退職する際には、労働者自身が「自己都合退職」で退職するか、「会社都合」で退職させられるかによって、失業保険の受給期間や金額が大きく異なります。この記事では、失業保険の手続き方法や受給資格について、特に「正当な理由がある自己都合退職」の場合にフォーカスしどのようなケースが該当するのかを解説していきます。


目次
失業保険がもらえる時期や金額は退職理由で変わる
会社を退職し就職しようとする意志や能力があるにもかかわらず、新しい就職先が決まっていない場合は、しばらくの間、収入が途絶えてしまうことになります。そのような退職後の生活に関する不安を和らげてくれるのが、失業保険(雇用保険)です。失業中の生活を心配しないで新しい仕事を探し、一日も早く再就職するために支給される失業保険ですが、雇用保険の被保険者だった期間や年齢などによってその給付日数が変わります。また、退職理由が「自己都合」もしくは「会社都合」なのかによって給付開始時期が変わるので、発行される離職票に記載されている「離職理由」の欄を事前に必ず確認してください。
では、会社都合と自己都合の退職理由によって失業保険の給付開始時期や金額がどの程度変わるのかを解説していきます。
自己都合で退職した場合
まずは、会社を自己都合で退職した場合の失業保険について解説します。失業保険は申請してすぐ支給されるのではなく、ハローワークで求職の申込を行い離職票を提出した日から、7日間の「待期期間」と2ヶ月間の「給付制限期限」、合計で2ヶ月と7日を経過してからでなければ支給されません(ただし過去5年間で2回以上、自己都合による離職をした場合などは「給付制限期限」は3ヶ月間になります)。また、給付日数は雇用保険の被保険者であった期間に応じて90~150日と幅があり、最大支給額は約125万円です。
会社都合で退職した場合
次に、会社都合で退職した場合の失業保険について解説します。まず、自己都合退職との大きな違いは、2ヶ月間の給付制限期間がなく、待期期間の7日間が経過すれば支給開始となることです。また、受給金額は年齢や雇用保険の被保険者であった期間に応じて最大約275万円、給付日数も90~330日と、自己都合退職よりも金額・日数共に保障が手厚くなっています。会社都合退職の場合は再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされているためです。
失業保険を申請する前にチェック! 離職票の「離職理由」
退職してしばらくすると「離職票」「給与所得の源泉徴収票」、退職金があれば「退職所得の源泉徴収票」という書類が会社から送られきます。特に会社都合で退職した方は、ハローワークで失業保険を申請する前に、離職票の「離職理由」の欄を必ず確認してください。この離職票に記載されている離職理由について自己都合であるか、会社都合であるかをハローワークが判断し、それによって、給付期間や金額に大きな違いが出てきます。もし会社都合であるにも関わらず、自己都合となっている場合は、問い合わせましょう。事業主が記載している離職理由に異議がある場合は、離職票の「離職者本人の判断」の欄に「異議あり」を記載すると、ハローワークが客観的資料等を確認し、離職者及び事業主に改めて離職理由を聴取するなどして最終的に判断します。


正当な理由のある自己都合退職は「特定理由離職者」に該当! 条件や給付日数は?
