社員のやる気を高める「エンプロイアビリティ支援型」人事制度とは?

企業を取り巻く事業環境が目まぐるしく変化している今、企業と社員との関係性も変わりつつあります。そんな中、働く個人の「エンプロイアビリティ=雇用を得る力」が注目されていますが、それに伴い、企業にも、個人のエンプロイアビリティをサポートする姿勢が求められています。エンプロイアビリティが注目されている理由、そして人事が着手すべき「エンプロイアビリティ支援型」の人事制度とは何か、多摩大学大学院経営情報学研究科の客員教授で組織行動論の専門家である須東朋広氏に伺いました。

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須東 朋広(すどう・ともひろ)さん
多摩大学大学院 経営情報学研究科 客員教授。一般社団法人才知修養学舎 代表理事、日経BP総合研究所客員研究員。人事部(CHO/CHRO)研究、ミクロ・ダイバーシティ研究・中高年キャリア研究などを行う。主な著書に『CHO~最高人事責任者が会社を変える』(東洋経済新報社)、『キャリア・チェンジ』(生産性出版)など。学会発表や人材関連雑誌などへの寄稿も多数。

なぜ今、エンプロイアビリティが注目されているのか?

これまで企業は、社員にある程度の長期雇用を保障する代わりに、組織への帰属を課してきました。実際、働く個人も自身のキャリアを会社任せにして、「言われたことをいかに正確に、効率よく行うか」に力を注いできた側面があります。

しかし現在は、終身雇用が崩れ、先行き不透明で予測しづらい「VUCA」の時代に突入しています。社会の成熟化が進み不確実性が高まる環境の下では、従来のようなかたちで企業と働く人との関係性を維持し、個人の雇用を保証するのは難しくなっています。

折しも、人生100年時代。健康寿命が延び、生涯にわたって長く働き続けたいと考える人が増えています。20歳ぐらいから80歳ぐらいまで、おおよそ60年近く働く人も増えると見られます。

一方で、企業の寿命は短命化。ある調査によると、現在の企業の平均寿命は約20年とも言われています。すなわち、一人のビジネスパーソンが一つの会社で生涯働き続けるのは難しく、単純計算で3~4回は働く場所が変わる可能性があると言えます。

そして企業寿命の短命化は、そこで働く個人にも大きな影響を及ぼします。企業寿命が短いということは、培った経験やスキルが通用する期間も短くなるということだからです。

したがって、働く個人は、これまで培ってきた経験やスキルにとらわれず、「新たな専門性」の獲得に柔軟に取り組むことが必要となります。領域にとらわれず異分野にも越境して専門性を身につけ、新たな自分にアップデートする。これが、自身のエンプロイアビリティを高めることにつながります。

専門職コースを設置し、個人のエンプロイアビリティを支援する

社員が専門性を身につけ、エンプロイアビリティを高めることは、企業にとっても大きなメリットです。業務における社員一人ひとりの能力が向上し、変化対応力も磨かれることで、企業の成長につながるからです。

そのためには、企業が社員をサポートする体制が必要。当事者意識や主体性を持ち、価値を創造する人材が活躍できるよう、内発的動機付けと成長支援を行う制度を構築するべきです。

お勧めしたいのは、社内に「専門職コース」を設置し、全社員が「生涯学ぶ」ことを常態化させること。専門職とはいわゆるスペシャリスト職ではなく、マネジメント以外のあらゆる職種のこと。職種ごとにコースを設け、その中で等級を決め、賃金テーブルを作るというイメージです。ジョブ型雇用の考え方を参考にしてもらえれば、わかりやすいかもしれません。

昨今、多くの企業ではマネジメント職コースのほかに専門職コースを設ける「複線型人事制度」を導入しています。本来はこの専門職コースが、社員の「専門スキルを身につければ評価されるし、目標に向かって頑張り続けられる」という動機づけにつながるはずなのですが、実際には、専門職というキャリアパスがあることは説明できても、そのキャリアでどのようにステップアップしていけるのか、具体的に明示できていない企業が非常に多いと感じます。そもそも、自社における管理職の定義はできているのに、「自社にとっての専門人材とは何か」が定義できていない企業は少なくありません。

まず行うべきは、「自社にとっての専門人材」を改めて定義することです。営業ならばこれ、エンジニアならばこれ、マーケティングならこれ…というように、ジョブごとに細かく定義しましょう。そして、市場価値や自社の企業戦略などに応じた報酬を設定し、専門職としての処遇の在り方とキャリアパス構築を行うことが重要です。

「自社にとっての専門人材」の考え方

「自社にとっての専門人材を定義する」というと、人事や経営陣による机上の議論になりがちですが、それでは実際に現場で専門性を発揮している人材の特徴とズレが生じる恐れがあるので注意が必要です。

お勧めしたいのは、いま活躍している専門職から話を聞くこと。例えば、会社の業績や生産性向上に大きく寄与している人、新しくイノベーションを起こしている人をピックアップしてベンチマークとし、各々に仕事内容、役割、仕事に対する姿勢などを詳しくヒアリングするのです。そうして集めた情報・データをファクトとして、自社に必要な専門人材を言語化し、専門性の発揮度や貢献度などに応じた等級を決め、それぞれのアセスメント(見立て・評価)や具体的な処遇を設計していきましょう。

こうやって定義した「自社にとっての専門人材」は、全社で共有することが大切です。「その定義に向かって頑張ろう」というモチベーションを刺激できるからです。社員一人ひとりに伝わるように丁寧に言語化し、インプットする機会を設けましょう。

現在多くの会社で、管理職コースから外れた中堅~シニア層のモチベーション向上が課題になっていますが、そういう社員のやる気も高めるきっかけになるはずです。

そしてマネジメント職には、定義の共有はもちろんのこと、エンプロイアビリティ支援のためのスキルや知識を学んでもらうことが重要。実際に現場でメンバーを評価するのは彼らです。各専門職コースにおける、自社にとっての専門人材の定義をインプットしたうえで、具体的な評価・処遇についても共有しましょう。

メンバーにプロジェクトやタスクをアサインするときには、「この仕事を通じて、こういうエンプロイアビリティが高まるからやってみないか」といった、具体的な声掛けをしてもらうこと。これによりメンバー本人のモチベーション、キャリアコミットメントを引き出すことができ、良質な経験をしてくれる可能性が高まります。

人事部門がこうした仕掛けを回していくことで、個人は学び続け、企業の価値は向上し続けることになり、企業にとっても個人にとってもプラス。企業と個人のWin Winの関係が築きやすくなり、イキイキと学び働く社員が増えていくと考えられます。

ライター:伊藤 理子

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