採用担当者と現場採用者の連携は、採用において大切だと言われています。では、連携がうまくいかないと、採用結果に具体的にどんな影響をもたらすのでしょう。組織人事コンサルタントの粟野友樹氏に聞きました。


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採用がうまくいかない、その理由は人事の採用側と現場(配属先)責任者のコミュニケーション不足にあるかもしれない
「採用したいけれどそもそも応募や紹介が来ない」
「書類選考や面接の通過率が悪い」
「せっかく採用できたのに入社後に定着しない」
採用にまつわる問題は、上記のようにさまざまです。こうした問題が起こる要因のひとつとして、人事採用担当者と現場責任者の連携不足が挙げられます。
そもそも採用において、採用担当者と現場責任者とでは、それぞれ見えている景色が異なります。人事側だけで進めようとすると、現場の業務内容や必要なスキル・経験の理解が浅くなることがありますし、現場側だけで採用要件を考えると、転職市場の相場観に合わない難易度の高い条件が並んでしまうこともあります。
結果として母集団が集まらない、面接が通らない…という事態にならないように、人事採用担当者と現場責任者のコミュニケーションを丁寧に進めることが大切です。
双方が持っている情報を共有し、理解し合わなければ、応募者を巻き込むことになり、企業に対して違和感を抱かれてしまうでしょう。
人事部・現場間で連携不足によって起こる問題は?
人事と現場との連携不足により採用がうまくいかないケースには、どのような課題があるのでしょう。現場責任者に問題がある場合と、採用担当者に問題がある場合に分けて考えていきましょう。
現場責任者側に問題がある場合
現場責任者側に問題があって採用に悪影響を及ぼすケースでは、多くが「現場責任者が転職市場の相場を理解していない」ことに起因しています。
起こる問題①現場の要望が高すぎて採用できない
多くの現場責任者は、求める人材像が転職市場にどれくらいいるのか、相場観が分かりません。そのため、高い理想を求め、あれもこれも…と求人要件に入れすぎてしまう傾向があります。その上、到底見合わない低い条件で求人情報をだしてしまうことも。
結果として対象者が限定され、応募が来なかったり、選考辞退や内定辞退につながったりするなど、採用が苦戦してしまいます。優秀な人材を求めるのであれば、採用競合に取られないように、給与などの待遇をより魅力的な条件にする必要があります。
起こる問題②面接は「企業が評価するもの」と勘違いし、印象が悪くなる
採用では、買い手市場のときは企業が有利になりますが、現在は売り手市場が続いています。企業と個人はよりフラットな関係へと変化しており、「面接はお互いが見極める場」になっています。
さらに、面接の様子はSNSやクチコミサイトで発信されることも珍しくなく、以前のようにクローズドな場ではなくなっているといえるでしょう。現場責任者が中途採用の現状を理解していないと、「面接は自分たちが応募者を判断して評価するものだ」と勘違いし、圧迫面接にもつながりかねません。
特に、ダイレクトリクルーティングなど企業側からアプローチした応募者の場合は、そもそも相手の転職意向が高いとは限りません。こちらから声をかけて検討いただいている、という姿勢で接しなければ、企業イメージが悪化し、採用は難しくなってしまうでしょう。口コミサイトに書かれてしまうリスクも考えなければなりません。
起こる問題③採用は人事の仕事だと思っているので協力しない
採用競争が厳しい中では、人材要件を出しているだけでは応募や紹介は来ません。
「人事がいい人材を上げてこない」と受け身の姿勢で待つだけではなく、条件を緩めて対象者を広げたり、面接日程調整に柔軟に対応したり、評価を迅速にフィードバックしたりと、さまざまな協力が欠かせません。
採用担当者側に問題がある場合
一方、人事・採用担当者が「現場を理解できていない」ケースもあります。
起こる問題①現場のニーズが分からず、母集団形成ができない
現場へのヒアリング不足や職種理解が浅いと、その職種ならではの専門用語や必要な経験スキルが具体化されません。
すると曖昧な要件になるため、求人がターゲットに刺さらず、転職エージェントにも正確な情報を伝えられません。結果として、母集団形成は難しくなってしまうでしょう。
