採用担当者が知っておきたい、転職エージェントのよくあるトラブルと対処法【社労士監修】

採用活動が効率的になることから、転職エージェントを活用する企業が増加しています。また、厚生労働省が発表した「職業紹介事業報告」によると、民間の職業紹介事業所数も大きく伸びており、2010年と2020年を比較すると、この10年の間に約1万件も増加しています。数多くの転職エージェントから、優良な転職エージェントを見極めるにはどうしたらいいのでしょうか。そこで、転職エージェントとの間で起こりやすいトラブルと対処法、転職エージェントのチェックポイントについて解説します。

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岡 佳伸(おか・よしのぶ)さん
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 代表。大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

トラブル①:早期退職の返戻金制度

転職エージェントと企業とのトラブルで多いのは、早期退職に関する金銭面のトラブルです。多くの転職エージェントが早期退職の返戻金制度を設けていますが、退職のタイミングや返戻金の割合は転職エージェントによって異なります。一般的には3~6カ月の退職で返戻金を設定している転職エージェントが多く、例えば3カ月以内の退職は全額返戻金、6カ月以内の退職は70%までの返戻金など、階段方式にしているケースもあります。

企業側としては高い紹介手数料を支払うので、返戻金制度がしっかりしていて、早期離職者が少ない転職エージェントを選びたいでしょう。そこで、厚生労働省は2018年に職業安定法を改正し、職業紹介の実績などを情報提供する義務を設けました。「人材サービス総合サイト(https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb/ )」では、転職エージェントの以下の事項を確認することができます。

  • 職業紹介事業者の紹介により就職した人の数
  • 上記のうち、 6カ月以内に離職した人の数
  • 手数料
  • 返戻金制度の有無や内容
  • 得意とする分野等(職業紹介事業者が任意で掲載)

転職エージェントをこれから利用する場合は、人材サービス総合サイトで離職者の数や返戻金制度の有無などを確認しておきましょう。ただし、返戻金制度の有無は分かっても、返戻金の割合は目安しか書いていないケースもあります。また、返戻金以外の保証方法として、定められている保証期間内に退職してしまった場合、代わりの人材を紹介するという「フリーリプレイスメント」という制度を導入している転職エージェントもあるようです。転職エージェントと契約する前に、早期退職に関する事項はしっかりと確認しておきましょう。

トラブル②:高額な紹介手数料

例えば、「○○職で経験XXなら紹介手数料40%」と取り決めたものの、実際に入社したら思うような成果が出せないことが判明しトラブルになることもあります。

一般的な転職エージェントの紹介手数料は年収の30~50%が目安ですが、エンジニアのように採用の難易度が高い職種では、年収額と同じ(100%)や年収以上(100%以上)というケースも珍しくありません。あまりにも高額な紹介手数料は、特別のスキルを持った人材に限るという労働局の指導もありますが、基本的に届け出制なので受けざるを得ない状況です。企業側としてもサーチ型を使うと、ポジションによっては調査費などを含めて数千万円かかるケースもあるため、年収の100%であれば安いと考えるでしょう。そのため、採用ニーズの高い職種では、紹介手数料が跳ね上がる傾向が見られます。

経験・スキルによって細かく紹介手数料を設定できるのが理想ですが、転職エージェントが取り扱うのはあくまで “人”です。例えば、資格保持者であれば、「医師免許を持っている人は紹介手数料XX%」「○○領域の専門医はXX%」など、いくらか設定がしやすくなりますが、それでも人柄や経験・スキル、仕事を遂行する能力は求職者によって様々。きめ細かく人材要件を落とし込めるかどうかがカギになります。

なお、紹介予定派遣に切り替えて、じっくりと経験・スキルを見極めるという方法もありますが、紹介予定派遣は一定の契約期間を設けられるため、求職者が嫌がる傾向があります。ニーズの高い職種を採用する場合は、紹介手数料や早期退職の返戻金について事前にしっかりと転職エージェントと話し合っておきましょう。