自己都合退職の場合は会社都合退職よりも失業保険の給付が遅くなりますし、給付日数も少なくなります。しかし、自己都合退職の理由が「正当」と見なされれば「特定理由離職者」として、給付制限期間がなくなり、通常よりも早く失業保険を受給できます。
退職理由が正当かどうかについて、ハローワークが離職者と雇い主の双方の主張や提出資料にもとづいて判断するのですが、「正当」と認定されるケースについても解説します。また、特定理由離職者と混同されやすい「特定受給資格者」との違いも解説しますので、これから失業保険を申請する方は、自分が該当するかどうかを確認して手続きの準備をするようにしてください。
受給資格の条件
特定理由離職者として認められるには、まず以下の条件を満たしている必要があります。
- 離職日以前の1年間に6ヶ月以上、雇用保険に加入している期間がある
- 離職後にハローワークに登録し、求人への応募や就職説明会への参加、資格試験の勉強といった就職するための努力をしている
上記を満たした上で、ハローワークが退職理由を正当だと判断した場合のみ、特定理由離職者として認められることになります。
自己都合退職者は雇用保険への加入期間が1年間以上(離職以前の2年間のうち)であることが受給条件ですが、特定理由離職者の場合は6ヶ月(離職以前 1 年間のうち)で受給の対象になることが大きな違いです。
所定給付日数
特定理由離職者の所定給付日数は、被保険者期間に応じて変動しますが、90~150日間です。なお、同じ特定理由離職者でも、契約の更新を希望したにもかかわらず雇い止めされて退職した場合の給付日数は、特定受給資格者と同様90~330日となります。
待期期間・給付制限期間
特定理由離職者には、7日間の待期期間が設けられていますが、通常の自己都合退職者のように給付制限期間はありません。そのため、離職後のかなり早いタイミングで失業保険を受給できることが大きな利点だと言えます。ただし、ハローワークから紹介された仕事を拒んだり、職業訓練を受けるように指示されたのを正当な理由なく拒否したりした場合などは、給付制限を受ける可能性がありますのでご注意ください。
「特定受給資格者」との違い
特定理由離職者と混同されやすいのが「特定受給資格者」です。特定受給資格者は、会社の倒産、解雇などにより再就職を準備する時間的余裕がないまま離職を余儀なくされた人をいいます。一方、特定理由離職者は、期間の定めのある労働契約の未更新や正当な理由がある自己都合での離職であるとハローワークに認定された場合に該当します。なお、特定受給資格者の場合は、給付制限期間がなく、待期期間の7日のみが設けられています。


正当な理由のある自己都合退職とは? 3つの具体例
正当な理由のある自己都合退職と認められれば、前述の通り、給付制限期間が免除されます。では、そもそも「正当な理由のある自己都合退職」とはどのようなケースを指すのでしょうか。ここでは、 3つの具体例を紹介しますので、該当する場合は「正当な理由のある自己都合退職」として認定される可能性があるのかをハローワークに相談してみましょう。
体力不足や病気・ケガなどで働けなくなった
労働者本人の体力不足や、病気・ケガなど健康上の理由により勤務の継続が困難になった場合には「正当な理由のある自己都合退職」として認められるケースがあります。ただし、病気やケガが原因でも必ず「正当な理由」として認められるとは限りません。上記のような身体的条件のため、労働者が就いている業務を続けることが不可能又は困難となり、それにともなって事業主から新たに就くべきことを命ぜられた業務を遂行することが不可能又は困難であるとして離職した場合が該当します。この離職理由を確認できる資料として医師の診断書などが必要となります。ただし、病気やけがのためすぐには就職できない場合はそもそも失業保険を受けることができません。失業保険を受給できる期間は原則として離職日の翌日から1年間ですが、受給期間の延長申請をすることで本来の受給期間1年に働けない日数を加えた期間を延長することができます。ただし加えることができる期間は最大3年間です。
妊娠や介護など家庭事情が急激に変わった
妊娠や介護によって家庭事情が急変したことによる自主退職も、正当な理由として認められるケースがあります。ただし、妊娠、出産、育児を理由としてすぐに職業に就くことができない場合は、失業保険の受給はできないという規定があることを前提として覚えておきましょう。失業保険の受給には就職の意思だけでなく、就職できる健康状態や環境があるにもかかわらず就職できない状態であることが必要とされているからです。
1つめの事例と同様、職業に就くことができる状態になった後に受給手続きができるよう、受給期間の延長申請の制度があります。この受給期間の延長事由に該当し、延長措置の決定を受けた場合は特定理由離職者に該当します。また、病気や負傷などが理由で親の介護に専念するために離職を余儀なくされた場合も正当な自己都合退職と認められる場合があります。
その他の事情で通勤するのが困難になった
他にも、一定の事情で通勤が困難になった場合についても、正当な理由のある自主都合退職として認められる可能性があります。例えば、結婚して夫の勤務地へ同行することになり通勤が不可能または困難になったことにより勤務の継続が客観的に不可能となり離職した場合や、公共交通機関が通っていないような通勤困難な場所へ事務所が移転した場合などです。「通勤困難」(通常の方法により通勤するための往復所要時間が概ね4時間以上である時等)により離職した場合の認定はケースバイケースなので、ハローワークに相談しましょう。
パワハラが原因で退職する場合も自己都合退職になる?
