結婚相手である配偶者に対しては、法律上さまざまな義務が生じます。配偶者に経済力がない場合に生じる扶養義務もそのうちの一つです。
履歴書にも配偶者の扶養に関して記載する項目があるので、転職活動の際に「どう書けば良いのだろう」と悩んだことがある人もいるのではないでしょうか。今回は、配偶者に対する扶養義務や履歴書にある扶養家族欄の書き方について解説します。


目次
配偶者の扶養義務とは
結婚にあたっては、市町村役場への婚姻届の提出が必要です。届け出が受理された時点で、配偶者に対する扶養義務が発生します。配偶者の扶養義務とは何かを正確に理解するため、まずは「配偶者」や「扶養義務」とはどういうものか、法的な定義を知っておきましょう。
配偶者の意味
配偶者とは、婚姻関係を結んでいる相手のことです。簡単にいえば、婚姻届を出して結婚した相手のことを指します。つまり、夫からみて妻が、妻からみて夫が配偶者です。なかには、婚姻届を出さずに事実婚や内縁関係を続けているカップルもいるでしょう。そのようなケースでは、民法上は互いを配偶者とすることはできません。
ただし、社会保険制度では、事実上の婚姻関係を証明できれば配偶者として扱うケースもみられます。例えば、健康保険では事実婚や内縁関係にある相手も配偶者として扱っており、戸籍謄本上の関係は問いません。
民法では、夫婦になると、配偶者に対して特別な権利義務関係が生じると定めています。特別な権利義務とは、例えば同居・協力・扶助の義務や婚姻費用の分担義務、日常家事による債務の連帯責任などが挙げられるでしょう。
日常家事による債務の連帯責任とは「日常生活を送るために日用品を購入したり光熱費や教育費がかかったりしたときは、夫婦ともに支払義務を負う」という意味です。
また、夫婦のいずれかが亡くなったとき、配偶者は必ず遺産の相続人になります。子どもがいる場合は、遺産の半分が配偶者のものとなり、残り半分を子どもたちで分け合う形です。子どもがいない場合は、配偶者は遺産の3分の2を受け取り、亡くなった人の父母や祖父母が相続人となって残り3分の1を分け合います。被相続人の父母や祖父母がいない場合は兄弟姉妹が相続人になり、配偶者の相続割合は4分の3です。