トラブル③:求職者のミスマッチ

紹介された人材の条件や経験・スキルが異なり、入社後にミスマッチが起こった場合も「話が違う」とトラブルのもとになります。ただし、転職エージェントは求職者の個人情報の収集や管理を適切に行う責任がありますが、あくまで求職者本人から直接収集するか、求職者の同意のもとで、本人以外から収集するしかありません。基本的に、経歴は求職者が提出した履歴書や職務経歴書を確認しているだけなので、求職者自身が虚偽の申告をした場合は、転職エージェントは見抜くことができません。

そのため企業の採用担当者は、経歴のチェックを転職エージェント任せにせず、自身の目でしっかりと確認する必要があるでしょう。特に資格については、資格者証の原本を確認し、コピーして有効期限を確認しておく必要があります。また、管理職など事業への影響が大きく年収の高いポジションの場合は、バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを実施することで、ミスマッチを回避することができるでしょう。

トラブル④:同一人物が複数ルートから応募

複数の転職サイトや転職エージェントを利用する求職者が増えています。また、民間の転職サービスと並行して、ハローワークやナースセンターなどの公的な職業紹介機関などを利用している求職者も多いです。こうした状況で同一の求職者が複数のルートで応募してしまい、紹介手数料をめぐって企業と転職エージェントがトラブルになるケースがあります。

企業としては無料のルートを選びたいところですが、紹介した転職エージェントとしては、転職支援を行っているので紹介手数料をもらいたいと考えます。そのため、複数のルートから同一人物の応募が来た場合の、ルールを決めておく必要があります。先着順や求職者の希望など、どのような優先順位なのか事前に取り決めをしておきましょう。

転職エージェントとのトラブルを防ぐために

厚生労働省は、転職エージェントが紹介した求職者の早期離職を防ぐために、以下の事項を遵守することを明示しています。

  1. 無期雇用契約で紹介した求職者に対して、就職した日から2年間は転職の勧奨を行ってはいけない
  2. 手数料の返戻金制度を設けることを望む
  3. 求職者・採用企業双方に、それぞれから受理する手数料の明示が必要
  4. 求職者を勧誘するにあたって、お祝い金などの金銭を支給しない

できるだけトラブルを防ぐために、企業側も事前に返戻金や紹介手数料の確認や規定をしっかりと決めておきましょう。また、求職者の見極めは企業が責任を持って行うものとして、事前に雇用条件を明らかにしておく、面接以外に面談を設けて顔を合わせる機会を増やし、希望条件の擦り合わせを行っておく、選考に試験を設ける、職場見学などを通じて社風や働き方を理解してもらうなど、選考方法を工夫することが重要です。

転職エージェントを利用する際の主なチェックポイント

厚生労働省は、採用を行う企業向けに「転職エージェント(職業紹介事業者)を利用する際の主なポイント」というリーフレットを配布しています。優良な転職エージェントを選ぶために、リーフレットに記載されているチェックポイントをご紹介します。

1. 適切な職業紹介事業者の選択

🔲人材サービス総合サイトに許可事業者として記載がある
🔲人材サービス総合サイトに手数料に関する事項や就職実績などの情報を公開している
🔲手数料について説明があった
🔲紹介を受けたい職種の取扱いをしている
🔲ハローワークと誤認されるような紛らわしい名称を用いていない

2. 職業紹介事業者への求人の申込み

🔲求人の申込みにあたり、労働関係法令に違反し、公表などの措置がとられた対象でない
🔲建設業務・港湾運送業務など有料の職業紹介禁止業務についての紹介ではない
🔲職業紹介事業者に対し、従事すべき業務の内容などを明示している
🔲業務内容などに変更があった場合に、業務の内容などを求職者に改めて明示している

3. 求職者の個人情報の管理

🔲求職者の個人情報を職業紹介事業者から取得する場合、本人の同意があるか確認している
🔲選考が終了した後に求職者の個人情報を削除するなどの適正な管理をしている

ライター:只野 志帆子

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