今後のことを十分に考えて退職を決断すると、次のステップに向けて早く動き出したいと考えるでしょう。
しかし、自分のことばかり考えてあわてて退職届を出すと円満退職が難しくなります。この記事では、退職するまでに必要な手続きや流れ、円満に退職するためのポイントなどについてわかりやすく解説します。退職届を出すタイミングや手続きの方法などに悩んでいる人は参考にしてください。


目次
円満退職を目指すべき?
退職を決意したからといって、タイミングも考えずにすぐに退職届出すことは、社会人として、マナーに反するととらえられてしまう可能性もあります。きちんとしたステップを踏まず、最終的にわだかまりを残したまま退職した場合、会社にとっても辞める本人にとってもすっきりしない思いが残ってしまうでしょう。まず、従業員が退職すると、会社はあらたに人員を配置したり、退職者が担当していた業務を別の人に割り振ったりしなければなりません。退職の話が出てから実際に辞めるまでの期間が短すぎると、人員配置や業務の割り振りなどが間に合わず、会社の業務に支障が出る恐れもあります。
また、退職者にとっては、早く辞めようと退職日直前に退職届を出したことにより、現場が混乱し、結局会社から「どうにか退職日を遅らせてほしい…」といった要望が出ることもあります。
結果、思ったように退職がスムーズにいかないという可能性もあります。また、最近では採用予定者の人柄や仕事への姿勢などを確認するために「リファレンスチェック」を採用プロセスに組み込んでいる企業も多く、転職者の同意を得て、以前の会社の同僚や上司等に以前の仕事の状況等をヒアリングするというようなことがあります。この結果業界内で悪いうわさが広がり評判が落ちれば、転職後の仕事にも影響がある可能性があります。
円満退職できずに退職後に転職活動を始める場合には、応募先の企業から敬遠される恐れもあるので注意しましょう。
円満に退職するコツ
仕事はどこにつながりがあるかわかりません。退職しても、前職の上司や同僚が大事な人脈となる可能性もあります。退職すれば縁も切れるからと先のことも考えずに自分本位の言動をとることは、すぐに共通の友人・知人とつながれるこの現代社会においては特に避けたほうが無難といえます。やはり、できる限り円満退職を目指すことが大切です。
円満に退職したい場合に押さえておきたいコツは3つあります。1つ目は、退職するタイミングを見計らうことです。自分の事情だけで退職する日を決めるのではなく、繁忙日は避けるなど、できる限り会社に負担をかけないタイミングを考えて退職の相談をしたほうが円満退職につながりやすいでしょう。
2つ目は、退職の話を最初にする相手は直属の上司にすることです。退職を決めると、まず身近な同僚などに話したくなるものですが、話した同僚から社内にうわさが広がる可能性もあります。また、本人から直接相談を受ける前にうわさから退職の話を耳にすると不快に感じる上司も少なくないでしょうから、相談する相手というのは気を付けたほうがよいでしょう。
3つ目は、ネガティブな内容を退職理由にしないことです。実際には会社への不満が理由で退職する場合でも、今後もその会社で働き続ける同僚や上司など、会社側の心情や立場も考えて角の立たない理由を伝えるようにしたほうが、円満退職にはつながりやすいでしょう。


退職までのスケジュール
マナーを守った一般的な流れで手続きを進めることが円満退職につながります。そこで、ここでは、円満に退職するために押さえておきたい退職までのスケジュールを、順を追って具体的に解説します。
手順1.就業規則を確認する
退職を決意したら最初に行うことは、労働条件や職務上のルールが記載されている「就業規則」の確認です。就業規則は従業員が守るべき規則をまとめたもので、多くの会社では退職に関するルールも就業規則のなかに定めています。会社が定めたルールをしっかり守って円満に退職したいのであれば、必ず確認しておくべきものです。たとえば、法律的には、退職希望日の2週間前までに申し出れば退職できることになっています。しかし、実際には、退職の申告時期を1カ月前までと就業規則で規定しルール化している会社は少なくありません。新たな人員の配置や退職者が担っていた業務の引継ぎなどをしっかり行うためには1カ月程度の期間が必要となるケースが多いからです。