起こる問題②業務理解が浅く、応募者から不信感を持たれてしまう
現場の仕事理解ができていないと、面談や一次面接で応募者の基本的な質問に答えられません。
応募者は、「現場の仕事をちゃんと理解しているのだろうか」「説明している仕事内容は本当に正しいのだろうか」「この程度の理解で適正に評価できるのだろうか」などさまざまな不安を抱き、企業自体への不信感につながってしまいます。
起こる問題③現場の要望に対するアクションが遅く、採用につながらない
人手不足で仕事が回っていない(事業拡大したくてもできない)現場は、「早く採用する」ことが死活問題です。しかし、その温度感を人事が理解しておらず、対応スピードが遅かったり、適切な報告がなかったりすると、現場からの不信感を招きます。
また、「採用に向けてどこまで進んでいるのか」を具体的な数字を示して丁寧に報告することを怠り、「ちょっと苦戦している」「母集団が集まらない」などと曖昧にしていると、現場側は人事と協力して動こうというモチベーションを持てなくなります。
このような状況では、現場を巻き込んだ採用状況の改善はいつまでたっても達成できないでしょう。
現場との連携をうまく進めるには
人事と現場双方のコミュニケーションがうまくいっていないと、各選考フェーズで問題が発生します。
書類選考時には、無難な応募者だけ通そうとして、実際の現場が求める人材の選考を進められず、面接時には、選考基準が不明瞭だったり面接での引き継ぎができていなかったりするケースもあるでしょう。この場合は、人事による報告不足と現場責任者のコミット不足、それぞれが影響します。
また、内定後、入社後に定着や活躍しないケースとして、
・採用者の希望や適性、人物タイプ、経験スキルレベルなどの共有がうまくされていない
・入社後研修や教育担当の不在など、受け入れ態勢ができていない
ことが挙げられます。
では、現場との連携を円滑に進めるために、どんな工夫をすべきか考えていきましょう。
人事側から現場へ、転職市場の動向をレクチャーする
現場責任者は中途採用についての専門家ではありません。転職市場の動向を伝え、採用が難しい現状を知ってもらうためには、「社内勉強会」を開いたり、資料を作成したりといった情報提供が大切です。
現場の求める人材要件があるのなら、その条件通りに転職者データベースをサーチし、「対象者はこれしかいないんですよ」と数字で示すのもいいかもしれません。
社外の専門家に入ってもらう
現場との関係性次第では、人事がいくら「採用が難しいので、現場の協力が必要だ」と伝えても、実態が伝わらないこともあるでしょう。「採用は人事の仕事」と思っている現場責任者の中には、「成果が出ないのを現場の責任にしている」と捉える方もいるかもしれません。
そのようなときは、採用コンサルタントや転職エージェントなど社外の専門家に、勉強会やミーティングの場を設けてもらい、第三者の客観的なデータや、採用競合との比較を示しながら説明してもらいましょう。社内の人間が伝えるよりも、納得感を持ってもらえる可能性があります。
経営陣にメッセージを発信してもらう
「採用は人事と現場が協力し合ってやるものだ」という考え方を浸透させるために、トップのメッセージは大きな影響力を持ちます。
人事から経営陣に採用の現状を伝え、定期的に「みんなで採用に力を入れよう」というメッセージ発信をしてもらうよう働きかけるのも、一つのやり方です。
人事側が現場を知りに行く姿勢が重要
連携不足をいずれかの方法で改善していくにしても、共通して欠かせないものは、人事側が情報を取りに行く姿勢です。
この点について人事側が消極的になると、現場の仕事内容や評価ポイント、どのような人が活躍しているかなどを理解するチャンスを失い、採用がうまくいかないケースも多々あります。自ら現場に足を運び、採用職種のメンバーにヒアリングをしたり、書籍やメディア、社外セミナーなどから学んだりする努力が大切になるでしょう。
現場責任者の発言力が強い組織の場合は、個別でコミュニケーションを継続して取るなど、関係構築をコツコツと進めていきましょう。可能であれば、その職種の経験者に人事採用メンバーになってもらうなど、人材交流の取り組みもできるといいと思います。