
  • 経費助成:実費助成
  • OJT 実施助成: 1訓練当たり10万円(9万円)

2. 派遣会社への助成額(1人当たり)

  • OFF-JT 賃金助成:1H当たり760円<960円>(475円<600円>)
  • 経費助成:実費助成

※訓練時間数に応じて限度額があります
※1年度1事業所当たりの支給限度額は1,000万円です

派遣社員を直接雇用する場合の助成金制度

派遣会社が人材紹介の免許も持っている場合、直接雇用にする場合に紹介手数料を求められるケースがあります。もし、将来的に派遣社員を直接雇用する可能性がある場合は、派遣契約の時点で確認をしておいた方が良いです。また、派遣会社としては必ず雇用安定措置として派遣先企業に直接雇用の依頼をしなければならないため、実際に紹介手数料を求められたとしても、交渉の余地があるでしょう。

ライター:只野 志帆子

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