会社の大事なルールである就業規則を守らない退職の申し出は、それがたとえ法律上は許されているものであっても、円満退職をすることが難しくなる可能性が高いため、できる限り、就業規則に反する退職の申し出は円満退職を目指すのであればしないほうがよいでしょう。
手順2.上司に退職したい旨を伝える
就業規則を確認したら、次は、退職の意思と希望する退職日を上司に伝えましょう。このときに相談する相手は、直属の上司としたほうが良いでしょう。相談しやすいからと、直属の上司ではないほかの管理職に相談することは、直属の上司となにトラブルがあったのか?というような誤解も生みかねません。また、「相談は上司と二人きりの環境で行う」「最初の相談のときにいきなり退職届を出さない」という2つのポイントを押さえて相談することも大切です。なお会社のルールで、退職の意思を伝える際には退職願を持ってきてほしいといったことを就業規則で定めている場合もあります。この場合には、退職願を提出するタイミングなども上司に相談するとよいでしょう。
◆退職願と退職届の違い
退職願:退職願とは、退職(労働契約の解除)を会社に願い出るための書類のことです。
退職届:退職届とは、退職することが確定したのち、退職を会社に対して届け出るための書類のことです。
民法第において、労働者は一方的な意思表示によって会社には労働契約の解約の申し入れができるとされており、意思表示から2週間経過すると労働契約が解除できます。退職「届」はまさにその一方的な意思表示を示す書類です。
一方で、退職「願」は、あくまでも退職を「願う」ことを伝える書類ですので、会社と協議する余地を残す書類になります。
ちなみに、相談するタイミングは、退職希望日の2~3カ月前くらいが目安になるでしょう。退職の申し出をした際には必ずしもスムーズに受け入れてもらえるとは限りません。退職の意思を率直に伝えても引き留められるケースは多いため、納得してもらいやすい退職理由を用意し、意思を強くもって相談に臨むことが重要です。


手順3.退職届を提出する
上司からも退職の理解を得て会社に退職を受け入れてもらったら、退職日を決めて退職届を提出します。退職届の提出は、退職日から2週間~1カ月前までが目安です。就業規則にルールが定められていればそれに従い、特に決まりがなければ法律上の期限である2週間前までに提出します。提出する退職届の用紙も会社に決まりがあればそれに従い用意しましょう。所定の用紙があるかどうかは会社によって異なるため、退職が決まったら確認しておくと安心です。特に退職届の用紙について決まりがない場合には、自分で用意することになります。
退職届に記載する事項としては、①退職日②退職理由③届出年月日④所属部署・氏名・押印
これらについて漏れがないようにしましょう。
退職理由は、自己都合による退職の場合、具体的な理由を書く必要はなく、「一身上の都合により」と記載して問題ありません。
手順4.担当業務の引継ぎを行う
退職届が受理されたら、後任者にしっかり引継ぎを行わなければなりません。引継ぎは、法律上は義務ではありませんが、就業規則上にルールが記載されていることも多く、円満退職を目指すのであれば行うべき事項です。引継ぎをしないと残された人がどのように業務を処理すればよいかわからず困ってしまったり、仕事が滞ることで会社に損失を与えたりする恐れもあります。就業規則に引継ぎを義務とする規定が定められているにもかかわらず、引継ぎを行わずに退職した場合、状況によっては約束した義務を果たさない債務不履行として損害賠償請求の対象となる可能性もあるので注意が必要です。
引継ぎは、まず、自分が担当している業務をすべて書き出すことから始めます。書き出した業務に漏れがあると、引継ぎをし忘れる恐れもあるため気を付けましょう。次に、各業務に対してマニュアルなどを作成し、自分の仕事を受け継いでくれる後任者に業務の詳細な情報を引継ぎます。引継ぎにかかる時間は人によってさまざまです。自分の業務の量や内容から引継ぎにどれくらいの時間を要するかを計算し、退職予定日から引継ぎに必要となる時間を逆算して計画的に引継ぎを進めましょう。
