雇用類似形態(業務委託・フリーランス)を活用する際に注意したいことは?

近年増加している多様な働き方のひとつに、「フリーランス」があります。内閣官房が発表した資料*によると、2020年の調査時点で462~472万人、内閣府や厚生労働省が発表した資料でも341~347万人程度の規模があり、近年増加していると言われています。フリーランスのITエンジニアを企業に紹介する民間サービスも増加しており、スタートアップやベンチャー企業などを中心に、フリーランスを積極的に活用するケースが一般的になっています。では、これからフリーランスを業務委託として活用したい場合は、どのような点に注意すればいいのでしょうか。そこで今回は、寺島戦略社会保険労務士事務所代表の寺島有紀先生に、雇用類似形態(業務委託・フリーランス)の労務について、企業側が講じなければならないポイントについて解説いただきました。

*出典:内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」P25

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寺島 有紀(てらしま・ゆき)さん
寺島戦略社会保険労務士事務所 代表。社会保険労務士。一橋大学商学部卒業。新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。

「フリーランス」と「業務委託」の違いとは?

2016年10月から、法人・個人事業所のうち、被保険者の総数が常時500名を超える事業所で働くパート・アルバイトなどの短時間労働「フリーランス」の定義は、法などで明確に定められているわけではありません。「フリーランス実態調査結果」によると、内閣官房や内閣府、中小企業庁では、以下の条件に該当する労働者を、法人経営者も含めてフリーランスと定義しています。この中には、企業に所属しながら副業でフリーランスとして働く人も含まれています。

1.自身で事業などを営んでいる
2.従業員を雇用していない
3.実店舗を持たない
4.農林漁業従事者ではない

一方で、「業務委託」とは、フリーランスのような“ワークスタイル”ではなく、契約形態を指します。業務委託も法で定められた用語ではありませんが、民法では「請負契約」と「準委任契約」が定められており、この2つを総称して「業務委託契約」と呼ばれることが一般的です。

1.請負契約:請負側が仕事を完成することを約束し、発注者側がその仕事に対して報酬を支払うことを約束する契約形態です。例えば、仕事を依頼されたWebデザイナーが、成果物であるデザイン一式をクライアントに納品し、報酬を得るような業務が請負契約に該当します。

2.準委任契約:仕事の完成ではなく、一定の業務を行うことを約束する契約形態です。例えば、ITエンジニアがプロジェクトに参加して開発に従事するような業務は、準委任契約に該当することが多いです。

雇用契約と業務委託契約は、“指揮命令権”が大きく異なる

フリーランスを採用する場合、前述した業務委託契約(請負契約または準委任契約)を交わすケースが大半です。ただ、業務委託者は、正社員や契約社員とは異なり、社会保険・雇用保険などの加入の必要がなく、さらに労働基準法や最低賃金法なども適用されません。また、現在の日本の雇用環境では、通常雇い入れた労働者については、労働契約を解消すること、とりわけ解雇の要件は厳しくなっている一方で、業務委託者については労働者のような契約解消の厳しい規制などもありません。

そのため、業務委託契約を結んでフリーランスを活用しようとする企業が増加しています。業務内容や報酬、契約期間などの条件が、企業・フリーランス双方で合致しているのであれば問題ないように見えるのですが、ここで注意しておきたいのは、正社員や契約社員などの「雇用契約」と「業務委託契約」は、“指揮命令権”が大きく異なるということです。

指揮命令権とは、「仕事の進め方への命令権」を指すもので、正社員や契約社員などの雇用契約では企業に指揮命令権があり、仕事の進め方だけでなく、勤務地や勤務時間を指定できたり自社の就業ルールを守らせたりすることも可能です。一方で、業務委託契約は、成果物の完成や業務の遂行を約束して報酬を支払う契約であり、指揮命令権や勤務時間・労働時間の拘束は通常及びません。

業務委託契約に指揮命令権がないにも関わらず、業務委託契約を締結したフリーランスが従業員と変わらない働き方をしているのであれば、「偽装請負」に該当します。勤務実態は労働者と同等であるのにも関わらず、企業が雇用契約にはないメリットを享受するために業務委託契約で働かせていることを偽装請負と呼び、社会的に問題視されています。ただし、現場が業務委託契約を正しく理解しておらずに、結果的に偽装請負になっているケースもあるため、人事としては指揮命令権についての周知を徹底しておきたいところです。

偽装請負とみなされないための労務運用チェックポイント

雇用契約を結んでいる従業員と業務委託を区別する際の注意点として、「労働者性の有無」という論点があります。労働者性を判断する上で重要となるのは、拘束性や専属性、使用性や賃金性といったものです。以下のチェックポイントに沿って、順に確認していきましょう。

CHECK1:フルタイムで働くなど、専属性が高くないか? 

実質稼働予定時間が月に160時間あるなど、従業員と同じような拘束性のある稼働が生じていると、労働者性は高くなります。月に160時間だとフルタイム勤務と変わらないので、他の企業から業務を委託することが物理的に難しく、専属性が高まってしまうためです。

一方で、ベンチャー企業などで、「デザインを○日までに納品」「○日までにテスト完了、○日リリース予定」など、納期だけを明確にしてプロセスは個人に任せるといった、専属性が低い形で運用しているケースがあります。拘束性・専属性を緩めると、労働者性を下げることができるので、偽装請負としてみなされるリスクが少なくなります。

CHECK2:全社会議などの参加が義務づけられていないか?

拘束性や専属性といった観点から、全社会議など従業員が出席してしかるべき会議に、業務委託者も出席させることは適切ではありません。「情報共有の観点から、良かれと思って業務委託者にも出席を命じてしまった」という話をよく伺いますが、こうした事実によって従業員との線引きがあいまいとなり、結果的に拘束性や専属性が高まってしまいます。

CHECK3:会社がPC端末などの業務使用品を渡していないか?

企業と業務委託者はお互いが対等である必要があります。従業員に貸与しているPC を業務委託者にも貸与すると、専属性を高めることにつながってしまいます。PCに限らず、会議室などといった共用部分についても注意が必要です。

もちろん、「セキュリティ観点でPC端末を貸与したい」というケースもあります。「PC端末を貸与=偽装請負」という単純なことではなく、あくまで総合判断になります。拘束性や専属性など、トータルでバランスが取れるように設計しましょう。

CHECK4:時給制になっていないか?

従業員であれば時間に対して報酬が支払われることが多くなりますが、請負や委任であれば、成果物や処理した業務の内容に応じて報酬が支払われることが適切です。時給制だからといって即偽装請負になるわけではなく、エンジニア等の場合時給単価で契約するケースも多いですが、できる限り成果物に応じた報酬制とするほうが労働者性は弱まります。

最後に

雇用契約を結んで働く従業員と、業務委託契約を結んで働くフリーランスには、それぞれの特徴とメリットデメリットがあります。

雇用契約を結んでいる従業員に対しては、適切なマネジメントや評価を行うことで、企業の中核を成す人材として成長が期待できます。ただし、従業員の成長には一定の教育コストがかかり、期待通りの成果が出なかったとしても解雇することは難しいでしょう。一方で、フリーランスに対しては、あらかじめ経験・スキルを確認して契約するため教育コストがかからず、社会保険料の負担も必要ありません。短期的な成果を確実に見込むことができるのがフリーランスのメリットですが、あくまで契約の範囲内でのパフォーマンスです。中長期的な人事戦略としてフリーランスに頼りっぱなしというわけにはいかないでしょう。

雇用類似形態の労務の原則を理解していただいたうえで、最適なフリーランスの活用の在り方について検討していただければと思います。

ライター:只野 志帆子

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