上司や同僚からのパワハラが原因で退職する場合、正当な理由での自己都合退職に該当するのでしょうか。パワハラが自己都合退職と会社都合退職のどちらになるのか、また、自己都合退職を強要された場合に失業保険の扱いがどうなるかについて解説します。
パワハラが認められた場合は会社都合となる
結論から述べると、退職理由がパワハラだと認められる場合には、原則として、会社都合退職となるように会社側に要求することができます。そこで問題となるのが「何をもってパワハラと見なすか」というパワハラの定義です。例えば、以下のケースはパワハラの定義に当てはまる可能性が高いです。
- 上司や同僚から嫌がらせを受けたり、差別的な言動を浴びせられたりした
- 仕事の量やノルマが過剰で、過労状態が続いている
- 仕事の量が過剰に少なく仕事を与えられていない、トイレ掃除等これまでの業務に関係ない雑務のみをさせられている
- 過剰な監視や行動チェック、プライバシーの侵害がある
- 長時間勤務や残業代のつかない残業が強制されていた
- 業務上必要なミーティングに呼ばれない等職場で孤立させられている
- 過去にパワハラが発覚したにも関わらず、その後も適切な改善策がなされない
上記は一例ですが、このようなパワハラの定義に当てはまれば、雇用主側の責任となることから会社都合退職となる余地があります。会社からパワハラを受けている方は心身とも弱っていますし、会社と揉めたくないので自己都合退職を選ぶ方もいます。しかし、会社側に非があって退職に追い込まれたのであれば、泣き寝入りをせずにパワハラがあった事実を立証して会社都合での退職へと変更できるように動くことも可能です。(実際の認定にはパワハラの証拠等の提出を求められ、必ず会社都合となるわけではありません)
自己都合退職を強制された場合は?
会社によっては社会的なイメージが低下するのを恐れて、実態が会社都合退職であるにもかかわらず自己都合退職をするように要求してくることがあります。もしも会社から自己都合退職を促され離職票も自己都合となっている場合、事業主が記載している離職理由に異議があるとして、離職票の「離職者本人の判断」欄にはその旨を記載しハローワークに提出しましょう。
自己都合退職でも特定理由離職者として失業保険を受けられる
万一、自己都合退職のかたちをとってしまい、異議がある旨をハローワークに申し立てた場合、ハローワーク側で調査が行われることになりますが、もしもその結果会社都合退職とまでは認定されなかったとしても、「正当な理由のある自己都合退職」と見なされて、特定理由離職者の条件で失業保険を受給できる可能性があります。
そのためにも、退職前にパワハラがあったことを証明できる資料を集めておくことが大切です。例えば、上司からのサービス残業を要求するメールや残業の証拠となるタイムカードや上司から浴びせられた暴言の録音はできる限り残しておいてください。また、心身に障害を負ったり暴行により負傷したりした際の医療診断書なども保管しておくようにしましょう。こうした証拠は、未払い残業代や給料、損害賠償・慰謝料の請求や労災申請をする際にも有利になります。


失業保険の受給方法は? 必要なものと手続きの流れ
ここでは、正当な理由のある自己都合退職の場合での失業保険の受給方法について、必要なものや手続きの流れを解説します。
ただし、正当な理由のある自己都合退職の場合であっても、通常の失業保険の受給手続きに大きな違いはありません。
失業保険の手続きで必要なもの
まず失業保険の手続きで必要なものを紹介します。自分で揃えるものもあれば、会社から送られてくるものもあります。ハローワークで申請を行う前に、以下のものを準備し、確認してください。
- 離職票-1
- 離職票-2
- 個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票の写し(住民票記載事項証明書)のいずれか)
- 本人名義の預金通帳又はキャッシュカード
- 写真2枚(縦3センチ×横2.5センチ)*受給手続き及び今後行う支給申請ごとにマイナンバーカードを提示することで省略が可能です
