ヤフーの実例に学ぶ、異能人財とオープンイノベーションを起こす「ギグパートナー制度」とは

ヤフーは社会の新常態(ニューノーマル)を見据えたオープンイノベーション創出を目的に、2020年7月からギグパートナー(副業人材)の募集を開始。時間や場所の制約、組織や企業の垣根を越えた新たな働き方として注目されました。副業人材を受け入れることによって、どのような変革を起こすことができたのか。ギグパートナー制度導入の背景や狙い、具体的な取り組みとその成果について、ヤフーのコーポレートPD本部長 大森靖司さんに聞きました。

大森 靖司(おおもり・せいじ)さん
ヤフー株式会社 コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部 コーポレートPD本部長。2005年に人材紹介会社に入社。2010年よりインターネットサービス企業にて、100人から2000人規模までの採用活動を推進。2014年にヤフー株式会社に入社。ポテンシャル採用からキャリア採用までヤフーの全採用における母集団形成をリーダーとして主導。その後クリエイター向けの人事施策の企画運用、部門人事を経て、現在はヤフー全体の採用責任者を務める。

副業人材との協業で創出するオープンイノベーションに期待

——まず、ギグパートナー制度を導入したきっかけについて教えてください。

ギグパートナー制度を始めた理由は大きく2つあります。

まず1つは、社会的背景として、働き方の多様性、なかでも「副業」というスタイルに注目したことです。ヤフーは社員の経験値を広げるという意図から、もともと副業を認めています。

そこに2020年から始まったコロナ禍により、リモートワークやオンライン会議などが普及したことで場所や時間の制約が大きく減りました。結果、これまで一緒に仕事をする機会がなかった人たちとも、気軽にコラボレーションできるようになった。「であれば、他企業で働いている方にもヤフーで副業する選択肢を提供するのはどうだろう?」と考えたのが最初のきっかけです。

もう1つは、オープンイノベーションに期待していること。ヤフーは幅広く事業を展開していますが、まだ実績や専門的な知見が十分ではないために、着手できていない分野もあります。そのような領域に精通した社外の人材、つまりギグパートナーの方々と協業することで、オープンイノベーションを創出したいと考えました。

「ギグ(Gig)」とは、音楽シーンでよく使われる言葉で、小さなライブハウスなどで行われる一夜限りの演奏を指す言葉です。ギグパートナーという名称には、これまで交わる機会がなかった人たちと協業することで、新たなオープンイノベーションを創出したいという期待が込められています。

ギグパートナーの方々が持つ知識や経験に触れることで、社員が新たな可能性に気づく機会が生まれることでしょう。今後もギグパートナーと協奏することで、これまで以上に幅広い領域で事業展開していきたいと思っています。

——実際、多様な領域のさまざまな方々から多くの応募があったとお聞きしています。

初回の募集では約4,500人以上の応募があり、そのなかから「事業プランアドバイザー」91名、「戦略アドバイザー」10名、「テクノロジースペシャリスト」3名のギグパートナーの方々と業務を開始しました。

応募総数がこれだけの規模になった要因には、社会的にも副業への関心が高まっていることもあると思います。主な応募理由としては、「面白そう」「どのくらいヤフーでやっていけるか挑戦したい」「自分のこれまでの知見を還元したい」といった声が多かったですね。

ギグパートナーとして参画していただいた方々は、IT業界における著名人や現役の医師、メーカー勤務者、中国で活躍しているクリエイターなど職業もさまざまです。年齢も80歳のシニア層から現役高校生や10歳の小学生まで、幅広い年代層のギグパートナーと協奏することができました。

例えば、Googleでサービス開発に携わり、Rettyのイノベーションラボ ラボ長として活躍された樽石将人さん、Kaizen Platform CTOの渡辺拓也さん、社会起業家の田中美咲さん、匿名掲示板「2ちゃんねる」開設者ひろゆきさんなど、著名な方々にもギグパートナーを務めていただきました。

普段全く触れることのないナナメの意見を提供してくれる

──ギグパートナーとの協業を通して、どんな気づきやイノベーションが生まれましたか。

ヤフーの経営陣たちは、社内だけでなく、社外とも経営課題を日常的に話し合える“壁打ち相手”を常に求めています。そこで、当時COOだった小澤隆生(※現CEO)が管掌した事業プランアドバイザーは、「ヤフーのグループシナジーをさらに高めるための戦略やこれまでにない新しいメディアサービスの企画の立案を行うこと」をテーマにしました。

具体的な業務内容は、オンライン会議にて、コマース・メディア・金融事業の各領域についてのアドバイスをCOOに直言すること。このポジションには現役の高校生もいました。

たとえば、その高校生からは、「高校の指導要領が変わり、2022年度からは金融に関する教育が始まる。高校生が株式や債券、投資信託など、基本的な金融商品の特徴を学ぶようになる」という話があった。ヤフーの社員もそうした情報を漠然とは知っていても、やはり当事者の生の声を聞くと理解度・解像度が全然違う。

その高校生の方から「投資の基本について情報を得たいと考えている児童や生徒が多いのでは」という示唆をもらった。「だとしたら、ヤフーの子ども向けポータルサイトYahoo!きっずでこんなことができるかも!」。そういったアイデアや気づきにつながることもしばしばありましたね。

このように、必ずしも専門的あるいはビジネス的な知見でなくても、普段全く触れることのないナナメの意見を提供してくれることはありがたいと考えています。

ほかにも、eコマースやメディア事業に関するアドバイスや指摘など、手厳しくも貴重な意見を多数いただきました。結果、いただいた意見がサービスに実装されたり、いただいた意見をヒントに社内合意形成が進んだりと、大きな収穫がありました。

ギグパートナーは期間を限定した業務委託契約です。協奏できる時間が限られているからこそ、そのなかで成果を出そうとして、私たちの意欲にも自然にドライブがかかる。普段の社内の人間関係だけでは決して生まれない、新鮮な緊張感のなかで仕事ができる点もギグパートナーの効果だと思います。

ギグパートナーという新たな働き方の提案

──ギグパートナー制度をこれからどのように発展させていきたいと思いますか。

ギグパートナー制度はまだ始まったばかりです。この制度を利用した部署は、まだまだ少ないので、成功事例を積み重ねることで、より広く活用を促していきたいと思います。つい最近も年度単位の組織編成があったのですが、ギグパートナーを前提に編制を組んだ部署も複数あります。その点は、手応えを感じているところです。

現在は、職種や職位を問わないオープンポジションでエントリーいただき、その人に適した職種、ポジションの募集が開始されたタイミングで、応募情報を受けとるスタイルになっています。今後も新たな試みを加えていく予定です。

社会的な観点でもこれからは働き方がどんどん個別化し、まさに働き方のアップデートが起こりつつあります。ギグパートナーはいわば「大人のインターンシップ」。会社もパートナーもお互いを試すことができます。期間限定でお互いが続けたければ、フルコミットする。将来は社内にギグパートナーだけで編成されたバーチャルチームが生まれたりするかもしれないですね。

──それは面白そうですね。まさに働き方が変わりつつある、その最前線の話を聞くことができました。ありがとうございました。

※この記事は2022年10月時の取材に基づいて作成しています

ライター:馬場 美由紀
カメラマン:刑部 友康

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