手順5.退職当日に最後の挨拶と片付けを行う
円満に退職するためには、最終出社日となる退職日当日まで周囲への気遣いがあったほうが良いでしょう。退職日当日に、これまでお世話になった上司や同僚、取引先、そのほか関係者に最後の挨拶を行います。挨拶の際には忙しい時間を避けたほうが良いでしょう。挨拶は、電話やメール、直接出向くなど、相手に応じて方法を選びます。
また、退職当日には自分の持ち物の整理をすべて終えておかなければなりません。ロッカーやデスクなどに私物を残さないように、すべて片付けておきましょう。退職日当日だけではすべて片付かないと思ったら、数日前から計画的に整理しておかなければなりません。
退職時に会社に返却するもの・受け取るもの
退職時に行う片付けでは、会社に返却するものと自分で持ち帰るものを正しく分別する必要があります。パソコンや文房具などの会社の備品は会社の持ち物であるため、退職までに一つ残らずしっかり返却しなければなりません。就業規則でも返却物のルールを決めている場合も多いため就業規則を確認して返却に漏れがないようにしましょう。
さらに、経費で購入した書籍や貸与されていた携帯電話、制服などがあれば返却が必要です。物品だけではなく、業務上入手した情報も返却対象となります。たとえば、顧客情報や内部情報を持ち出してはなりません。そのほか、健康保険証や社員証なども会社の規則どおりに返却しましょう。
一方、会社から忘れずに受け取り、自分で持ち帰らなければならないものもあります。会社に預けている年金手帳や雇用保険被保険者証があれば会社から返却してもらいましょう。また、源泉徴収票や離職票なども退職時に受け取る必要がある書類ですが、退職日に渡されるのではなく、退職後に自宅へ送付されることが一般的です。これらの書類は転職先での手続きに必要となる書類のため、転職先への入社日が近い場合には、受け取れる日を事前に確認しておいたほうが安心です。受け取れる日が転職先での手続きを行う日に間に合わない場合には、代わりに退職証明書を発行してもらいましょう。


退職後に行う手続き
退職後にも行わなければならない手続きはありますが、すぐに転職する場合には、一般的には転職先で代行してくれるため特に心配する必要はありません。一方で、退職日から転職先への入社日まで日が空く場合には自分で手続きを行う必要があります。ここでは、すぐに転職しない場合に自分で行う必要がある4つの手続きについて解説します。
健康保険の切り替え
退職すると、これまで加入していた健康保険の被保険者資格を喪失します。資格を喪失すると加入していた健康保険を利用できなくなるため、新たな健康保険に加入しなければなりません。加入方法は大きく3つあります。
1つ目は都道府県や市区町村が保険者となっている国民健康保険へ加入する方法です。加入するためには、住民票を置く市区町村の役場で加入手続きを行わなければなりません。手続きは退職日翌日から14日以内に行わなければならないため期限を過ぎないように注意しましょう。
2つ目は家族の扶養に入り、その家族の健康保険に加入する方法です。ただし、家族の扶養に入るためには自身の年収が130万円未満であるなど満たさなければならない条件があります。扶養に入ることを検討している場合には、扶養者となる家族に勤務先へ条件や手続き方法などを確認してもらいましょう。
3つ目は任意継続被保険者制度を利用する方法です。任意継続被保険者制度とは退職した後もこれまで加入していた健康保険を継続して利用できる制度です。加入を継続できるのは2年までで、制度を利用する場合には退職日翌日から20日以内に健康保険組合へ申請しなければなりません。なお任意継続被保険者となるためには、健康保険の資格喪失日までに健康被保険者期間が継続して2ヵ月以上あることも必要となります。
失業保険の請求