- 身元確認書類(マイナンバーカードや運転免許証、パスポートなど)
本人確認書類や預金通帳は自分で用意するものですが、一方で会社から受け取ることになるのが離職票です。特にハローワークでの手続きでも必要となる離職票については、会社が従業員の退職から10日以内に雇用保険被保険者資格喪失届をハローワークに提出したのち、ハローワークが離職票を発行し会社経由で本人に交付するように定められています。。従業員から離職票の交付を希望された場合、発行するのは会社の義務であり、万が一離職票を発行してくれなかったり、請求を無視されたりするのであれば、ハローワークに相談してください。また先にも述べましたが、離職票の「離職理由」の欄についても必ず確認してください。
失業保険を受給する際の手続きの流れ
ここでは、実際に失業保険を受給するまでの流れを解説します。事前に把握しておき、申請から失業手当の受給までをスムーズに進められるようにしましょう。
1. ハローワークで手続きをする
失業保険を受給するためには、まずハローワークで求職の申し込みをし、受給手続きをする必要があります。自身の住所を管轄するハローワークへ行き、現地で渡される求職票に氏名・住所・職歴などの基本情報を記入して提出すれば、求職の申し込みは完了です。なお、受給資格者として認定されるには「働く意思と能力、環境がある」「求職活動をしている」ことが前提となるので、留学や半年以上の長期旅行の予定があるなど、すぐに就職する意思がない方は対象となりません。
2. 雇用保険受給説明会に参加して失業認定を受ける
求職の申込と受給手続きを行ったら、雇用保険受給説明会で失業保険に関する説明を受けます。指定日時にハローワークに行き、説明会場で雇用保険受給資格者証や失業認定申請書を受け取り、失業認定の初回手続きを行ってください。終了すると、失業者として認定されます。
3. 4週間ごとに失業認定を受ける
受給資格の決定を受けた日から失業の状態が通算して7日間経過するまでを「待期期間」といい、この間は基本手当は支給されません。さらに自己都合で離職した場合は待機満了の翌日からさらに原則2ヶ月間は「給付制限期間」として基本手当は支給されません。正当な理由のある自己都合退職の場合、前述の通り、給付制限期間がなく失業保険の基本手当が受け取れます。ただし、基本手当が支給された後も、失業認定日から給付期間満了まで、4週間ごとに失業認定(失業状態にあることの確認)を受けることが必要です。失業認定に関しては、指定を受けた日時にハローワークに行き、毎回就職活動の状況を書類に記入し提出することになります。なお、就職活動の状況報告のために以下の情報を入力する必要があります。
- 説明会や選考に参加した企業名
- 企業の住所や電話番号
- 選考の状況(内定・結果待ち・面接など)
もし失業保険の受給期間中に正社員などの安定した職に就いた場合、失業保険の給付は終了します。
自己都合退職する際は正当な理由に該当するかを確認しよう
通常であれば自己都合退職時には給付制限期間が設けられていて失業保険を受け取るまでに時間がかかりますが、正当な理由があれば給付制限なしで受け取れる可能性があります。この記事で紹介した事例を参考にして、該当するかどうかを確認してください。
もし、ご自身がケースに該当するか不安があるようであれば、キャリアアドバイザーに相談するのも1つの手です。おすすめは、オファー型転職サイトのPaceBoxです。プロフィールを入力すると企業からオファーが届くサービスなのですが、キャリア面談では求人紹介が行われないため、集中して転職相談ができます。
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この記事の監修者
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士。1987年生まれ、一橋大学商学部卒業。ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行なっている。
