バックグラウンドチェック・リファレンスチェックとは?増加する背景と導入時の注意点

キャリア採用では、応募者の経歴や前職(現職)の評価を確認するために、「バックグラウンドチェック」や「リファレンスチェック」と呼ばれる調査を入れる企業が増加しています。以前から外資系企業ではこれらの調査を入れるのが一般的でしたが、現在では企業規模を問わず国内企業にも広がっています。そこで今回は、寺島戦略社会保険労務士事務所代表の寺島有紀先生に、バックグラウンドチェック・リファレンスチェックの概要と増加している背景、実施の注意点などについて解説いただきました。

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寺島 有紀(てらしま・ゆき)さん
寺島戦略社会保険労務士事務所 代表。社会保険労務士。一橋大学商学部卒業。新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

バックグラウンドチェック・リファレンスチェックとは?

応募者の経歴や評価を確認する調査方法は、バックグラウンドチェックとリファレンスチェックの2種類があります。それぞれの特徴をご説明します。

バックグラウンドチェック

バックグラウンドチェックとは、企業から依頼された調査会社を通じて行われる調査方法で、主に応募者の採用にリスクがないかを確認しています。経歴を確認しないまま採用して、後から経歴に問題があった人物だと判明した場合、ブランドイメージの毀損やコンプライアンスを問われるリスクを伴います。バックグラウンドチェックは、学歴や職歴など、応募者が提出した過去の経歴に虚偽がないか、破産や犯罪歴、反社会的勢力との関わりなどがないかを確認するために実施されます。センシティブな情報を扱うため、原則として事前に本人の承諾を得てから行われます。

リファレンスチェック

リファレンスチェックとは、応募者の同意を得たうえで推薦者を紹介してもらい、応募者の実績や評価、強みや仕事への姿勢などが事実と合っているか、応募企業にマッチするかを確認する調査です。応募者は、リファレンスチェックを通じてアピールの裏付けを行うことができます。また企業側も、応募者がどのような人物でどのような活躍をしたのかを、生の声で確認し選考材料にすることができるでしょう。手間がかかるため高額になりやすいバックグラウンドチェックに比べ、リファレンスチェックはオンラインで完結できるため、多くの企業に利用されています。

リファレンスチェック・バックグラウンドチェックが増えている背景

以前よりもリファレンスチェックやバックグラウンドチェックを導入する企業が増加している背景のひとつとして、日本の雇用の流動性の低さが挙げられます。

日本の労働法は解雇に対してとても厳しく制限されているため、もし採用にミスマッチがあったとしても、正社員の場合は解雇に困難が伴うことになります。成果が出ないからと言って即座に給与を下げることも不利益変更には該当しますし、以後の本人との信頼関係の構築が難しくなります。企業は手段を講じて従業員に活躍の機会を提供し、それでも難しかった場合に、パフォーマンスが出なかった事実を伝えながら、3カ月分の賃金補償などを含めて退職の合意形成を図る必要があります。こうした経験を持つ企業は、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックを実施し、採用リスクを回避してマッチする人材を見極めたいと考えます。

なお、契約社員など有期雇用契約だった場合は、契約期間満了に伴い退職いただくことも正社員よりは現実的です。だからといって初めから有期雇用を前提として採用活動をすると、正社員よりも条件面で魅力が下がるので、応募数が減って選考辞退が増えてしまう可能性があります。採用力は落としたくない反面、採用リスクを取りたくない場合、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックを実施する傾向があるようです。

リファレンスチェック・バックグラウンドチェック実施の注意点

リファレンスチェックやバックグラウンドチェックを実施する場合の注意点として、「内定前に実施する」ことをお勧めします。トントン拍子で選考が進んで、内定を出すのと同時に「念のため調べておこう」と調査を入れるのは、タイミングが遅いでしょう。

内定というのは、企業が応募者に対して内定通知を出し、採用の意思を確認した段階。ほぼ雇用契約が発生しているため、「解約権留保付雇用契約」と呼ばれています。「解約権留保」とは、入社までにやむを得ない事由が発生した場合は内定を取り消すことができることを指しますが、内定を取り消すのは困難が伴います。そのため、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックの実施は、内定を出す前に実施しておきましょう。

また、とても重要なことですが、個人情報保護法が適用されるので、調査には必ず応募者の同意が必要になります。個人情報取り扱いの同意を得たうえで、「リファレンスチェック(バックグラウンドチェック)をさせていただけますか」と切り出しましょう。選考中だけでなく、就業規則の「採用選考の方法」に、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックについて入れておくとベターです。

リスクを抑え、より確かな人を採用したい場合は?

これまでご説明した通り、リファレンスチェック・バックグラウンドチェックが増加している背景は、「採用リスクを抑えて、自社にマッチした人材を採用したい」という企業側のニーズによるものです。大手企業の場合は、募集ポジションにマッチしない人材を採用したとしても、資本に余裕があるためじっくりと育成することができますし、どうしてもマッチしない場合はジョブローテーションを行い、適職を見極めることも可能です。ただし小規模企業の場合は、育成の余裕がなかったり周囲に与える影響が大きかったりするため、マッチしない人材を採用した場合のリスクはとても大きくなります。

採用リスクをできるだけ抑えたい場合は、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックに加えて、採用時は有期雇用契約にして社員にステップアップするという方法があります。ただ、リスクを恐れるあまりに、採用力が落ちる上に従業員の満足度も高くない有期雇用契約に舵を切るよりは、採用方法自体を見直した方が本質的かもしれません。例えば、従業員などの人脈で採用する「リファラル採用」が代表的です。自社の既存従業員からのお墨付きがあるため、通常の採用手法よりも本音で語っていただける可能性が高くなります。推薦した従業員から直接評価を聞くこともできるので、選考材料の信ぴょう性が増すでしょう。

また、自社の退職者を再雇用する「アムルナイ採用」も適しています。自社での過去実績や人柄が分かるので、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックをすることなく、活躍可能性を判断することができます。確かな採用を行うために、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックは重要な手段のひとつですが、採用手法を分散し、調査だけに頼らない選考体制を構築することも重要です。

ライター:只野 志帆子

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