失業保険とは「雇用保険」の通称で、失業中の労働者が生活の心配をせずに就職活動ができるよう、給付を支給する公的な保険制度です。失業保険の請求は必須ではありませんが、失業保険による給付を受けられると次の仕事が始まるまでの生活の助けとなります。ただし、給付を受けられるのは一定の条件を満たしている人に限るほか、もともと再就職への支援を目的とした制度であるため、就業する意思や能力がない人は制度の利用はできません。
受給条件を満たしていて失業保険を受けたい場合には、まず、住民票を置く地域を管轄するハローワークで申請手続きを行います。申請の際には、求職の申込や離職票と雇用保険被保険者証の提出が必要です。また、申請後も定期的に受給説明会に参加し、失業状態であることの認定を受けなければなりません。ちなみに、給付は申請すればすぐに受け取れるものではないため注意しましょう。待機期間もあり、自己都合退職の場合には、2ヵ月の給付制限期間があるため、実際に給付を受け取れるまでに退職後から数か月かかる場合もあります。


年金の切り替え
日本国内に住む20歳以上60歳未満の人は、国民年金に加入する義務があります。国民年金は保険料を納めていないと原則年金は受け取れません。会社員は国民年金に加えて厚生年金にも加入する第2号被保険者で、第2号被保険者は加入する厚生年金制度から国民年金の保険料もまとめて支払われています。退職してこれまで加入していた厚生年金保険から脱退したにもかからず、年金を切り替えないまま保険料の未納が続くと将来受け取れる年金額が減ってしまう可能性もあるため注意が必要です。
厚生年金の脱退後に切り替える先の選択肢は、国民年金だけに加入する第1号被保険者か、配偶者の扶養となる第3号被保険者の2つです。第1号被保険者に切り替える場合には、退職日翌日から14日以内に、住所を置く市区町村役場で手続きを行います。手続きの際には基礎年金番号がわかる年金手帳などや加入していた年金制度の資格喪失日がわかる離職票などが必要です。一方、第3号被保険者に切り替える場合には、扶養者となる配偶者の勤務先で手続きを行います。
税金の納付・確定申告
収入がある人にとって忘れてはならない税金が住民税と所得税です。いずれも個人の所得に応じてかかる税金となっています。会社で働いている間は会社が住民税や所得税を納めていることが通常です。従業員の給与から毎月天引きし、それをまとめて会社が市区町村や国に納めています。しかし、退職すると代わりに支払ってくれる人はいなくなるため、自分で納税しなければなりません。ただし、自分で税金を納める必要があるかどうかは、退職した月によって変わります。退職した月が1~5月の場合は、自分で納める必要はありません。その年度に納めなければならない住民税の残額は最後の給与や退職金から一括して天引きされるからです。
一方、退職した月が6~12月の場合は、退職時に一括で支払う約束を会社としていなければ、自分で納付しなければなりません。自分で納付する場合には後日自治体から自宅に納税通知書が送られてくるため、その通知書でコンビニエンスストアや金融機関の窓口を通して所得税を納めます。ちなみに、年内に再就職していないなど一定の条件に該当する人は、自分で所得税について確定申告を行わなければならないため注意しましょう。確定申告の必要があるにもかかわらず、行っていないと延滞税などのペナルティを科される場合もあります。
流れ・手続きを理解して、円満退職を目指そう!
退職する際にはさまざまな手続きが必要です。また、退職してもこれまでの会社と関わりがなくなるとは限りません。退職のときだけではなく、今後のことを考えても、円満に退職することは重要です。スムーズな転職を望むなら、この記事で紹介した基本的な退職の流れや手続きをしっかり理解したうえで、会社の事情などにも十分に配慮しながら、就業規則に従って退職の手続きを進め、円満退職を目指しましょう。

この記事の監修者
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士。1987年生まれ、一橋大学商学部卒業。ベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行なっている。