扶養義務の意味
夫婦は、配偶者が同じ水準で生活できるよう協力、扶助する義務があります。収入がなく自分だけでは生活できない配偶者に対しては、経済面で援助しなければなりません。これを、配偶者の扶養義務といいます。
なお、扶養家族の定義は民法上と税法上で異なるため注意が必要です。健康保険も独自の定義を採用しています。ここでは、それぞれのケースをみていきましょう。
民法上の扶養義務
民法では、第七百五十二条において「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めています。これは夫婦の相互協力扶助義務の一環で、配偶者に対して扶養義務があるということです。
扶養義務には、「生活保持義務」と「生活扶助義務」の2種類があります。それぞれ分けて理解しましょう。
生活保持義務とは、例えば夫が妻を扶養する場合、妻にも夫と同じ水準の生活が送れるようにする義務を指します。生活保持義務は、配偶者だけでなく未成年の子どもも対象です。子どもも自分と同じ水準の生活が送れるように、環境を整える必要があります。
また、何らかの事情で夫婦が別居していても、配偶者に対する扶養義務は消えません。資力の多い側は、生活費を振り込むなどして別居している配偶者を経済的に助ける義務があります。
生活扶助義務は、配偶者に対してではなく、自分の兄弟姉妹や成人した子どもに対して負う扶養義務のことです。扶養する義務を負う人は、自分の生活が通常どおりに送れることを前提として、余力の範囲で援助すれば構いません。
なお、民法では婚姻届が受理されない限り、どれだけ夫婦として生活している実態があっても配偶者とは認められません。事実婚や内縁関係の場合、どちらにも配偶者に対する扶養義務は発生していない状態です。
税法上の扶養義務
税法上の扶養とは、配偶者や16歳以上の子どもの収入が基準以下の場合に、納税者の所得から一定額が控除できることを意味します。所得税や住民税の金額は、一年間の収入から基礎控除や社会保険料控除などを差し引いて算出した「所得」の金額によって決まります。
控除される金額が多いほど所得金額も少なくなり、税金も少なくて済むのです。収入が一定以下の配偶者を持つ納税者には配偶者控除が適用され、所得税を計算する場合は38万円、住民税を計算する場合は33万円の控除が受けられます。
配偶者控除の対象となるのは、以下の条件を満たす人です。
・民法の規定による配偶者であること。事実婚や内縁関係の場合は認められない
・納税者と生計を一にしていること
・年間の総所得金額(収入ではない)が48万円以下であること(2019年以前は38万円以下)※
・青色申告の事業専従者として一度も給与を受け取っていないこと、または白色申告の事業専従者ではないこと
※配偶者の収入が給与のみの場合、1年間の総収入が103万円以下の場合に該当します。給与所得控除として55万円が引かれるため、給与が103万円以下なら所得が必ず48万円以下になります。
なお、収入が一定額以下の16歳以上の子どもがいる場合は、扶養控除が適用されます。配偶者は配偶者控除が適用されるため扶養控除の対象となる扶養親族としては数えられませんが、扶養対象であることに変わりありません。
健康保険上の扶養義務
健康保険上の扶養とは、扶養される人の健康保険料が免除されることです。もちろん、健康保険は普通に使用できます。
健康保険では、加入している本人を「被保険者」、扶養対象の家族を「被扶養者」といいます。配偶者も被扶養者です。一般に、以下のいずれかの要件に当てはまると被扶養者に該当します。
1.被保険者に生計を維持されている、被保険者の直系尊属(父母や曾祖母など自分より上の世代で直通する系統の親族のこと)・配偶者・子どもや孫、兄弟姉妹。配偶者には事実上婚姻関係にある人も含める
2.同一世帯で被保険者と生計を一にする被保険者の三親等以内の親族(曾祖父母や曾孫、おじやおば、甥や姪)、事実上婚姻関係にある人の父母や子、事実上の婚姻関係にある相手が亡くなったあとの父母や子
なお、上記に当てはまっても75歳以上の人は被扶養者にはなりません。あとに詳しく説明しますが、75歳を過ぎると自動的に後期高齢者医療制度の被保険者になるためです。
また、被保険者と同一世帯の場合、被扶養者は年間収入が130万円未満かつ被保険者の年収の2分の1未満でなければ対象になりません。年間収入が130万円を超えると、被扶養者から外れます。なお、履歴書にある扶養家族欄は、健康保険の要件に準じて記載することが一般的です。


扶養家族欄の書き方:配偶者の有無・扶養家族の人数
履歴書の扶養家族欄はどう書けば良いのか、悩んでいる人もいるでしょう。通常、配偶者の年収が130万円未満で自分の収入の2分の1に満たないときは、扶養義務があると考えられます。
当てはまる場合は、扶養家族欄の「有」に〇をつけます。この段落では、配偶者の有無や扶養家族の人数なども含め、扶養家族欄の書き方について解説します。
独身の場合
独身の場合、結婚していないので配偶者はいません。当然「無」を選びます。配偶者の扶養義務も同様です。扶養家族については、生活費を負担している家族がいればその数を記入し、いなければ0人と記入します。
生活費の負担は、同居・別居を問いません。例えば、父親が亡くなり、同居している75歳未満の母親の生活費を出している場合の扶養家族は1人です。また、1人暮らしをしている学生の弟や妹に生活費を仕送りしている場合も、扶養家族は1人と数えます。
75歳以上の高齢者は、生活費を出していても扶養家族として数えません。
結婚していて配偶者が働いていない場合
結婚していて、相手が専業主婦・専業主夫の場合、配偶者の欄も配偶者の扶養義務も「有」にします。なお、一般的な履歴書では扶養家族欄には「配偶者を除く」との但し書きがあるものです。
扶養家族の数に配偶者をカウントしないように気を付けましょう。夫が扶養者で妻が専業主婦、子どもはすでに成人して年収130万円以上を得ている家族の場合は、扶養家族は「0人」です。
また、夫が扶養者、妻が専業主婦、子ども2人が小学生の場合は、扶養家族欄には「2人」と書きます。
結婚していて配偶者も働いている場合
結婚していて配偶者が働いているなら、配偶者は「有」です。扶養義務に関しては、配偶者の収入によって「無」になる場合と「有」になる場合とがあります。
夫婦がともに正社員もしくはアルバイト・パートとして働き、どちらにも年収が130万円以上あれば、配偶者に対する扶養義務はありません。「無」に〇をつけます。
夫が正社員で、妻が年収130万円に満たないアルバイトやパートであれば、配偶者の扶養義務は「有」です。夫も妻も年収130万円以上、収入のない子どもが2人いる家庭では、夫は履歴書に配偶者「有」、配偶者の扶養義務「無」、扶養家族「2人」と書きます。


3.履歴書の扶養家族欄を書くときの注意点
家族の在り方が多様化したことで、履歴書の扶養家族欄の書き方に悩む人が増えています。履歴書は志望企業に提出する大切な応募書類です。書き方を誤ると不用意な人だと思われるなどイメージが悪くなり、選考で不利になるケースも考えられます。
そのため、正確に書くことが欠かせません。ここでは、履歴書の扶養家族欄の記入にあたって知っておきたい注意点について解説します。
事実婚や内縁関係の配偶者も認められる
民法では、婚姻届を提出していない相手を配偶者とは認めません。一方、社会保険制度では実際の生活を重視するため、事実婚や内縁関係にあっても配偶者として扱われます。履歴書の扶養家族欄は健康保険の要件に準じて記載することが一般的なため、内縁関係を続けている相手がいる場合は配偶者を「有」にしても問題はありません。
ただし、事実婚や内縁関係にあると証明する書類などの提出が必要です。また、健康保険では被扶養者になれたとしても、志望企業が設ける家族手当などの支給対象にはなれないこともあります。気になる場合は先方に確認しましょう。
共働きの場合は子どもを扶養家族に含めるのは夫婦のどちらかだけ
夫婦が共働きでそれぞれ年収が130万円以上あり、収入のない子どもがいるとしましょう。この場合、子どもは原則として年収が多いほうの扶養家族にします。
子どもが夫の扶養家族になっている場合は、妻の扶養に入れることはできません。収入のない子どもが複数いる場合も、全員夫婦どちらかの扶養に入れましょう。
後期高齢者(75歳以上)は扶養家族に含めない
両親の生活を養っているとしても、75歳以上であれば扶養家族には含めません。これは、75歳になると後期高齢者医療制度に加入する義務があるからです。75歳の誕生日を迎えた時点で自動的にそれまで加入していた保険制度から脱退し、後期高齢者医療制度に移行します。
後期高齢者医療制度に加入すると健康保険の扶養対象外となるため、扶養家族としてカウントしません。履歴書の扶養家族欄を書く際に間違いやすいポイントのため、十分に注意しましょう。


履歴書に扶養家族欄がある理由
標準的な履歴書の様式では、配偶者の有無や扶養義務、扶養家族の人数を記入する欄があります。職務に関係のない配偶者や扶養家族の情報をどうして書かなければならないのか、不審に思う人もいるでしょう。
志望企業がこれらの情報を知ろうとするのには理由があります。ここでは、履歴書に配偶者や扶養家族欄がある理由について解説します。
福利厚生の対象者を確認するため
会社は、採用した社員を社会保険に加入させ、保険料を負担する義務があります。社会保険には健康保険や介護保険、厚生年金保険などがあり、法定福利厚生の一環です。
また、住宅手当や家族手当などの法定外福利厚生を設けている企業も少なくありません。企業が社員の配偶者や扶養家族について知ろうとするのは、これらの福利厚生の手続きをする際に必要な情報であるためです。
履歴書に書くだけでなく、入社後には健康保険に加入するために「健康保険被扶養者(異動)届」の提出が求められます。家族手当がある会社では、誤って書くともらえなくなるかもしれません。十分に注意し、正確に記載するようにしましょう。
所得税を計算するため
企業は、従業員の毎月の給与から所得税を天引きして徴収し、納付する義務を負います。配偶者の有無や扶養家族の人数を問う理由の一つは、配偶者控除・配偶者特別控除や扶養控除の対象者がいるかどうかを採用時に知っておきたいためです。
もし、履歴書に記載した配偶者の扶養義務や扶養家族の人数などの情報が誤っていれば、企業に対して迷惑をかけることになりかねません。最悪の場合、虚偽の記載をしたとして内定が取り消しになったり懲戒処分を受けたりする可能性もあります。扶養家族欄を含む履歴書の各欄は、正確に記載するようにしましょう。
扶養家族欄の記載内容は選考に影響する?
履歴書に扶養家族欄があるのは、所得税や健康保険、手当支給関連で確認が必要なためです。内容が選考に影響することは基本的にないでしょう。
家族の状況が勤務時間や業務に過度に影響する場合はマイナス評価になる可能性もありますが、誠実に事情を説明すれば柔軟に対応してくれるでしょう。虚偽記載は大きなトラブルのもとです。扶養家族欄を含め、履歴書の各欄は正確に記載するようにしましょう。
